国境の女


国情が相当不安定な国だ。とは言っても、彼のために用意されたあらゆる書類や証明書によって、今日の出国に不自由は生じない筈であった。
しかし不本意な現実が、国境警備隊の姿をし、カービン銃を下げて、明らかに彼に向かって靴音高く近づいてくると、錆びた声をかけた。
「そこの男。止まれ」
(変な眺めだ。カービン銃は米国の陸軍が使用している銃の筈だが)
衝撃のアルベルトが、どうでもいいことをちらと考えた時には、感情の一切無い四角い顔が、目の前に立ちはだかって、
「貴様は三日前、左派の△△と接触した筈だ。奴は昨日逮捕されたぞ。生憎だったな」
そこでニヤリとでも笑えばまだ絵柄としてわかるのだが、『お前の定期券は切れている』と告げるような、程度の口調だ。逆に不快になる。
「お前の口が何と発音したのかも聞き取れんくらいだ。そんな名の相手は知らん」
「これでもまだシラをきる気か?」
突き出された写りの悪い写真には、端の方に彼自身が映っていた。他に何人か写っているが、単に偶然、その数秒間か数分間、互いの行動半径に接触し合ったというだけのようだ。誰一人見知った顔はない。
「何を聞いた。何を受け取って国外に持ち出そうとした」
「知らんと言っている」
「わかった。同行願おう」
わかったという言葉の使い方がおかしい。聞く耳をもたないというのはこういうことなのだろう。
左右を挟まれて、ここまで来た通路を逆戻りする。周囲の人間は皆、既に死体を見る目でこちらを見ている。確かに、大人しく連れて行かれたところで、取り調べの後釈放、ということにはなり得ないだろう。最初から道は一つしかないのだ。
しかし、と思う。今自分を引っ張っていくのは、単純に、先刻告げた理由でしかないようだ。でなければ、いくら銃を持っているとは言え、たった二人で連行するなどという行動は取らないだろう。
ならばその迂闊さに乗じることにしよう、と思った時、雪山用のブーツがコンクリートの打ち放しを踏んだ。隣りの施設までの渡り廊下だ。次に建物内に入ったら最後、出てくるのは多少ホネだろう。常人であれば最後に見る外界の景色、というところだ。
はるかかなたまで、白い山脈が連なっている。その上を鉛色の空が覆っている、暗鬱な風景画を見やった。その背に何かを感じたのか、
「おかしなことは考えるなよ」
先刻声をかけてきた男がそう言った。
それに応じるように、ふんと吐き捨て、足を止める。
「私は忙しい。この後も予定が詰まっている。貴様らとの軍人将棋に付き合っている暇はない」
「なんだと?」
ぐいと握った右の拳を開き、無造作に相手に向ける。何の武器を持っている訳でもないのに、何かすさまじい勢いのもの、言わば力そのものが噴出して、二人の兵は銃を構える間もなくなぎとばされた。
敷地内を取り囲んでいる、まるで牢獄にでも使われそうな高さの塀に向かって走り、軽く跳躍する。はるか上部の塀の端部が、当然のように目の前にやってくる。普通の人間は、まず滅多に見ないアングルだ。鉄条網に服をひっかけないように気をつけながら、乗り越える。
背後を見下ろすと、今こちらへ向かって走ってきて銃を構えたさっきの二人以外に、兵が増える訳でもないようだ。
子供の紙鉄砲のタマを避けるように飛んでくる弾を避け、半分拍子抜けしながら塀の向こうへ身を躍らせた。
(いろいろ華々しい噂の聞こえてくる、きな臭い国の割には、思ったよりあっさりと逃がすものだ)
聞いた話によれば、この国は機密の漏洩を防ぐために、独自のシステムを研究・開発し採用している、ということだった。国境でおかしな暴れ方をすれば、珍しいその出し物を見せてもらえるだろうとも思っていたのだが。
「それとも、国境を越えることなど不可能だと踏んでいるのか?」
国が管理しているゲート以外は、自然の要害というやつで、ぐるりと断崖が越境を阻んでいる。あそこに見えている白い山の向こうへ行くのは、簡単ではないのだ。
しかし、ごく僅かな部分ではあったが、歩いて越えられないこともない、箇所が存在している。相当の体力と、地理に対する知識が必要だが、彼には勿論その両方があった。
越えてやろうではないか。当初より多少面倒な手順を踏まねばならなくなったが、どうということもない。遅刻したことを、うるさい連中に多少責められる、という程度だ。
グレーの長いコートは彼の姿を周囲に溶け込ませる。雪ウサギのようにひそやかにそして素早く、アルベルトはこの国の、非認可の出口を目指して、進行を始めた。

数時間歩いた。もうすぐ日が暮れる。
それにしても追っ手がかからない。不自然だとは思う。
本当に逃がさない気でいるのか疑問だ。首を傾げる。が、戻っていって『お前ら、やる気があるのか』と尋ねるわけにもいかないので、首を傾げながらも黙々と雪山を縫って歩き続けるしかない。
時折足を止め、空を仰ぎ、地形を確かめる。再び歩き出す。
よし、小さな谷に降りてきた。次第に左右の壁が切り立ってきて、道が狭くなる。勾配が次第に急になる。
球ならば転がるしかない側溝のような道だな。―――
そう思った時だった。
何かがアルベルトの胸をしめつけた。
突然不吉な予感に襲われたとか、研ぎ澄まされた神経に何者かの悪意が触れて来たとか、いうレベルではない。
足が止まった。『心臓の発作』とはこういうものか?目に見えない箍を、心臓に嵌められたようだ。拍動を阻まれるように胸苦しく、息が出来ない、そして、
これ以上前に進めない。
何かが自分の内側からわき起こって来て、この先には行くなと訴える。
「何だ…これは」
手袋をした手で口を押さえ、見下ろす。足が。
足の持ち主である彼の意識が、何をしている、前へ進めと言っているのに、足はまるで別の誰かのものであるかのように、言うことを聞かず、こうするしかないのだとばかりに後じさりしてゆく。
やめんか。やめろ。やめろ!
一体誰に向かって怒鳴りつけているのか。
薄くなりそうな意識を必死で留め、懸命に歯を食い縛って、壊れたからくり人形のような、不気味な後退を止めようとしながら、はっとした。
夕闇と、彼自身が味わっている苦痛のために、視界がぼやける。その向こう、谷の出口の方から、確かに、何者かがこちらへ近づいてくる。
何か奇妙に、銀色に滲んで見える。
誰だ。
誰にしても、味方の筈が無い。
なんとかしなければ。こんなところを襲われたら、いくら十傑集と言えども、無事では済まない。
のろのろとぎくしゃくと下がっていく足は、しかし急いで身を翻そうという意志にも、従う気はないようだ。
「おのれ!」
怒りともどかしさに絶叫し、アルベルトは自分の拳で、思い切り自分の足を打ちつけた。
予想したのよりずっと鈍い衝撃の感覚、それから、今神経が繋がったかのように一拍置いて激痛が膝のあたりから噴き上がってきた。そのあまりに強い痛みは、彼の心臓をずっと締め付けていた箍をも打ち壊した。一瞬、この状況に不似合いなほどの解放感に、アルベルトの眉が上がった。
これ以上力をこめたら唇が噛み切られるというほど強く噛み締めて、懸命に踵を返す。もと来た道を必死で戻り出した。
全速で走っているつもりなのに、水の中でもがいているようだ。
「うぐ」
顎が出る。胃の中のものを吐きそうだ。片手で口を押さえ、もう片方の手で膝を打ち付け叱咤しながら、もがきよろめき、進む。
どの時点かで、あの影が追ってこないと、アルベルトは認識したのだろう。気絶したからだ。

ことことと音がする。
穏やかで温かい、心が落ち着くその音に、必要以上に励まされるタイプの人間ではないが、『自分以外の誰かが音を出している』という事実に意識を揺さぶられるタイプの人間ではある彼は、目を開け、同時に上体を起こし、手を前に突き出して構えた。
次の瞬間彼の両手から衝撃波が放たれ…はしなかったが、そのまま少しの間、アルベルトは構えを解かず、少し離れたテーブルの脇からこちらを見つめている、青い瞳を見ていた。
驚いている。当たり前だろう。ベッドに寝ていた相手が突然起き上がって自分に掌を向けたのだから。武器は持っていないので、見ようによっては間の抜けた脅しのポーズだが、本当にそれだけではないのは、何となく、感じ取れるらしい。濃い緑色のセーターの、胸で組み合わせていた手をそっと解いて、身体の脇に垂らしたのを見てから、
「…女。何者だ」
アルベルトの声が低く問いかけた。
相手の白い、驚いた顔の眉間に、戸惑いが増し加わって、
「何者と、言われても」
存外にいい度胸をしている。くたびれたような顔に、苦笑が浮かんだ。
「『倒れていたあなたを、助けてあげた人間』くらいしか、言うことがないのですけれども」
掠れた柔らかい声だった。寒い雨の日の午後を連想する。聞いていると眠くなってくる。
プラチナブロンドをゆったりとアップにしている、うなじや耳のあたりから、いくすじもほつれた長い髪が、なんだかため息のようにこぼれている。セーターの緑は美しかったが、髪は力なく色褪せ、黒いスラックスもひどく地味だ。
「ここはどこだ」
「あなたが倒れていた場所から、少しばかり山の中に逸れたところです。私はあなたを担ぎ上げてぐんぐん歩けるような力はありませんから」
今でははっきりと笑顔になって、アルベルトを見返している。
そう若くは無い。三十代前半というところだろう。落ち着いた、柔らかで上品な顔立ちと物腰をしている。しかし、何よりも、ひどく疲れている感じを受ける。
「この建物は」
「私の家ですわ。△△国、△△郡南東部の山の中です」
「ふん」
アルベルトは皮肉な笑いを口元にうかべた。犬歯が剥き出しになる。
「嘘をつけ。何故そんな辺鄙な場所などに家があるのだ」
女はうろたえることなく、ちょっと首を傾げて、相手の笑いを眺め、
「嘘ではありません。ならあなたは、どうしてそんな場所に倒れていたのです?」
「お前の知ったことか」
あまりに一方的で身勝手な言い草に、女はつまづいたような笑い声を立てた。響きが耳に心地良い。
「そうですわね。あなたがどんな理由で私のベッドを占領していようと、私の知ったことではありませんね」
うっと思う。嫌なことを言う女だ。気づくと彼は肌着の上に男物の寝間着のようなものを着せられていたし、喉には何か甘いものを飲み込んだ味が感じられる。一言で言えば、『介抱された』のだろう。
相手の素性は勿論全く未知のままだが…
暫く、クソ面白くもない顔で女の、すました顔と、わざとらしく組んだ腕を睨みつけていたが、最後に、
「世話になったようだ。感謝する」
全然感謝していない口調で、折れた。
女はしかし、それ以上勝ち誇ったようなことを言うでなく、ゆっくりとベッドの傍らに来ると、
「具合はどうですか」
柔らかに尋ねる。そう言われてみて、注意深く身体を探り、あちこち動かしてみてから、
「足が痛むが大丈夫だ」
「起きられるのでしたら、食事にしません?テーブルで」
「む」
唸るような返事をして、ゆっくりと身体を動かし、ベッドから、靴下を履いた足をスリッパに下ろした。その肩にふわりと、女が分厚い室内着をかけてくれた。
部屋の中は暖かく、向こうに見える竈の上では大きなナベがいい匂いを発している。テーブルの上には食器が二対、用意されたところだった。
アルベルトがどうしても少し足を引きずるようにして移動し、テーブルについている間に、女は食器を取って、ナベから野菜スープをすくった。さっきのことこという音はスープが煮えている音、ナベをかきまわした音だったらしい。ことり、と音を立てて、アルベルトの前に皿が置かれた。どうしようもなく喉がぐびと鳴った。
パンの入った籠を持ってきて、それもテーブルに置きながら、
「おかわりして下さい。沢山つくりましたから。あのナベを使うのは久し振りで、随分つくってしまったから」
微笑んでそう言うと、自分も席について、スプーンを取った。
どうしたものかと思ったが、空腹感を感じまくっている自分の腹の自己主張は、これまでになく強かった。
このスープが毒や自白剤入りでないという保証はないがな。
私はいかなる時も油断はしていないのだ、とばかりにわざわざイヤミなことを一言胸で言ってから、結局ばくばくと食ってしまった。ハラは減っていたし、野菜スープは火傷しそうに熱くて非常にうまかった。
「私は一人で倒れていたのか。誰か他に人間はいなかったか」
食事が終わり、葉巻を咥えながら、そう尋ねた。
女はお茶を煎れる準備をしている。顔を上げないまま、
「ええ」
湯気がたちのぼった。
「あなたの耳元で何度声をかけても目が開かないし、体がどんどん冷えてゆくようでしたから、ここに運んだのです」
ことりと、今度はカップが置かれた。葉巻に火をつけるのは一旦やめて、カップを持ち上げる。
なんだか変な味のお茶だった。自家焙煎だろうか。
「お前は、何も感じなかったか?」
「何もとは、何ですの」
「胸をしめつける圧迫感や、恐怖に近いほどの、前進への躊躇いや、実際の胸の痛みやらだ」
最後のほうはいまいましそうに早口になって、
「こんなことをわざわざ言わねばわからんというのなら、何も感じていなかったのだろうな」
女は口をつぐんで考えている。わざわざ考えなくても、感じたか感じないかだ、とせっかちな男が難癖をつけようとした時、
「あの場所の辺りでは、あなたがおっしゃったようなことは、一度もありませんわ」
「あの場所の辺りでは、か。では別の場所ではあったのか。思わせぶりな言い方をするな」
女はアルベルトのイライラが可笑しいのか、声を出さず笑ったが、それへは答えなかった。早く答えろと言いかけて、ふと言葉をかえた。
「お前はあの谷の道をずっと先まで、行ったことはあるのか」
アルベルトが何を尋ねたのかはわかったらしい。女の白い顔に『やはり、その話になるか』という覚悟と諦めの、綯い交ぜになった表情が浮かんだ。ややあって、乾いた平坦な声で、
「ずっと前に、一度、越えようとしました」
既に、『越える』という言葉を使うことで、ある地点のことを示している。
「失敗したのか」
「不可能だったのです」
問いと答えの単語が合っていない。そのことはわかっていると言うように、そしてまた通りたくないところを急いで通り抜けようとするように、ことさら無関心な口調で、
「不可能なことをしようとして、夫は殺され、私だけが生き残りました」
しかし、アルベルトは、
「…お前の夫が殺された?」
酷いその内容を繰り返した。残酷な問いに、女は辛抱強く、
「そうです。目の前で」
付け加え、静かにうなずいた。もはや、泣き出したり悲鳴を上げたり激昂したりという感情の表現でもって、表す記憶ではないようだ。
そんな相手の顔をじっと見据え、口を開く。
「国境を」
その単語を使われた時、女の顔に初めて今までになく強い感情が射した。怒りや憎しみではなく恐怖だった。その色を見つめたまま、
「越えようとして失敗し、夫はお前の目の前で殺されて、お前が一人生き残った。そして、
お前は収容所に入れられるでなく、夫の後を追わされるでなく、その地の側で暮らしている。それはどういうことだ」
青い目が妙に白っぽく見えると思ったら、顔全体から血の気が引いているのだった。
「それが、私への命令でした」
「命令?」
「住んでいた場所へ戻ることは許さない。夫の後を追うことも許さない。そんなことをしたら町に残っている血族や友人たちをも殺すと。
自分の愚かさに因って伴侶を失った、この場所に追放する。苛酷な自然条件の下でその思い出を繰り返し思い返しながら生きて行くのが罰だということでした」
「ところばらい、という所か。…なんだか、奇妙な罰だな」
「私以外にも、同じ運命を辿った女たちや、子を殺された親が、この山中のそこここに居るらしいのです。お互いに、顔をあわせたことは、ありませんけれど」
「夫や子供を殺された寡婦や親が、あちこちにこうして暮らしているのか」
そこで、自分が着ている寝間着がもともと誰のものだったか思い当たった。
女は、ふと胸元に手をやったアルベルトの手つきに暗く微笑み、
「夫のものはあらかた没収され、あるいは燃やされました。残っているのはそれと、もう一つ」
言いかけて止め、もう一杯お茶を注いだ。
「どうしても寒い夜には、上からそれを着て眠るのです。すると不思議とよく眠れるのですわ」
静かな、黄昏た声だ。
最初に見た時から、どうしてこの女はこんなにも『何かから降りた』『何かに手を伸ばすことを諦めた』くたびれ方をしているのだろうと思ったが、疑問に思うまでもなく、そのままその通りだからだ。
自由になろうと手を伸ばし、賭けた。そして敗退し、人生の伴侶を失って、全てから降りたのだ。命からも降りようとしたが、それは許されなかった。
ゆえに、芯のぬけおちた蛹のカラのような体で、凍てついた大地の果てにこうして留まっている。…
アルベルトは寝間着のくるみボタンをちょっと捻ってから、
「お前の夫を殺したのは、どんな奴だ。何人だ。どちらの方向から来た。どんな方法で殺した」
相手の感情の一切を考えてやらない男らしいというのは、女もそろそろ解ってきたらしいが、さすがに、かっと燃え上がることはないが怒りの蒼が、一瞬ゆらりと目に映った。
そのようなことには興味がないというような、無慈悲そのものの、冷厳な声で、男は続けて、
「答えたくなくとも答えてもらう。私はこれから、その誰かと戦い、国境を越えねばならんからな」
女は目を見開き、反対に片目をしかめてみせる男の顔を見た。
「今更驚くマネでもなかろう。お前らと同じようにこんな山の中へのこのこやってきたのは、何のためだと思っているのだ。鹿撃ちか。下らん」
相手は何も言っていないだろうに、吐き捨てた。
「一戦交えてでもなんでもして、越えてやろうではないか。国境を」
「不可能です」
女は首を振った。
「殺されます。絶対に無理です」
「私はいつまでもこんなところに留まって野菜スープを飲んでいる暇はない。この後予定がぎっしりなのだ」
「ききわけのない方ですね」
子供に言うような言葉に、反射的に何だと、と怒鳴り返したが、相手の目には憤りとやりきれなさがいっぱいに漲っていた。
「バカな方。行けば必ず殺されると言っているのに。何故一回言ってわからないのです?あなたには耳がついているのでしょう?」
「耳も、理解する頭もついている。戦う力も持っている。お前こそバカな女教師のようだな。頭ごなしに不可能だ無理だと」
がたりと音をたてて立ち上がった。
「答えろ。お前から敵のデータを引き出したら、私は行く。それ以外の繰言は、聞きたくない」
「やめて。お願いです」
声がくぐもった。女が両手で顔を覆ったのだ。
「もう嫌です」
「何がだ」
「人が死ぬことがです」
「女!」
不意に手首を掴まれて引かれた。がくりと顔が振れて、女の蒼白の顔と血の気のない唇が前に出た。
目の前に怒りに燃える片目が、誇りで高くなったような鼻が、歪んだ口元があって、男の全てが、女を射殺そうというように一直線にこちらを向いている。
「勝手に決め付けるのはやめろ。自分がいつどうやって死ぬかは、自分が決める事だ」
かっと見開かれた目を至近距離から見返し、この男の両目が揃っていた時、どんな顔だったのだろう、と女は何故か思った。
「私は自分が納得しない限り死なない。不可能だか無理だか知らんが、『お前がそう思っていることと、私が国境を越えるつもりでいることには、何の関係もない』のだ。これ以上無駄口をきくな。聞かれたことに答えろ」
強い力で突っ放された。女の体が椅子にぶつかり、カップが高い音を立てた。
なんという。
なんという、傲慢な程の自負。いや、単に力自慢というのとも違う。何だろう。この男の胸に燃えさかる、あまりにも激しいものは。
女の胸の中に、赤い光のような言葉が、輝いて零れた。
生きているということは、前進することと同義語だ
生きているということは、己の手の中の全てを
決して何一つ譲らないということだ
ならば今の
あの時の
自分は
女はそれから暫く、ただじっとその場に立ち尽くし、アルベルトの顔を見ていた。早くしろ、さっさと喋れ、と怒鳴るのかと思いきや、この短気な男は、やはりただ黙って女の顔を見返していた。
随分あってから、やはりかすれているが、ほんの少し力の戻った声で、
「お話しします」
それにも返事をせず、特にアクションも起こさずただ見ている男に、
「その前にひとつお願いがあります」
「何だ」
「私も、連れて行って下さい」
声が震えた。言い終えた後で、ぶるぶるっと体が震え、顔が恐怖でそそけた。しかし、撤回はせず、ぐっと手を組み合わせ、
「それが条件です」
悲鳴のように言い放った。アルベルトの顔に、ニヤリと笑みが浮かび、
「取引か。偉そうに。…
言っておくが、私はお前を無事に国境の向こうへ送り届けてやる、などとは約束はせんぞ」
「結構です」
唇は震え続けている。しかし、女はぐっとそれを噛んでから、
「そんなことは、あなたに期待しておりません」
「結構だ」
女と同じ言葉を使って、座れ、というように手で椅子を示した。

「あなたは、谷と呼んでいた先をずっと進んで行ったのでしょうね」
「そうだ」
「そうですか。…
「あなたが進んだ道を真っ直ぐに行ったその先に」
女の目が一瞬見開かれ、アルベルトを注視し、
「国境があります。あなたが行った箇所の付近まで私たちも行きました。そこで、やはり…さっきあなたがおっしゃった事」
「なに?」
「胸をしめつける圧迫感や、恐怖に近いほどの、前進への躊躇いや、実際の胸の痛み」
途中で考えることなく、すらすらと声に出して言う。
「それに、襲われました。二人とも。苦しんでいる、その前に、処刑人が現れました」
エグゼキューター、とアルベルトの口だけが動いた。
「どんな身形をしていた」
「なんだか、…宇宙飛行士みたいでした」
「なに?」
片眉を怪訝そうにひそめられて、女は戸惑いつつ、
「そのくらいしか…言いようがないのです。銀色の、こう、ごてごてした服を着ていました。背中に、何か装置みたいなものがついていたました」
自分もおぼろに見た、あれかと思いながら、
「機動性は、あまり良くなさそうだな」
「そうですね。身動きは、素早いとは言えませんでしたけれど」
首を振って、
「とにかく、私たちはろくに逃げることも出来ませんでした。左右は上れないし、なにより足がうまく動かない状態でした」
それがどういうものか、身をもって体験したアルベルトは軽くうなずいた。
「怖くて、怖くて、正直ただもう助かりたいとしか思いませんでした。生きて戻れるなら…それだけでいいとさえ思いました。でも、ゆっくりと目の前までやってきた、相手の銀色の手が、夫の喉にかかって」
「………」
「宙吊りにされて、仰け反っていって。顔が赤黒くなって、がくがく震え出して…」
「もういい」
「私は横で見ていました。何も出来ないで。何もしないで」
「もういいと言っている!」
きつく怒鳴りつけながら、
絞め殺した。何の為のものか知らないが、そんな強化スーツのような格好をして、ナゾの光線の出る銃はおろか、鉛の弾すら使わないのか?
機動性は良くないようだし、とにかく効率の良くない処刑人だ。のたのた近づいて行って絞殺して、何かいい点があるだろうか。
せいぜい、隣りで見ていた女に、たっぷりと苦痛を味わわせられるくらいのものだ。
そしてなによりも、
「あの奇妙な現象だ」
女が顔を上げた。
「そいつがやっている、のだろう。…あれは精神攻撃の類なのだろうな。そうとわかっていれば、また気構えのしようもある」
「そうなのですか?」
「精神攻撃。まあ、眩惑させる術だ。は、かかりやすいやつと、そうでないやつがいるそうだ。…詳しい奴に、聞いたことがある」
催眠術や、幻術はね。
頭が良くて、素直で、サービス精神の旺盛な人間がかかりやすいんだよ。
君は、最初以外ははずれているからね。大丈夫だろう。まてよ。最初の条件もどうなんだろうな?
皮肉げなニヤニヤ笑いが聞こえた。下らない、と口の中で言う。

一夜が明けた。
白い光が、閉めたカーテンの隙間から差し込んでくる。
アルベルトはもともと着ていた自分の服に着替え、ブーツを履き、コートを着て、女を見た。
髪をきっちりと編み上げ、防寒着を着こんで、ごく小さい荷物を、しっかり背中にくくりつけている。
自分が借りていた寝間着を示して、
「これはいいのか」
「持っていきません。荷物になりますから」
声は落ち着いているが、目はどうしても、その思い出のものをじっと見つめてしまう。無理に、それを引き上げて、アルベルトを見ると、
「夫の思い出のものは、もう一つあるんですわ。こっちの方が、荷物になりませんから、こっちは持ってゆきます」
「何だ?」
女は荷物のポケットから、何かをつまみ出すと、これです、と示した。
「ほう?見せろ」
女はちょっと躊躇してから、思い切ったのか手渡した。手の上に転がったのは、あまり大きくないルビーだった。
何の加工もされていない。それほど、もののいい石でもなかった。
「外の世界に出られたら、指輪か、ネックレスにして、改めてプレゼントしてくれると、言っておりましたけれど」
「ふん」
女は手をもじもじさせている。早く返して欲しいのだろう。
アルベルトは暫く光に透かして見たりしていたが、やがて無造作に返して、
「せいぜい大事に持っていくんだな」
気のない調子で、そんな内容のことを呟いた。女は急いでしまいこんだ。

雪深い山の中を、男女が二人、歩いて行く。
ぎゅ、ぎゅと音を立てて、二人の靴が雪を踏む。
女の速い呼吸がすぐ後ろで聞こえる。少し疲れてはいるようだが、この山の中で独り暮らしてきたせいか、この国から逃げ出そうという気になるくらいの女なのだから当然なのか、体力はアルベルトが思っているよりあるらしく、待ってくれと言うこともなくついてくる。
言われたところで待ってやる気はないが、と意地の悪いことを考えて、辺りを見渡す。この先、谷の一本道にさしかかってゆく。
夜に降った雪で、昨日自分がつけた足跡はもう消えている。
ひどく静かだ。静か過ぎて、耳の奥でしーんと音が聞こえる。
勾配がきつくなってきた。
問題の地点は、そろそろだ。油断なく、またリラックスを己に言い渡しながら、左右を見る。
奴はどこでこちらの動向を見ているのだ?カメラの類は見えない。人工衛星でも使っているのか。
女が滑りかけた。片手で押えて、
「ちゃんと歩け」
言った時、まるでそれが合図だったように、ぞわりと何かが周囲から立ち上がってきた。
前に進めない。足が重い。胸が、呼吸が、心臓が苦しい。
戻りたいという気持ちが外部から注入されているように、無理矢理わいてくるのをねじ伏せようと苦闘する。
(来たか。どこだ)
「あれは」
女のうろたえた声が指した。行く手遥か、国境の方角から、銀色の、
「確かに…宇宙飛行士だな。一昔前の」
ソ連とアメリカが宇宙開発で競い合っていた時代、白黒のフィルムに写って月面でジャンプしていたような人物が、うっそりと立って、こちらにやってくるのが見えた。
やはり、銃関係は使わないようだ。よた、よたと近づいてくる。不恰好で、ひどくみっともない、死刑執行人の鈍い歩みは、しかし確実にその距離を減らしてゆく。
近づきながら手を上げる。伸ばす。その先にはアルベルトの喉がある。
逃れられない。何故だ。こんな強力な幻術者がいるものなのか?それがこの国の開発した、国境を越えるものを処刑する者に付与された力なのか。
脂汗を垂らして、歯噛みをするが、今度はもうこの場を後にして逃げ出すことも出来ない。
記憶の中の声が言う。
幻術にかからないコツは。全てを疑うことだ。哲学者のようにね。何一つ受け入れないこと。納得しないこと。ああそうなのか、これでいいんだ、と思わないことだ…
私は、そんなことは、思っていない。これでいいなどとはこれっぱかしも思っていない。疑えるだけ疑っている。
いくら否定しても、籠の鳥や、鎖に繋がれている犬以下だ。まるきり動けない。
ちらと傍らに目をやった。女はただ張り裂けそうに見開いた目で、相手を見ている。
あと少しでここまで来る。そうしたら。
私の隣りにいる人間が殺されるのだ。
私はまたそれを見るのだ。
その一部始終を 隣の人間がさんざんもがき苦しんだ挙句死ぬのを
私はそれを見るためにわざわざこんなところに来たのだ
どうせ逃げられやしないのに
どうせにげられやしないのに
どーせにげられヤしないのニ
アルベルトの体を縛り上げる無力感、絶望感が強くなった。顎が上がる。
体重を支えていられない。膝から崩れ落ちそうだ。がくがくと足がふれる。
(…?)
女が両手で顔を覆った。
やっぱり無理だったのだやっぱり不可能だったのだやっぱり
アルベルトの口から思わず声が上がった。どんどん肩が重くなる。地面に押さえつけられそうだ。
(そうか)
アルベルトはろれつの怪しくなってきた口を無理やり開けると、わめいた。
「女、お前だ、この拘束、はお前がやって…いるのだ
はねかえせ。認めるな。無理だと思うな。絶対に逃げてやると…」
女はアルベルトを見たが、だめだと目が言っている。絶望に青黒くなったそれは死人の目だ。
(くそっ)
目の前まで来た。防火服のヘルメット部分のような頭部で、顔は見えない。どんな表情をしているのかもわからない。憎々しげに睨み付けているのか、思い切り嘲笑しているのか、任務を遂行するだけの無表情なのか?
伸ばした手が喉にかかる。ぐいと力を込められた。
のけぞる。舌が飛び出す。が、と喉から音が出た。
あの時と一緒だ、あのひとが私の前で殺された時と一緒だ、
女の意識は絶望の形にぴったりと嵌って、抜け出しそうにない。自分の首の骨が折れるまでに、女がやる気を奮い立たせるとは思えない。
アルベルトは再びわめいた。殆ど声にならない。
「女、見ろ」
その前にぶるぶる震える手が持ち上がり、何かをぐいと突きつけた。
女は顔の下半分を手で覆ったまま、はっと身を起こした。
赤い石だ。夫の、たった一つの形見、思い出の品、この国からなんとかして連れ出そうと思った、
夫の魂。
いつの間に?さっき、確かに返してもらったのに!ちゃんとしまったのに!
「返して」
そう言うか、言わないかのうちに、アルベルトは首を絞められたまま渾身の力で頭上高くそれを放り上げた。
「あっ」
最後の力だ。これで、駄目であれば、本当に最後の一撃になる。
それを込めて、アルベルトは仰け反りながら、指先から放った。
いつもならば、夜を昼に変え、人も岩も家も何もかも薙ぎ払ってゆく程の、激烈な振動の嵐であったが、今はただの指鉄砲だ。文字通りの。
だがそれは、中空で自分より先に宙に舞った赤い石をあやまたず撃った。石は、突如外部から注入された圧力に耐え切れず、甲高い音とともに砕け散った。
女の口から悲鳴が迸った。
目を、これまでになく大きく見開いて、四散してゆく赤いかけらを追っている。一歩、二歩、前に出た。
「なんてこと…ひどい、なぜ、…ひどすぎる」
同じような言葉を繰り返しうめきながら、おろおろと手を開き、口にもっていき、胸元で拭いてから、
再び、感情が噴き出してきた。
「あなた!あなたぁアアア!」
長く長く悲鳴が尾を引いた。銃声のようだった。
そのいっとき、
アルベルトの体を縛り上げていた、絶望の呪縛がほどけた。それを上回る怒りの炎で体が燃え上がりそうになりながら、ぐいと相手の手首をつかんで解く。
相手がうろたえて下がろうとしたのを、片手でまだ捕まえたまま、もう片手は拳にして背後に構える。ぶお、と音がして拳から白い空気の奔流が上がった。
そのまま、腰を入れた乾坤一擲が、相手の胸に炸裂し、相手は細い道の上を、自分がやってきた辺りまで、おかしな形になりながらすっとんでいった。

がくんと膝をつく。世界が回っている。このままぶっ倒れそうなほど疲れ果ててはいたが、
「…国境を越える人間を処刑する役が、…やられたとわかって、…今度こそ…本気で追っ手がかかるだろう。…倒れるのは、越えてからだ」
ぐいと身を起こし、口元を拭ってから、女を見る。怒りが過ぎた後の放心状態で、ぼーとどこかを見ている。
アルベルトは手を上げ、二発頬を張った。ぐらぐら揺れた顔がうっすらと赤く染まって、ゆっくりと、こちらを向く。
唇がひく、ひくと動いた。ん、と思う。
「どうして…あんな」
大部分が喉の奥にひっかかって出てこない。
「お前を正気に戻すためだ。言っただろう。ここの地点で絶望の足止めを食わせていたのはお前なのだ。正確には、お前らだ。…ところでどうする」
いらいらと尋ねる。
「行くのか、行かないのか。早く決めろ」
たった一つの思い出を砕いた後で、そう尋ねてよこす男を、
女は殺してやりたいと思った―――
青い瞳から、温度のない涙がつ、つと溢れ、零れ落ちてから、
「行きます」
「ならば立て。急ぐぞ」
声と、腕に引き立てられて女は立ち、よろよろと歩き出した。途中で一回、砕けた石が散らばった筈の方向を見たが、勾配がきつくなり、すぐに見えなくなった。
よろめきながら進む。アルベルトも、黙って歩いていると倒れそうなのだろう、女に聞かせるような、独り言のような調子で、喋っている。
「あの地点に張ってあったのだろう。罠がな。獣を捕るのに使う罠と原理は同じだ。ただ、それが、すぐに抜け出せたり迂回して避けることの出来るようなものではない。言ってみれば」
ぺっとツバを吐いた。
「かつてそこで、最大級の絶望と恐怖を味わった者の、記憶を集積し、蓄積して、同時に放射させる鏡のような罠だ。…片割れだけを生かして残すのは、その方がより多くの絶望を供給するからだな。…銃を使わないのも、ゆっくりと死んでゆく苦痛を、生き残る方に見せ付けるためだ」
全く悪趣味なシステムだ、とアルベルトの片頬が歪んだ。趣味が悪すぎる。センスのかけらもない。
「あの男が(男かどうかわからんが)来ていた宇宙服のような格好は、おそらく」
「…あの地点が発する絶望や恐怖から、身を守る服なのですね」
女がぼんやりとした声で呟いた。
「そうだろうな。あの人間自体、微弱なテレパスくらいではあったかも知れん。あの地点で誰か恐怖する者(つまり、新たな越境者だが)がいると、やってきて、殺す。複数名でいれば、一人は生き残らせる。『あの地点』に向けて、永く永く絶望を供給し続けてくれる、大事な電池のようなものだからな。
お前らは、自分たちで、国境を護っていたようなものだ」
返事は無かった。
女はすっかり血の気のなくなった唇をかたく結んで、ひたすら前進していた。

下り勾配は上りに転じ、道が無くなり、せわしい息をつきながら木にすがり、上り続け、ずっとずっと二人は歩き続けた。
コートも靴も、いい加減壊れかけた頃、ふと視界が開けた。
二人はどこかの山の中腹にいるらしかった。見下ろすと、下方には舗装された道路がうねり、カラフルな自動車が走っていた。
そして、その更に下方には、どうやら街らしきものが見えた。
「どうやら、越えたようだな」
感激も達成感もなくそう呟いて、隣りを見る。疲れきった女は、今ではもう感情もどこかで落としてきたように、ぼんやりと、望んで望んで命もかけた世界を、見下ろしている。
「お前とはここで別れた方がいいだろう。ここまで来ればどこへでも行けるな」
女は同じ目のまま、アルベルトを見返した。感謝と憎しみのどちらを採用すればいいのかわからず戸惑っているように見える。
その顔を、つまらなそうに少しの間見ていたが、やがて舌打ちし、
「新たな住居や職の足がかりに使った方が、思い出の価値もあるのではないのか」
何を言っているのだろう、と思っている目の前で、
ぱこ、とモノクルを外す。その下から、もう片方の手で何かをつまみ出すと、女に手渡した。
赤い石だった。夫が彼女にくれたものだ。
驚愕で口がきけない。二三回、口を開け閉めしてから、相手を見て、
「あの時の、あれは」
「ふん」
左右の袖口をまくってみせる。ルビーのカフスボタンが、片方なくなっていた。
「何故…」
「虫の知らせだな。お前を揺り動かす唯一の切り札は、私が持っていた方がいいだろうとどこかで思ったのだ。案の定的中しただろうが」
猛烈に腹がたち、殴ってやりたいと思ったが、…同時に、泣き出したいし、大声で笑いたいし、この男を抱きしめたいと思って、そのどれを採用すればいいのかわからず、結局両手で石を胸に抱きしめ、
「感謝します」
込められるだけの思いを込めてそう言った。
が、人妻のオモイなどというものにはとんと興味のない男は、うるさげに手を振った。
「これで貸し借りなしだ。先に行くぞ。もう二度と会うこともあるまい」
最後に一度だけ女の顔を見て、
「ふん」
吐き捨てると、本当に先に立ってずんずんと降りて行ってしまった。
女はその背をいつまでも見送っていたが、やがて自分も、歩き出した。下の道を走っている車に乗せてもらうでも、下の街まで歩くでもいい。
それから、
石を握り締めた。
あの男の忠告どおりにするかどうかは、それから決めよう、と思った。

[UP:2003/6/4]


新ルパン三世に『国境は別れの顔』という話、ブラックジャックに『オオカミ少女』という話がありまして、私の中でああいうイメージの話がやってみたいというのがずうっとありました。
それで、中条長官と、樊端と、戴宗の誰でやるか、さんざん考えた挙句アルベルトになりました。ははは
長官は今でもちょっと惜しかったな。長官と美人て、ぐっと来ます。あっ呉先生が扇子を投げてきた。
でも、アルベルトって、勝手ですが妙に力の湧いてくるキャラなのです私にとっては。真に、激しく、誇り高くて贅沢っていうか。安い妥協をする、必要がないっていうか。
ちょっと今妥協をしないと納期に間に合わんて感じなんで、救われたいのかも(笑)にしても、時間のないバタバタバタバタした感じがそのまま出てしまいました。ひどい話だなあ。『なんちゃって国境破り・てなもんやアルベルト』とか『底抜け越境レース・そこのけそこのけアルベルトが通る』とかの題にすりゃよかったかしら。

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