審判


うなだれたポルナレフが、どこへ行くというあてもなさそうな足取りで、砂浜の方へ歩いてゆくのを、承太郎は黙って見送っている。
「可哀相だと思ってるのか?」
ジョセフが荷物を抱え上げながら尋ねた。
「そんなもんじゃねえが」
「それじゃあ、本当は背負わなくてもいい荷物を背負っとるのに、そのことを教えてやらない自分に嫌気がさすのか?」
「何なんだ、じじい」
ジョセフが笑い出した。荷物を運ぶのを手伝っている花京院も、仕方なさそうに笑って、
「もう、教えてあげられるじゃないですか。…どうしてさっき、言わなかったんです?ジョースターさん」
「言おうとは思ったんだがな。あいつがまくしたててるんで、つい言い出せなくなったんじゃ」
義手でない方の手でこめかみを掻く。
「ま、じきに戻ってくるじゃろう。そうしたら教えてやればいい」
「そうですね」
花京院はうなずいて、それから、まだポルナレフの背を見送っている承太郎を、ちらと見た。

わかってる。
誰に言われなくても、俺自身が、誰よりよくわかっている。
あいつは俺を庇って死んだ。あいつが死んだのは俺のせいだ。
俺のせいであいつは死んだのだ。
その繰り返しは、ほんの少し連ねてみるだけで、ポルナレフの軽口を簡単に封じ、手に嫌な汗をかかせ、胃の底に苦い苦いものを湧きあがらせる。心臓の血は冷たく煮えたぎり、胸は灼熱の氷に閉じ込められる。
しかし、どんなに辛くとも、それが事実だ。その事実から逃げないことが、俺に課せられた償いなのだ。
俺には、しょぼくれて酒浸りになったり、何もかも忘れて浮草暮らしに戻る権利すらないのだ。
ポルナレフの靴が背の低い草を踏み分け、砂浜に出た。胸が詰るような夕日が、遥か彼方の海へ落ちて行くところだった。
綺麗だな。
礼儀のように呟いて、波打ち際まで行こうとし、ふと目をやった草叢に、なにやら光るものがあるのに気付き、足を止める。
近づいて、それを拾い上げた。黄金色は砂を被ってくすんでいる。これは、
ランプ、なのだろう。なのだろうというのは、こういう形のランプをポルナレフは使ったことがなかったからだ。見たことはある、子供の頃絵本に載っていた。磨くと、中から魔神が出てきて、御命令を御主人さま、と言うあれだ。
「アラジンと…あれ、アリババだったか?いや、アラジンだな。魔法のランプってやつだ。波に運ばれたのかな…結構きれいな細工物じゃねえか」
磨けば光りそうだなと言いながら、実際にちょっとこすってみる。汚れが取れると、そこは美しい黄金色を返した。
「へえ」
ポケットにつっこんである汚いハンカチをつまみ出し、力を入れて二三回こすった。
その途端だった。
どぁん、というような爆発音が轟き、ランプは空たかくはじけとんだ。
「うぁ」
仰天し、飛びすさり、ほとんどスタンドを出しかけていた。ぽとん、とランプが砂地に落ちて、それきり動かない。自分で自分の胸を撫で摩りながら、ゆっくりゆっくり戻ってみる。ランプの蓋が開いているのが見えた。
「あーびっくりしたぜ。中に入ってた空気が圧縮されてたのかな…とにかく肝を」
冷した、と言おうとした時、何者かの気配がうしろからぐうっとのしかかって来たのを感じ、ポルナレフは振り向いた。
目と鼻の先に、無表情な黒い影が浮かび上がっていて、三本しかない指の一本を突きつけ、
「望みは何だ?」
さびた声でそう言った。怖じけた心を吹き払うために、強く怒鳴り返した。
「なんだ、貴様は!敵スタンドかっ」
「何でもかなえてやる。お前の望むものを三つ言え」
聞いたことのあるフレーズだ、と思う。さっき思い浮かべた絵本のページがめくられると、そこにはターバンを巻いた太った魔神がいて、尋ねるのだ、
「お前はわたしをランプから解き放ってくれた。その礼をしよう。
お前の望むものを三つ言え」
絵本の魔神より、随分態度は横柄だが、言っている内容に大きな変更はないようだ…
「お前、」
「何でもかなえてやる。お前の望むものを」
「ちょっと待て。同じことばっかり繰り返すな…お前は何者だ」
「その質問に対する答えが、お前の望む第一のことか?なんでも叶うのだぞ。それで構わないのか」
「待て」
今度の待て、は多少慌てて発された。
人間、どんな突拍子もない状況でも、欲というものは忘れないらしい。忘れはしないが、そう簡単に相手が幸運の魔神だと信じてしまう訳もない。ポルナレフは疑惑と嘲笑が混ざった表情で、
「そうだな。じゃあ俺を金持ちにしてもらおうか。サンジェルマン・デ・プレの店を全部買いとれるくらいの、だ」
「承知した」
即座に相手は言い放った。一本の指をポルナレフにつきつけ、
「HAIL 2 U!」
少し奇妙な発音で最後にそう叫ぶと、ぼうんと破裂して見えなくなった。
「おい、貴様、なに…」
叫ぼうとした時、後ろで、なにか大量の金属が落下したような音がした。下が砂地なので結構音は吸われたが、それでも充分な音量が響き渡って、ポルナレフは慌ててそっちを見た。
草叢の間に、金色のものがきらきら輝いている。
一拍おいて、ゆっくり近づく。自分の靴音を聞きながら、これは現実か?現実だな?と自分に確認し、かがみ込んだ。
太陽の光のような、美人の髪のような美しい金色の王冠や、驚くほど大きな宝石や、王族に代々伝わっていそうな装飾品が、当たり前のようにそこらじゅうに落ちていた。
俺には宝石の鑑定の技術はないけど…
「ホンモノみてーに、見えるが」
額にうっすら汗がにじむ。これを、今、あいつが出したのか?俺の願いを聞き届けたってことなのか?
次第に、自分が何番目かのアラジンに選ばれたのだという考えに流れてゆきそうになりながら、別の部分では勿論、敵スタンドの考えも棄ててはいなかった。
だが、あいつが敵のスタンドなら…俺の願いを叶え、俺を金持ちにして、それで何の益になる?
デーボとかいった、俺に傷つけられた痛みでパワーアップする野郎みたいに、俺の喜びや幸せを糧にパワーアップする敵スタンドだとかいう話か?そんな奴が果たしているんだろうか…
「望みはなんだ?」
心臓が口から飛び出しそうになる。いつの間にか、金銀財宝の上にさっきの奇妙な魔神がゆらゆらと浮かび、今度は二番目の指を自分につきつけていた。
「…これは…貴様が出したのか?一体どこから、どうやって…いや、」
「お前の望むものをあと二つ言え。どんなことでも叶えてやる」
機械のように、前回と違う部分だけをきっちりと変えて、あとは同じ文句を繰り返してくる。
「どんなことでも、だと?」
笑いながら、なんとかこいつの正体を暴けないか考える。考えながら、何を叶えてもらうか思案している。それは既に相手が、自分の望みを叶える力があると信じていることになるのだが…
「そうだな。山ほどの金貨の次は、やっぱ地位だな。俺を世界一売れっ子の漫画家にしてもらおうか。どんな山奥の村にいってもサインをねだられるくらいのだ。夢だったんだよな、ポルナレフランドをでーんと」
「世界一売れっ子の漫画家か。それが望みか」
何の感想も、感情もなく言葉をさしはさみ、消えようとした。
「待てって。止めた。やっぱ、地位や名声より愛だよな。思いきり可愛い彼女がいい。小指と小指が赤い糸でつながってるような感じの、こう…運命の相手っていうか」
「思いきり可愛い彼女か。それが望みか」
さっきと同じ口調で繰り返し、再び消えようとした。
「待てよ」
何を言っても同じ口調で均されると、自分の願いというものがえらく貧弱でつまらないものに思えてくる。一生一度のチャンスを、それこそ立て結びになった靴の紐をちゃんと結んでもらうことに使ってしまうような気がしてくる。
馬鹿野郎、こいつの正体を暴くってのはどこへ行ったんだ。願いを叶えてもらって喜んでる場合じゃねえだろう。俺には他にすることが、
「どんな願いでも叶う…だと」
相手は何も言わない。こちらの言葉が願いではないからだろう。
ポルナレフの額に、うっすらと汗が滲んできた。俺の願い。
他に何を願うことがあるだろう。渇望に近い。これが叶うなら、俺は多分何だってするだろう。しかし、何をしたってかなわない願いだから、俺はせめてものという訳で、敵と戦いながらこんな南の島まで来ているのだ。
口を開く。開いてから、言葉が出るまでの間に、畏れに似る程の願いが、ポルナレフの両眼にぎらぎらと輝きをはなちはじめた。
言葉はそっとそっと、大切に一語ずつ、語られた。
「…死んだ人間を…生き返らせることは、出来るのか?」
「その質問に対する答えが、お前の望む第二の」
「やかましい」
引き裂かれたような絶叫が、あたりの空気を打った。
「出来るってんなら、やってもらおう。俺の妹を!アヴドゥルを!俺が不甲斐なかったばっかりに殺してしまった二人の人間を、生き返らせてみろ!
ふ、どうだ?できるのかよ?できっこねえよな、どうせ」
「出来る」
ポルナレフが全身で願った答えを、相手は全く最初から変わらない調子で請け負うと、
「今お前は二つ願いを言ったな。まず最初の願いからだ。
HAIL 2 U!」
破裂音、そして煙が消えると相手の姿は消えていた。
汗がゆっくりと伝い、顎から落ちた。
出来る。出来るだと?二人を…生き返らせることが、出来るっていうのか?
心臓の鼓動は次第に高くなっていく。もし出来たら。もしも出来るなら。俺は…
がさ、と彼方の草叢が音を立てた。さっき金貨が降って来た時のことを思い出す。自分で自分の胸をなだめながら、走り出した。その時、何者かが草叢の中を移動してゆく姿が見えた。目をこらしたが、既に辺りは夕闇に包まれ、黒いシルエットが辛うじて判別できただけだった。
あれは女だ…
走るうちに、最初に音を立てた草叢の所まできた。そこの地面は人型に大きく掘り返され、その中に、長い髪のひとすじがあった。
震える指でその髪をすくいあげる。長く、少し天然パーマがかかっている。
指が覚えている。
つややかでちょっとはねっかえりで、まるでお前自身のような。髪は主を表すって、聞いたことはねえが…
誰かの泣き声が聞こえる。
顔を向けた。ずっと向こう、うずくまって、泣いている。この声。
あたしは悪くないわ。あいつが意地悪いこと言ったんだもん。
おにいちゃんは信じてくれるでしょう?
ポルナレフは立ち上がった。膝から下ががくがく震えて、今にも転んでしまいそうなのを堪えて、泣き声の方へ必死で走り出した。
あと僅か、という所で、声がした。
「こないで」
足が止まる。制止されたからではない。この声。はっきり音声として耳に入ってきたこの声は。
「まだ、からだが、できてないの」
そう言いながら、声の主は、ぎこちなく立ち上がり、横顔をこちらへ向けた。
おりしも、昇ったばかりの満月が、白いその顔を照らした。
ポルナレフの両眼から、涙が吹き出した。
幾度夢に見ただろう。
この声の主が、気の強い青い目で、俺を見上げて…文句を言い、生意気をいい、俺を困らせ、そして、
「おにいちゃん?」
幾度そう俺を呼んで、俺に笑いかけたか。
「…シェリー」
呟いた声は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
二度と見ることができないと思っていた顔。決して聞くことがないと思っていた声。
二度と、呼びかけることができないと思っていた名前。
「シェリー、おまえなんだな?…シェリー、」
叫びながら近寄ろうとすると、相手は髪を翻して逃げた。すすり泣く声を残して、白い体が草叢の中に入って行く。
「待て、待ってくれ、何故逃げる?俺だ、逃げないでくれ」
叫ぶその声の最後をさらうように、相手は叫び返した。
「こないで。来たら、きっと私のことキライになるわ」
「どうして」
ポルナレフは喘いだ。妹だ。俺の妹…俺がこの世で一番大切にし、一番慈しみ、大事に大事にしていた宝物。
あの日、あの夜、あの下司野郎に踏みにじられた、俺の大切な花。
今度、手に戻ったら、もう二度と失うことのないようにするのに、と無駄な決意を繰り返した花。でも、無駄ではなかったのだ…
「どうしてだ、シェリー、嫌いになんて…なる訳ないだろう?俺が…お前のこと、嫌いだなんて言ったことあったか」
「あったわ。昔おにいちゃんの飼ってた金魚、猫にやったら、おにいちゃんすごく怒って、私のことキライだって言ったわ」
拗ねた言い方。唇の形も、目の色も、すっかり同じだ。幾度も幾度も思い返しては、ただ涙に変わるほか使い道のなかった写真だ。今は写真ではない。本物だ。
「そりゃあ、言ったさ…でも、あれは本気じゃない。ちょっと怒っただけなんだよ。 俺はいつだってお前のこと愛してたよ。今もさ。お前のことを愛してるよ」
一生懸命訴える。泣き出しそうだ。喜びと涙の、どちらへ向かえばいいのかわからない。どちらでも、あまり変わりはない、嬉しくて目がくらむ。
「本当?私のこと、どんな時でも愛してる?私が何をしても愛してくれる?」
「勿論だ」
どんな美女に言うより懸命に、心をこめて、ポルナレフは請け負った。
「そう…嬉しいわ、おにいちゃん」
「シェリー、わかってくれたね?さあ、もう泣かなくてもいい、悲しいことなんか何もかも終わったんだ」
「悲しくなんかないわ」
妹の顔をした女は、にっこり笑った。美しい、白い顔。血のように赤い唇、
なにか、別の意志をふきこまれたガラス珠の瞳。
「私嬉しいのよ。―――おにいちゃんが食べられるんだもの」
ポルナレフの目に、彼の腕に噛み付いて、肉を食いちぎる妹の姿が映った。
数秒あったか。
「うあ、ああああああ!」
思わず突き飛ばす。『妹』は、地面に倒れてから、口から兄の血をしたたらせて、ゆっくり立ち上がり、に、と笑った。
「からだが、まだ、できてないの…でも、おにいちゃんの肉を食べれば、なおるわ。…
ね、いいでしょ、おにいちゃん?」
一歩、白い白い足が前に出た。足は悪夢でない証に、草を踏んだ音を立てた。
「昔から、シェリーの頼みは、なんだって聞いてくれたじゃない」
苦痛と、驚愕とで精神が引き裂かれそうになるのを懸命にこらえ、ポルナレフはもつれる足で逃げた。
あれは、シェリー、
なのか?それとも、
違うのか、と自問している自分に気づいて、声を出して叱咤する。
「馬鹿ヤロウ!何寝ぼけてんだ」
と、と軽い音がした。振り向くより早く、妹が襲いかかってくる。
「うぁあ!く、くそ」
チャリオッツが銀の軌跡を描く。だが、そこまで追い詰められていても、剣先は妹の胸を突くことは出来ず、ただ牽制するに留まった。
くすくす笑う妹の笑顔。その唇が血で濡れていないなら、いつまでだって見ていたいと思うだろう…
「ランプの精!あれは…妹じゃない」
流れるというより吹き出す、に近い血の勢いを懸命に止めながら、絶叫する。
涙より苦い苦い雨を幾度も呑み込みながら、喉の奥でポルナレフは叫んだ。
「早く、あれを…土に、返してやってくれ」
「嫌だね」
目を見開く。
ゆっくり近づいてくる妹から、一瞬視線を外して、自分の肩の上あたりに浮かんでいる姿を振り仰いだ。
「お前、まだ気づいていなかったのか。自分が銀の戦車をふりまわしながら、俺を本当にランプの精だと思っていたのか?」
ポルナレフの目に、絶望と怒りと、とてつもない哀しみが浮かんだ。
「貴様…スタンド」
「大当たりだ。最初はお前だってそう思ったのじゃなかったか?いつのまに、俺をそれほどまでに格上げしてくれたんだ」
影は、嬉しくてたまらない笑い声を上げた。
「俺の名はカメオ。審判のカードの暗示を持つ…能力は、お前が見ているものだ」
声に促されるように、白い足がまた一歩近づいてきた。
シェリー。シェリー、俺の大事な妹。
首を振りながら、それでも、ポルナレフは、今迄幾度となえたかわからない想いを、半ば自動的に、つぶやいていた。
生き返ってくれるなら、俺は、どんなことだってするだろう。
「なら、お前の血と肉をくれてやるんだな。あれは俺が土でお前の望みを造形化したものだ。お前が作ったものだよ。お前の血と肉とで完成する泥人形だ」
カメオは笑い続けた。笑い声は、今にもくずれおちてしまいそうなポルナレフの心を、いやが上にも逆なでし続けた。
「人間の心とは得手勝手なものだな。愛する人間にかぎっては、『死んだ人間が生き返るのが不自然なこと』とは、これっぱかしも考えない。お前の妹は何年前に死んだんだ。今この夜に、あんな白い顔で蘇るのは、人形か悪霊にとりつかれたゾンビー以外にあるものか…お前は、お前の望みに食い殺されるんだ。幸せだな。君に、幸あれ、だ」
最後は、思い遣りを込めてさえいるように、そっと優しく区切って発音された。
「手前…」
「俺に感謝の弁を述べるのなら、もう少し後にしてもらおう。もうひとり、お前の望みでつくらなければならない人間がいるのでな」
はっきり、ポルナレフのくちびるから色がひいた。
「なんだと」
「もう忘れたのか。お前は望んだな。
アヴドゥルを生き返らせてくれと」
カメオが言い終わったその時、数メートル先の土がぼご、と音を立てて盛り上がり、その下から、人の姿をしたものが立ち上がった。
それは、少しの間、おぼつかない足元を固めようと努力していたが、慣れたのか、しゃんと起き、その後当然のように、ポルナレフに向き直った。
「ア」
唇が凍る。
最初はゆっくりと足を上げ、それから、力強く地を蹴って、自分に向かって来る、 背の高い褐色の肌をした、漆黒の髪と、強い強い意志の漲る瞳…
その点だけは違う、けれど、その他はすべて、あの男とうりふたつだった。
男の手が伸びて、ポルナレフの喉元をえぐろうとした。
「アヴドゥル」
ポルナレフの絶叫は、無論恐怖と怒りと絶望に彩られてはいたが、その中に紛れもなく、切なく、懐かしい想いがこめられていた。
アヴドゥル、と呼びかけるのは…本当に久し振りだ。
シェリーの時も思ったが…自分が会いたくて会いたくて心がちぎれそうだった相手の名を、呼べるだけで、本当に嬉しいものなんだな…
たとえ、自分を殺すために、襲いかかってくる贋物の人形でも。
ポルナレフの感傷など、足元にまとわりつく草ほどの意味もないらしく、アヴドゥルと呼ばれた男は、下半身に緩やかな布をまとわりつかせただけの格好で、次々とポルナレフに攻撃をくわえてきた。ほとんど反射神経だけでそれらを避け、あるいは避けきれず受けてしまい、ポルナレフの体のあちこちから血が吹き出した。
「指が」
男が口を開いた。ポルナレフは発作的に大声で泣きたくなった。
あいつの声だ。俺を偉そうに叱りつけ、俺を身勝手だと罵り、俺を立派な精神の持ち主だと、どこの誰も言わない誉め言葉で誉めた、あいつの声。
ポルナレフ、と俺を呼んだあいつの声。いつが最後だったか。
「くずれちまった」
男は、出来の悪い左手を、無表情に指し示した。さっき、ポルナレフの肉を抉った時、同時に指も二三本くずれたらしい。
「食べれば、治るんだよね」
妹の高く澄んだ声がした。男の後ろから、にっこり笑って、
「そうだよね?おにいちゃん」
愛らしい笑顔に、そうだよ、と言ってやりたくなる。俺の体を食って、二人が、
蘇られるのなら、その方がいいのか?
二人は、俺のせいで死んだ。
なら、二人が蘇るために、俺の命が使われるのは、当然のことなのか?
痛みと疲れで足がもつれた。二人が、それぞれにどっと襲いかかってきた。
「あああ、あああああっ」
絶叫しながら、もはや抵抗する力は残っていない。地面に引き倒され、上に、妹と男がのしかかってくる。
「諦めたというわけか、ポルナレフ。いい心がけだ。きっとお前は天国へ行けるよ。
君に幸あ」
いつもの言葉を言おうとして、カメオが戸惑いに言葉を飲んだのは、ポルナレフにはもうわからなかった。だが、自分の喉笛にかみつこうとした男が、不意に動きを止め、ものすごい勢いで後ろへ引っ張られていったのは、わかった。
妹が驚いて後ろを振り返った。
男が仰け反っている。その喉を誰かが掴み、その右手を誰かが捕まえている。
…失血のせいか、ものがぶれて見える。
泥人形が二体いる…
「なんだ、お前は?俺がつくった人形じゃない。誰だ」
カメオの焦った声が、ポルナレフの耳に届いたが、その意味は理解できなかった。
誰って、あれはどう見てもアヴドゥルじゃねえか。
そうポルナレフが思って、二秒後、自分が何を言ったのか気づく。
どう見てもアヴドゥルの男が二人。
そして、片方は、カメオがつくった人形じゃないと言っている。それなら、
にやり、と男のくちびるが歪んだ。同時に、喉と手首を掴んだ手が、火を噴いた。
「ぎゃあっ」
アヴドゥルの絶叫が上がる。燃やされた部分が土にかえる。ぼろぼろと崩れ落ちてゆく男の後ろに、
「目の錯覚じゃねえ、もう、ひとり、アヴドゥルが…」
ぐん、と男は腕を振った。その軌跡の上に、炎の猛禽が、高い高い声を上げて、舞い上がった。この世に、炎のスタンド使いが何人いるのか知らないが、
この真紅の猛鳥を呼び出せるのは、この世にただ独りだ、
もういないはずの男。
よみがえらせようとしても、土くれで、良く似た人形をつくるくらいしか、手はない筈の男。
その男の口から、懐かしい力強い声が、はっきりと発せられた。
「魔術師の赤!」
鳥は呼応して、炎の雄叫びを上げると、あっという間に土人形のアヴドゥルを、微塵に砕いた。男の絶叫が夜にこだまし、主が土に返ったのと同時に、声もぶっつりと途絶えた。
あまりのことに、誰一人動かない。
三人の視線にさらされながら、男は今ゆっくりと、体の向きを変えた。差し出した左手の指の上に、消えない炎が、ゆらゆらと灯っている。
そのオレンジ色の光に照らされたのは、
背の高い褐色の肌をした、漆黒の髪と、
強い強い意志の漲る瞳…
そして、灼熱の鳥の姿をした幽波紋。
まぎれもなく、あの日、ポルナレフが失ったはずの男だった。
「アヴドゥル」
ポルナレフの唇から、その名が、今度は呆けたようにぽつんと、発せられた。
「よう、ポルナレフ…久し振りだな」
もう一度聞きたいと願って、願ってやまなかった声が聞こえた。
「相変わらず成長しとらんな…相変わらず妹、妹か。全く、お前は」
そして、優しい笑い声。
聞いているうちに、ポルナレフの体が震えてきた。これは、これは、ひょっとすると、
あまりにも悪意に満ちた罠でない限り。しかし、これがもしとんでもない詐欺だったら、俺は気絶する。
「どういうことだ…お前は皇帝と吊られた男の手で倒された筈だ!」
本気か、カメオ、お前は本当にうろたえているのか?なんてな、と言ってあの男と顔を見合わせて笑い出したりしたら、俺は、…
「生憎だったな。撃たれはしたさ、完全に気絶した。が、弾は頭蓋を斜めに抉っただけに留まったんだ。まあそれも、J・ガイルが後ろから刺したことで俺が仰け反ったからなんだ。自業自得…とも違うな、普段の行いがいいと、というやつかな」
にやにや笑っていた男の目が、ぎゅっと厳しくなった。
炎のような激しさで。
「審判のカメオと言ったな…ひとの心の一番奥底にある写真を悪用した罪は重いぞ。
その重さ、貴様自身で味わうがいい」
続いて、あまりの高温でしろっぽく見えるほどの炎が、どうっと辺りの草を薙いで、カメオの姿に襲いかかった。
炎に照らされたポルナレフの頬に、いつからか、涙が溢れていた。
止めど無く流れ続ける涙をのみこむ。今、目の前に居て、他のどんな奴も扱えない炎で、カメオを翻弄しているのは、
「本物だ…
三つ目の、願いだけは、かなった」
ポルナレフが、あの日から、一日とて名を呟かなかったことのない男だった。

「ち、畜生、この死にぞこないが」
カメオは絶叫し、シェリーの足をむずとつかむと、それで思い切りアヴドゥルを殴った。
「あっ」
ポルナレフが悲鳴を上げた。妹の姿をしていたものは、声も立てずがらがらとくずれて、土にかえった。
「…土の人形とはいっても…俺の妹を…よくも」
「ふん、なかなかのパワーだ」
ついた膝を立て直し、ぱんぱんと大きな音を立てて埃を払う。
「当たり前だ、病み上がりの奴なぞに負けるような俺様じゃない。ふん、貴様の望みも叶えてやろうか?」
「それはいい。是非頼む…三つと言わず、四つにしてくれ」
軽くいなして、ふふんと笑う。その横顔を、ポルナレフは血を止めながら振り仰ぎ、カメオは一瞬硬直して、
「なに?」
異口同音に尋ねた。
「簡単なことだろう。三つの願いを四つにしてくれと言っている…おっと、これも願いの一つに入るのかな?」
「何を…ふざけたことを」
「俺は、ふざけているつもりはないぞ」
そう、言ったか言わないかのうちに、カメオはふっとんでいた。目にもとまらない速度で、マジシャンヅ・レッドの足がカメオの映像にヒットしていたのだ。
「やった!すげえ、」
思わず、ポルナレフが歓声を上げた。
「な、何故だ…さっきより、断然強い…」
「ふん。いつもいつも全力で腕を風車みたいに振り回してお前にかかっていかねばならない、ということもあるまい。一つ目の願いはかなったな。貴様に、痛みの悲鳴を上げさせることだ。次は、恐怖の叫び声だ」
「ふ、ふざけ」
怒りの声も途中で悲鳴に変わった。炎の縄が自分を縛り上げようとしている。何かが焦げる匂いがした。
「三つ目は」
一発目より更に強烈な蹴りが、カメオを襲った。みし、と像が歪んだ。ひぃぃぃ、と笛のような音が漏れた。
「後悔の泣き声だ!」
アヴドゥルの声から逃れるように、たまらず幽波紋はかききえた。
「あいつ、逃げやがった。どこへ」
「待て」
左手で制し、
「あれだけ強いパワーを持っているのなら、本体もごく近くにいるはずだ。多分、その辺に息を潜めているだろう」
「そうか…なるほど」
自分も息を潜めて、そっと辺りを見渡す。しかし、隠れるところなどない。背の低い草が延々と連なっているだけの砂地だ。
アヴドゥルが低く、口笛を吹いた。
「あん?」
しぃ、というように人差し指で唇を示し、その指でつんつん、と下を指す。覗き込むと、地面から竹の筒が突き出ていた。耳を近づけると、あえぐような呼吸音が聞こえる。
「野郎、この下に隠れてんのか」
やおら、ポルナレフはその辺の土や、草や、小さな虫を捕まえて、筒の上から次々に入れ始めた。一拍置いて、下からげほげほ苦しんでいる音が聞こえる。
「こんなもんで済むと思うなよ。てめえ、人の純情もてあそびやがって」
うなりながら、他にもっととんでもないものはないか探す。そんな相手を、呆れた顔で眺めていたアヴドゥルが、急ににやりと笑うと、
「おい、あんまりいじめるな。いい加減とどめをさしてやろうじゃないか」
「何?」
立ち上がり、にやにや笑ったまま、ズボンのファスナーをおろす。
ポルナレフがぎょっとする間もなく、じょぼじょぼという音がして、筒の下から絶叫が聞こえて来た。
「トイレがなくてな、たまってたんだ。早いとこ戦いを終わらせて用を足したかったんだが…丁度いい」
あっはっは、と笑いながらアヴドゥルは放尿を続ける。ポルナレフの顔が真っ赤になって、
「げ…下品」
「お前にいわれたくないぞ」
「お前のキャラじゃない。頭撃たれて、下品になったんじゃねえのか」
「そういうこともあるかも知れんが」
しらっとして言いながら、排泄の方はやめない。隠れている男はついに堪えかねたらしく、ぼごぼごと土を掘り返しながら、小便塗れになって這い出てきた。
「貴様が本体か」
アヴドゥルがいろいろとしまいながら言う。
「ゆ、」
「何か言ったか」
「許してくださぁーいい」
男は泣き出した。二人を拝みながらぺこぺこと頭を地面にすりつける。
「生憎だな…四つ目の願いが残ってる。それは何かというと、まあ願いって程でもないんだが」
「なんだ?」
二人は素直にアヴドゥルを見た。
ち、ち、と指を振る。炎が音を立てて生まれた。
「貴様を許さないってことだ」
男が悲鳴と泣き声の混ざったような声を上げた。しばらくの間上げ続けた。

「なん、だと?」
途中で唾を飲んで、つっかかるようにポルナレフは尋ねる。尋ねるというより、単に自失の呟きに過ぎなかったようだ。しばらく止まったまま瞬きもせず、ジョセフの顔を凝視している。
「う、うむ。そのう…お前には悪かったと思っとる。しかし、ま、これも作戦のうち、なのでな」
わざとらしく咳をする。悪かったなどとは思っていないのだろう。
「お前らが吊られた男と戦ってる間に、わしと承太郎でアヴドゥルの手当てをしたんじゃ。そのまま入院ということになって、な…」
「お前ら二人して…騙してたのか…いや、花京院!…お前もか」
白い顔が、あっさり、うなずいて、
「ポルナレフは口が軽いから、このまま知らせないでおきましょうと言ったのは、僕です」
数秒後、ずるりとポルナレフの腰がくだけた。
「アヴドゥルは無事だが重傷でどこそこ病院に入院してるなんて、べらべら喋られちゃ、安心して治療もできねえからな」
承太郎が、祖父ほどの芝居もせず、つまり全然悪かったなどと思っていない口調で、至極当然のように、後を継いだ。
「…、…お前ら、…」
言葉が出ないらしい。これ以上ないというほどの喜びには変わりはない。だからこそ、自分だけが川の向こうにいる一同を見ている気分を、どうしようもない。
アヴドゥルが、困った笑顔になって、なにか言葉を探しながら、見つからず、
「ポルナレフ」
ぽんと肩に手をかけた。途端、爆発した。
「馬鹿野郎!手前ら…俺は…てっきり…」
「悪かった、しかし、」
「うるせえ!放せえっ」
絶叫し、アヴドゥルの手を払いのけ、やおらポルナレフは走り出した。
「ポルナレフ!」
誰かの呼び声を振り切り、猛烈な勢いで、さっきの浜辺の方へ駆けていく。
どんどん進む。さっきやりあった場所も過ぎた。怒りと、恥ずかしさとで足に羽が生えている。疲れも忘れて走り続けたが、行く手を、岩場に阻まれた。
ここはどこなんだろう。あんまり走り続けると、ジョースターさんたちの場所へぶっついたりするな。おや、もう帰ってきたのか、なんて言われて、高校生二人が冷笑しやがって、だって地球は丸いんですよ。当たり前だな。
…これ以上恥をかくのは御免だ。あれだけ恥ずかしい思いをさせられた上、おつむてんてんみたいに見られるのは…
「ポルナレフ!」
「来るな」
とっさに怒鳴りつけて、制する。相手は大人しくそれに従った。
「待ってくれ。悪かった、怒らないで聞いてくれ」
「これが怒らずにいられるかよ。一人でコケにしやがって」
肩が震え、声がかすれる。わずかに見えている顔が青ざめている。二三度、喘いでから、
「…あんな思いしたのに…全部、ウソだったなんてよ…俺は」
堪えきれず、振り向いた。青い、空色の瞳から、涙が溢れている。
「本当に、お前が死んだと思ったんだぞ!
俺がお前を殺したんだって、本気で思ってたんだ」
アヴドゥルは無言で、足を進めた。
「来るなっていってんだろ!」
しかし、今度は聞かなかった。黙ったまま、相手の逃げようとする手首をがっちり掴むと、引き寄せ、自分の胸にしっかりと抱きすくめた。
「…お前が、死んだのは、俺のせいだって…」
思って、とつぶやいたのを最後に、声を上げて泣き出した。その背をぱん、ぱんと叩いてやりながら、アヴドゥルは静かに静かに微笑していた。

覗き込んだ腕時計はそろそろ日付が変わる時刻を指している。
「さて、荷物の整理は終わったし、あとはすることもないな」
ぱーんぱーんと勢い良く手を叩いてから、ジョセフはおもむろに、
「あの小屋はわしがもらう。お前たちはどこぞで寝床を確保しろ。明日の朝、潜水艇が停まっている入江に集合ということで、いいな」
返事も待たず、ひとりでうなずくと、あくびをしながらすたすたと小屋を目指して、行ってしまった。年寄りには夜更かしはこたえるわい、という声に、
「嘘をつけ。徹夜のポーカーなんぞ当たり前なくせに」
承太郎がケチをつけ、それから、
「仕方ねえな。浜の方へでも行ってみようぜ、花京院」
「そうだな」
こちらは穏やかに微笑して、うなずく。
小さな島だ。行ける所もそうない。二人が波の音を頼りに少し行くと、それなりに美しい遠浅の砂浜が広がっていた。
ごろり、と承太郎が寝転がった。その隣りに花京院は腰を下ろして、体育座りをすると、頭上を見上げた。
満天の星空、その中に真円の月が、くっきりとかかっている。
波間に、白い光が揺れては砕け、砕けては集まっているのは、月を映しているのだった。その月に、先刻、ポルナレフの妹が、白い腐った美しい顔を照らされて立っていた光景は、二人は知らなかった。ただ、心の奥底まで届きそうな光だと思っただけだった。
「綺麗ですね」
承太郎に話し掛けるというより、つい言葉が漏れたというように、花京院が呟いた。
その横顔へ、顔を向けて、視線の先を追い、
「ああ」
そのまま、二人は同じ月を見つめ続ける。
天空を大きく横切って星が流れた。それを目で追いながら、花京院は不思議な幸福感を味わっていた。
敵の刺客は星が流れるように自分たち目掛けて降ってくる。次々とだ。どんな願いも叶えてくれない、ただ自分たちの命を奪うためだけ落ちてくる黒い流れ星だ。
それらの星の彼方に、あの巨大な星が、いや暗黒の淵が、どっしりと座って、こっちを見ている。魂も心も凍り付くような、優しく美しい笑みを、赤い唇に刷いて。…
悪夢としかいいようのない光景が眼前に広がる中、しかし、何故自分はこんなに静かな、安らかさとさえ言えそうな想いを抱いて、座っているのだろう?自分自身にも、理解できない。首をかしげながら、くすりと笑ってしまう。
「なんだ」
「僕はどこかおかしいのだろうか」
相手が、無言で続きを促しているのがわかる。
「今、とても幸せなんですよ。こうしていると」
ふふ、とごく短い笑い声が入る。
「こんな状況下にあって、幸せもなにもないだろうと思うんだけど…何より、ホリィさんのことを思えば、そんな事を言うこと自体不謹慎だ。すみません…」
ちょっと慌てて言葉を継いでから、
「でもね…少しだけ許してもらえるなら、僕はとても嬉しいんだ。僕たちの誰も欠けることなく、この小さい島に全員が揃っていて、多分、
皆それぞれの場所でこの星空を見ているんだなと思うとね…
僕がその中の一人として、君とこうしているんだなと思うと、本当に幸せなんだ」
息をついて、
「…これから何があろうと、僕はこの夜のことを忘れないだろう」
「おい」
見ると、承太郎が上体を起こして、花京院をにらみつけていた。
「途中までは、相づちをうつつもりで聞いていたがな。何だ、最後のは」
「最後の?」
素直に繰り返して、自分のセリフを巻き戻し聞いてみてから、
「別に…君に怒られるような内容ではないつもりなんだが?単に、いつまでも覚えていようと思っただけで」
「そうは聞こえなかったぜ」
「じゃあ、どういう風に」
しかし、承太郎は、それに対しては答えずに、ただ黙って花京院をにらんでいる。
言えるか。まるで、
遺言みたいに聞こえたなんて。
言葉では聞こえてこない、相手の思いが重く、真摯であることは感じ取れて、花京院はちょっと唇を尖らせてから、
「悪かった、ようだ。済まない」
「悪いと思ってもいないのに、謝るな」
ほとんどあげあし取りか八つ当たりのようなことを言って、承太郎は再びごろりと横になった。それを困った顔で、少しの間追っていたが、やがて肩をすくめた。唇は笑っていた。
承太郎を怒らせてしまったようだ。いや、悲しませてしまったらしい。そっちの方が問題だ。でも、僕のこの不思議な幸福感は、まだ持続している。承太郎には悪いけれど。
深く息をついて、花京院も砂浜に寝そべってみた。夜の風が微かに、彼の前髪を揺らしていった。
深い海の底に座って、太陽を見上げたら、あんな風に見えるのだろうか?僕は今、
宇宙の海の底に座って、見上げている。
星の海を。
寄せては砕ける波の囁きを、少し前のポルナレフのように聞きながら、花京院はうっとりと、目を閉じた。

[UP:2001/9/29]
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