クイズドレミファ○ン


もともとははるかな昔、ユルめの映画評論と「イェーイ」という掛け声で知られ、現在では『総出で芸能活動一家の父親』として認識されている男が、司会をしていた番組だ。
そして現在では、正月ごとのスペシャル番組になっている。他にもカラオケで完璧に歌ったらウン万円、などという番組もあるが、一部の人間にとっては『お正月の、風物詩』として支持されている。
現在の司会は、ゆくゆくはかくし芸大会でマチャ○キの後がまを狙っている、まあ結構いろいろなことが出来ることを証明している割にどうもカメラ映えのしない中山デデユキという男だった。この男はクイズ・タイムチョップの司会もしている。まあ、一言で言うなら、『ソツがない』キャラクターなのだろう。
この番組でのアシスタントは「大チュキ!」という深夜番組でずーっとデデユキと一緒だったマチモト明子というバラエティタレントだ。ものまね番組が出始めだった頃、驚く程似ているものまねを披露していたのだが、今ではその技術も失われて久しい。
「はいっはじまりました、クイズ!ドレミファ!ポン!」
ぱちぱちと拍手が起こった。故意に狙ったと思われる、ハデなのに妙に古臭いイメージのセットだ。なんとなく、画面がくすんで見える。
「今回は国際警察機構北京支部から2チーム、BF団所属十傑集から2チームで戦っていただきます。まずは、中条さんと呉学人」
ぱちぱちぱちぱち。拍手の中、呉先生がぺこりと頭を下げた。長官は両肘を突いて、手を組み合わせている。
「あんまり長官が歌を歌ってる姿は見ないけどねえ」
客席で楊志が首をひねる。
「ふっるいムード歌謡とかは知ってそうだね」
「それに呉先生は結構、歌謡曲知ってますよ」
銀鈴がその隣りでうなずく。
「子守歌は毎晩違う流行歌だったわ」
「へ、へえ」
「お隣りは戴宗さんと鉄牛さんです」
「うぉい!任せとけ!歌う人間発電機たぁ俺様のこった!」
「電源いらずのカラオケ機ですね兄貴」
「おう。その辺押してみろ。どんな曲のイントロでも出してやら」
「この辺ですかい」
「うひゃひゃひゃ、やめろいくすぐってぇ!いひー」
うるさい。けたたましい。客席から笑いが起こる。
隣りの解答者二人がわめいた。
「ボリュームを下げるツマミはどこだ。やかましいぞ」
「どうせ貴様の知ってる歌など、猥歌だけだろうが」
樊端とアルベルトだ。この一角だけやけに画面が黒い。
「何を言ってやがる。ヒワイなのはてめえの頭の形だろうが。シリみたいな頭蓋骨しやがって。シリ丸出しの頭なんざ放送禁止間違いなしだ」
なんだか訳のわからない言いがかりをつけられ、アルベルトはとりあえず激怒した。
「ぶっ殺す」
「上等だ。表へ出やがれ」
「兄貴、番組収録中ですぜ」
「アルベルト、負けるな」
デデユキがうんざりした声をはりあげた。
「はいー。バトルはゲームの中でにしてくださいねー。もうあの人たち呼ぶのやめようよ編集めんどくさいし(ぼそぼそ)はいお次は樊端さんとアルベルトさん」
おうー、と応援席から声が上がる。アルベルトーと声がかかって、見るとダラーとサニーが並んで手を振っている。アルベルトは思い切り無視して、どっかりと椅子に座りなおした。
「しんがりはヒィッツカラルドさんとレッドさんです」
「何故俺がこいつと組まされるんだ」
「そう言うな。歌謡曲ならまかせておけ」
くるぅりと一回転してぱちんと指を鳴らした。元祖そのままの指ぱっちんだ。途端に解答ボタンの乗ったセットが真っ二つになって、また中断となり、再開までにしばらく時間がかかった。
デデユキがイライラしてきて、セットの陰でディレクターと、
「あーほんと時間のかかる人たちだね。何なの。なんでいつも呼ぶの。え。スポンサーが?横山光輝のファン?…ああ、そう。じゃあしょうがないか」
思い切り長いものに巻かれている。予定を大分オーバーして再び録画は始まった。
「はいっ始めは通常イントロ・ポンです。曲のイントロが流れるので曲がわかったところで解答ボタンを押して下さい。それでは、イントロ・ポン!」
テケテテケテ、チャーリーラーリーチャーリーラーリー
「わかった!」
樊端が立ち上がって、
「チャーリーラーリー…あーなーたーにーおーんーなーのーこーのいちばんー、たいせつなー」
歌いだした。アルベルトが、
「バカ者!何故延々と歌うのだ。わかった時点で解答ボタンを」
ポーン。押したのは隣りのヒィッツカラルドだった。
「はいっ押したのはお隣りヒィッツカラルドチーム!どうぞ」
「うははは。樊端、助かったぞ。山口モモエの、イミテーションゴールド!」
ブブー。
「えっ何でだ」
ポーン。次に押したのは、というかヒィッツカラルドがイミテ、くらいまで言った時点でずーっと、アルベルトと戴宗は立ち上がって解答ボタンをかしかしかしかしかしかしと押し続けていたのだったが、機械は戴宗の方を拾ったらしい。戴宗の席のランプがついた。
「わははは。俺の方こそ助かったぜ。曲名が違わあ、ぱっちん野郎」
「ぐぬぬ」
「BF団てのはどいつもこいつもバカぞろいだな。立ち上がって延々歌うバカに解答権をもらっといて曲名を間違えるバカに」
「全くでさ、兄貴」
アルベルトとレッドが冷たい目でちらりと各々のパートナーを見遣った。
「誰のせいで」
「あのバカにバカ呼ばわりされているのだか」
「うるさい!」
ずーっと蚊帳の外、という感じで並んでその騒ぎを見ていた中条と呉だったが、この時顔を見合わせた。
ぼそぼそ、と会話を交わす。が、二人の声は小さすぎて、ぎゃあぎゃあ騒いでいる3チームの耳には入らなかった。
「さあて、俺様が答えてやるかな。記念すべき正解第一号は、この戴宗様だ!てめえら有難く拝聴しやがれ」
「ぐぬぬ」
「ぐぬぬ」
「かっこいい、兄貴ー!」
戴宗はえっへぇん!と胸を張って、
「山口モモエの、ひと夏の経験だぁ!」
ぶぶー。
「げぇっ」
それまでの斜め上45度もどこへやら、一転、目の玉を反転させて仰天している。BF団2チームは「ざまあみろ」と「それじゃあ一体なに?」が混ざった顔で、腰を浮かしている。
ぽーん。
押した人の性格が出たような、慎ましやかで澄んだ音が響く。連中は揃って、一番端の解答席を見た。
呉が、まだ解答ボタンの上に手を乗せたまま、
「もう、押していいんですよね」
「はい、解答権は中条チーム。どうぞ」
はいとうなずいてにこやかに、
「およげ!たいやき君です」
ぴんぽんぴんぽーん。正解を表していると誰にでもわかるチャイム音が鳴って、解答ブースにちりばめられた豆電球が七色にくるくる光った。
客席から拍手が来る。銀鈴と楊志が嬉しそうに手を叩いている。呉は微笑んで中条を見た。指を組ませたままうなずく。
「な、なん?なんだって?」
戴宗はまだ目をぱちくりさせ、
「おい、全然かすりもしないぞ。何だ山口モモエとは」
アルベルトが樊端にかみつき、
「山口モモエっておよげ!たいやき君も歌ってたのか。知らなかった」
ヒィッツカラルドは的の外れたことを言って、違う!と皆に罵られている。
「おい、呉先生よ」
「山口モモエの方は、最初のテケテテケテがありませんよ」
「それに途中からメロディーも変わる」
二人の言葉を証明するように、もう一度問題の曲がかかった。テケテテケテ、チャーリーラーリーチャーリーラーリーラリラー、ラーララ、ラリラリラリラリラー。チャッチャッチャッチャッ。
ほぁんわんわんわんわんわーわわ、ほぁんわんわんわんわんわー。
「むぁいにち、むぁいにち、ぶぉくらはてっぱんにょー」
思わず歌いだした者が解答者の中に三名いた。
それから、ああなるほど…と戴宗は呟いて、おもむろに樊端を見ると、
「どっかのバカのせいで、すっかり騙されたぜ、ちきしょう。恥かいたぞ」
「言いがかりはやめろ。勝手に山口モモエだと思い込んだのはそっちだろうが」
樊端が怒鳴り返し、
「貴様らやめんか。低レベルなことで争うな」
アルベルトが更に怒鳴った。ふと見るとダラーがサニーに、「あ、あ、あ、イミテーションゴールド」のところの振り付けを教えてやっている。いよいよぐったりした。
「はいっ次の問題いきます!(いい加減で進行させてくれ)イントロ・ポン!」
ぱーぱらっぱぱっぱっぱっぱっぱ〜〜〜〜
やたらめったら明るいラッパの音が鳴り響いた。
全員、「聞き覚えがある」と思う。しかし、出てこない。懐かしいとか、今流行ってるとか、そういった場所とはどこか、はずれているような感じがする曲だ。
「ぱーぱらっぱぱっぱっぱっぱっぱ〜…」
樊端が繰り返し、最後は自信なげに消えていく。何度も口の中で、ぱーぱらっぱ…と言っているが出てこないらしい。
全員、中腰だったり座ったままだったり首を捻っていたが、
「わかった!なにを澄まして座っている。お前だ、お前」
なに?と疑惑の眼差しでこっちを見上げるレッドにかまわず、ヒィッツカラルドがばしんと解答ボタンを叩いた。ぽーん!と音が割れた。
「はい。ヒィッツカラルドチーム」
「仮面の忍者赤影!のテーマ!」
ぴんぽんぴんぽーん。
「わっはっは、見たか!」
そりかえるスーツ姿がアップでカメラにぬかれる。バックにもう一度あのメロディが流れた。
ぱーぱらっぱぱっぱっぱっぱっぱ〜〜〜〜(ぶんちゃ、ぶんちゃ、ぶんちゃ、ぶんちゃ)あっかーいかーめーんーはー、なーぞーのーひーとー。
あ〜あ、そうかあ、という表情が全員の顔に浮かんだ。それからいっせいにレッドを見ると、レッドも同じ顔をしていて、何だ貴様ら、と言い返した。
「生まれる前にやっていたような番組の曲なんか知らん」
隣りでは正解した男が、どんーなかーおーだーかー、しらないが〜、と続きを得意げに歌っている。
「そうか、そういやこのクイズ番組には、解答者にちなんだサービス問題ってのがあったんだ」
戴宗が低い声でぼそぼそ言う。
「解答者にちなんだ、ですかい?」
「そうだ。何十年も前にデビューした、自称歌手とか、自称アイドルの、大昔の歌をかけてやるんだよ。知ってるのはそいつだけだろ、みてぇな歌をよ」
「きっついですね兄貴」
「きっついぞ鉄牛。現に、ボタン押すのはそいつ一人なんだからな。この前俺が見た時は、スギタかお…まあいいか。そんなこたぁ」
「でもよぉ兄貴、俺たちの中には歌手なんかいませんぜ。…あっそうか。今のレッドの問題は」
「まあ、『ちなんだ』問題には違いねぇやな」
でも、と鉄牛はちらちら周りを見渡し、
「水滸伝のテーマってあるんですかい?」
「ねえだろうな。…三国志ならアニメになってたけどな」
「次の問題いきます。イントロ・ポン!」
チャー・チャー…チャラ!
緊迫感のあるメロディに続いて、シンセサイザー使いまくりの、一時期はやった「ぴゅーんぽこぽん」みたいな宇宙を表す効果音が入った。
再び「?」という雰囲気が流れる。これも、流行歌…とは違う時間の流れに所属している歌のようだ。
ぽこぽんでは樊端も一緒に歌うことが出来ず、無力に黙っている。そもそも、さっきの赤影の歌とは違って、かすりもしない。こりゃパスだなという顔で座ってしまった。
座ってから、ふと隣りを見る。アルベルトがいやそうな顔で、「もしや…」と呟いていた。
はっとする。客席を見ると、ダラーとサニーが押せ!押せ!とアクションしている。
樊端は指も折れよとボタンを押したが、
ぽーん。
「はい、中条チーム」
一歩遅かった。中条が落ち着き払った声で、
「六神合体ゴッドマーズ」
ぴんぽんぴんぽーん。わー。拍手が起こる。樊端は怒り狂ってアルベルトを揺さぶった。
「もしやとか言ってないで、押さんか!お前への問題なんだろうが!」
「私はアレには出ておらん。不本意だから答えたくなかったのだ」
「何だ不本意とは。何度もアニメにしてもらっておいて」
「だからあの初期のアニメの方と原作は、似ても似つかんのだ!」
つかみ合ってもめている。ダラーがヤレヤレと肩をすくめた。
「イントロ・ポン!」
ぱーぱぱぱぱーぱぱぱぱー、ぱっぱっぱー
誇り高き金管楽器の音が響き渡る中、珍しく呉が必死になってボタンを押した。
「はい、中条チーム」
「バ、バビル二世!」
ぴんぽんぴんぽーん。拍手が起こる。
呉はよかった、と嬉しげな笑顔になって額の汗を拭った。ホホが上気している。
皆不思議そうに呉を見ている。代表して戴宗が、
「先生よ。なんでぇ。狙ってたのか?」
「そうです!」
「なんでそんなに誇らしげなんだよ。ぱっちん野郎がらみを当ててそんなに嬉しいか?第一野郎はアニメの方にはいねえんじゃねえのか」
「ヒィッツカラルドがらみじゃない!」
呉が顔中口になってわめいた。
「なんでそういう、わかりづらいところに行くんです。バビル二世といえば…」
「わしはてっきり、バビル二世と言えばセルバンテスだとばっかり思っていた」
樊端が言い、
「いや、草間博士だろう」
アルベルトが言い、
「いや、ダンカンとシムレだろうがよ」
戴宗が言った。呉はおいおいと泣き出し、
「ば、バビル二世といえば中条長官でしょう!なんで、なんでそうやって皆でよってたかって」
幻夜になっている。皆意地悪く笑っている。
「呉先生」
隣りから低く静かな、中年男の魅力満載な声がかけられて、呉は涙を拭いてそっちを見た。
黒メガネの奥が笑って、
「あんな連中の言うことなど気にしなくていい。ありがとう、当ててくれて」
「はい」
呉はまだ涙を拭きながら、
「きっと…きっとバビル二世が来ると思ったのです。長官がいらっしゃるから。そうしたらきっと…きっと私が当てようと心を決めておりました」
「うん」
中条の口元が微笑んだ。この笑顔に呉はグッとくる。来まくる。
二人の交流をしばらく眺めていた連中は「けっ」という顔になり、誰かが、
「鉄人28号といえば呉学人はなんと答えるのだか。やっぱりフォーグラーか」
と心ないヤジを飛ばした。次の瞬間、光の速度で何かが飛んで、そいつの顔面に直撃した。あまりの速度に誰も一歩も動けなかった。数秒経ってからそろそろと見ると、直撃したのはパイプで、されたのはヒィッツカラルドだった。地面に倒れて痙攣している。パイプの形に顔が凹んでいる。
ちょっと、呉をからかうのはやめよう、と皆一様に思った。

「はい、次からはワンフレーズ歌っていただきます。歌えなければ失格ですよ。イントロ・ポン!」
ちゃーちゃーちゃららっらっら、ちゃーちゃーちゃららっらっら、
「わかった!」
自信たっぷりに戴宗がボタンを叩いた。ぽーん。樊端もつられて押したが、まるきり遅い。第一わかっていない。
「はい、戴宗チーム」
「俺の得意曲だぜ。西城オデキのコイの嵐だ!マイクよこせ」
戴宗がたたっと前に出て、思いっきりハデハデなアクションで歌いだした。
「キミがー望むなら!」
「兄貴ー!」
鉄牛が嬉々としてバックおたけびを入れる。兄貴親衛隊だ。
「命をあげてもいい」
「兄貴ー!」
ぐっと拳をつくって、たーん!と何かを蹴った。おそらく、マイクスタンドだろう。
「コイのーためなら、悪魔にこの身を、わたしーてーもー、(ん)くやまないーーーー」
クがちゃんとウンコ声になっている。ぴんぽんぴんぽーん。わー、と拍手が起こった。
「ところどころ歌詞が微妙でしたが、まあいいでしょう。正解です」
「ああイイ気分だぜ。よっしこの調子でどんどんいくぞ鉄牛!なんでもいいから押せ。俺が片っ端から歌ってやら」
「へい兄貴!」
「そうはさせるか」
樊端がメラメラ燃えている。どうせまた口だけだ…とアルベルトは思って見ているし、ヒィッツカラルドは「樊端がある程度歌ってからでいい」と思っている。顔がまだ凹んでいる。
「次の問題いきます。イントロ・ポン」
ちゃりらり、ちゃりらりー。
キラキラした感じの、上から降りてくるメロディーだ。
「何だったかこれは。知っている。知っているぞ。ちゃりらり、ちゃりらりー…ららら〜。らららららららら〜」
例によって樊端がどんどん口ずさんでいる。
「ゆき〜どけ〜、まぢ〜かの〜、にしのそらにむかぁい〜」
「だからどうして貴様はそうやって歌うのだ」
アルベルトが激昂した時にはヒィッツカラルドが押していた。
「わははは!有難いことだ樊端!さすがはリーダー。頼りにしているぞ」
「ぐぬぬ」
「山口モモエの、いい日旅立ち!」
ぶぶー。
「げっ」
「…今度は、合っていると思ったのだが…あっ」
「あっ」
アルベルトと戴宗が同時に何かに気づき、かしかしかしかしかしかし!と解答ボタンを連打した。今度はアルベルトが勝った。
「はい、樊端チーム」
「うははは!見たか戴宗。今度は私の勝ちだな!谷村シンジの、いい日旅立ち!」
ぶぶー。
「へげ」
「うあははは!曲名を当てるクイズなんだぞ!誰が歌ってようが関係ねえや、バカ!」
「バカとは何だ」
つかみあいがはじまった。しかし、それでは一体…と首を傾げる。
「もう一度かけますよ」
ちゃりらり、ちゃりらりー。
樊端が首をひねりながら、
「違うのか…違うのか?ではなんだ。…ちゃりらり、ちゃりらりー…らららら〜、らららら〜。知らず、知らず、あるい〜てきた、ながく、ほそい、このみぃち〜」
「貴様はー!」
アルベルトの絶叫をよそに、今度はレッドが押して、
「嗚呼、川の流れのように。か」
ぶぶー。
「バカ、嗚呼は要らん!」
かしかしかしかし!ぽーん!
「やりやしたぜ兄貴!川の流れのように!」
ぶぶー。
「あれ?」
首を傾げる。
「川じゃなくて、河の字だっけ」
「関係ねーだろ!」
なんだっけな、と呉は思った。似たような、ちゃりらり、ちゃりらりーでも、曲によって微妙に違うものだ。私はこのちゃりらりを知っている気がする。
ふと隣りを見ると、中条が自分を見ていた。ドキリとして、同時にあっと思い、
ぽーん。
「はい、中条チーム」
「て。テレサ・テンの、時の流れに身を任せ」
ぴんぽんぴんぽーん。
ぱちぱちぱちぱち。他のチームの面々は愕然としてただ見ている。呉はテレながらマイクを取って、すすすと進み出ると、一礼して、
「もしもあなーたとー、会えずにいーたらー、ぅわたしはなーにをー、してたでしょおおおかー」
「してたで、のところがいちいち全部発音して歌うんだよな」
戴宗が呟いた。
「テレサテンのまねをする奴は必ずそうやって歌うんですよね。シテタデって」
「テレサテンしかし日本語がうめえなあ。でもそういうとこにちょっとアクセントがな。まあ中国人だからな」
「中国人でしたっけ?」
「違ったか。台湾か。韓国か?」
「…第一兄貴や俺たちが中国人のような気が」
ぼそぼそ喋っている間、呉はずーっと歌っている。なんだか、ワンフレーズの筈なのにいつまでも伴奏が流れ続けて終わらないのだ。
なんで、と思いつつも歌い続ける。
「ときのながれにみをまーかせー」
皆で、まーかせーと合いの手を入れる。会場が妙に一体化している。
「あなたのいろに、そめられ」
中条が黙って自分を見ている。呉はドキドキして、そして歌にぎゅっと心がこもった。
「一度の人生、それさえ、捨てることも構わない、
だからお願い、側に置いてね」
今はあなたしか愛せない、と結局ワンコーラス歌ってしまった。割れるような拍手の中、顔を真っ赤にして戻ってくると、
「望むだけ、側にいてもらうから」
そんなことを低く呟かれ、呉は涙ぐんで慌てて扇子で顔を隠した。
「ああ、ああ、なんだろうなこのダラダラ感は」
戴宗がやってらんねぇとつけくわえて解答席にだーっと長くなった。
「思うのだが」
樊端がつぶやく。BF団の残り三人が樊端を見た。
「中条は、テレビ関係者に、顔が利くのではないか。どうも、そういう気がする。この前から」
「国際警察機構へ入る前は、敏腕プロデューサーだったらしいぞ。流しの放送作家だったってウワサもあるがな」
戴宗が横からそう言い、「ええっそうだったのか」と「やはりそうか」と「馬鹿馬鹿しい…」などが入り乱れた。

それまでおかしを食べながら見ていたビッグファイアさまだったが、久々にカラオケに行きたくなって、テレビを消した。

[UP:2004/04/10]

クイズシリーズ。水滸伝てアニメになってたっけ?(笑)
でもやっぱりねえ…
この話は、音が実際に聞こえなければ、アーンドその曲を知らなければ、面白くもなんともないという最大のネックがございまして、なんか、そのドツボにはまっているという気がするのでございました。
でもあの番組は好きなんで、それから歌謡曲も好きなんで、やってみました。
呉先生にまたあの歌うたわしちゃった。テヘ
実際の番組とは微妙に違うとこもあるけど、ご了承ください。


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