「きゃーっリュウドルクさま~!」
「リュウさま~!」
「すてき~!」
「こっち向いて~!」
上ずった甲高い歓声、なのだがどうも野太い迫力もある声だ。黄色い、というよりはやまぶき色、くらいの声を浴びながらさっそうと歩くのは、トカゲだった。
いや、トカゲ人間だ。
いや、ハチュウ人類だ。
みどりいろの顔の頭には金髪がのっかり、瞳孔はタテにながい。左右にかなり離れた鼻孔からはぷふーぷふーと息が漏れ、ふっと笑った口元には巨大なキバが並んでいる。ハチュウ人類の戦闘服に、機動性の悪そうなマントをひきずっている。
その縦長の瞳孔が向けられると、1ダースかそれ以上のトカゲ乙女たちがいっせいに黄色い、いややまぶき色の歓声を上げるのであった。
やけに気取った歩き方で基地内を意味もなくうろうろしているのは、要するに、トカゲ乙女たちにきゃーきゃー言われたいかららしい。しかし、乙女たちは何度でも、彼が現れればきゃーきゃー言って、姿が見えなくなれば切なくもがいている。どうも、テープの巻き戻しと再生を交互に押している感じだ。
「すてきよね~リュウドルクさま」
「本とよね!あの憂いをたたえた涼しい瞳」
「あの逞しい体。あの力強い腕。ああ、あの腕に抱きしめられたい!」
「ちょっと!何を勝手に図々しいこと想像してるのよ」
「あらいいじゃないの、恋愛は自由だわ!」
「何が恋愛よ、片思いでしょ!か、た、お、も、い」
「ひっどーい!わざわざそんなふうに強調する必要ないじゃない!シャーッ!」
「なによ、やる気?ぺろぺろぺろぺろ」
「ちょっと、およしなさいよ二人とも」
「あっ見て、リュウさまよ!」
叫んだ声の通り、さっき一度居なくなったろうに、カーテンコールよろしく再び姿を見せた。きゃーっと声を上げて駆け寄る娘たちに、困ったなという顔をしながらも、満足そうだ。
「リュウさま、今日は出撃なさいますの?」
ふっと笑って、
「その予定だね。エースパイロットはどうしても出撃要請が多いのは、仕方ないけれどね」
キザな甘い声だ。最後にふしゅしゅ、というような音も加わるが。
トカゲのノザワナチ、加えてヒロカワタイチロウといったところか。
「きっとご無事にお帰り下さいね!ご武運をお祈りいたしておりますわ」
「わたくしも」
「わたくしも」
「リュウさまにかかれば、ゲッターロボなんてオモチャですわ」
「全くですわ」
「頑張って下さいましねリュウさま」
「ご武運を」
ふっと笑ってまあまあ、というように手を振り、
「すまないが可愛いひとたち。もう行かなければならないんだ。通してくれるかな」
自分からわざわざ戻ってきたくせにそんなことを言い、彼女らをかきわける。かきわけられながらもうキャーキャー言う。
無事に戻ってくると皆心からほっとして、またキャーキャー言いながら出迎える。まあまあと言い掻き分けながら、疲れているんだ…と言いつつ自室へ引き上げ、疲れているはずなのだが再び現れてキャーキャー言われる。
そんな幸せな蜜月が、彼と彼女らの間に続いていたのだが…
リュウドルク親衛隊の隊長が、ふとおかしなことに気づいた。
今まで一緒になってキャアキャア騒いでいた娘が、一人、また一人と減っているのだ。
どういうことなの。リュウさまに飽きたとでも言い出したら許さないわよ。身の程知らずが。と、憤慨しながら、隊長はその抜けた娘の動向をうかがうことにした。
ある日のこと、なにやらこそこそと、目立たない位置にある物置に入っていった。見張っているともう一人入っていく。また一人入った。考えてみるとどの娘も、最初のころ一緒に「きゃーっリュウさまー!」をやっていた娘ばかりだ。
(なにかしら。こそこそと自分たちだけで)
不審に思いつつも踏み込むのはやめて、親衛隊ナンバーツーに相談してみた。
「踏み込んで問い詰めた方がよかったかしら」
「いえ、ここは私に任せてちょうだい。諜報活動は得意なのよ」
「そうなの?じゃ、頼むわ」
ナンバーツーは意欲まんまんでその秘密の集会を探りに行った。
しかし。
それから以後、ナンバーツーも戻ってこなくなってしまったのであった。
「どういうことなの!」
隊長は怒り狂い、意を決して他のメンバーともども、現場に踏み込んだ。
「逃げて!ガサ入れよ!」
叫んだのは元ナンバーツーだ。他の娘たちは悲鳴を上げて逃げようとしたが、絶対的にこちらの方が数が多い。たちまち全員捕まってしまった。
床に正座し項垂れているトカゲ娘らの前に立ち、隊長は腕組みをすると、
「さて、あなたたちはリュウドルクさまをないがしろにして、何をこそこそやっていたのかしら。教えてちょうだい」
娘らはそっと目と目を見交わしたが、何も言わなかった。
「あなたなら教えてくれるわねナンバーツー。わざわざここの様子を探りに行って、戻ってこなかったけれど」
「ご…ごめんなさい」
ナンバーツーが膝の上でモジモジと、鋭い爪のある手をもみあわせ、
「そのことは悪いと思っているわ。で。でも、仕方がなかったの」
「どう仕方がなかったのかしら」
「だって、素敵なんだもの」
「?」
突然何を言い出した、という疑問顔の隊長に、他の一人が、
「隊長。この人たち、こんなものを隠し持っていたわ」
そう言って何枚かの紙を差し出した。それを見て娘らはあっと悲鳴を上げたが、他の親衛隊員らにおさえつけられた。
それは写真だった。あまり鮮明なものではない。隊長は眉間(のあたり)にしわをよせた。
「お願い、返して」
「なんでもするから」
「破いたりしないで。貴重なの」
必死で哀願され、隊長はサディスティックな気分になり、ちょっと爪を立ててやったりした。その度にやめてー、いやーと悲鳴が上がる。
「うるさいわよ!おだまり!」
太いしっぽで地面をばしんと叩いた。娘らは小さくなり、しかしまた必死で手元を見つめている。
こうまでして守りたがっているのは、一体何の写真なのか…と思いつつじろじろ眺めて、
「これ、後ろに写ってるの、ゲットマシンじゃないの?」
「そ、そうです…」
「え?それじゃなに。やっぱりやつらと戦ってるリュウさまの写真じゃ…」
いいながら探したが、フレームの中にリュウドルクはいない。
いるのは…
「こいつ確か、ゲッター2の操縦士?」
娘らがぱっと顔を上げ、顔を緑色にした。要するに「顔に血がのぼった」のだった。
「そうよね?」
隣りに居た娘にも見せる。
「ええそうだわ。2号機に乗るゲッターのパイロットよ。ジンハヤトって名の」
「これはどういうことなの。まさかあんたたち、リュウさまのファンをやめて、こいつのファンになったなんて言わないでしょうね」
返事がない。
皆緑色の顔で、力なくうつむいている。
と、それを裏付けるかのように、
「見て!こんなものもあったわ」
差し出されたのは、一番写りのいいやつを引き伸ばしてつくったのであろう、A1版のサイズの、ジンハヤトのポスターだった。相当頑張って調整し作成したポスターらしく、なかなか力作だ。鋭角な顔の線、するどい眼差しなどがくっきり写っている。娘らの中からすすり泣きが起こった。
「だって…。だって、ハヤトさま、かっこいいんですもの」
「顔だってトカゲぽいし」
「好きになってしまったのよ」
すすり泣きの声と、ハヤトさま、の呻き声がさざなみのように広がる。
「許されないことだわ。よりによって人間ごときに。しかもゲッターチームの一人に。これはゆゆしき問題だわ。ねえ隊長。隊長?」
騒いでいた娘は「?」という顔になった。さっきまで先頭にたって騒いでいた隊長が、なにやら無言でじっとポスターを見ているのだ。うっすら、顔が緑色になっている。
「隊長。隊長。どうしたの」
揺さぶられて、えっ?とうろたえた声を上げてから、
「な、なんでもないわ!そうね。これはそう簡単に済ます訳にはいかないわ。あんたたち、他にもジンハヤトのグッズとか、隠し持っているんでしょう!」
「もうないわよ!」
「全部没収されたわ、本当よ」
「いいえ。絶対隠してるわ。みんな!探し出してここに持ってくるのよ!」
オー、と叫んで、親衛隊の娘らは裏切り者をすっぱだかにして所持品検査をし、案の定パンツの中に隠していた定期券入れにぴったりな(彼女らは定期券を使わないが)サイズのブロマイド数枚、ラミネート加工済み、ジンハヤト人形のストラップなど数点を見つけ出した。全部お手製だ。
「よし、これは危険分子が所持していた証拠品として押収するわ。みんな!この子たちを洗脳部屋に連れて行って、洗脳するのよ!」
オー、と声が上がる。娘らは真っ青に…いや紫色になって、首を振り、
「それだけは許して」
「あの方のことを忘れたくないの」
「なにがあの方よ!徹底的に刷り込んでやるわ。あたしたちの憧れの的はリュウドルクさまおひとりなのよ!ねえ隊長。隊長?」
隊長はなにやら押収品の選別を行っている。無言でかなり熱心だ。
その姿に他の隊員は、ふとよからぬものを感じた。
裏切り者たちはそれぞれ椅子にしばりつけられ、「リュウドルクさまが一番ステキ~」「リュウドルクさまより素敵な方はいない~」「ジンハヤトなんてカス。ナスのヘタ」等の洗脳というか、拷問というか、刷り込みをされた。
しかし、一向に洗脳されない。長々と時間をかけてびびびびばばばば、とやってから、さあこれで、と思って、
「この世で一番かっこいいのは?」
相手は泣きながら、
「ハヤトさま…」
「最初っからやりなおしよ!」
ある時、急に全員そろって、
「ジンハヤトなんてナスのヘタ!」
「リュウドルクさまが一番!」
と叫び出したので、やっと…と思った親衛隊たちは胸をなでおろしたが、一人が試しにとジンハヤトの写真を床において、
「踏んでごらん」
途端に皆おろおろと泣き出した。踏みハヤトによって、「洗脳されてるフリをして解放されよう」という作戦はもろくも崩れ去った。
「これじゃ埒があかないわ。どうしたらいいかしら、隊長」
隊長はいなかった。
「どこへ行ったの、隊長は」
「知らないわ。この頃なんだか姿が見えないことが多いわね。自分の部屋じゃないの」
職務怠慢だわ、とぶつくさいいながら一人が隊長の部屋に行って、
「隊長」
いきなり戸を開けると、きゃーっと悲鳴が上がった。
彼女はそこで、ジンハヤトグッズに埋もれて、今どうやら例のA1版ハヤトにホホズリをしていたらしい。こっちを見た顔がまみどり色だ。
「な、なんなの。突然ノックもしないで!失礼じゃないの!」
何をどう責めても後の祭りだ。
「隊長…」
「だ、だって!だって!」
隊長、いや元・隊長は泣き叫んだ。
「ビビビッと来ちゃったんだものぉー!」
自分の親衛隊になにやら乱れが生じていることを知って、リュウドルクは内心かなりドキドキしながら、元・ナンバースリー、今では隊長の座に昇格した娘に、
「ん、なに?何かあったの?」
「ええ、あの、実は、親衛隊に不届き者がいて、リュウさまのファンをやめて、他のやつに乗り換えているんですぅ」
現隊長は、今までなら思いもしなかった『リュウさまと直接話が出来る』幸運にすっかりのぼせあがっているが、リュウドルクは内心穏やかならぬ、どころではない。ななななんだと。このわたしの。このリュウドルクさまのファンをやめてだと。一体どこの誰に心を奪われているのだ。不届きだ、全くもって!
「ま、好きな相手なんて、人によってさまざまだからね。わたしより、その誰かの方がいいというのなら、それは仕方のないことだ」
懸命に、必死に、余裕こいた姿勢をとってみせる。相手は身悶えして、しっぽをふりまわしながら、
「そんなことありませんわリュウさま!あの人たちは気が変なのですわ。よりによって、人間なんかに血道を上げるなんて!」
「人間!?」
驚いて目をひんむいた。ランランと輝いている。
「え、ええ。ゲッター2のジンハヤトというやつですわ」
「なんだってー!」
思わず取り乱した大声をあげてしまった。
「ゲ、ゲッターの乗組員にわたしのファンが流れていっているのか?」
「ええ、そうなんです。勝手にポスターだの、ブロマイドだの、グッズをつくって」
「グッズを」
ごくりと喉を鳴らす。
「あの、わたしのグッズというのは、つくったことはあったかどうか…」
そんなことを確かめるのは恥ずかしいので、どうしても小声になって消えた。なんですか?と聞き返されたが、慌ててなんでもないと首を振り、
「いやあの、わたしのファンがどうのということでなく、人間ごときに心を奪われるというのは、いやしくもハチュウ人類として、恥ずべきことだ。うむ」
「全くですわ」
「しかしなんだ。かよわき乙女たちに、無理強いしてわたしのファンに戻らせるというのも、可哀想だ」
「ああ、なんてお優しい」
現・隊長は感激して涙を浮かべた。
「ここはひとつ、彼女らの目の前でわたしが颯爽と、ジンハヤトをやっつけてしまえばいいのだ。そうすれば彼女らも目を覚ます」
「名案ですわリュウさま!」
「よし、そうと決まればさっそく果たし合いだ!」
わたしのファンを取られてたまるか。い、一番かっこいいのはこのわたしなのだ。ジンハヤトなんか、ジ、ジンハヤトなんか。
わなわなぷるぷると握りコブシが震えた。
「ハヤトさん、ギター弾いてくれない?」
元気に頼まれて、休憩中だった隼人はいいぞと言った。取ってくる!と叫んで元気は屋内に走っていった。ここは中庭のベンチだ。
「ギターはお前にはでかすぎて持ってこられないんじゃないのか」
後ろから竜馬が怒鳴ったが、大丈夫と返事がかえってきた。
「ギターかー。お前、どこのギター教室で習ったんだ?」
武蔵が上半身ハダカで、汗を手拭いで拭きながら尋ねる。
隼人はふ、と息をついて、かるーく、
「あんなもの、人について習うほどのものじゃない」
「出たぞ。イヤミな大先生様よう」
「この秀才は全くよ。人について習うほどのものってなんかあったのか逆に」
隼人はちょっと考えて、
「ないな」
「首相官邸の襲い方とか、誰かに教わらなかったのか」
武蔵がとんでもないことを尋ねた。それに対して、馬鹿かお前は、と言いかけた時、
「わっはっはっはっは」
高笑いが響き渡った。え?という顔で一同がそちらを見る。
研究所のヘイの上に、すっくと立ったハチュウ人類が、片手を腰に当て、もう片方の手にバラの花を持って笑っているのであった。しかし足場が不安定で、笑い声は時々チカラが入っている。
「なんだあいつ」
「さあ」
「知ってるか」
「知らん」
ぼそぼそ言い合っていると、さっと相手はバラの花をつきつけ、
「ジンハヤト!わたしと勝負しろ」
「おっ、ご指名だぜ。なんだ。お前の別のいとこか、あれ」
竜馬が笑えないことを言った。
「わたしの可愛い人たちの前でお前をコテンパンにして、名誉を回復せねばならん。さあっ、ついてこい!」
叫んでひらりとヘイの向こうに飛び降りていった。
黙って見送ったきり、三人共動かない。
「おい、行かなくていいのか」
「何故行かなければならないんだ」
「だってよ、ついてこいって言ってたぞ」
「だから、何故ついていかなければならないんだ」
竜馬と武蔵は顔を見合わせ、
「そりゃそうだけど」
声をそろえた。
「なんだろうなあいつ。どう見てもハチュウ人類だけどな」
「コロさなきゃいけねえんだよなあ。なんかでも、今ひとつ緊迫感がなくて」
「今まで遭ったっけ、あいつ」
「えーと」
武蔵がうなったきり黙りこくった。と、その時、ヘイの上にさっきのヤツの顔が出て、
「おい!」
激しい口調で怒鳴った。三人は顔を上げてそっちを見た。
「何故ついてこないんだ!」
真っ赤になってぷるぷるしている。必死でつかまっているのだろう。
「早く来い!来いったら来い!」
「おい、来いって言ってるぞ」
「面倒くさいな」
隼人はタバコを吸いながらぶつぶつ言っている。が、
「なあ。ちょっと。来てみようって気にならないか。おい」
だんだん泣きそうな声になってきた。そんなことで心の動く神隼人ではないが、
「いってやれよ。なんか可哀想じゃねえの」
心の優しい武蔵がそう言ってくれた。リュウドルクは感激して、ポロリと涙を流し、
「そこのでぶっちょ!感謝する」
「感謝してるぞお前に」
「俺はでぶじゃない。畜生。あとであいつ俺がバラバラにしてやる」
心の優しい男がとんでもない宣言をした。
仕方ない、という感じの隼人を先頭に、なんだろう一体という顔の二人、計三人が、ヘイの端の方にある裏門をくぐって外に出てみると、そこには。
「やっときたかジンハヤト!」
相変わらずポーズを取るリュウドルクと、その背後で思い切り「きゃー!」と言っているトカゲ娘たち、それから、別集団で小さく固まっているトカゲ娘たちがいた。
その小さい集団の方が、いっせいにはっとイキを飲んで、それから生臭い息を吐きつつ、燃えるような目で隼人を見つめてくる。
その視線には隼人も他の二人も気づいて、「…???」という顔になった。
「お前のことじっと見てるぞ。はぁはぁ言いながら」
「食べたいんじゃないのか?」
「別にヨダレは垂らしてないぞ。もっとこう、熱っぽい目ていうか」
言ってから、竜馬があーと声をあげ、
「ハヤト、ちょっと手を振ってみろ」
「手を振る?」
「アイドルが振るみたいにだ。ほらちょっとこう」
言われてやってみると、彼女らの間から、「…ああ…!」みたいな声があがり、皆いっせいにおずおずと手を伸ばし、それから力一杯振った。
「やっぱり。あいつら、お前のことが好きなんだな」
「おお、なんだ、ハチュウ人類の中にもハヤトのファンはいるのか。さすがは色男だ」
「トカゲにもモテモテだな」
竜馬と武蔵が大笑いしている。隼人はむぅっとして、『この俺がこいつらにバカにされるなんて、あっていいことじゃない』という顔をしている。
「そこ!なにをしている!」
現・親衛隊隊長に怒鳴られて、娘らははっと声をのみ小さくなった。
「さあ、よっく観ているがいいわ!今からあなたたちの目の前で、ジンハヤトのナスのヘタが、リュウドルクさまの足元にひれ伏すんですからね!」
その怒鳴り声に煽られたように、リュウドルクがさぁっとマントを翻した。すぐ側に居る音楽係がラジカセのスイッチを押した。アツいアニソンぽいメロディが流れ出す。
もやせもやせ、しっぽをもやせーええー
リュウドルクのテーマだろうか。
テーマ曲に乗って、いちいちポーズを取りながら、
「ゆくぞ!ジンハヤト!お前は今日、俺の前で、流星となって散るのだ!」
「流星だってよ」
「願い事したらかなうのかな」
後ろで勝手な事を言っている。隼人はほとほと、「ああ面倒くさい」と思いながら、仕方なくひたすら仕方なく進み出ていった。
五分。いや、三分。
殴り合いはラーメンが出来る時間で終わってしまった。
リュウドルクはなにやら、トカゲ皮のハンドバックみたいになって、ころがっている。
親衛隊たちは声も無い。
ハヤトのファンの娘達は、もう目をうるませながら、ひたすら見つめている。
ぱんぱん、と手を叩きながら戻ってきた隼人に、二人はあきれた様子で、
「あれまあ、もう終りかよ」
「あんなに気取ってかっこつけてたのに」
「俺に言われても知らん」
隼人がはき捨てた。と、そこに、
「ギター無くて探し回ったよ、…と思ったんだけど、なにかあったの?」
元気がひきずるようにしてギターを運びつつ、やってきた。
どう見ても、以前研究所を襲って、いっぱい所員や、おにいちゃんをぶっころした連中の、仲間ぽいのだが、とにかく全然緊迫感が無い。
「あの連中、なに?」
「うーん、俺たちにもなんだかよくわかんねえけど、」
「はじっこの方のメスは、ハヤトのファンらしいぞ」
「へえ」
元気はその、目をぱちぱちさせながら手をもみあわせ、ハヤトを見ている集団を眺めて、本当にそうらしい、と思ったのか、
「ハヤトさん、一曲ここで歌ってよ!」
「ここでか」
「うん!あの人たちもほら、嬉しそうだし」
確かに、うんうんうんうん、というようにうなずいて、じぃーっとこっちを見ている。
「そうだそうだ。なんか歌え」
「手拍子だ」
隼人はなんとなく破れかぶれな調子で、ギターを抱えると、「てのひらを太陽に」を歌いだした。
トカゲ娘たちも、手拍子を始めた。
親衛隊たちも、困った様子で顔を見合わせていたが、そのうちばらばらと手拍子に加わりだした。
竜馬と武蔵と元気は踊りながら隼人の周りをぐるぐる回っている。
「てーのひらをー、たいようにー、すかしてみーれーばー」
なんか天気が悪い。なまりいろの低い空の下、速い風に吹かれながら、不気味な集団が奇妙な宴を開いている。
「まーっかに、ながれる、ぼくのちーしーおー」
あたしたちは緑なんだけど、まあいいわよね、と言いながらトカゲ娘たちも手を空に掲げて、くるくる回りだした。
もう少し先で、カバンになっていたリュウドルクが身じろぎした。
名前勝手に使いました。本物のナガイゴーの色男とは何の関係もありません。当たり前だ。
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