発動!珍ゲッター


とにかくもうワヤである。
ゴールとブライの細胞を培養して3を掛けて、そこに仏像だの虫だのを足してついでにナスビやたんすを吸収したような奴が今回の敵なのだ。もうこれは最終ボスだろう。
ゲッターチームとネオゲッターチームが死力を尽くして奮戦しても、到底かなわない。押し捲られ、追い詰められる。後がない。後ろは建設中のダムだ。
「ヤロォ!いい気になりやがって。いい気になりやがってよ!ちきしょう!」
竜馬が絶叫する。操縦稈を握り締める手が屈辱と怒りと戦闘意欲でぶるぶる震えている。
「まずいな。一発逆転のでかいカードでもない限り、このままだと負けるぞ」
クール極まりない声で隼人が呟く。
「誰か、何か、隠しダマ持ってないのか。出すんなら今だぞ。皆に感謝されるぞ。出せ」
武蔵がやぶれかぶれの声でわめき、
「號!お前あたり、なんか持ってないのか」
3号機に同乗していた弁慶が怒鳴った。
「ねぇよ!んな、もったいつけてる余裕あっかよ!いっぱいいっぱいだ」
少し離れた位置でなんとか体勢を整えようとしているネオゲッターの號が怒鳴り返す。
「ゲッターの反応が鈍くなってきた。もう限界だ。これ以上無理に動かすと完全に動かなくなるか、」
「あるいは爆発ってかぁ?ぞっとしねえなあ!さんざん苦労した挙げ句自爆なんてよ」
翔が落ち着き払った声で言い、凱がぶっこわれた声で笑った。
もう駄目っぽい、という状況におかれて、悲嘆し泣き出すような人間は、そもそもゲッターに乗っていない。そのことだけはまだ救いだ、と隼人は思った。このクソ忙しい時にめそめそ泣いてられたら困る。
「竜馬、来るぞ」
「ああくそっ!バカどもが」
ウンカのように空を覆い尽くした敵の軍団が、編隊を組んで突っ込んでくる。
ぎぎぎと軋むような音を立てて、ゲッター1は胸を反らすと、ゲッタービームを放とうとした。
「!?出ねえ!馬鹿野郎、おい!出せ」
スィッチにヒビが入る程の力で押しているのだが、反応しない。
「竜馬!あんまりムキになって押すな。もし照射部分に破損があるだけなら、スィッチを押す度体内にゲッターエネルギーが蓄積されて」
「自爆っすよ竜馬さん」
凱が楽しそうにわめいた。自爆づいているようだ。
「うるせえぞ後輩」
竜馬が怒鳴った時、射程距離内まで迫っていた敵機からミサイルが雨あられと降り注いだ。
爆発の勢いに押され、後退してゆく。
「う、くそ!止まれ!押し返せ!」
しかしとどまることが出来ない。ずるずると下がってゆく。倒れないようにしようと思うと、後ろに下がるほかはないのだ。
どどどどん、と連爆して、ゲッター1は大きく後ろへ跳ね飛ばされた。
翔が叫んだ。
「危ない!後ろ」
後ろには足場が無かった。地面は掘削されて無くなっている。とてつもなく巨大なコンクリートのすり鉢が、口を開けていた。
ゲッター1は建造中のダムに落ちた。
すぐさまゲッターウィングを出そうとしたが、出ない。竜馬が怒鳴った。
「オープンゲット」
それにも反応しない。もはや、巨大なフィギュアと化してしまったゲッター1は、真っ逆さまに落ちて行く。
「くそったれ」
ネオゲッターが火を噴くと後を追う。手を伸ばす。ゲッター1の手首を掴む。
もう、コンクリートの底は目の前にあった。號は全身の毛穴から冷や汗を噴き出して逆噴射に切りかえる。
しかし、その動きはもう今のネオゲッターには無理がありすぎたらしく、切り替えた途端何か大きな音がしてブースターが機能を停止した。ほとんど、逆噴射の機能を果たさないまま、ニ体は底に叩き付けられ、
た、と思った途端、体が浮く感覚があって、更に下に落ちていった。ダムの底が抜けるってどういうこったよ、と號は遠ざかる意識の中わめいたが、誰もそれに答えてはくれなかった。

「んん」
うめき声を上げて、目を開ける。
目の前に見慣れたコクピットのパネル類が見える。火が落ちて真っ暗だ。壊れちまったのかな、と思いながら竜馬は顔を上げた。
機内は暗く、非常用の緑のランプだけがかろうじて点いている。その弱い光を頼りに、体を起こし、そこまできて全体が横倒しになっていることに気づいた。
ばしゅ、と音を立てて脱出口を開け、油断なく身構えながら外に首を出す。
地底の筈だし真っ暗なのかと思ったら、どこかから赤黒い光が射しているようで、ぼんやりと、ものの形が見える。ゲッター1は地面に、側面を下にして寝ていた。地面が思ったより近くに見える。
『地面って、一体どこの地面なんだ。ダムの底にぶちあたった筈だぞ。その下に更に空間があるってのはどういうことなんだ』
ゲッターの身体を滑り落ちるようにして下に降りる。とす、足の裏が地面を踏んだ。かたい岩の感触がある。
見ると腹の部分、ジャガーの脱出口も開いている。隼人が既に先に出ているようだが、付近にはいない。
ゲッター1の頭を回り込むと、少し先にネオゲッターがひっくり返っていた。どちらももうぼろぼろだ。再起動できるかどうか怪しい。多分無理だろう。
頭上を見上げたが、何も見えない。天井があまりに遠いのか、何かで塞がっていて光が遮られているのか、どっちだろう。
誰かの手で掘られたのか?
自然に出来上がった穴とは思えない。しかし、こんな地下深く、いつ誰が掘ったっていうんだ。
考えてもわからない。竜馬は、左右を見渡し、ぼうと光が強くなっている方向に向かって歩いていった。
巨大な一枚岩の前に隼人が立って、見上げている。赤い光はその岩自体が発しているようだった。
「おい、何だここは?」
こちらを振り返らないまま、
「俺にもわからん」
答えて、これを、と戸を示した。訳のわからない文字が書いてある。しかし、どういう訳か竜馬には、読める気がした。
『ゲッターに通じる者たちへ』
思わずビクリとする。何故俺はこれが読めるんだろう。
「これって俺たちのことか?」
呟いた竜馬にうなずいて、続きを示す。
『来るべき時が来たその時に、お前達はこの約束の場所に運ばれた。この扉を開き、新たなるゲッターにまみえよ』
「この場所に運んだ?やはり我々は空間をどこかに移動したのか?」
「それより、新しいゲッターだと?俺達の知らないゲッターがあるのか?」
竜馬の目が輝いた。
「早く乗せろ!今地上はあいつらにのっとられようとしてるんだ!今まで乗ってたゲッターは動きそうもねえ。なんとでもしてそのゲッターを動かして戻る。そして奴らをぶっ潰す!」
そう叫び終わった時、その声がカギだったかのように、ごごご、ぎぎぎぎという音と共に目の前の巨大な岩がスライドを始めた。驚き呆れる二人の目の前で、岩はどんどん移動してゆき、最後にどすーんと言って停まった。
大きく開いた四角い穴の中は、更に広い空間だったが、その一番奥の壁際に、
「…ゲッター…?」
旧ゲッターよりもっと大きい、巨大ロボットが、静かに、立っていた。いってみれば『合体した状態で、乗務員が降りた』ような佇まいだ。
二人は側に行って見上げた。胸部と頭部が赤、胴は白、腰が黄色だ。ゲッター1と同じカラーリングだし、全体のフォルムも似ている。もっと複雑な曲線や、何かに使われるのであろう突起などがあるが、ぱっと見て受ける感じは、「何はともあれゲッターだ」というしかない。
ただ、なんだか、変な部分もあった。腰の前の部分、言わば股間の部分に、ランプのようなものがついている。
「なんの表示だろうな?エネルギー残量かな」
「場所が変だな…」
首を傾げながらも、とりあえずこれに乗って、奴らを倒さないと、と言っていると、
「おい」
後ろから声がする。振り返ると他の連中もぞろぞろやってきた。
「うわ、ゲッターだ!」
號が素っ頓狂な声を張り上げる。
「神さん、こんなのもこっそり作ってたのかよ?」
「俺じゃない。作ったのが誰なんだか知らん。お得意の宇宙意志ってやつかも知れんな」
「とにかく乗ろうぜ!俺1号機な!」
「あっバカ、1号機は俺だ!てめぇは留守番してろ!」
掴み合いになる。
武蔵と弁慶と凱が顔を見合わせ、誰が乗る?ああ先輩どうぞどうぞ、俺は後からゆっくり見せてもらえばいいっすから。なんだ腰の低い奴だなあ。そうかあ?おう、それじゃ俺が…ちょっと待って下さいよ先輩。俺は乗りたいスよ。なんだお前。凱を見習えよ。
「搭乗お願いします。私はもう少しこの空間を調べて見ます」
翔にてきぱきと言われ、うん、と軽く答えて、あっさり乗ることが決まった隼人が、搭乗用らしいワイヤーが降りているのを掴み、足をフックにひっかけると自動的に上昇を開始した。
「あ!神さんが乗るのか。じゃあなおのこと」
「やかましい。なにがなおのことだ。なおのことてめえは留守番なんだよちびすけ!」
まだ掴みあっている。そんなことをしていると地上がどんどん蹂躙されるのに、と翔は思ったが、男の愛憎には口を出さないことにして、辺りを見渡した。
なんつったって新しいゲッターすよ。乗りたくないわけがないでしょう。先輩ー、お願いですからー。何いってんだよ後輩のくせに。後輩ったって大して違わないでしょうが。
こっちもまだやっている。と、先に二号機の部分に乗り込んでいた隼人が、それぞれにもめている二組に、遥か上の方から、おいと声をかけてきた。
皆見上げる。
「何だよ」
「それがな。…うーん。どうしたもんだろうな」
珍しく歯切れ悪い言い方をしている。一同はきょとん、として一斉に首を傾げた。
隼人はもう少し迷ってから、
「竜馬、號」
「なんだ」
同時に答えた。
「じゃんけんしろ」
二人は顔を見合わせ、また隼人を見上げる。
「一体、何なんだ」
「さっさとやれ。勝った方が上がって来い」
ああそういうことか、とこの時翔は思った。それが一番手っ取り早い。口だの腕だので決めようとしたって決まるもんじゃない。ばっさり、運に任せて搭乗者を決めてしまえばいいのだ。それにゲッターに乗るのには運も立派な特性のひとつだし。
さすが大岡裁き、と全然合っていない感心をした時、號が悲鳴をあげ、竜馬が高笑いをした。
「バカめ!うく。わっはっは。1号機には俺が乗ってやる。ありがたく思え」
號は俯いてがりがりと奥歯を噛み締めている。ぢぐじょう、ぢぐじょう、と小さく繰り返している。
「ようし。このワイヤーだな、頭部につながってんのは」
「それじゃない。今降りていったそれに掴まれ」
「って、これお前んとこに上がる奴じゃねえのか」
「いいからそれで上がれ」
「?」
不思議そうな顔をしながら、2号機の搭乗口に繋がっているワイヤーにつかまって上昇して行く。
「なんだよ、俺はもっと上だぞ」
言いながら乗り込んできた竜馬に背を向けたまま、
「このゲッターはな、二人以上で一機を動かすらしいんだ」
「へ?」
なに、どういう、と言いかけて…
愕然とした。
通常、一人か二人のためのシート、そしてコンソールパネル、レバー類。それが操縦席というものだろう。
それがある筈の場所には、純白のベッドが置いてあった。
枕もと、といわれる場所に、スイッチだのレバーだのがごちゃごちゃついている。
「………なんだこれ」
「操縦席がこれだから、ゲッターよりひとまわりでかくならざるを得なかったのかも知れんな」
「なるほどな」
感心してうなずいてから、
「だから、何だ、これは」
「俺がつくった訳じゃないから知らん。が、推察はつく。ゲッターというのはどうも、理性よりは本能の方で動かすようだから」
「だから?」
「こういうことだと思う」
言うが早いか竜馬の手首を掴むと、ベッドにひっくり返した。
「何すんだバカ!この…」
「大人しくしろ。ていうかむしろさっさと感じろ。あまり時間もないことだし」
「なにを」
「逆らうな。人類の平和と自分の尻と、どっちが大事なんだ」
「自分の尻だ」
「まあそうだろうが」
やられまいと必死になったが、もともと隼人はその方面では右に出る者のいないテクニシャンだし、竜馬のどのへんがどう感じるか承知の上なので、抵抗なんかいつまでも出来るものではない。
そう経たないうちにすっかりひんむかれてのしかかられた。
「あ、あっ」
思わず声を上げた時、コンソールパネルにウゥーンと低い音と共に光が点った。
「やっぱりそうだ。このゲッターは搭乗者の快感で発動するのだ」
どこぞのキ○ガイ博士も言わないであろう、バカ極まりないことを大声で言っている隼人は下半身だけ脱いだ変な格好だったが、
「よし、本格的に動かすぞ」
「ああっバカ、動かすな!いや、動いてくれてもいいけど…」
「動かすというのはゲッターをという意味だが、俺の腰も動かすということで最終的には違わないと言える」
「いちいち説明するな!」
とその時、
「おい、さっきから何やってんだ?あれきりさっぱり何も…うわぁあああぁあぁあああ!」
下から這い上がってきて覗き込んだ號が絶叫した。竜馬は舌打ちして怒鳴った。
「見るな!帰れ。見るんなら金払え」
「號か。丁度よかった。お前にも下の連中にも話がある」
冷静この上ない声で喋りながら竜馬の足を開かせている相手に、號はどどどどと泣きながら、
「神さん、ひでぇや。あんたは鬼だ。俺があんたのことどう思ってるか知っててこんなもん見せるなんて」
恨み言を言い始めた。隼人は腰を動かしながら肩をすくめるという器用な動きを見せて、
「じゃんけんで負けたお前が悪い」
「そうだそうだ。っておい、じゃんけんだけで相手を決めたのかてめえは」
「起き上がるな。抜ける。まあそうだ。俺が決めるのは面倒だったのでお前らに決めさせた」
「ちっきしょー、実際鬼だこいつ」
言いながら横になって複雑な顔で、おいおいと泣いている號を見た。
「號。このゲッターはこうやって動かすらしい。あと二機、お前と下の連中とで動かせ」
「えーっ?マジかよ!あの…何をどう考えても無理だと思うんですが」
愕然として思わず涙も引っ込み、ついでに丁寧語になっている。
「無理は承知の上だ。早くしないと地上がのっとられる。急げ」
「急げって言われても」
青くなりながら降りていった。
「隼人のやつ、なんだって?」
「それが…」
號はちょっとないくらい言いづらいことを説明した。
全員驚愕の叫び声を上げる。当たり前だ。
「…悪いが私は本当に留守番にまわる。拒否する。お前らの人格がどうとか言うつもりはないが、正直言って」
蒼褪めた顔で棒読みに続ける翔に、ああわかったよと皆うなずく。
「まあ一番真っ当なのが翔と誰かなんだろうが、ちょっとこの場合はな」
「翔の兄さんに殺されますよ。あとシュワルツに」
「じゃあ、しょうがないから」
はい、と凱が差し出したのはいつの間に作ったのか、くじだった。
「赤いシルシが付いてる同士。何もついてない同士。てことでひとつ。恨みっこなしで」
「こんな気持ちでひくくじってのは、人生でそう何度もねえだろうなあ」
「とんでもないゲッターを掘り起こしてしまったな」
「エロゲッターだな」
三人はくじのおしりを掴んだ。一斉にひっぱる。
武蔵と弁慶のくじにはなにも付いていない。お互いのくじを見てから、妙にじっと見つめ合っている。號が自分のを見ると、赤いしるしがついている。
「と、いうことは」
残った一本を凱が見ると赤くなっていた。
「まあ、旧ゲッター同士、ネオゲッター同士ってことで丁度いいんじゃないですか」
そうだな、全くだな、と言ってからお互いを見る武蔵と弁慶の視線が妙に熱っぽいのが號はすごくイヤだった。
ぽん、と肩を叩かれてびくぅとし、そっちを見ると、凱が白い歯をきらん、とこぼして笑いながら、やけにやる気まんまんの声で、
「じゃあ行くか號」
そのまま肩を抱かれて、かくかくと口を開け閉めしたが、声が出ない。
翔は痛々しそうに、しかし「自分が代わるのは絶対イヤだ」という顔で四人を見比べている。

頭頂部の操縦席は赤いベッドだった。一応機体と色が合っているらしい。
「マメというかなんというか…イヤなマメさだな」
「いやがっていても仕方が無い。とりあえずは」
「なんだよ」
「キ、キスでも」
「ひー!」
號は泣き出したが凱は妙に積極的にキスをしてきた。ぶにゅ、としたクチビルの感触がなんとも言えない。ああこれが神さんだったら。あっそうか、相手が神さんだと思い込めばいいんだ。これは神さんの唇。きっと虫に刺されて腫れたんだ。顎に触れてくる、これは神さんの手。きっと虫にさされて腫れたんだ。こればっかりだな。でもなんかいい感じだ。よし、もっと妄想だ。妄想パワーだ。
相手の手が自分のカラダを撫で回す。大きな神さんの手。ああ。神さんそんなこと。そんなことまで…
ウーン、と音が頭上でした。
「おっ、パネルがついたぞ!」
凱の声が耳に入って気分が萎えた。
「あれっ消えかけてるぞ」
「凱、お前あんまり喋るな」
と、通信機から、やけに早い呼吸と喘ぎ声が聞こえてきた。
『はぁはぁ…はぁはぁ。…弁慶…』
『あん…いいっす…先輩』
號は顎がはずれそうになった。ちょっと。これ三号機のどすこい先輩たちだろう。どこまでいってるんだ。それにしても早過ぎないか。
「さすが順応性が高いなあ。ゲッターの先輩として尊敬するよ」
「そういう問題か?っていうかなんであの人たちの声が入ってくるんだ?」
「からみあってて、通信スイッチにでも頭突きしちまったんだろ」
「まあ、全部筒抜けとかいうんなら、もうとっくに神さんとクソ流の」
声が入ってきているはずだ。お互いを呼ぶ声だの、喘ぎ声だの。いくだのいかないだのといった単語だの。そう思うと悲しみが蘇って来て、號は言葉を切って涙ぐんだ。
そっと肩に手が置かれる。涙をためた目で振り返ると、凱が気の毒そうな目をして、微笑んで自分を見ている。
「辛いよなあ。俺は全部わかってるから。身代わりでいいからよ」
「凱」
わっと泣きながら抱きつく。よしよしと肩を撫でてやる手が次第に下におりていった。
「あっ…」
「大丈夫だ。力抜いて。俺に任せて」
凱の声がやけに男らしい。號は最初歯を食い縛っていたのが、次第に甘い吐息に変わっていった。
なんだろうこの感覚は。今まで知らなかった。ナントカスポットとかナントカ感覚というやつだろうか。
號は思わずぎゅっと凱の首に手を回した。
通信機からは相変わらず、
『お前がっしりした体してんなあ。筋肉質で固太りで…ああ、興奮する』
『先輩こそ、ムチムチしてて気持ちいいっす。ここのお肉なんかサイコーっす』
『あっ、あっダメだ…そんな…』
『先輩、先輩っ。い、いっしょに』
「いっしょにだそうだ。お前もそろそろか?」
そろそろってきさま、と竜馬は歯をくいしばった。今までたびたびいきそうになっているのだが、竜馬がいく寸前になるとそのたびに動きを止められて、竜馬はもう気が違いそうになっていた。髪を乱してのけぞり、か細い声で、
「ばかやろう…さっさと…」
「さっさとなんだ。ちゃんと口で言え」
ニタリと笑いながら上から見下ろしている。
「い、いか…」
「イカがどうしたって。聞こえねえな。もっと大声で言え」
「いかせろ…」
言い終わって真っ赤になっている。が、そんなもんでは隼人は容赦しない。
「偉そうだな。いかせてください、だろうが。お願いしろ。哀願しろ。言わねえといつまでもいかせてやらんぞ」
涙をためた目で下から睨みつけられ、隼人は狂った快感でゾクゾクした。ああ俺は今竜馬を征服している。蹂躙している。可愛いぞ竜馬。そんな顔を見せられるとこっちがいきそうだ。おっと。ガマンだ。
「いかせて…くれ」
「ふん。まあそんなところで許してやるか」
満足そうだ。人類の危機はどこへ行ってしまったのだろう。まあ多分実際どうでもいいのだろう。
巨大ロボットのあちこちから聞こえてくる、快感によがる男のダミ声を聞かせられ、地面に座っている翔は耳を押さえ首を振り、ひたすら早く終わってくれと祈っている。
「あっあっあっあっ」
「先輩。先輩」
「かわいいぜ。ククク」
「號、そうだ、もっと」
「ちきしょう、もうだめだ、ああっ」
「凱!神さーん!ひーっ」
翔はうめいた。
『これが人類の進化か。人類はつくづくろくなもんじゃない。く、狂ってる』
「ああああああああああああ」
野太い嬌声が響き渡った。その瞬間。
ヴン、と音がして、ゲッターの目がピンク色に輝いた。そして、次の瞬間ゲッターはふっと姿を消した。

「早乙女博士、もうバリアがもちません!」
所員が悲鳴を上げる。
最後の砦の早乙女研究所に篭っている博士、ミチル以下所員たちの命も、敵の総攻撃の前にもはや風前のともしびだった。
「くそっ。ゲッターは…竜馬たちはどうした。何をしているんだ!」
「依然応答がありません」
「呼び続けろ」
どぉん、と激しい揺れが襲ってきた。皆悲鳴を上げて床に倒れる。
モニターには巨大な恐竜が、尾でバリヤごと研究所に巻き付いて、しめつけている姿が映っている。
みしみしという、建物の構造が歪んで行く音が響いてきた。
「これまでか」
早乙女博士がくやしげなうなり声を上げた時だった。
「ゲッターだ!」
誰かが叫んだ。皆がばと顔を上げてモニターを見る。
見たことのない、しかし確かにゲッターだと判断できる、巨大なロボットが突然宙に出現した。
「おい…なんだ。空間移動したぞ」
「ここは、早乙女研究所の上だ。お、攻撃されてますぜ」
「よっし!やっつけてやるぜ!」
まだあがる息でそうわめいて、隼人の下から這い出そうとしたが、
「ゲッタービームを放つにはまだエネルギーが足りない」
ホントなんだかどうなんだかなことを言って再び体の下にひきずりこまれた。
「やめろー!それどころじゃあああああ、ああああ」
「エネルギーが足りないんだそうだ、弁慶」
「足りないんスね、先輩」
怪しげな声が聞こえてくる。
「號、大丈夫か?一応ゲッター1っぽいから、ここがメインの操縦席なんだけど」
「操縦席っていうか…操縦台っていうか」
大分よれよれになった號ががっと操縦稈を掴んだ。
「もちろんやってやらあ。こうなったら全弾ぶっぱなしてやる!」
「ぶっぱなすなんて、いやらしいなあ號。ウフフ」
「さんざん人のことやっといて何言ってんだお前は」
見るとエネルギーゲージがどんどん上がってくる。下ともっと下で頑張っているのだろう。
「一応俺たちも頑張るか」
「ひぇっ」
ごんごんごんごん。メーターがどんどん上がり、ついに振り切れた。
「いけ號、今だ」
「ゲ、ゲッタービーム!」
號が裏返った声で懸命に怒鳴ってスイッチを押した。
と、股間がかっと光り輝いて、そこからどばーっとゲッタービームが敵に降り注いだ。なんとなくねばっこいビームだった。
「…なんか、とてつもなく」
「イヤなゲッターだな」
なんとなくねばっこいそのゲッタービームを浴びせられた研究所の一同は、沈んだ声で、助かった、良かった良かったー、と一応言い合った。

ゲッターからぞろぞろと降りてきた面々を見て皆ぎょっとする。全員すっぱだかで、見るからにげっそりやつれた者、お肌がピチピチになっている者、スッキリした顔をしている者、いろいろだ。それになんだか臭い。一種独特のニオイと汗臭いのとが交じり合ってなんかもう、とにかく臭い。
「あの…お疲れ様」
手で顔を隠し、一同を見ないようにして言ったミチルに、早乙女博士は、お前は研究所内に入っていろと怒鳴った。
「こんな奴らのそばにいると妊娠してしまう」
ひでぇな、俺らはケダモノすか、と声が上がったが博士は耳を貸さなかった。
「強制的に移動させられた先で発見しました。誰がいつ造ったものか不明ですが、性的なポテンシャルエネルギーで起動するゲッターのようです」
まじめぶって喋っているが隼人もアレをぶらぶらさせて いる。
「うむ。その、なんだ。言ってみれば」
砂をかむような声で、
「珍ゲッターロボ、というところだな」
言ってからふと隼人の後ろを見ると、なんだか武蔵と弁慶が妙に寄り添っていて、顔を見合わせてはウフなどと笑ったり、お互いの胸にのの字を描いたりしている。博士は吐きそうになった。
竜馬がおいと怒鳴って、隼人の肩を掴んで振り向かせた。ものすごく怒っているようだがなんだか全体にフラフラしている。
「野郎てめえ、さんざん人のことおもちゃにしやがって。この次は俺がやってやるからな!ひーひー言わせてやるぁ!」
隼人はしらっとした顔で、ハダカのままどこから出したのかタバコをくわえ火をつけながら、
「そうか。それもいいな。俺は別にどっちでもい…」
「ずるいぞ!次は俺、次こそ俺だ!順番守れバカ!」
號が怒りの抗議をし、凱が、
「またあぶれたら俺が相手してやっから。俺って都合のいい男、ってかぁ?がははは」
げーと音がして、見ると博士が向こうで吐いていた。
次の出動のことなど考えたくもない、と思っていることだろう。
「ところで」
紙のような顔色の、一人の所員が、
「翔さんはどこですか」
全員が一瞬黙ってから、「あ」と言った。

あの不思議な亜空間で、翔は一人ゲッターの修理を始めていた。がらんとした空間に、とんてんかんとんてんかんじじじじじという音が響く。時折火花が散る。
その火花に照らされている翔の目は、すっかりうずまきに戻っていた。
「狂ってる。狂ってる」
ブツブツ言っているが、その声に答えてくれる者はいなかった。

[UP:2004/02/03]

「ゲッターは感情をゆっくりと高めて」とかなんとかあの小坊主が言ってるのを読みながら、「官能をたかめたらどうスか」とか言って笑った。という話でした。最初は竜馬と隼人と武蔵の3ピ(げほげほ)で起動する筈だったんですがどうせだから弁慶と號と凱も連れてきちゃった。迷惑だ〜。でも翔はひどい目に遭わせたくなかったので。あ、渓ちゃんとやらせればよかっ(以下略)

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