ベアー乗りのムサシ


ムサシは、ゲッターチームでベアー号に乗る係りでした。
けれどもあんまりじょうずでないという評判でした。
じょうずでないどころではなく、実は、仲間のパイロットのなかではいちばんへたでしたから、いつでも早乙女博士にいじめられるのでした。
ひるすぎみんなは編隊を組んで、合体演習をしていました。
イーグル号は一生けん命飛んでいます。
ジャガー号も風のように飛んでいます。
ムサシも口をりんと結んで目をどんぶりのようにしてモニタを見つめながら、もう一心に飛んでいます。
にわかに、早乙女から通信が入りました。
みんなぴたりと操縦をやめたので墜落しそうになりました。早乙女がどなりました。
「ベアーがおくれた。しゅばっ、どひゅどひゅっ、ガチッ。ここからやり直し。はいっ」みんなは合体するところからやり直しました。ムサシは顔をまっ赤にして腹が減ったと呟きながら、やっとゲッター3に合体しました。ほっと安心しながら、ミサイルを飛ばしていますと、早乙女がまた通信してきました。
「ベアーッ 息が合わない。困るなあ。ぼくはきみにスィッチの入れ方を教えているひまはないんだがなあ。」
みんなは気の毒そうにしているどころか、あからさまに馬鹿にして笑ったり、あいつのとりえは大食らいってことだけだからな、などと口にしています。ムサシはあわてて腕をズワーと伸ばしたりしました。じつはムサシも悪いのですが、ベアーは別に悪くなくて、悪いのはやっぱりムサシでした。
「合体した後から。はいっ。」
みんなはまたはじめました。ムサシも顔を曲げて一生けん命です。そしてこんどはかなり進みました。
いいあんばいだと思っていると、早乙女がおどすような形をしてまたぶつっと通信してきました。またかとムサシはどきっとしました。が、ありがたいことにはこんどはリョウでした。ムサシはそこでさっき自分のときみんながしたように、思い切りバカにしました。
「ではすぐ今の次。はいっ。」
そらと思って飛び出したかと思うと、いきなり早乙女がどなり出しました。ちょっとキレています。
「だめだ。まるでなってない。合体はゲッターの華なんだ。それがこんながたぴししたことで。諸君、東映まんが祭りまであと十日しかないんだよ。合体を専門にやっているぼくらが、あの超合金ZだのUFOとくっついたロボットだのに負けてしまったら、石川賢の面目はどうなるんだ。おいムサシ君。君には困るんだがなあ。いつでも君だけとけたふんどしをなびかせながらみんなのあとをついてあるくようなんだ。光輝あるわがゲッターチームが君ひとりのために風大左エ門扱いされるようなことでは、みんなへもまったく気の毒だからな。では今日は練習はここまで。休んで六時にはかっきりカラオケボックスに集合だ。ハイパージョイならネオゲッターの歌が歌えるからな」
みんなはおじぎをして、それからクスリをやったり、殴りあったりしました。
ムサシは安全第一と書かれた黄色いヘルメットをかかえて、壁のほうへ向いて口をまげて、ぼろぼろ涙をこぼしましたが、気を取り直してじぶんだけたったひとり、カツ丼と天丼とうな丼とを食べました。

その晩おそくムサシがひとりでベアー号の練習をしていると、誰かがコクピットのガラスをとんとんとたたくものがありました。
「トカゲ君か。」ムサシはうんざりした声で言いました。ばりんとガラスを破って入ってきたのは、やっぱりトカゲでした。トカゲはにやにや笑って言いました。
「先生、大雪山おろしをやってごらんなさい。見ていてあげますから。」
「生意気なことをいうな。変温動物め。」
「いやご遠慮はいりません。どうぞどうぞ。どうせそれしか必殺技はないんですから。あっでっかいミサイル二個もあったか」
ムサシはものもいわずにトカゲをぶん投げました。
何度か投げるうちにトカゲはふらふらになってきて、
「先生もうたくさんです。もう先生のおやつなんか盗りませんから。」
「だまれ。ここから大雪山をおろすところだ。あっそうか、時々俺のどら焼きがなくなるのはお前らのせいだったんだな」
いみふめいのことを言いながらその後何度か投げると、トカゲは大分ひらべったくなりました。ムサシも疲れてきたので、
「さあこれで許してやるぞ。」
するとトカゲもけろりとして、
「先生、おろすって言葉の意味が違いますよ。まさか本当に大根おろしやおろしショウガと同じだと思ってるんじゃないでしょうね。」
実はその通りだったのでムサシは相手のくびねっこを捕まえて破れた窓からたたきだしました。しばらくすると下ーの方でぺちゃ、という音がしました。

次の晩もまたベアー号の練習をしていますと、また屋根をこつこつ叩く者があります。
「トカゲ、まだ懲りないのか」
ムサシが叫びますと、いきなり屋根の穴からまたトカゲが入ってきました。
「何の用だ」
「柔道を教わりたいのです。」
トカゲはすまして言いました。
「柔道だと。おまえらはただ、はれぼったい顔で銃を撃ってくるだけじゃないか。」
「ええ、そうなんです。ここらで柔道を正確にやりたいんです。」
「柔道もくそもあるか。」
「ええ、ラ・グース編へ行く前にぜひ一度いるんです。」
「ラ・グースもくそもあるか。」
「先生どうか柔道を教えてください。わたしはついていきますから」
「うるさいなあ。第一えりのある服を着てないじゃないか」
ムサシは相手をつかまえて、二三回ぶん投げました。
トカゲはたいへんよろこんで自分から投げられにきました。ムサシはそろそろ手が痛くなって、
「こら、いいかげんにしないか。」
と言いながらやめました。トカゲは残念そうに目をつりあげて、
「もう一度お願いします。あなたのはいいようだけれどもすこしちがうんです。」
「なんだと、おれがきさまに教わってるんではないんだぞ。帰らんか。」
「どうか、たったもう一ぺんおねがいです。どうか。」
「黙れ、いい気になって。このトカゲめ。出て行かんとむしって朝飯に食ってしまうぞ。」 ムサシは脅すつもりで言ったのですがトカゲにはそれはどう考えてもあり得る話でしたので慌てて出て行こうとしましたがガラスに頭をぶっつけてばたっと床に倒れました。
「なんだ、ガラスへ、ばかだなあ。」ムサシはあわてて立って出してやろうとしましたが、ムサシが近寄ってくるのを見たトカゲは口元によだれを見た気がして、ものも言わずに矢のように外へ飛び出しました。しばらくすると下ーの方でぺちゃ、という音がしました。

次の晩もムサシは夜中過ぎまでベアーを操縦してつかれてカツ丼と親子丼と柳川鍋を食べていると、また屋根をこつこつたたくものがあります。
今度は何が来ても(どうせトカゲですが)はじめから脅して追っ払ってやろうと思って待ち構えておりますと、一匹の子トカゲがはいってきました。
「こら、トカゲ、お前はトカゲ汁ということを知っているかっ。」 するとトカゲの子はぼんやりした顔を(どれもそうですが)して、「トカゲ汁ってぼく知らない。」といいました。
「では教えてやろう。トカゲ汁というのはな、おまえのようなトカゲを、キャベジや塩としいたけとだいこんとごぼうと…をまぜてくたくたと煮て、おれさまの食うようにしたものだ。」
しゃべっているうちにムサシの口からよだれが滝のようにあふれました。
するとトカゲの子はまたふしぎそうに、
「だってぼくのおとうさんがね、ムサシさんはとてもいい人でこわくないから行って習えと言ったよ。」といいました。そこでムサシもとうとう笑い出してしまいました。
「何を習えと言ったんだ。おれはいそがしいんじゃないか。それに腹が減ったんだよ。」トカゲの子はにわかに勢いがついたようににょろりと前に出ました。
「ぼくは2号機のかかりでねえ。合体の練習台になって欲しいんだ。」
「なんでお前らがゲッターに乗るんだ?」
「ああ、うん。今度プロトタイプに全員で乗って一気に研究所を…いけね」
うかうかとさくせんをもらしてしまい、子トカゲはえへと舌を出して笑いました。先っちょがわれています。
「まあいいや。よし、さあいくぞ。お前は2号機を操縦するのか。」
「はい。」
子トカゲはにょろりと出て行って、向こうの2号機に乗ると、「お願いしまーす」といいました。
2機だけで何度か合体してから、やがて子トカゲは天井の穴から戻ってきて、首をまげて考えてから、
「ムサシさん、合体するときどうしてもたいみんぐがずれるね。なんだかぼくがつまづくようになるよ。」
ムサシははっとしました。たしかに合体する寸前、どうしてもうまくタイミングがとれない気がしていたのでした。
「いやそうかもしれない。このベアーは悪いんだよ。」とムサシはかなしそうに言いました。すると子トカゲは首をふって、
「ベアーは悪くないでしょ。ムサシさんの腕がわるいんだよ。」といともあっさり言いのめしました。ムサシはトカゲの首をつかんで、大雪山をくらわせ、外に叩きだしました。しばらくすると、以下同文です。

次の晩もムサシは夜通しベアーを操縦し明け方近く思わずうとうとし、休んでいますと、また誰か屋根をこつこつとたたくものがあります。
「おはいり。」と言いますと、入ってきたのはやっぱりトカゲで、大変小さな子トカゲをつれてムサシの前に来ました。
ムサシの前にどこから出前を取ったのか天ざる、ソバ湯つき、を差し出して、おじぎをしていいました。
「先生、どうぞこの子を治してやってくださいまし。」
「おれが医者などやれるもんか。」ムサシはむっとして言いましたがすでに天ざるは食っていました。なんてみがってなんでしょう。
するとトカゲは泣きだしてしまいました。
「ああこの子はどうせ病気になるならもっと早くなればよかった。ゆうべまであんなにばんばん投げ飛ばしておいでになったのに、病気になるといっしょにいくらおねがいしても投げ飛ばしてくださらないなんて」
ムサシはびっくりして叫びました。
「なんだと、おれがかっこよく大雪山おろしをやってリョウやハヤトよりキマッててミチルさんのハートをわしづかみにするとトカゲの病気がなおると。どういうわけだ、それは」
「そんなことまでは言ってません。勝手にきゃくしょくしないでください。とにかく、先生に投げていただくと、血のまわりがよくなってたいへんいい気持ちでするなおるものもあれば、二度と目を覚まさないものもいて、実はふたつにひとつなんですが…」
「ああそうか。おれの大雪山おろしをくらうと、それが整体のかわりになってトカゲの病気がなおるというのか。ここを追い出されたら恐竜帝国であんまにでもなるかな…いや、それはともかく、わかった。やってやろう」
やおら子トカゲをつかんでぶんなげようとすると、
「わたしもいっしょに投げてください。どこの病院でもそうですから。」
「おまえさんも飛ぶかね。」
ベアーのりはおっかさんのトカゲもつかんで、二匹まとめて何度かぶん投げました。おっかさんは、とうとうこらえ切れなくなったふうで
「もうたくさんです」
と言いました。
「なあんだ、これでいいのか。」ムサシはぷらぷらになった子トカゲを床の上に置きました。
「どうだったの。いいかい、気分は。」
こどものトカゲはすこしもへんじもしないで、しばらく目をつぶったままぶるぶるぶるぶるふるえていましたが、にわかに起きあがって走りだしました。よく見ると目がろんぱりになってイッちゃってます。
ムサシはやばい、と思いましたが、おっかさんのトカゲはおおよろこびで、
「ああ、よくなったんだ。ありがとうございます。ありがとうございます。」と十ばかりいいました。
ムサシはなんだかかわいそうになって、
「おい、おまえたちはパンはたべるのか。」とききました。するとトカゲは真っ青になって、
「お願いです。たべないでください。せっかくなおったのに、トカゲのサンドイッチにされて食べられたくありません。」
「いや、そのことではないんだ。ただたべるのかときいたんだ。」
トカゲはもう地の色がわからなくなるほど青ざめて、目が完全に左右に開いてしまった子どもをやおらひっかかえると、ごちそうさまでした、とわけのわからないことを叫んで穴から飛び降りていきました。
ムサシが見下ろすと、下ーの方でひらべったくなってから、よろよろと格納庫を出てゆくところでした。
「なんだ…せっかくパンをやろうかと思っただけなのに。でも、トカゲのサンドイッチか…いいかも知れないな。」
最後のあたりでは、あやしい光がムサシの目にともったのでした。

それから六日目の晩でした。ゲッターチームの連中は駅前の東映系映画館の裏にある控え室へ、顔をほてらしてめいめいヘルメットを持って、ぞろぞろ試写会会場から引き上げて来ました。首尾よく試写会で「視聴者が選ぶ一番かっちょいいロボット第一位」に選ばれたのです。試写室では拍手の音がまだあらしのように鳴っております。早乙女はポケットに手を突っ込んだらポケットに穴があいていてそこから指を出してチョキやパーをつくりながら拍手なんかどうでもいいというように、のそのそみんなの間を歩きまわっていましたが、じつはどうしてもうれしさでいっぱいなのでした。みんなは相変わらずクスリをやったり殴りあったりしていました。
ホールはまだぱちぱち手が鳴っています。それどころではなくいよいよそれが高くなって、なんだかこわいような、手がつけられないような音になりました。
すっ裸に蝶ネクタイをつけた司会者がはいって来ました。
「アンコールをやっていますが、何かみじかいものでもみせてやってくださいませんか。」
「すると早乙女がきっとなって答えました。「いけませんな。こういう成功のあとで出すとしたら新しいロボットくらいしかないんです。ドラゴンはまだつくってないし真ゲッターなんてまだまだだし、號は出来てるかねハヤト君」
「なんですそりゃ」
まだ肌にぴっちりパイロットスーツに無理のなかった頃のハヤトが不思議そうにたずねます。わたしはけっこうワイシャツネクタイにベストをきたハヤトがそうじゅうするのがすきなのですがどうでしょうおきゃくさん。
「では早乙女さん出てちょっと挨拶してください。」
「だめだ、おいムサシ君、ゲッター3でなにかやってくれ。」
「おれがですか。」ムサシはあっけにとられました。
「君だ、君だ。」今までどこにいたんだか、ベンケイがいきなり顔を上げて言いました。
「さあ出て行きたまえ。」早乙女が言いました。みんなもムサシをむりにベアーに乗せて、イーグルとジャガーをオートにすると離陸ボタンをぽちぽち押してしまいました。みんな本気で研究所を追い出そうとしているのかとムサシは思いました。そうなのかも知れませんが。
ムサシがベアーで困りながら飛び出すと、狭い試写室は煙と爆音で大混乱に陥りました。
わあと叫んだものもあるようでした。
「どこまで人をばかにするんだよし見ていろ、大雪山おろしをやってやるから。」ムサシはすっかり落ち着いて「チェーンジゲッター3」と叫びスイッチを入れました。三機は鮮やかに合体し、舞台の上にキャタピラも雄雄しくどっすんと着陸しました。
「大雪山おろーし!」「大雪山おろーし!」ムサシの脳裏にはこの数日、彼のもとにやってきては投げられ、消えていったトカゲたちの姿が走馬灯のように現れては消えてゆきました。
そのへんにあるものをおろしまくった後、ムサシはもうみんなのほうなどは見もせず、すばやく控え室に帰ってきました。すると控え室では早乙女はじめ仲間がみんなゲッター線の暴走にでも遭ったあとのように目をとじて、ひっそりとすわり込んでいます。
ムサシはやぶれかぶれだと思ってみんなの間をどすどすあるいて行って、向こうの椅子にどっかりとからだを下ろしたら脚が折れてひっくりかえりました。
するとみんなが一ぺんに頭をこっちへ向けてムサシを見ましたが、やはりまじめでべつにわらっているようでもありませんでした。
「こんやは変な晩だなあ。」
ムサシは思いました。ところが早乙女は立って言いました。
「ムサシ君、よかったぞお。動きは鈍いし遅いし大喰らいだし、出来ることといったらたかだか大雪山おろしと叫んで腕を上げるだけだと思っていたが、一週間か十日の間にずいぶん仕上げたなあ。十日前とくらべたらまるで安田とウザーラだ。やろうと思えばいつでもやれたんじゃないか、君。ところでここの修理費は君が払ってくれよ。」試写室の方からはまだ怒号が聞こえてきます。仲間も立って来て、
「よかったぜ。俺たちはビタ一文出さないぜ。」とムサシに言いました。
「いや、からだが丈夫だからこんなこともできるよ。普通の人なら死んでしまうからな。ところで安田っていうのは竜二の手下で、ウザーラはアトランティス…しまった、ムサシ君が生きているのに矛盾しとるぞ」早乙女は向こうで言っていました。

その晩おそくムサシはベアーの操縦席に乗り込みました。今ではすっかり、ここで食事をするのが習慣になっていたのです。
そしてまた天丼とカツ丼と親子丼と、コレステロールの高い食事をとりました。
それからガラスにあいた穴を見上げて、いつになったら直してくれるんだろうと思い、次々とトカゲが落ちていった日々を思いながら、
「ああ、トカゲの肉。あの時は惜しかったなあ。おれはますます食べてみたくなったぞ。」
と言いました。

[UP:2001/9/29]



ちゃんと断らないといけないのかな?ですね。
もとは宮沢賢治さんの「セロ弾きのゴーシュ」です。
コクピット内で大雪山おろしができる程広くないだろうという意見は…まあ、それはそれとして。

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