見張りが、振り返った時には、すでに男の体が降って来た後だった。鈍い音がして、昏倒する。ぐらぐらする頭で、懸命に声を上げようとするが、その前に男の手が見張りの喉を掴んで、仰向けにし、上にのしかかり、
「隼人はどこだ。言え」
聞くだけで心臓が止まるような声だった。
直線の通路は、左右とも誰の姿もない。…皆出払っている。生憎、このポイントの見張りは男一人だけだ。
目の前で自分を見ている目は、殺意しか映っていない。たった今自分がまだ生きているのは、自分がこの侵入者の欲しい情報を持っていて、それをまだ相手に渡していないから、ただそれだけだ。
それを手放したらどうなるのかは、考えてみるまでもないことだ。その瞬間自分は相手にとってただのゴミ、ほっとくと自分の侵入を伝えてまわる面倒なゴミに変わる。故に、ゴミとして捨てられるだろう。だが、ならばいつまでも相手に渡さないでいればいいかというと、
「早く言え」
声は苛立ってさえいないし、言わないと殺すぞ、などとも言わない。言うまでもないからだ。ただ喉を掴んだ手に、脅すためにしては強すぎる力が加わって、見張りは変な音を喉から出した。大きな声を出さないよう、思わず必死で自分からこらえていた。多分大声を出した途端か出す寸前に、自分の喉が握り潰されるからだ。
この侵入者はどうやらえらく短気なようだ。声が、怒りや苛立ちを全く帯びないのは、気長に構えているからではなく、言えと二回言って言わない場合は次の対象を探しに行こうと思っているからだ。その場合、役立たずの前任者は、後任者を探しにゆく前に、
ゴミとして捨てていくのだろう。
「わかった。言う」
つぶれた声でささやくと、当然だというわけか、特に嬉しそうでも満足げでもなく、一回うなずいただけで、ほんの少し手をゆるめた。しかし、外すことはなくまだ喉に触れる脈を、指でこりこり押さえている。
なんとかして生き延びる方法を探そうと、見張りは質問した。
「お前…流竜馬か」
「アタマが悪い奴だな。俺が聞いたことをもう忘れたのか?」
その言い方は、なんとか引き伸ばしてチャンスを窺おうとしている男への皮肉だのという訳でなく、この男が本気でそう思っていることを、示していた。
「隼人はどこだと聞いたんだ。答えろ。これが最後だ」
相変わらず、ことさら脅すような言い方ですらない。必要がないからだろう。
至近距離から見張りを見ている目は、人間のものではなかった。思わず答えていた。
「し、下の階だ。…詳しい場所は、ちょっと説明が難しくて出来ない」
「じゃあ連れて行け」
次の瞬間喉を掴んで引き起こす。見張りは、自分の喉がむしられるのではないかと思った。立った途端肩甲骨の下をイヤというほど親指で突かれて、声にもならない悲鳴を上げながら、半回転した。そこをどんと突き飛ばされる。
「先に行け。早く」
よろ、よろと、見張りは苦痛にふるえる唇を噛みながら、通路を少し進んだところにある階段を、下にたどり始めた。
振り返ることなどできないが、後ろには侵入者がいて、一撃で自分を殺せる場所を見つめながら、ついてきているのだろう。しかし、呼吸の音も、足音も全く聞こえない。
一回唾を飲んでから、おそるおそる口を開いた。
「よ、よくこんなところまで入って来られたな。入口の奴等、何をしてたんだか」
無意識に、ご機嫌を取る喋り口調になっている。それに気を良くした訳ではなく、素っ気無い口調で、
「黙って下りろ。バカ」
ごり、と何かで後頭部を小突かれた。
屈辱に男のくちびるが歪み、同時に腹の底から残忍な嘲笑が湧き上がった。思わず、身の危険を忘れて口走っていた。
「偉そうにしてるが、この先にあるものを見てもそうしてられるのかね」
「なんだと?」
声に初めて感情が色をつけた。あまりにもささやかだが、見張りはそのことで溜飲を下げた。
竜馬の足が、一つのドアの前に忍び寄った。
一瞬息を止める。それから、鍵の部分に、右手のデザートイーグルを向けて、撃った。ぶらぶらになったドアに体当たりして、中に飛び込む。そして。
竜馬の目が大きく大きく見開かれ、棒立ちになる。
独房というよりは倉庫と呼べる大きさの部屋の中にいた、男たち全員がこちらを見た。いや、一人だけ例外がいる。
裸にされ、後ろ手に手首を縛られ、床に這いつくばった姿勢で、腰を背後の男に引き寄せられている、隼人だけが、顔を床につけたままだ。
「なんだ貴様」
一人がはっきり、うろたえた声を出した。隼人以外に四・五人いる。全員裸だ。
ひくと竜馬の唇が一回痙攣し、
「てめえら皆殺しだ」
棒読みで囁き、次の瞬間、
「ぶっ殺してやる!うぁあぁあぁああああ!」
絶叫し、さっきまで背にくくっていて今は腰にためているMP5を連射した。反射的に逃げようとするが、逃げ場所もないしその暇も無い。皆次々に銃弾の餌食となって、胸を腹を弾けさせて壁まで吹っ飛んだ。
隼人にのしかかっていた男が、首から上をふっとばされたが、腰から下は別物みたいに動き続けている。竜馬は駆け寄って、その不気味なオブジェを隼人から引き離すと、部屋の隅へ投げ飛ばした。
「はやと…」
かすれきった声でつぶやきながら、手首に食い込んでいる細い縄を切り、解く。気絶はしていなかったらしい。なんとか起き上がろうとし、手を床についてその痛みに低い声をあげた。
手を貸して起こしてやる。ぐしゃぐしゃに乱れた長い髪の間から、痣だらけの白い顔があらわれて、痛みにしかめられた目が竜馬を認めるとかすかに笑った。
どういう意味の笑いなのだろう。
全身様々な種類の傷だらけだ。下半身は血まみれだ。後ろ手に縛られたまま四つんばいにさせられていたため、顔で体重を支えるはめになったのだろう、額や頬が擦り剥けて、血が出ている。
その全てを見つめる竜馬は、いつしかがくがくと震えていた。目の色がおかしくなり、目が遠くなる。隼人が、ん、というように、相手を見直し、
「竜馬」
「お前、俺を庇って、こんな」
さっき。
銃で殴られ、それを口につっこまれて、見張りは白状した。自分が言ったあてこすりの意味を。
『うちのリーダーは本当はお前を手に入れたいと思ったんだ。で、神隼人に通信機を渡して、流竜馬をおびきだせと言ったんだ。でなければお前を犯るってな。そうしたら…
あいつ、わざわざこっちを挑発するようなことを言ったんだ。で、今どうなってるか。想像がつくだろう。
おい、俺はやってないぞ、俺は下っ端だから、順番は最後で、これから
…あ』
「俺の、俺の身代わりになってお前が」
声がどんどんかん高くなってゆく。隼人はかぶさる髪を後ろへはねて、低いが強い声で、
「気にするな竜馬。大したことじゃない」
竜馬の顔が歪んだ。声がひずんだ。
「気にするなだと?…大したことじゃないだと?…ちくしょう、畜生!奴等…いや、俺だ、俺のせいだ!」
「本当だ、大したことじゃないんだ」
相変わらず、何の感情の昂ぶりもない声できっぱり言い切り、手を伸ばすと竜馬の肩に置いた。ぽんという音と感触で、竜馬は喘ぎながら相手の目を見た。
冷たい目で、に、と笑う。
何故だろう。ずっと裸のままで、そしてあんな目に遭っていた直後なのに、それでも、この男には奇妙な威厳があった。威厳というのとも少し違う。どんな外見の変化にも無関係な、この男自身が、変わらずにその目に存在している、とでも言うのか。
「初めて会った日に、お前の前でゲロも吐いたし小便も漏らした。今更どんな格好を見られたところでどうってことはないんだ」
二度ほど唾を飲み、かぶりを振る。
「でも、これは、そういうのとは…」
「同じなんだよ」
子供に足し算を教えてやるように、かんでふくめるように、言ってやる。
「勿論俺の体にも神経は通ってるから、感覚はある。でも、痛ぇなという程度のことなんだ。多分、お前がいろいろ気を回してるだろう辺りのことは、何とも思ってない。お前を」
目が優しくなる。
「こいつらの前におびきだすくらいなら、俺が奴等の欲望の排泄先になるほうが、よっぽどマシだ」
本当だ、と言って下から竜馬の顔を覗き込む。
ずっと、震え続けている、怒りと憎しみと自責と己のことのような苦痛で。その頬に涙が、竜馬の感情そのもののように、溢れ出して流れている。
「いや、比較にはならない。お前が無事な姿を見て、俺は今正直ほっとしてる。俺のことを思って泣いてるんなら」
静かな表情だ。静謐と言える程に。
「良かったと思ってくれ」
隼人、と声にならない声で繰り返しながら、ひたすら涙を流している。その肩をもう一度ぽんとやって、
「とりあえず脱出しよう。お前のズボンを貸してくれ」
「なんだって貸す。いや、やる」
そう言いながらベルトを外し下を脱いでいる相手を床から見上げて、
「じゃあ、今夜はサービスしてもらうかな」
「何言ってんだ。そんな体で」
腹だしげに怒鳴りつけ、その言葉でまた感情がぶり返してきて、竜馬はおいおいと泣きながらトランクスいっちょになり、ハナをすすり上げてズボンを手渡しながら、
「なんだってやってやる。出血大サービスだ」
「そうか。楽しみだ。リストアップしておくかな」
ズボンを受け取って、隼人は微笑した。
15000ヒットを取って下さった拓海良様のリクで、『モエモエ』ということで再度ゲッターです。
『裏設定前提の、合体シーンなし』という不思議な話なのは今回も同じですがもう少し頑張ってエロにしました。隼人受けにチャレンジしてみたし。人によっては不愉快でしょう。最初に断ったから勘弁して。
でも私は隼人ってこういう所のある男、のイメージがあります(エロゲッターでの隼人ね)竜馬をどうこう、というのは自分だけって決めてるし竜馬に手を出すヤツは想像を絶する目に遭わせてゆっくりじっくり殺してやると思ってるだろうけど(笑)、自分に関しては変に無頓着というか、特にどうとも思ってない感じ。すさまじい征服欲と独占欲と自尊心と同時に、縛られて集団にヤラれたって別に平気という無関心さ。いや、そんな程度では貶められることのない自尊心の高さなのかも知れない。逆に。んー、にしてもちょっと今回は極端だったかも。たまにはね。
でも、こちらでもちょっとエロが続いてくたびれた。エロ疲れ(笑)あ、エロじゃなくてモエモエだった。
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