「う、うーん」
うめいて、花京院は目を開けた。
周囲は真っ暗闇で、何の音もしない。
暫く、そのままじっとしていたが、やがてゆっくりと上体を起こした。手で探ってみると、随分硬いがどうやら寝台の上に横になっているようだ。それ以外のことは何もわからない。
自分は家族と共に日本からエジプトに旅行に来た。つい先刻、ホテルに向かっていた筈なのだが、気が付いたら独り、見知らぬ路地を歩いていて、はっとした。立ち止まった道の先に、たちこめ始めた闇よりも黒いシルエットが立っているのを見た、
『君が花京院君かい』
その声が聞こえたか、聞こえないかのあたりで、それきり記憶がぶっつり切れている。次に気がついたらこうなっていた。
(自分は一体どうしたんだろう)
考えてもわからないし、ここでじっとしていても埒があかない。
あれを出してもいいだろうか、と花京院は考えた。
あれというのは、花京院が持っている影のことだった。緑色に光っていて、一応は人のような姿をしているが、自由にほどけて紐のような形状になるし、遠く離れた位置まで行き自在に情報を集め、また、
他者を、簡単に殺す程の強い力で、攻撃できる。
この便利で物騒な影は、父も母も持っていない。父も母もこの影が見えない。いや、今までこの影が見えた人間は誰も居なかった。
こんなものを持っているのは多分この世で自分ひとりなのだろうと思い、自分が他に類がないほどの少数派であるというその考えはどうしたって彼を周囲から孤立させたが、
(便利なこともある)
花京院はその緑の影を放ち、真っ暗な部屋の中を調べた。あまり広くない部屋で、ドアがひとつある。無造作に近づいていって、そのドアを開けた。
目の前に人が立っていて、お互いにびっくりした。
「わっ」
「わっ」
その相手は手にしていたランプを床に取り落とし、ガシャンとランプは割れ、アブラが広がってメラメラ燃え上がった。
「わーっ」
「わっ、わっ」
咄嗟に花京院は学生服を脱いで火を消そうとした。目の前の相手はすっかり動転して、「火事になったらDIO様に叱られちゃう!」とかなきり声で叫び内股になっている。
「オカマかあんたは」
花京院がわめくと、「だ、だって」と口ごもってから、
「あっそうか」
突然なにか思いついたらしく、ポムと拳をてのひらで打ってから、
「お前、ちょっと下がれ」
横柄に言われてムッとしたがとりあえず後ろに下がった。と、突然ガイコツが現れて、ガオンガオン言いながら火を食ってしまった。ついでに、床に散らばったランプの残骸まで全部食べてしまった。
「すごい」
感心してガイコツを眺めると、ガイコツは照れたのかポッと赤くなって、もじもじしている。
それから視線を動かすと、さっきの男が腕組みして威張っている。なに威張ってるんだろう、自分で火を出したくせに、と思いながら花京院はしばらくガイコツと男を交互に見比べていたが、
「あの、もしかして」
「そうだ」
「やっぱり。火とかガラスとか食べる特技の。サーカスの人ですね」
「ちがーう」
男は地団駄を踏んだ。ガイコツはなんだか呆然としているように見える。それをぐいぐい指差して、
「これは俺のスタンドだ。クリームというのだ」
「スタンド?って電気スタンド?ガソリンスタンド…」
「の訳がないだろう。知らないのか。自分もスタンド使いのくせに」
「僕も?」
「お前も持ってるだろう。こういうの。フツーの奴には見えないいろいろ芸達者な影のことだ」
そう言われて仰天する。
まさか、このガイコツ、僕のあれと同じものか?
呆然としたままガイコツをじーっと見つめると、ガイコツはいよいよ照れて真っ赤になって身悶えし、とうとうぐるりんと回って消えてしまった。
「あっ、待って!ちょっと、もう一度出してくれませんか」
「えー」
ハダカみたいな格好の男はだんだん面倒くさくなったようで、うんざり顔でポケットから取り出したチャッカマンをカチカチやり、宙に掲げながら、
「ああもう後にしろ。俺のスタンドならあとで見せてやるから。ちょっと来い」
「どこに」
「お前をスカウトした方のところだ」
「スカウト!?エジプトで何のスカウト。ピラミッドのガイドとか?」
「違う。ああうるさいな。いいからついて来い」
ぶつくさ言いながら先に立って歩き出した。この時やっと気がついたが、ここは廊下だった。天井が高い。かなり古く、立派なお屋敷らしい。
「そのスカウトマンのお屋敷なのか、ここは」
「スカウトマンとか言うな」
前の男がかみついてくる。右手にはチャッカマンだ。
「あの、あなたもスカウトされたんですか」
「そうだ」
男は機嫌が良くなってフフンと反り返った。
「若い男ばかりスカウトするのか。一応、見た目もいい若い男…ジャニー喜多川かな」
「何を考えているんだお前は」
眉間にシワを寄せて振り返った時、ひるがえったやたら量の多い髪に火が燃え移ってまたひと悶着あった。ややチリ毛にになった男は、とあるドアの前に立って、ノックした。
「つれて参りました」
「入れ」
気取った声がして、男はうやうやしくドアを開けた。
中はやはり暗かったが、でーんとでかいベッドのテーブルにランプが灯っていた。ベッドの上にねそべって何か読んでいたらしい男が今、起き上がって、こちらに向かって近づいてきた。
チャッカマンを消して、男は腰をかがめながら後ろに下がっていった。その姿を見て、なんだかエビみたいだなと思った花京院は次に近づいてくる男の方へ目をやった。
自信満々な顔をしていて、歳がよくわからないがとりあえず二十代だろうか。それよりなにより、
「ものすごい服のセンスだな」
花京院は思わず言ってしまった。後ろの男が「おいーっ」と叫んだ。こめかみに青筋を立てた男が、なんとか自分をおさえて、
「良い。アイス、下がれ」
「はっ」
「あなた、アイスさんというんですか。あ、だからさっきのガイコツはクリームなんだな。駄洒落か」
「いいからそっち、そっち」
焦って促してよこす。はい、と返事をして目の前の男へ顔を向け、
「ここはあなたのお屋敷なんですか、ジャニーさん」
「わたしはジャニーさんではない。DIOだ」
「DIOさん」
後ろで「さんって!」とわめいている。
「僕をここに連れてきたのはあなたですか?若い美少年をスカウトしたいからって人を薄暗い道に誘導して気絶させて拉致するというのはどうなんですか」
流暢な地元語でべらべらまくし立てる花京院をじーと見てから、
「全部君が自分でやったんだが」
「えっ?」
「いや、だから、どうやって誘い込もうかなと思ったら君が勝手に道に迷ったんでアレレと思いながらなんとか前に回りこんで『君が花京院君かい』と話し掛けた時に、上の階の窓から鉢植えだかなんだかが落ちてきて、君の頭を直撃してそのまま気絶して」
「なんだそれ。うわ、恥ずかしい」
花京院は赤くなってうつむきながらそっと手をやってみると、たしかに頭頂部にタンコブが出来ている。
「道に迷ったのはともかく、気絶の方は一体なんでまたそんなものが」
「エジプト人の夫婦が喧嘩をしていて、物を投げ合っていたようだ。野蛮人は世界中どこにでもいる」
DIOは腕組みをして重々しくつぶやき、アイスはなげかわしい!という顔でこくこくうなずいている。
「そうだったんですか。勝手に拉致とか決め付けてすみませんでした」
「いや、気にしなくていい。どうせ逆らったらそうするつもりだったから」
「そうですか」
返事をしてから、なんか変だなあっさり納得していいんだろうかと思いつつもとりあえずその話は終わりということで、
「ええと、それで、なんでしたっけ」
「なんだっけな。あっそうだ。うむ。君が、花京院君だね」
「だからそうですよ」
「君は、誰にも見えない影を持っているそうだね。ひとつ、それを見せてくれると嬉しいのだが」
ニタリと笑った口に牙が見える。
「八重歯がチャームポイントですか。昔の芳本美代子ですね」
「みっちょんはいいから早く見せろ」
せっかちだな、とむすっとしてから、DIOをじろじろ眺めて、
「いいですけど、あなたに見えますかね」
「なんだその見くびった言い方は。絶対見える」
「そうかな。あっちのアイスさんの方が見えそうな気がします。さっきガイコツを出していたし。ねえ、アイスさん」
DIOがムッとした顔でアイスをにらみつけてきて、アイスは泣きそうな顔になり、
「お前のせいでわたしがDIO様に睨まれるじゃないかっ。変に肩をもたなくていいっ」
「はあ、どうもすみません」
全然悪いと思ってない口調で謝る花京院に、こいつ今までずーっと心のない謝罪で毎日を送ってきたな、とアイスは思った。
「じゃあとりあえず、はい」
花京院がそう言った直後、肩のあたりから緑色にキラキラ光る影がズワアと宙に伸び上がった。それは薄暗い部屋の中でほのかに輝き、とても綺麗だった。
DIOとアイスは思わずぱちぱちと拍手した。
「きれいだなあ。緑色でスジがあって、まるで光ったメロンだ」
「ブラボー!おお、ブラボー!」
「決まった。君のスタンドの名は、シャイニングメロンに決定」
「イヤです」
笑顔で彼らの言葉を聞いていたがドサクサな命名はきっぱりと断り、断りつつも嬉しそうだ。
(ああ、このヘンな人たち、本当に僕のあれが見えるんだなあ。僕はひとりぼっちじゃなかったのだ。初めて出会った仲間がヘンな外人というのも何だが、まあいいか)
なんだかとても嬉しくなり、
「あっ、得意技もあるんです。見ます?」
キュィィィーン、という音の後、緑の影が構えた手の中から、緑色の無数の弾丸が宙に放たれ、スガガガガと直撃を受けて窓の封印が吹っ飛び、外からさんさんと日光が入ってきた。
「ワーッ」
「ヒェーッ!なに考えてんだ、バカ!スカタン」
「ここ、ここ、ジュッて!煙あがったっ。とける、消える」
二人は絶叫して大慌てしている。びっくりして、その様子を眺めていたが、二人があんまりマジ焦りしているものだからついぷっと笑ってしまった。そのままずっと爆笑していると、
「悪魔かお前」
二人してシーツをかぶって、部屋の隅に小さくなっている。
「す。すみません。まさかそんなに日光が苦手とは知らなくて」
「すみませんで済んだら警察はいらん」
「アイス。まあ怒るな。何も知らなかったのだから仕方あるまい」
またDIOがこめかみに青筋をたてながらも花京院を庇った。
「ありがとうございます。DIOさんは優しいですね」
「いや、なに。ハッハッハ」
お互いニコニコして顔を見合わせる。が、DIOのこめかみには青筋がたちっぱなしだ。本心では怒っているんだなと思いながら、
「あの、とりあえず暗いところに行きましょう。お二人ともなんだか、小柄になった気がするし」
「うん、そうしよう」
「それがいいそれがいい」
二人は壁にはりつきながらずるずるとドアのところまで来て、廊下に出た。周囲が真っ暗になると二人は明らかにほっとした様子で、アイスがまたチャッカマンを取り出し、別室に移った。
「やれやれ、えらい目に遭った」
DIOは威厳を取り戻してどっかりと椅子に座って、足を組んだ。アイスは部屋の隅でお茶をいれている。見ると、ガイコツも宙に浮いてカップを持ってきたり、それをあたためたり、うっかり飲みこんでしまったりしながら手伝っている。
「ああいうのは、僕もやる。皆やるものなんだな」
花京院がまたあたたかく微笑むと、DIOがまた機嫌の悪い顔になって、
「いっておくがわたしにもスタンドはあるのだ」
「ああ…DIOさんのはどんなのです?」
向こうで「さんとか言うな」と叫んでいる。
「わたしのスタンドは…フフフ。ちょっとすごいぞ。まず滅多にない。スタンドの王とも呼ぶべき、超絶能力を持っ」
「あ、アイスさん僕も手伝います」
アイスがおぼんにのせて運ぼうとし始めた時、話の途中でDIOに背を向けすたすたと近寄っていく。アイスが慌てまくって、
「ちょっとお前なんちゅうことをする。いいからDIO様の方に」
「えっ」
振り向くとDIOの頭上にせっかく出したのであろう、金色のおっさんが浮いていて、DIOと二人してこめかみに青筋を立てている。
「君は礼儀というものを知らんな」
「どうもすみません」
全然気持ちの入っていない謝罪をして、おっさんにも頭を下げ、ともかく三人分のお茶とともにテーブルについた。
「お前、砂糖はいくつ入れるんだ」
「結構です」
そうかと言いながらアイスはDIOのカップに砂糖をどぼどぼ入れた。うぇえという顔で花京院がそのカップの行方を見ていると、DIOは優雅に受け取ってズルズルと飲んだ。
「甘くないんですか」
「甘いのが好きなのだ」
八重歯の目立つ口の中で砂糖がジャリジャリ言っている。花京院は顔に縦線を入れながら自分のお茶を飲もうとし、
「わっ」
うっかり手を滑らせた。数秒の間に、カップが落ち……床で割れ……紅茶がぶちまけられ……学ランズボンをクリーニングに……と考えたが、
「あれ」
気がつくとカップはテーブルの上にちゃんとおいてあって、DIOがエラそうにニヤニヤしている。
「あのう、ひょっとして今のは」
あなたのあれが?と言いながらDIOの上のおっさんを見ると、こちらもエラそうに腕組みして反り返っている。
「へえ。どうやったんですか」
「知りたいか」
「知りたいです。ぜひ教えて下さい」
「どうしようかな。教えようかな。教えないかな。どうし」
「あ、アイスさん僕も手伝います」
DIOがえばっている途中で、お茶菓子のヨーカンを切っているアイスに気がついてそっちに行ってしまった。
「……………」
「すみません。何でしたっけ」
「もういい」
「すねないで。教えて下さいよ。わあ、知りたいな」
棒読みで言う花京院を横目で睨みつけていたが、おもむろに、
「そんなに知りたいなら教えてやる。聞いて驚け。わたしのスタンドは」
「時間を止められるとかそういうのですか」
「……………」
アイスが大慌てで、
「お前はどうしてそうなのだ。ああもう、DIO様がすっかり向こうを向いてしまわれて。DIO様!こいつが無礼なのです。どうかお気になさらず」
「へえ、紅茶とヨーカンてのも合うものなんですね。むしゃむしゃ」
「お前、頭をガオン!てやるぞ」
しばらくもめてから、ようやくまたテーブルに三人で揃って、
「何はともあれ、我々が同じ能力者であることは承知しただろう」
「しました」
「どうだ。わたしの仲間にならないか。なんたってわたしのスタンドは最強だ。仲間になっておいて損はないぞ」
「そうやってスカウトして、何かやらせたいことがあるんでしょう?それは何ですか。言ってくれたら考えます」
DIOはいやあな顔になったが、シブシブと、
「実はニッポンにいるわたしの敵を、ちょいちょいと片付けて欲しいのだ」
「ああ、あなた日中外に出ると蒸発してしまいますからね。倒しに行くのが大変なんですね」
「いや、あっちから来たら来たでわたしが充分迎え撃てるから別にいいのだが」
「いいですよ強がらなくても」
「強がってないっ」
花京院はちょっと考えたが、やがて心配そうに自分を見ている二人に、
「まあいいです。仲間になりましょう。せっかく出会えたはじめての同胞ですからね」
二人はヤッターと行って飛び上がり、DIOは慌てて椅子に戻った。アイスはどこからかなにやらもってきて、
「お前もこれをつけろ」
「なんです」
見るとハート型のアクセサリーとかベルトとか腕章とか、とにかくハートグッヅだった。
「DIO様の手下はこれをつけるのだ!」
「よし、さっそくニッポンへ行け、我が配下シャイニングメロンよ」
「なにもかも皆イヤです」
それから数日後、
「と、いうわけで」
花京院は空条家の居間のソファに座っていた。周りにはジョセフやアヴドゥル、それから学校の保健室で一戦まじえた承太郎が居る。承太郎も花京院も、体のあちこちに包帯を巻いている。
「僕はDIOの仲間になったので、あなたがたを倒しにきたのです」
三人は複雑な顔で目の前の男を眺めた。
発音を見ると一応日本人らしい。学ランを着て、趣味の悪いハートの髪どめをしている。それをじろじろ見られているのを感じるらしく、
「これはその、DIO一味ならつけなければいけないらしく。僕としても不本意ですが」
「その。花京院君といったか」
ジョセフが困惑気味の声で、
「はい。我が名は花京院典明」
「まともな精神状態で、両者の言い分を聞いている存在というのは、なかなか稀有だと思う。のう、アブドゥル」
「そうですね。肉の芽も植えられていないし」
「肉のメモ?牛とブタの合挽き、200gとかの」
「芽だ」
アヴドゥルがこれっくらいの、と指で示し、
「言う事を聞かないやつに植え付けて、DIOの言うがままに操るのだ」
「そういうことをされそうにならなかったのか」
尋ねられて、首を振り、
「いや…なんか…僕がうっかり壁を壊したんで消えかけて焦ったり、すたんどというのでしたっけ?見せてくれようとしたのに僕が無視したので拗ねたりはしてましたけど」
三人とも黙ってから、承太郎が祖父に、
「DIOという野郎は、最強にして最凶の男って話じゃなかったか。なんだか違うぞ」
「う、ううむ」
「しかし、倒さないことには、ホリィさんの命がない。行きましょう、ジョースターさん」
「そうじゃな。うむ」
承太郎は花京院に向き直り、
「てめーはどこへでも行け。やはりDIOの手下をやり続けるてんなら、勝手に襲って来い。次会った時は容赦しねえ」
その相手を、花京院は黙って見上げた。鼻の頭に、マヌケにばんそうこうが貼られている。すりむいたのだろう。
どうしたものだろう、と花京院は考え込んだ。
正直言ってはっきり言って、目の前のでかい同級生に、自分は人間的魅力を感じている。かなり感じている。自分のようなコスずるい半生を送ってきた人間とは土台が違う、体もでかいが中身もでかい。男らしい。かっこいい。
この男が困っているならサポートをしてやりたいと思うし、この男の友人でありたいと思う。この男に友人と呼ばれるような人間になりたいと思う。それは生まれてはじめての感情だった。
「決めた」
「なにをだ」
「僕はDIOたちを裏切ってあなたがたに付きます」
「えっ」
三人は仰天して、
「そ、そりゃ嬉しいが」
「でも、…あの。いいのか」
「いいです。エジプトで『あの新入りはもうジョースターのやつらを倒しただろうか』『倒したんじゃないですかね』なんて言いながら僕を待っているコスずるい二人のことを思うとちょっと胸が痛みますし、僕は多分本当はあっち側のタイプなんだと思いますが」
ニコリと笑って、
「君のお陰で目がさめたということにしてください」
それから、すみません、というふうにどこかへ向かって頭を下げた。
「なんだそれは」
「エジプトに向かって謝ったのです」
「エジプトはあっちだろう」
「あ、そうですか」
棒読みで言われて承太郎はガクーと肩を落とした。
「いや、なんにせよ力強い援軍を得た。これからは君もわれらの仲間だ」
「花京院。一枚引け」
アヴドゥルにタロットカードの束を差し出され、「?」と思いながら一枚引く。ひっくり返したその絵柄を眺めて、アヴドゥルはおごそかに、
「法皇のカード!花京院、君のスタンドの名は法皇。『法皇の緑』だ」
「うわ、かっこいい」
花京院は感じ入った、という口調でつくづくと、
「やっぱりこっちのチームにします。シャイニングメロンよりずっとずっとかっこいい…いや、比較にならない」
花京院の肩の後ろで、「あれ」も全くだという様子でうなずいている。
「さあ、では、エジプト向かって出発じゃ!」
「おお!」
「はい。あ、あともうひとつ」
振り向いた三人に、
「DIOのすたんどの能力は、時間を止めることです。ちょっと面倒ですけど、倒し方を考えればなんとかなると思います。要するに相手が気付かないうちに毒を盛る系のやり方で」
三人はまた口をあけたまましばらく動かなくなった。
それから数日後、銀髪と青い目のフランス人が襲い掛かってきた。彼の頭にもハート型の飾りがついているのを見て、花京院はふと、
あの二人元気かな。
ウソくさい感傷にひたった。
全員がすっとこどっこいですみません。
特にDIO様ごめんね。謝られても困るか。
![]() |