画面の中では、メカザウルスがハデに爆発し吹っ飛んで、ゲットマシンが今分離したところだ。
「ぐぐぐぐぐ、おのれゲッターロボ」
ゴールの無念のうめき声が司令室に響き渡る。部下達は申し訳ないのと怒りに任せて誰か殺したりするんだろうかと怯えるのとそんなこと我々に言われても困りますとふてくされるのとで、平たくなってそっとゴールの表情を窺っている。
と、突然わっはっはっはっはと笑い声が響き渡り、なんだ?と皆でそっちを見ると、やたらゴテゴテした軍服を来たトカゲが入って来たところだった。
「ゴールさま!」
「む。貴様は」
その声に、得意げに、はっ!とひざまづいたが、
「誰だ」
こけっ。情けなくその場に転がってから、起き上がり、
「リュウドルクでございます」
「あ、あー。ああ。うむ。わかっておる」
わかってないな、と部下全員が思った。
「ゴールさま、ぜひ次はこのわたくしに指揮をお任せください!」
「なにか策があるのか」
ゴールがそう訊ねる。あまり気が入ってないのがまるわかりの口調だ。その証拠に、部下に甲羅のミゾ掃除をさせている。話半分だ。
「もちろんでございます。ゲッターに対抗し得るメカザウルスを、開発すればよろしい」
「言うは易いが、そう簡単に行くものか」
「大丈夫でございます。このわたしの頭脳にかけて」
ふんっ、と再び顎を上げ、颯爽と立ち上がろうとしたが、ダラダラ長いマントのすそを踏んづけてまたこけた。肩章や、胸につけた勲章が一斉にものすごい音を立てた。まるで祇園祭のようである。
警告音が早乙女研究所に鳴り響く。
「敵機襲来!」
「よっしゃ、おいでなすったか。この頃さっぱり来やがらねえから、体がなまっちまった」
それまでヒマをもてあましていた竜馬が大喜びで飛び上がった。このところ白衣を着っぱなしだった隼人、食堂のメニューも食い飽きた武蔵が急いでコクピットに乗り込む。
三機の機体は青空に射出された。
「ははん、あいつか。なんだ?カメみたいだな」
「カメより、ゾウリムシだぞ」
「いや、タワシだ」
てんでに勝手な事を言っている。まあ確かに、楕円形を膨らましたような形状の、やたらでっかいメカザウルスが、浅間山の裾野の方からこちら目掛けてのたのた、這い上がってくるところだった。
「不恰好だなあ、また」
「機動性はなさそうだが、まだわからん」
「わかるって」
と突然、わはははははという笑い声が響き渡った。耳が痛くなる大音量で、三人も研究所の所員もみな顔をしかめた。
「耳いてぇっ!黙れ!」
『良く来たなゲッターの諸君。我こそはゲッター討伐隊の隊長リュウドルク様だ。私自ら貴様らを倒しに出陣したのだ。光栄に思うがよーい』
「誰だって?」
「しらねえよ、トカゲの中では有名人なんだろ」
『ふはははは。このメカザウルスは貴様らには止められんぞ。早乙女研究所まで一直線だ。下敷きにしてくれる』
「下敷きにされては困るな」
なんだか緊迫感のない声で早乙女博士が言った。
「よし、俺にまかせとけ。チェーンジゲッター、3!」
三機は合体しゲッター3になると、ドドドと側まで寄って、押し返そうとした。が、びくともしない。
「うお。こいつ、結構重い」
武蔵が驚いた声を上げる。またわははは笑いが響き渡って皆耳をおさえた。
『この重量はな、ゲッター3でも歯がたたんぞ』
「だから耳がいてぇって」
言いながら後ろから引っ張ってみたり、ミサイルで攻撃してみたが、びくともしない。
「うーん。ダメだ」
直後にまたわははは笑いが入って、
『諦めろ。後退や停止のギヤなど最初からつけていない。ただ前進するのみだ』
「バカみたいなドンガメだが、やっかいだな。どうする」
「シンプルなものほど強いとは言うがな」
隼人が呟いてから、
「シンプルすぎる。おい、ムサシ、ゲッター2だ」
「え?おう」
三機は分離し、再びゲッター2になった。そのままドリルで、メカザウルスの少し前の部分の地面に、ドリルでつっこんだ。
「何するんだ?」
「この前、お前ら二人が面白がっていたアレだ」
「アレってなんだ」
二人の声が揃った。と、ミチルが、
「アレね。おとうさまに怒られて腹を立てて」
「アレか。わしが落とされた」
早乙女博士も渋い声になった。あの時のシリの痛みを思い出したらしい。二人はコクピットの画面ごしに顔を見合わせ、デヘヘヘときまり悪げに笑った。
『何をする気か知らないが、ムダだ。こいつは絶対に止まらんぞ。ふはははは』
「止まらないんだろう。だから」
言いながらずぼっと地上に出た。
メカザウルスの前方には巨大な穴が掘ってある。
「これで終わりだ」
『えっ。えっ。おい。ちょっと待て』
「待てないのはお前の方だろう」
『わーーーー』
バックギヤもブレーキもついていないというのは本当だったらしい。巨大なタワシはにじにじと穴の縁まで行って、ちょっとぷるぷるしてから、穴に落ちた。
「やれやれ、またしてもヒマだな。そろそろ暴れたくなってきたぜ」
竜馬が剣呑な目つきになって、研究所のトレーニングルームで武蔵相手にどすんばたんやっていると、再び警告音が鳴り響いた。
「敵です!」
「よっしゃー」
「今度こそゲッター3で倒すぞ」
「バカ野郎、今度は1だ」
言い合いながら大喜びで飛び出して行く。と、格納庫でミチルと隼人がなにやら話し、ミチルが手紙を渡している。二人が来たところでジャガーに乗り込んだ。
「なんだよ。告白されたのか」
「冗談じゃねえぞ!な、なにを、なにぉ〜〜〜っ」
「橘研究所からの封書だ」
焦るでもなく、下らないというリアクションさえせず、お前らにつきあう気は無いとばかりにただ一言いいきると、発進した。
行く手に待ち構えているのは、飛行型のメカザウルスだ。今度は前回と対照的にやたらと細い。銀色のトンボみたいな姿だ。流線形…と言えば格好いいのだが、
「どっちかっていうと、痩せすぎだ何食ってんだていうか」
「ガリ勉君ていうか、もやしっ子っていうか」
と、わははははという例の笑い声がまた響いてきた。皆ぎゃあと悲鳴を上げる。
『我こそはゲッター討伐隊の隊長リュウドルク様だ』
「この前名乗ったろうが。あれ、生きてたのか」
「そうだ。すっぽり地面にはまってよう。動けなくなってちょっとルルルルしてから、爆発して」
『うるさい。余計なことは言うな。私は過去から学ぶ男なのだ。今度は前のようにはいかないぞ。ふん。ふふふ』
言い終わると、ものすごい速度で移動を開始した。
「うわ、見えねえ」
『ははははは。この速度についてこられるか。わはははは』
「どうでもいいけど耳いてぇ」
竜馬が耳を押さえて、
「でもよ、確かにあれにはゲッター2でも追いつけないぞ。どうするんだハヤト」
隼人ははぁと疲れたようなため息をついてから、
「リョウ。ムサシ。ゲッター2になるぞ」
えーっまた2かよ、といっせいにあがるブーイングにうるさいと言ってから、
「研究所。頼みがある」
なんでしょうかハヤトさん、と所員が叫んだ。
その間にもウンカのメカザウルスはわはははは、わはははは、うぷっ、などと言っている。速すぎて気持ちが悪くなってきたらしい。
『わはは、はは、うぷぷ。こ、この、スピードに、ついて…』
やれやれという様子で、ゲッター2は相手に向き直ると、ちょっとたたずんだ。それはなんだか、隼人が「あーばかくさい」と言っている姿にも見えた。
やおら上体を起こすと、アームで掴んだ巨大な鉄板をブン!と振り回した。
ぱちーん。
いい音がして、ウンカは鉄板にぶちあたると、ちょっとはりついてから、ずるずると地面におっこちた。
「…はえたたきだな」
「ぺちゃんこになってるぞ」
ほっとけ、と隼人の乾いた声がした。
「よう、調整は終わったのか」
竜馬がでかい声でわめく。イーグル号の周囲に居た所員たちが竜馬を見る。竜馬の一番近くにいた男が、終わりましたと言った。
「しかし毎度毎度歯ごたえがねえな。あいつらもよ、もう少しおつむ使って、一度くらい俺たちを大苦戦させてみろってんだ」
「笑えないこと言わないで下さいよ」
「ま、あのバカトカゲには無理な話か」
フンと腕組みしてエラそうに言った時だった。
けたたましく警報が鳴り響き、≪敵メカザウルス出現!ゲットマシン出撃せよ≫と声が怒鳴りだした。
「おっと。俺の話きいてやがったのか」
言いながらニヤリと笑い、ひらりとゲットマシンに飛び乗った。
「リョウさん、服!」
「いらねえよ。どうせまた五分で終わって帰ってくるんだからよ」
「またー!少し勝ちが続くとすぐ図に乗るんだから!頭ぶって余計バカになっても知りませんよ!」
こんな内容のことを叫んだのはもうイーグル号の後部からジェットの炎が噴き出し、こちらの声なんか聞こえなくなったからだ。しかし、竜馬はキャノピー越しにそいつを見て、
『聞こえてるぞ』
口の形で言った。
『戻ってきたらおぼえてろよ』
「………」
血の気を無くした所員を、他の一人が肩を叩いて慰め、
「大丈夫だ。戦闘が終わったらリョウさん、その前のことなんか忘れてるから」
「そうは…思うけど」
と、そこに、パイロットスーツとヘルメットを身につけた隼人と武蔵が走ってきた。
「調整は済んでるか」
「大丈夫です」
「よし」
「俺の調整がまだだったのによう」
武蔵がぼやく。要するに食事中だったのだろう。口のまわりがベタベタだ。
「帰ってきたら食え。行くぞ」
「おう。リョウのやつもう出たのか」
せっかちだな、と言いながらのそのそベアーに乗り込む。三機はややバラつきながらも、大空に飛び出した。
行く手から近づいてくる姿を見て、ん?と竜馬が目を見開き、
「なんか今度は、ゲッター1っぽくねえか」
「ほえ」
武蔵が間抜けな声を上げ、隼人が、
「そうだな。意図的に真似たという感がある。まあ、3、2と来たからな」
確かに、両手両足胴体あたま、というスタイル、赤い頭に上半身、白い胴、黄色いシリ。
真似てはいるようだがなんだーか、微妙にバランスが悪い。頭でっかちシリすぼみだ。細部が簡単で、妙にのっぺりしている。
「ゲッター1のパチもんて感じだな」
「いや、あれだよ。大昔出た、トーキングゲッターロボ」
「そういうことを言うな」
「なんで。あの頭のでかさ、あのバランスの悪さ」
「やめろ」
とかなんとかやっていると、
『来たなあゲッターロボ』
ふふふははは、とやたらデカイ音が響き渡る。相変わらず耳は痛いが、またどうせアレだろうと思っているので最初ほどは驚かない。
「またお前か」
『我こそはゲッター討伐隊の隊長リュウドルク様だ』
「もう知ってるって」
『やかましい。貴様らがちょろちょろと空を飛べるのも今日が最後だと思え』
「またなんだか寝言言ってやがるぜ」
竜馬はふんっと鼻息をふきだして、
「何度来ようと、パチ野郎は本家本元に駆逐される運命だ。引導を渡してやる。チェーンジゲッター、ワン」
ぐいとチェンジレバーを入れた。
ガシュガシュと合体し、確かにこっちの方がかっこいい本物のゲッター1が、相手のすぐ前にどすん!と着地した。
どすどす駆け寄っていく。トマホークをぶんと振った。げし、と音がして相手がふらふらとのけぞった。気絶しているように見える。
「なぁ。いい加減、やる気を出させろよ」
なんだか竜馬がトホホみたいな声を出した時だった。
『わはははは。今だ』
ぽち、と音がして、
『リュウドルクビーム』
絶叫、そして相手の腹から、ピンク色のビームが出た。
「しまった」
「ビーム兵器なんか持ってやがったのか」
一瞬、こんなアホな結末で散る自分って、と思った隼人だったが、気が付くとどうということもない。ただコクピットの外がピンク色なだけだ。
「殺傷能力はないのか?くだらない。おいリョウ!早いとことどめをさせ」
「あせったぜ、ばか野郎が。くらえ、ゲッタービーム!」
『なにを。リュウドルクビーム』
「ゲッタービーム!ゲッタービーム!」
『リュウドルクビィィィィム!』
二体の間でビームが、押しつ押されつ状態だ。研究所員たちは「なんかへんだ…」と思いつつも、頑張れ!押せ!押せ!と声援を送っている。
「おーせ!おーせ!頑張れ!頑張れ!」
なんだかあっちの方でも声援を送っているらしい通信がかすかに聞こえる。その中に、やたら威厳のある声が『なぜゴールビームにしなかったのだ』などと不満をもらしているのも聞こえる。
「リョウ!頑張れ!あとちょっとだ!ふんばれ!どすこーい!」
「リョウ。早く終わらせろ」
大喜びの武蔵の声を聞きながら、疲れきった隼人がそう言った後ぎょっとして、
「おい、お前ら」
「え」
「なんだ、その顔と手」
「なに?」
二人はお互いの顔を見てびっくりたまげた。二人とも顔がミドリ色になって、ウロコが生えてきている。手も同様だ。
「わーっ」
「なんだ、お前、トットト、トカゲになってるぞ」
「お前こそ」
わはははは、と笑い声が割り込み、
『リュウドルクビームを浴びると、体の組織が作り変えられ、ハチュウ人類となってしまうのだ。わはははは』
二人はわめき声を上げた。隼人がうーむとうなって、
「結構すごい科学力の気が」
「誉めてやってどうするんだ。俺はイヤだぞ、トカゲ野郎になるなんざマッピラごめんだ。なんで隼人だけ無事なんだよ」
「…というより、リョウ、どうしてパイロットスーツとヘルメットを被らなかった。あれには光線や放射能くらい防ぐ力が」
「面倒くさかったんだよ」
ミドリ色になってふてくされている。
「俺はちゃんと着てるぞ」
こっちもミドリ色になってふくれている。
「お前のは、パイロットスーツとヘルメットとは、言わない」
ヘルメットだろう立派な!と「安全第一」の上を撫で擦り、
「あっでもまてよ、トカゲ野郎は泳ぐのも上手なんだろうな。新鮮なマグロでも捕まえて、上がったところできゅっと一杯」
「月にでも行ってやってろ」
竜馬は怒鳴ると思い切り、
「全開だ。ゲッタービーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーム」
さすがゲッターに選ばれた男だけあって、本気を入れたのがゲッターにも伝わったのだろう。いつもの1.5倍増しの威力を発揮して、
ぐぐぐぐぐ。
『あっ、だめ。そんな。それ以上。やめて。いや。キャー』
なんだかオカマチックになった叫びを残して、綱引きならぬビーム押し合いに敗れた相手は、爆発した。
「ううむ、信じがたい変化だ。すっかりトカゲだ」
「トカゲですね」
「トカゲだ」
早乙女博士、研究所員たちと隼人はああでもないこうでもないやっているが、思うようにいかないでいる。
「戦闘が終わったらリョウさん、その前のことなんか忘れてるなんて言ってたけど」
一人がため息をついて、
「まさか、戦闘が終わったらあんなものになって戻ってくるとはなあ」
と、ドアが開いて、
「まだ治し方わかんないのかよ。さっさとしてくれよ!」
ミドリのウロコ男となった竜馬が入って来てイライラわめいている。わめくたびに二股にわかれた舌がしゃーしゃー出入りする。
「わかったから、大人しくしてろ。あっちでイモリでも食ってろ」
「イモリはトカゲの同類だろ!共食いしろってのか」
「静かにせんか。騒ぐならあっていにいってろ」
「リョウ君、あんまり騒がないで。なまぐさいから」
ミチルにずばっと言われてしおれた。
「ああどうせ俺はなまぐさい男だよ。くそ!」
「そんな、瞳孔をタテにして怒らないでよ」
「俺がやってるわけじゃねえよ!」
「うっ。なまぐさい」
「ひでえ、この女!ウロコ移してやる」
「頼むから静かにしてくれ」
ギャーギャー騒いでいる部屋の隅っこでは、
「ナマの魚がうまいなあ」
武蔵が一人で、自分で獲って来た魚を文字通り肴にして、一杯やっている。
「あれ。俺って未成年だっけ。まあいいか。がはははは」
どこが追悼、と言われそうですが
がんばれ!ムサシ!の感じで読んでください。
最初は、名も無い一人の隊員が故郷に帰るのを皆で見送るという話だったのですがやめました。
湿っぽいのはいやだ。
初めて、「このひとはすごい。他のひとと違う」と思ったのはいつだったのかな。
思い出せません。
初めてゲッターを読んだ時、初めて魔界転生を読んだ時、初めて虎を読んだ時の自分を思い出すと、
あんなふうな、巡り会いはもうないのだと思って涙が出てきます。
クソ生意気に「ちゃんと終わらせる気がないんだったら、ヘンに書き始めないで欲しいな!」なんてほざいたこともありましたが、そんなことぬかせるのがどんなに幸せなことか今やっとわかった次第です。
先生のマンガが大好きでした。
読んで、なんかこれで書きたい、と思うような、自分の中に入り込んで消えない領域をつくるようなマンガでした。
今もこれからも好きです。
ありがとうございました。
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