ケプリ


 顔の上を埋め尽くしているレンガや瓦礫の隙間から日の光が差し込んできて、顔に当たった。ポルナレフは片目をうっすらと開けた。
 生きているらしい。
 その思考に口の端がニヤリと上がり、
 「どうやらな」
 自分で自分にそう答えて、なんとか体を持ち上げようとしたが、全く力が入らない。駄目だ。
 あれはお天道様の光だな。てことは、夜が明けたのか。
 最後に太陽の光を見てから、どんなに経ったとしても十数時間しか経っていないはずだ。しかし、その十数時間は、本当に、今まで体験したことのないほど長い長い夜だった。
 それからかなりかかって、ポルナレフはなんとか地上に這い出た。全身がミシミシ悲鳴を上げている。多分、今は夢中で気づいていないが、どこか必ず骨折しているだろう。
 ここが折れている、と気づく前に病院まで行きたいもんだと思いながら顔を上げて見渡す。
 もとはDIOの館が建っていたはずだが、もはやただの残骸だし、半径数百メートルは焦土と化している。その中でわずかに動いている数体の人間は、涙が出るほどありがたいことに、皆ポルナレフの仲間たちだった。
 「おーい」
 呼んだつもりだったが大声も出ない。もう一度呼ぼうとした途端胸がぎゅーっと痛くなり、喘いだ。
 そっと自分の肺をなだめてまた顔を上げる。
 少し先で、今、瓦礫の中からひどくゆっくりと立ち上がった男は、全身朱に染まっている。ボロボロになった服もところどころ壊れたアクセサリーも自分の血ですっかり色が変わっている。額からこめかみから至る所から滴っている真っ赤な液体は、今も止まっていない。
 もう動く気力もないらしい。それは当然だろうが、目はひどく穏やかで、死闘の後とは思えないほど静かに沈んでいる。その顔を見て、ポルナレフは一瞬声を飲んでから、
 「アヴドゥル」
 声を絞り出すようにして、その男の名を呼んだ。
 声は耳に届いたらしい。相手は目を上げてポルナレフを見た。正面から見るといよいよ流血の度合いがひどく感じられ、
 「血が出てる。ひでえ怪我だぞ」
 「お互い様だ」
 それから長く息をついて、
 「でもまあ、いいだろう。全部終わった」
 そう言って、その場にゆっくりと、崩れ墜ちるように座り込んだ。ポルナレフはいっとき呆然と突っ立っていたが、はっとして駆け寄ろうとした。気持ちだけは大慌てなのだが、走るなんてことは出来やしない。あえぎながら這うようにしてもたもたと近づき、
 「しっかりしろ!おい!待ってろ、今止血してやる」
 大声が出ないのでささやくように言いながら、何か血止めに使えるもの、と思って見渡したが見渡す限り瓦礫ばかりだ。その上、ちょっと体をひねっただけで悲鳴が上がるほどの痛みに襲われる。とても探し回る力はない。
 「もう、いいから、じっとしてろ」
 アヴドゥルがそう囁いて最後にフ、フと笑った。声は笑っているが、その顔が土気色で、血だけがひたすら赤い。ポルナレフはひどく焦った。早く。早く、こいつの血を止めないと、手遅れになっちまう!
 そして、ああ!と声を上げた。あった。
 そしてポルナレフは、今までの過酷な旅の間耐え続け、とうとう最後までちぎれなかった自分の服の肩ひもを、チャリオッツの剣先で切り飛ばした。
 縦に裂きながら、
 「どこだ、一番深い傷は」
 アヴドゥルは呆れた顔でポルナレフのあせった顔を見上げている。
 「太い血管切ってないのか。頸動脈とか」
 「頸動脈を切っていたら、さすがにもう死んでると思うが」
 「屁理屈言うな」
 かすれた声で叱りつけ、脇の下だの太腿だのを点検した。相手は呆れ顔のまま点検されている。
 「よし」
 ポルナレフは自分の服の肩紐でアヴドゥルの頭をぎゅっと巻いて縛り上げた。結び目がちょうど眉間のところにきて、なんだかテキヤの親父みたいな風体になった。
 普段なら笑うところなのだが、今はそれどころでなく、焦ったささやき声で、
 「大丈夫か?もうちょっと待ってろよ。もうちょっとの辛抱だぞ」
 熱心に訴えている。
 その顔を座ったまま見上げ、それから肩紐がなくなったせいでずるずると下がっているチューブトップを眺め、またフッ、フと笑った。


 ジョースター一行は全員満身創痍ではあったが、誰も欠けることなく、DIOを倒すことに成功した。
 SPW財団の医療チームに救助され、並んでベッドに横たわった。それからどのくらい経ってか、なんとか全員ベッドから離れることが出来た。
 病院の一室に、全員集まり、
 「ジョースターさん、ホリィさんは?」
 「うむ。ウソのように回復したそうじゃ。昨日電話で話した。わしらの方が余程重体らしい」
 「ああ、それはよかった」
 とは言っても勿論、一刻も早く無事な顔を見たいのに決まっている。それは承太郎も同じだ。
 「花京院もずっと家をあけている訳だし、ともかくわしら3人は日本へ行こうと思う」
 「そうですね」
 アヴドゥルがうなずいているのを、横から眺めながら、ポルナレフはなんだか漠然としたショックを受けている。
 そりゃあ、そうなるのが当然だ。DIOを倒したのだ、旅はもう終わりだ。あとはそれぞれの、旅以前の日常に戻ってゆくのだ。
 自分だって、妹の仇を討った。憎い相手を探し求めて世界中を流離うことはもうないのだ。故郷に帰って、そして、…
 「ポルナレフは故郷へ戻るんだろう?」
 そこで花京院にそう言われて、あ、ああ、そう、だな、と頼りない声を出す。それ以外にすることはない。他に行くあてもないし。
 しかし突然そう言われても全然現実感がないのだ。
 「別れの前に、皆で食事でもしよう」
 ジョセフが笑顔で言った。
 「ああそうじゃ。乾杯をしなければな。ようやくうまい酒が飲めるぞ」
 笑顔でうなずいている男たちの中で、ポルナレフはやはりなんだか、どこぞから連れてこられた子供になったような気分で、ぽつねんとしている。
 それから数日後、ジョセフの言葉通り、一同はカイロのとある酒場で、グラスを合わせていた。それぞれまだ包帯を巻いているし、承太郎と花京院は未成年だし、いろいろまずいのだろうが、今そんな常識を持ち出す人間はいなかった。
 ぐーっと干して、「ぷぁー」と息をつぐ。
 「回るなあ」
 「回ったぜ」
 「回った」
 皆一気に顔が赤くなり、笑い合う。実際あっという間に酔いがまわり、テンションが上がってくる。それはそうだ。DIOを倒したのだ。DIOを。
 足元でイギーもフガフガ言いながら骨付き肉にかぶりついている。
 「おいアヴドゥル、あんまり勢いよく飲むと傷口が開くぞ」
 「そうですね。ああでも、もういいですよ。多少開いても」
 全部終わったのだから、と口が動くのをポルナレフは横から見ていた。
 「アヴドゥルさんがそういう発言をするのって、いいですね」
 花京院がはしゃいで笑った。
 「そうじゃな。本当に、戦いが終わったのだという気がしてくる」
 終わった。全部終わった。
 その言葉を皆繰り返す。寄ってたかってそう宣言してくる。そうなのだと言い聞かせようとする。
 いや、そんなふうに思うことがおかしい。良かった、と笑顔でうなずき合うことの他になにがあるのか?
 「どうしたポルナレフ」
 ジョセフに声をかけられた。
 「元気がないな。いつも率先して騒いでるお前が」
 「え、いや、」
 皆こっちを見ている。なにか返そうと思うのだが、今の自分のこの気持ちをうまく表現できると思えない。困惑して、いや、あの、と手を振り、
 「なんか、信じられないって感じの方が強くてよ」
 「ああそれはわかるがな。過酷な旅の最後にあんな凶悪な魔物ではな」
 「良く、生き残りましたね、皆」
 また笑って、そういえばあの時、そうそう、こんなことも、の話になだれてゆく。
 あれもこれも今ではいい思い出だ。つらいけど楽しい旅だった。ハッピーエンドだ。めでたしめでたし。幕がおりてくる。終わりだ。全部終わりだ。
 ああなんで俺だけこんな変な気分なんだ?皆といっしょに良かった良かったと喜べないんだ?
 「くそっ」
 目の前のグラスを掴んで、がーっと干した。
 「おお、いい飲みっぷりじゃな」
 ジョセフの笑い声が急激に遠くなっていく。
 無理やり立ち上がって、無理やり大声で笑った。無理やり踊り出した。覚えているのはその辺りまでだ。


 それから更に数日後、一同は空港に居た。
 「では、わしらは日本へ行く。とりあえずこいつも連れていく」
 イギーを抱えてジョセフがそう言い、花京院と承太郎もうなずいた。3人ともなんだか複雑な笑顔になっている。イギーははっきり小ばかにした顔で、薄笑いを浮かべている。
 「はい。ホリィさんに宜しくお伝えください」
 「元気でな、アヴドゥル」
 「お世話になりました、アヴドゥルさん」
 「ああ。気をつけて行け」
 そういうアヴドゥルも、どこか困惑気味だ。
 本当であれば、アヴドゥルだけがここに留まり、他のメンバー全てがここから飛び立ってゆくのを、ひとり見送る筈だ。
 しかし何故だか、アヴドゥルの隣りに居るフランス人も、どうやら飛行機に乗り込むわけではないらしい。荷物も持っていないし、Tシャツにパンツというやたらラフな格好だ。
 その恰好で、シューンと小さくなっている。俯いているし、肩も胸も内側に折りたたんで、小柄になっている。いつも自信満々で立っていた髪もすっかり力なくうなだれている。
 4人はその姿を黙って眺めていたが、誰からともなく取り繕うように、
 「お前も体に気をつけろよポルナレフ」
 「怪我はまだ完治してねーしな」
 シュンとしたまま、「…ああ。わかった」とぼそぼそ言う。意気消沈の見本みたいだ。
 「しかしなあ、本当に何も覚えておらんのか」
 「…なんにも、覚えてねえ」
 あんなに大暴れしたのに?と花京院は思ったが、誰に言われるまでもなく本人が一番へこんでいる。わざわざ追撃しなくてもいいかと思い口にはしなかった。
 打ち上げをした店で酔って暴れて大損害をもたらしたポルナレフは、これからアヴドゥルの部屋に居候して、店で働いて弁償することになったのだった。いい歳をした大人のやることとも思えない。
 ジョセフは苦笑して、
 「本当に良かったのか?わしが一括で肩代わりして、お前がわしにぼちぼち返す方が楽だったのに」
 「へぇ?」
 ポルナレフがすっとんきょうな声を上げて目をぱちくりさせる。
 「ジョースターさん、そんな提案してたのか?なんで、そうさせてくれなかったんだよ」
 途端にジョセフと承太郎と花京院が突っ込んだ。
 「自分で断ったんだろうが」
 ポルナレフはまたもや目をぱちぱちさせ、「ほぇ?」みたいな声を上げた。
 「自分でまいた種だから自分でちゃんと刈り取るって言い張ったじゃろうが」
 「ジョースターさんに迷惑をかけるわけにはいかない、ってあんなにきっぱり」
 「本当に覚えてないのか。酔っ払いにはおそれいったな」
 「えええ」
 力なくうめき、ホントに…?と小声で訊き返すが、どうやら本当らしい。自分以外全員が嘘をついていて自分ひとりがだまされていた経験が、旅の途中であったが、今回はそういうわけではないようだ。
 なんとも情けない年上の男を花京院は呆れ顔で眺めながら、
 (それに、ジョースターさんに迷惑をかけない代わりに、アヴドゥルさんにすごい迷惑をかけることになるじゃないか。そのことについてはいいのか)
 訊いてみたいと思ったが、今また「ええええ〜」と細い声を上げてしおしおと俯いてしまった男に追い打ちをかけるわけにもいかず、口を閉じた。それから、
 (迷惑をかけられる側のアヴドゥルさんはどうなんだろう)
 そう思ってアヴドゥルを見た。隣のへこみ男を、これまたあきれ顔で眺めていた男が、花京院の視線に気づいて目を向けてきた。
    いいんですか?アヴドゥルさんは
 声を出さずに、口を大きめに動かしてそう尋ねると、アヴドゥルは眉を上げ、苦笑してみせ、
    まあ、なんとかな
 同じように口の動きでそう返してきた。




 例の荷物をかかえ、入口のところに立って、ポルナレフは心細げに中をのぞき込んでいる。
 「何をしている。入れ」
 アヴドゥルが振り返って言うと、うぉ、と変な声を出してから、そろそろ入ってきて、
 「あの、ええと、お邪魔します」
 その様子に笑ってしまう。
 「何だ。お前がそんなに慎み深いやつだとは知らなかったぞ」
 「なんだよその言い方」
 下唇を突き出し、腕を振り上げ、それからまた小声で、
 「俺もその…お前に悪いなーと、思っ…てんだからよ」
 ぼそぼそ言っている相手に、腕組をして、上から、
 「そんなに悪がっているのなら、炊事洗濯掃除と、しっかり家事をやってもらうぞ」
 ポルナレフは顔を赤くして憤慨し、
 「なっな、なんだよ途端に偉そうに」
 「当たり前だ。ここはおれの部屋なんだから。それから、ここにいる間は全て俺の指示に従ってもらう。お前は居候だからな」
 「っく、…ち、ちくしょう」
 屈辱に震えながらも、逆らうわけにもいかない。確かに自分は居候である。しかも自分の粗相の故にである。あまりに分が悪い。
 「わかったのか。わかったら返事をしろ」
 「…わかっ、た」
 「ふん。よし」
 相手はいよいよ上から勝ち誇って言い放っているように聞こえる。もう悔しくてグギグギとなっている相手の顔を見ていると、
 「ぷっ。わっはっはっは」
 思わず大笑いしてしまった。ポルナレフはもはや頭から湯気を出しているが、そのまま怒ることもできないので湯気を出しながら黙っている。アヴドゥルはしばらく笑い続けた。
 一体この先どうなることやら、と思いながらも、自分がやけに上機嫌になっているのを感じた。


 そんな調子で始まった共同生活ではあったが、しかしポルナレフの家事の腕は、思いがけないほどしっかりしたものだった。
 料理も洗濯も掃除も、手早くて手際が良く、要領がいい。もうずっと前から何度も何度もやっているのがわかる。
 それはそうだろう。小さい頃に両親を亡くしたと言っていた。その後妹と共に助け合って頑張ってきたのだと。家事に長けるのは当然だ。
 今もそこで、カカカカと音を立てながらボウルの中身を軽快にかき混ぜている。ここでのやり方、決まり事もすぐに飲み込んだ。
 暮らしていく上では、なかなかに頼もしい相手だ。だがそんなことはわざわざ言ってやる気はない。こいつは調子づかせるとどんどん調子に乗る奴だからな。
 我ながら非情だなと苦笑しながらその背を眺めている。
 やがて本当に短い時間のうちにふたり分の食事が出来上がり、「お待たせ」という言葉とともにスパイシーな香りの卵料理の皿がテーブルに置かれた。湯気がもあっとたちのぼる。
 こいつはうまそうだ、と思わず目を輝かせた表情を見て、ポルナレフが嬉しそうな、また優越感をたたえた顔つきになった。上から見下ろしている相手に、
 「なんだ」
 「なんでもねー」
 しかしニヤニヤが止まらないようだ。口笛を吹いて、炭酸水の瓶を手にとり、ジャグラーみたいに器用に空中でくるくると回してみせる。
 あの旅の間そうだったように、食事時にもポルナレフは絶え間なくあれやこれや喋る。その日あったことから、昔見聞きしたこと、なんでも口に乗せる。それに相槌をうったり、ぎょっとしたりしながら食事は進む。
 今日もまた咀嚼中にとんでもないオチの笑い話をされて、思わず吹き出しそうになり、必死でこらえた。無理やり飲み込んだら喉につかえて死にそうになる。
 「おいおい、大丈夫かよ。ほれ、水飲め。駄目だぜ、慌てて丸呑みしちゃ」
 「誰の…せいだと…思ってる。げほげほげほげほ」
 真っ赤になって苦しんでる背を叩いてやりながら、ポルナレフはひどく嬉しそうに笑っている。
 「全くお前は。食事中だというのに」
 「いっひっひ」
 歯を剥いて笑っている相手を睨んで、
 「旅の間にもあったぞ。お前のせいで呼吸困難になったことが、何度も」
 「え〜そうだっけ?なんか皆、俺とメシ食うと消化が悪いとか言うんだよな」
 「ああそうだな。少なくともおれはお前と知り合うまで、良くも悪くもこんなに賑やかな食事はしたことがなかったぞ」
 「そうなのか?」
 「うむ。ずっとひとりで暮して来たしな。旅が終わればまたあの食事風景に戻るのだと、わざわざ思うまでもなく思っていたが、どういうわけだか未だに、不意打ちで笑わせられて呼吸困難になっている。げほん」
 口元を拭って顔を向けると、ポルナレフが何故なのか急に黙った。理由がわからず、そのまま、相手の顔を見ていると、やがて遠慮がちに、
 「そうだよな。…予定外だよなこんな生活。あのよ、何度も謝られても困るだろうけど、ホントごめんな。突然押しかけてきて」
 ポルナレフが、そんなにそのことを気にしているというのが、少し驚きだった。まあ確かに、図々しくてガサツに見える奥に、ひどく繊細なものをもっている男なのはわかっていたが、
 「なんだ。そんなに気にしているのなら」
 そもそも、何故おれの家に住んで弁償するなんて言い出したんだ?と言いそうになってあやうく飲み込んだ。そんなふうに言われたらポルナレフはもっと「やっぱり俺は邪魔なんだ。アヴドゥルはそう思いながら我慢してるんだ」と思うだろう。本当に変なところでデリケートな男なのだ。
 じゃあやっぱり出ていく、そんなことしろなんて言ってないぞ。だって今そう言ったじゃねえか。なんて展開になっていっただろう。
 言葉をすんでのところで飲んだために変な形で切れてしまい、ポルナレフは顔を向けて、
 「なんだよ黙っちまって。気にしてるなら、代わりに何かしてもらおうか、とかいうのか?」
 そう訊いてきたので、咄嗟に言葉をすり変える。
 「ああそうだ。何をしてもらうか考えていたんだ」
 「ひでぇ奴!」
 わめきながらもホッとしたようだ。
 その顔をフンという笑い方で見遣りながら、言わなくて良かった、と内心胸を撫で下ろした。それから、自分でも何故こんなに気を配ってやるのか、おかしいと思った。


 ポルナレフは毎日、あの店に行っては店の掃除をしている。なにぶん言葉がわからないので、出来ることといったらそのくらいなのだ。
 店主は毎回鬼のような顔をしてポルナレフを見る。それはそうだろう。他のスタッフも皆胡散臭そうにうかがっている。見た目がとにかく浮きまくっているし、ここで働いている理由が理由だ。そうそう仲間には入れてもらえない。
 しかしポルナレフは根が陽気に出来ている。身振り手振りの体当たりで意思の疎通を図る。多少は通じるところもあるようだ。
 「といっても、やっぱ今のままでは無理があるんだよな」
 「何の話だ」
 夕食中、スプーンを口につっこんで天井を見上げていたポルナレフが、やおら顔を覗き込んできたのでびっくりする。
 「あのよ。頼みがあるんだけど」
 「なんだ」
 「ここの言葉教えてくれよ」
 「ここの?」
 「現地語だよ。言葉通じねえとさ、やっぱ不便だからよ。『倉庫で在庫の確認をしてくれ』『了解』くらい出来れば、仕事の幅も広がるだろ?」
 「ふん」
 むぐむぐ。ごくん。
 「いいだろう。毎日、夕飯の後で授業だ」
 「授業って…そんなにビシバシハードにやらなくてもいいぜえ、ごく簡単な会話だけで」
 「なにを言っているんだ。お前の方から頼んできたのだろう。すぐにペラペラにしてやる」
 「何ニヤリと笑ってんだよ!」
 変なこと頼んじまったかなあ。でも覚えておいた方が何かと便利だよな。とのんきに思ったが、翌日帰宅したアヴドゥルの手には、アラビア語講座@〜Bのテキストがあった。
 当然のように、その日からスパルタ式というかアヴドゥル式の授業が始まった。宣言通りなかなかに厳しい。
 「昨日教えたことを復習するぞ。『こんにちは』」
 「え。えー、えーと」
 「もう忘れたのか」
 「覚えてる覚えてる。えーと、えーと、1文字目だけ教えてくれない?」
 ぱかん!といい音がして、定規で頭を叩かれた。
 「あいったー…何しやがる!」
 「そういうふざけたことを言うと一発叩く。叩かれたくなかったら真面目にやれ」
 「くっそ」
 涙目で悔しがりつつ、
 「ア…あ、アッサラーム」
 「その次は」
 「ア、ア…ア〜アア〜〜。あれ、ターザンになっちまった」
 ぱかん!
 「いてぇっ!」
 「言っているそばからこれだ」
 「ほーいてて。頭にひょろ長いたんこぶが出来たぜ」


 最初は不真面目な生徒かと思ったが、簡単な挨拶から始まってどんどん覚えていった。外国語を早く覚えるコツは、何よりも現地人相手に使ってみることだ。発音がどう、文法がどうと考えないで体当たりで相手の懐に飛び込み、物怖じせず話しかけることだ。その点にかけては、ポルナレフは達人であった。
 「サバー ヒルヘイル!(おはよう!)」
 同僚たちはぎょっとし、辟易し、困惑し、そして苦笑して
 「サバー ヒンヌール(ああ、おはよう)」
 返事をしてくれるようになった。
 おっかない顔で睨みつけてくる店主にも、覚えた次の日にすぐ駆け寄って、胸のところで手を組んで、心を込めて、
 「アナー アーシフ(ごめんなさい)」
 そう言った。店主だけは愛想よく笑い返してくれたりはせず、鬼瓦みたいな顔で睨み返し、しかし僅かにうなずいてくれたようだ。
 「しょうがねえなって感じだったけどよ、確かに『うむ』て首振ってたぜ。店主のおやじとの間にコミュニケーションが取れる日も近いな」
 意気揚々と叫び、夕飯を大口開けてもりもり食い、嬉しそうに笑っている。
 「それはよかったな。そう言えば、弁償額はあと幾らになったんだ」
 「えっ」
 急に喉が詰まったみたいな声を出すので顔を見ると、途端にフイと目を逸らして、
 「その、まだ結構いってんだよな。俺はこっちの物価がよくわからねえけど、必死こいて働いてもなかなか。こっちのアパートがすっげー安かったら俺移ってもいいんだけどよ、やっぱお前んとこに置いてもらった方が金はかからねえし、あのう」
 必死でごまかしているのがありありとわかる。ごまかされてやらずに「だから結局幾らなんだ」と訊いてもいいとは思うが、アヴドゥルはこの辺で切り上げてやることにして、
 「まあ、気を長く持って頑張るんだな。返済期限があるわけじゃないのが幸いだ」
 別にいつまでかかっても、こっちは構わない、ということを表現した。案の定ポルナレフはほっとした顔になり、
 「あ、ああ。頑張るぜ」
 こめかみににじむ汗をちらりと見てから、何とはなしに、
 「お前の料理の腕を知ってもらえる機会があれば、厨房にも立たせてもらえそうだが」
 「え、なに、お前そんなに俺の料理気に入ったの」
 俄然喜んじゃって元気百倍だ。
 「いや、別にそんなことは言って」
 「嘘つくなよ。今そういう意味のこと言ったじゃねーかよ。今確かに聞いたぜ。なあ、なあ」
 自分の方はごまかされずグイグイ顔を突き出してくる。うっとおしいことこの上ない。
 「なあなあ、なあったら。うぐ」
 その顔を片手でぐいっと押し返して、
 「黙って食え」
 「ちぇっ」
 その晩も夕食の後でアヴドゥルの授業が始まり、ポルナレフは神妙な顔で復習し、定規で叩かれ、痛さで涙を流して言い直した。
 「覚えたか。よし、次のページいくぞ。ええと、『喉が渇きました』」
 「あのよう」
 ポルナレフがたんこぶをさすりながら、
 「もっとやる気になる言葉も覚えたいんだけど」
 「なんだ」
 「そりゃ勿論、愛のささやきだろ。Je t'aimeはなんて言うんだ」
 全くこいつは、という顔になって、
 「お前が言うのなら、ウヒッブ キだ」
 「なんで『お前が言うのなら』なんだ」
 「お前は男だろう。相手は女だ。その時はキだ。女が、男に対して言う時は、カになる。フランス語もそうだろう」
 「ああ。なんだ」
 そういうことね、と呟いてから、何事か考えている。何を考えているのだろう。どうせまたろくでもないことだ、と思いながらイライラと、
 「やる気になったか。次のページにいくぞ」
 「喉が渇いた話は明日にして、今夜はその手の愛のささやき講座にしようぜ」
 「何を言ってるんだバカ者」
 「照れんなよー。イヒヒヒヒ」
 「照れてない!」
 「照れてんじゃねーか。いてっ」
 くだらない言い合いをしながら、テキストを開いてぎゅっぎゅと開きぐせを付けた。
 何度か定規が閃いて、その日の分が終わった後、アヴドゥルはさてと言いながら立ち上がり、ふとポルナレフを見た。
 明日の分のテキストを小声で読んでいる。なんだかんだ言って熱心なのだ。『今日の勉強は休みにしようぜ』と言ったことは、実は一度もない。青い目が子供のようにキラキラしている。鼻の下にペンを挟んでふざけながら、その目をちらとアヴドゥルに投げ、ちょうどポルナレフを見ていた相手の目と合って、びっくりする。
 「にひひ」と照れ笑いをされ、アヴドゥルも仕方なしに苦笑して、
 「楽しいか」
 「楽しいぜ!だんだん会話出来るようになってくと嬉しいしな。あんまり真面目に机に向かうタイプじゃなかったけど、勉強は好きなんだ」
 「そうだろうな」
 「そう思うだろ?俺って結構勤勉だよな」
 「違う。真面目に机に向かうタイプじゃなかった、の方に同意したんだ」
 「なんだよ」
 今度は思い切りぶぅー!という顔をされてまた苦笑した。
 全くよーとぶつぶついいながらテキストを眺め、それからだんだん、
 「楽しい、…嬉しい。か」
 ぼんやりと呟いて、しばらく黙っている。そんな相手の様子を、アヴドゥルは無言で見つめた。
 ぽつり、ぽつりと、水底から浮かんでくる泡のように、言葉が、
 「おれぁ、ずーっと前から、妹の仇を探すことだけで毎日を暮してきた。そんな日々に、本当の楽しさも喜びもあるわけがない。許されないって気持ちがあったんだろうな。仇も討ってないてめえが何を笑ってんだ、て思うと、笑いも引っ込んだしな。
 でも、DIOに操られた上でとはいえ、皆と出会ってからの旅は、俺は本当に嬉しかった。あんなにきつい旅だってのに、これまでの人生であの50日ほど楽しかったことはなかったよ」
 うん、と静かに相槌をうつ。
 自分も同じ気持ちだった。自分はポルナレフのように熾烈で過酷な宿命を背負って故郷を旅立ったりはしていないが、あの旅のかけがえのなさは真実、理解できる。
 と、「ああ、」と感慨深い声がして、
 「嬉しいっていやあ、あの時は本当に嬉しかった」
 声に色が付いたと思う程に鮮やかな表情だった。声と同じ色に輝く目が、懐かしく美しく光輝いて、
 「正直、妹が死んだその日からこっち、心の底から嬉しいと思うことなんか一度もなかったんだ。あの時、俺は、本当に嬉しくて泣くってのは、こういうことなんだって初めて知ったぜ」
 その表情にアヴドゥルは正直、平静でいられなくなった。こいつがこんな顔をする記憶とは、一体なんだろう。何に対しこんなにも感動をおぼえたのだろう?
 訊かずにおられず訊いた。
 「あの時っていつだ」
 「いつって」
 ここではたと我に返って、何故なのか赤面すると、
 「まあその。いいじゃねえか」
 そっぽを向く顔に何故なのかムカッとなった。思わず、
 「なんだそれは。途中まで話しておいて、ごまかすのか。趣味が悪いぞ」
 「なんだよー、怒るなよ」
 「別に怒ってなどいない」
 「怒ってんじゃねえかよ!」
 怒鳴り合う。なんだかもう腹が立ってムカムカして仕方がない。相手がそっくり同じ表情で自分を睨みつけているのを更に睨み返して、
 「もういい。言いたくないなら言わなくても」
 ダン、と音を立てて出ていこうとする。待てよ!と大声が追ってくる。
 「何でこんなことでケンカになるんだよ、くだらねえ」
 「ああ下らんな。だからもういいと言ってるだろうが」
 ああもうこいつは!なんでこう頑固で短気なんだ、と巻き舌でまくしたて舌打ちをして、思い切り顔を背け、破れかぶれみたいなひっくり返った声が、
 「無人島でお前と再会した時だよ」
 う、と詰まったような音がした。ポルナレフが音の方を見る。
 アヴドゥルは途方に暮れた様子で棒立ちになっていた。完全に、虚を突かれたのがわかる顔をしている。見開いた目が泳ぐ。何か言おうと口を開くが「う」の後は何も出て来ず、意味もなく閉じた。
 開けっ放しのその顔を、これまた目を見開いて呆然と見返していたポルナレフが、はっとした。あっという間に顔が真っ赤になり、
 「何て顔してんだよ!だから、いいじゃねえかって言ったんだ!俺のせいじゃねえぞ!」
 照れ隠しに怒鳴った。反射的に怒鳴り返す。
 「何を言う。もとはと言えば、お前から」
 借金の残額をごまかしたじゃないか、と言いそうになって危うく飲み込んだ。
 「俺が何したってんだよ。はっきり言え」
 そう言われたからといっても言うわけにもいかない。結局、
 「いいからもう寝ろ!」
 寄宿舎の寮長みたいな叱り方をして引っ込むしかない。自分の頬を荒っぽくこすりながら部屋を出て行った。
 不意打ちだ。くそっ。
 それから、おれともあろうものが何を取り乱している、と思い返すといよいよ腹が熱くなってきて、奥歯をぐっと噛んだ。


 翌日はポルナレフにとって久々の休みだった。昼下がり、買い物した袋を抱えながら町中を歩いていた。
 よう、酒場のあんちゃん、今日は休みかい、と声をかけてくれる人がいる。ポルナレフはにかっと笑ってそっちを向き、
 ああ、そうなんだ。今度また店にきてくれよ。
 ややたどたどしい言葉ながら、元気よく明るくそう言って手を振った。ああ、行くよ、と返事が返ってきて更に嬉しくなる。
 「言葉が通じると世界が広がるよなあ」
 機嫌よく鼻歌を歌いながら荷物をゆすり上げる。食材をいろいろ買ったので結構重い。
 「あいつがあれやこれやリクエストするからこんな量になったぜ。しっかし、なんであいつはああ偉そうなんだろうな。まあ居候の身としては文句も言えねえってか」
 でも、あんな顔してやがった。
 俺が一番嬉しかったのはお前と再会した時だ、と言われて呆然と突っ立っていた。あの顔をを思い出すとついにやけてしまう。その唇を無理に突き出して、それからはっとして物陰にかくれた。
 もう少し先にはアヴドゥルの店がある。家に帰る前に寄っていこうと思って歩いていたのだ。その店先に立っているのは、ポルナレフが働いている店のあるじだった。
 いつも不機嫌でムゥーとした顔をしていて、一所懸命働いても言葉を覚えても今ひとつな反応で、余程腹を立てているのだろう、仕方ない、と思っている店主だ。間違いない。
 そしてアヴドゥルが立って出てきて、2人向かい合って何事か話をしている。ここからでは聞き取れないし、たとえ傍まで行って聞いていても多分ポルナレフにはまだ全然意味がわからないだろう。
 店主はやけに熱心に何事か訴えていて、それを聞いているアヴドゥルはまた戸惑っている様子だ。何の話だろう。
 「俺のことでか?」
 アヴドゥルは勿論あの時の宴会にも居て、一緒になって店主に頭を下げていた。ポルナレフがアヴドゥルの部屋に居候していることは店主も知っている。
 ポルナレフのことでなにかアヴドゥルに言いにきたのだろうか。いや、逆にそうとしか考えられない。他にあの店主とアヴドゥルの接点はないだろう。
 何を言いに来たのだろうか。
 もしかして、もうあいつは来なくていいというんじゃ?
 自分で自分の考えにビクリとした時、店主が「では」という様子で背を向けた。アヴドゥルが少し慌ててなにごとか声をかけたが、店主は振り返ってもう一言、
 「よろしくたのむ」
 その言葉だけは聞き取れた。
 何を頼んだんだろう。
 アヴドゥルに訊けばわかるに決まっているが、しかし、気になる。
 どうせ今夜、嫌でも聞かされるのだろうが、
 (やっぱり、もう来なくていいって話だろうか)
 あとどのくらい借金が残ってるのかアヴドゥルに尋ねられて、答えられずごまかしたのは、実のところ店主に確かめていないからだった。ポルナレフは自分の今現在の借金額を知らない。
 なぜそんなけったいなことになっているのかというと、単に、知りたくないからだった。
 もし知ってしまって、「あといくら残ってるそうだ」と言ったら、次に「じゃあ、あとこのくらいの期間で返済だな」という話になるだろう。
 その後で「あと何日の辛抱か」などと思ってホッとしたアヴドゥルの顔を見たくなかったからだ。
 そしてどのくらいか後には、せいせいしたアヴドゥルに見送られて、懐かしの故郷に向かって飛び立たなければならないからだ。至極当然の結果として。
 勿論、いつかは返済が終わる日は来るだろう。未来永劫ここで居候している訳にはいかないのはわかっている。だが、敢えて自分から終了の日付をカレンダーに書き込む気にはなれない。そうやって逃げ回っていたのにまさか、店主のおやじが直々にアヴドゥルのところへ来るとは想像もしなかった。もう借金はなくなったのだろうか。まだ残っているが、それさえも帳消しにしてやるから消えて欲しいくらいに自分は邪魔なのだろうか。
 そんな考えはポルナレフの胸をずんと暗くし、怯えた顔でそっとアヴドゥルの表情をうかがった。
 アヴドゥルは、一言で言うなら、困惑した顔をしていた。悩んでいる。大喜びで教えてくれる話題でないのは確かだ。
 しばらく覗き見していたが、やがて仕方なくゆっくりと後ろへ下がって、もときた道を戻り始めた。迂回して帰宅するしかない。
 (部屋に戻って、夕飯のテーブルで言うんだろうな)
 その時を待っているしかない。せいぜい、とびきり美味しい晩飯でも作って。悲惨な話題が乗っかるテーブルを、せめてましなものにするために。
 (でも、俺をクビにするって話をされて、アヴドゥルがホッとしたりせいせいしたって顔でないのは、まだ良かったのか)
 (あいつはあいつなりに、俺が可哀想だと思ってんのかな)
 料理を心から誉めてくれたり、ここの言葉を根気よく教えてくれている時の顔を思い出す。ポルナレフがちゃんと覚えていると、ほう、という笑顔でこちらを見ていた。
 足が止まった。
 駄目だ。あと数時間待っていられない。いい、今聞かせてもらう。ポルナレフは振り返ると、意を決して再びアヴドゥルの店に向かった。
 店まで来て、意気込んで声をかけようとし、あっでもここに来たのはあくまで偶然てことにしないと、と瞬間思い返し、「はぐ」みたいな呼吸になって、あやうく踏みとどまった。
 店に新たな客が来ていて、中でアヴドゥルと話をしていた。その客の恰好には、ポルナレフにも見覚えというか、馴染みがあった。キャップにSPWという三文字と、トレードマークの車輪が描かれてある。あの旅の間さんざん世話になった連中だ。
 (SPW財団の人間が、アヴドゥルに何の用だ)
 近くまで来たのでお茶を飲みに寄る間柄ではない。何か、スタンド使いの人間に用事があって来たのだ。
 息を詰め、入口に身を寄せて、耳を澄ます。
 「それ以来、行方不明者の数は10名にのぼります。危険だとはっきりしているのに、本当に心苦しいのですが」
 アヴドゥルが首を振った。
 「そんなことは気にしなくともいい。おそらく、スタンド能力が必要な場所なのだ。わかった。行ってみよう」
 ガタと音を立てて立ち上がる。相手は仰天して、
 「もう行くのですか」
 「その場所では、墓あらしが目的でふらふら迷い込む一般人の盗賊も居るだろう。明日に延ばしてはまた数人行方不明者が出る」
 「わかりました。あ、今はポルナレフさんもアヴドゥルさんのお宅にいらっしゃるんですよね?」
 「ああそうだ、呼んで来…」
 言いかけて、声が止まり、
 「いや。久々の休日だ。休ませてやろう。明日も仕事だ。万一、遅刻したり欠勤するようなことになったら、あいつのこれまでの努力が無駄になる」
 瞬間、ポルナレフの顔が燃えるように熱くなった。嬉しいとか悔しい恥ずかしいとか、一言であらわすのは難しい感情だった。
 「でも、おひとりでは、」
 「大丈夫だ。今までもひとりだった」
 静かに笑う。その笑い声を聴いた時、今度は胸が締め付けられる思いがした。
 「わかりました。現場までお送りします。他に何かお手伝いできることはありませんか」
 「そうだな」
 思案し、すぐに、
 「では後でわたしの部屋に寄って、メモを置いてきてくれないか。居候している男に当てて書くから」
 「ポルナレフさんに?」
 ああ、とうなずいた声が微笑している。さらさら、とペンが走る音がして、
 「よし。ではこれを頼む」
 「はい」
 受け取ろうとしたが、横からさっとさらわれ、びっくりしてそっちを見た。さらった人間はそのままメモを見ながら読み上げた。
 「『仕事で家を空ける。明日には戻るから今夜は火と戸締りに気をつけて、勉強もきちんとするように』と。まるきり小さい子供宛てだな」
 短くせせら笑って、
 「そんなこといちいち言われなくても火なんか出さねえけどな」
 銀髪の男が腕組をして立っている。
 「…ポルナレフ」
 顔はアヴドゥルに向けたまま、
 「一般人が何人も行方不明になって戻ってこねえ場所の探査に行って欲しいってんだろ?スタンド能力が必要な場所によ。それを頼みにきたんだろ?」
 声で尋ねられて財団の男はすまなそうにうなずいた。ふん、と言ってからくちびるをゆがめ、
 「ムカつくぜ。この俺さまにイイ子でお留守番していてねってのか?」
 指先でメモを示し、今度はアヴドゥルに向かって言った。それほど高い声ではないが、腹を立てているのがわかる声音だ。
 アヴドゥルはその顔を見返して何か言いかけたが、
 「明日の仕事には差し支えないように戻ってくりゃいいんだろ。お心遣いは謹んでご遠慮申し上げるぜ。俺も行くぞ」
 おっかぶせて大声で言い切り、顔を上げて上からにらみつけた。
 逆に顎を引いたアヴドゥルがひどく険しい目と、低い声で、
 「力自慢の自惚れ屋がのこのこついてくるととんでもない目に遭うぞ」
 「てめえの小言は慣れっこだ。聞く耳もたねえな」
 傲然と言い放つ。お互いの目に剣呑な光が閃き、財団の男は胸が冷えたが、やがてアヴドゥルが諦めたらしく長い息をつき、
 「足手まといになるなよ」
 「へっ、なりそうになったらいつだって見捨ててくれて結構だぜ」
 「ご立派だ」
 低く言って、それから財団の男へゆっくりと視線を移し、
 「では現場まで頼む」
 はい、と答えた声がかすれている。


 陽が落ちる頃ジープが停まり、アヴドゥルとポルナレフは砂漠の中の、小さな遺跡の前に降り立った。
 近辺のあちこちに点在している入り口にはすべて『危険 立入禁止』の指示がされてあるが、無論そんなものに従わず、金目の物目当てに入っていってしまう連中はいくらでもいるだろう。
 「金銀財宝の代償は、てめえの命で支払う訳か?高くつくな」
 呟いて、意識を集中させる。ヒュン、と音を立てんばかりの速度で銀の戦車が形作られ、宙に剣先を舞わせた。よし、最高速度だ。気力も体力も十分だ。
 背後の男が、
 「調査後に連絡を入れる。そうだな、明朝6時に入らなかったら、既定の行動に移ってくれ」
 「わかりました」
 それからこちらに向かって進んできて、すぐ側まで来たところでポルナレフに、
 「行くぞ」
 「おう」
 ふたりは並んで、とある入り口から中へ潜入した。
 下へ続く急な階段を用心深く下りて行きながら、ポルナレフが、
 「今までもこうやってたのか」
 漠然とした言い方だが、アヴドゥルは適当に解釈して、
 「SPW財団の依頼で動いていたのかという問いなら、そうだ」
 靴音の反響が次第に大きくなっていく。地下の空洞が深くなってきた。
 「ジョースターさんと知り合い、そしてSPW財団とも知り合った。それ以来、スタンド能力が必要な探査には、力を貸している」
 「ご苦労なこったな」
 言い方に冷やかな嫌味を感じる。アヴドゥルの眉間に不愉快な影がさして、
 「何が言いたい」
 「スタンド能力が必要な探査には力を貸す?それって、ていのいい何でも屋じゃねえのかよ。物騒なところなのですがちょっと見てきていただけますか。強いスタンドを操れるアナタなら大丈夫でしょうから、とか言われてよ。行った先でひでぇ目に遭ったことだって、一度や二度じゃなさそうだな。暗い穴倉の底で後悔したことあるんだろ?」
 嘲る口調の後ヘッと笑う。
 少しあってから、
 「ずっと前から、スタンドというものや、自分がそれを持っている意味について考えてきた。SPW財団の協力があって解ったことも多々あるし、少しでも助力になれればいいと思っている。後悔したことなど一度もない」
 声が平坦で低い。こちらに向けている背が硬い。怒っているのがびんびん伝わってくる。怒鳴り出すまであとどのくらいだろう。あるいは、怒鳴るレベルより更に怒っているのかも知れない。
 ご立腹か。ああそうかよ。そいつは悪かったな。
 自分でも何故こんなに毒を吐き散らしているのだろうかと思う。探査に行くという時、自分に声を掛けようとしかけて止めたのが腹が立つのか。まるで幼い弟を気遣うような優しさで労わられたのがこんなにも悔しいのか。耳にした瞬間、これまでの俺の努力に対するこいつの気遣いに、胸が痛くなるほど嬉しかった、それも事実だ。だからこそつらいのだ。どうせ俺はクビにされるんだろ?それをお前は知ってるんだろ?せめて有終の美を飾れっていう思い遣りか?ああ本当にお優しいことだ。
 こいつの周囲に群がって「頼む」「頼む」言ってる一般人に腹が立つんだろうか?それまでスタンド使いなんて存在すら知らないでいたのに、自分らがバックアップしているジョセフ・ジョースターがその力を得て、その友人に攻撃に秀でた力を持った男が居て。ああこれは助かる。この件も頼んでしまおうか。大丈夫だ、この男は強いから。
 瞬間、脳裏にジョセフ・ジョースターがわはははと笑いながらアヴドゥルの肩を叩き、アヴドゥルが当惑気味に微笑んで「はい、わかりました」みたいな顔をしているところが浮かんで、カッとなった。
 てめえはジョースターさんに頼まれたらなんでもするのかよ!
 それからすぐに首を振る。俺はバカなことを言ってる。わかってるんだ。ジョースターさんは身勝手に人を危険な場所におっぱなして遠くから「頑張れー」と旗を振ってるような人間じゃない。
 そうわかっているが、同時に、
 ジョースターさんが今、こいつの部屋に居候していて、危険な場所の探査に行くことになったら、こいつはどうするんだろうと思う。
 ジョースターさんには、「一緒に行ってくれますか」と言うんだろうか?
 今までもひとりだった、と笑っていた声を思い出す。
 (俺もひとりだったけど、こいつも、スタンド使いって意味では、ずっとひとりだったんだろうな)
 でも、誰でなくジョースターさんになら言うのかも知れないとも思う。あの人は機知に富んでいて、アヴドゥルの知らないことを知っていて、ピンチの時には思いもよらないアイディアをひねり出して助けになってくれるだろう。そうやってる姿が目に見える。
 俺はハイスクールの連中と同列かそれ以下だ。そりゃそうだな。店で暴れて弁償するために居候してるやっかい者だもんな。挙句それも叶わなくなるようだし。
 (畜生)
 片頬がびくりと痙攣した。
 下へ降りる階段は、あと少しで終わりになるようだ。下には広いフロアが待っている。
 ふたりはその石の床に降り立った。かなり広いようで、少し先はもう闇に沈んでよく見えない。アヴドゥルは、灯りを点そうとしかけて、ふと躊躇した。
 「…何の音だ?」
 思わずポルナレフが呟いた。アヴドゥルが指を口に当てて「静かにしろ」というジェスチャーをした。
 なんだろう。低く、うなるような、ささやき声のような音が聴こえる。なんだかひどく落ち着かない音だ。
 その音が、次第に大きくなってくる。いや違う、
 (近づいてくる)
 それに気づいた時、右足の脹脛に激痛が走った。
 「痛ぇ!」
 声を上げて脚を払い、足もとを見る。そしてぎょっとした。
 「なんだこれは」
 虫だ。手の上に乗るくらいの大きさの、黒っぽい鈍色の甲虫が這い登ってきている。痛みはこいつらに咬みつかれたからだ。牙はかなり鋭いようで、そう薄くもないズボンの生地が簡単に咬み裂かれて血が出ている。
 アヴドゥルが決心して右腕を振った。ボォア、と音を立てて炎が生まれ、辺りを照らし出す。そこには悲鳴を上げたくなるような光景が広がっていた。
 脚に咬みついているのと同じ虫がどんどん、四方八方から、ふたり目掛けて押し寄せてくる。あまりに数が多くて、波のように見える。さっきから聴こえていた、カサカサきちきちというような擦過音は、こいつらが出していたのだ。
 「うわあああ!」
 「上へ戻れ」
 脱兎のごとく階段を途中まで駆け上って、
 「ダメだ!上からも来る」
 どこからやってくるのか、まるで放水のような勢いだ。踏みつけて上がっていけるような量ではない。途中で膝から下が虫に埋もれ、ずたずたにされて走れなくなるだろう。そうなったら、生きながらにして…
 想像して震えあがっている余裕もない。
 「チャリオッツ!」
 絶叫し銀の戦車で弾き飛ばし、串刺しにし、さっきのフロアまで後退した。
 「ム」
 アヴドゥルが意識を集中させる。肩から炎の鳥が生まれ出でて、威嚇の雄叫びを上げ、炎を吐いた。目の前まで来ていた虫らは甲高い音を立てて燃え上がり、宙を飛んで転がった。
 「やった、効いてるぜ!」
 「だが」
 炎で打ち払ったその屍を乗り越えて、ぞくぞくと押し寄せてくる。
 「きりがない」
 「どうしてこんな勢いで湧いてくるんだ、こいつら!」
 「とにかく、逃げ道を探すしかないようだ」
 ふたりはスタンドでなんとか身を守りながらフロアの中を探し回った。その間にも虫はどんどん増えている。いずれこの部屋は虫で埋まるだろう。
 コツ!と足が何かにぶつかった音がして、見ると、どうやら人骨のようだ。脳裏に、SPW財団の男の声がよみがえる。
 (行方不明者の数は10名にのぼります)
 「ここで、虫に食われた、行方不明者か」
 早くしないと自分も仲間入りだ。懸命に虫を蹴りつけ、剣先で払う。しかしちょっとでも立ち止まって見渡したりしていると、たちまちのうちに群がってきて咬みつき、肉を食いちぎる。
 相手が犬や猫のような動物なら、威嚇や牽制も効果があるが、虫はおびえもしないし隙をうかがったりもしない。ただひたすらに押し寄せてくるからむしろ厄介だ。
 痛みに一瞬動きが止まり、足が挫ける。そこにすかさず集まってきた。
 ゴウ!と赤い炎がポルナレフの周囲を打った。虫は黒焦げになって吹っ飛ぶ。炎は確実に効果がある、しかし、
 「すまねえ」
 投げた声に対し首を振る男は既に疲労し始めている。止まることなく増え続ける小さな殺し屋を排除し続けるのでは、限界はすぐだ。
 早くしないと、と何度目かに思いながら走るうちドンと壁にぶつかる。はずみで上を見た目が見開かれ、
 「あそこだ」
 叫ぶ。はるか上に、壁伝いにキャットウォークのような狭い通路が庇のようにせり出している。
 ふたりはスタンドの力を使ってなんとか壁をよじ登り、舞台の照明係が上がるような通路までたどり着いて這いあがった。
 見下ろすと虫たちは壁に取りついているが、そう簡単には登れないようだ。
 「多少の時間稼ぎにはなるようだが、根本的な解決にはならねえな」
 唸り声を上げた時、アヴドゥルが叫んだ。
 「あれを見ろ」
 声が示す方を見る。
 この高さまで上がったから見えるようになった場所、さっきまで居た下のフロアからは死角になって見えなかった位置に、玉座のようなものが見える。黄金の椅子、捧げものの祭壇。祭壇には翼があって、左右対称に伸びている。それらの背後には豪奢な、巨大な幕がかかっている。
 幕にはヒエログリフの縫い取りがあるようだ。あまりに巨大なので、こんなに離れた位置からでも模様が見て取れる。
 左端に甲虫のような絵、その下に平たい皿のような絵。それらの右側に穂のような絵。更にその右側に、二股に別れた木か、あるいは人のような絵が描かれている。
 「どんな意味だ」
 意味を教えろと尋ねたわけではなく、ただ疑問を口にしただけだったが、アヴドゥルが、
 「―――ケプリ」
 呟いた。
 「なんだ、それは」
 「太陽神ラーの化身で、死と再生を繰り返す、スカラベの神だ」
 その時、祭壇からあの虫のかたまりが生まれ出で、ぞぞぞぞぞと溢れ出し下へと落ちていった。
 愕然としてその光景を見ている間に、もう一度同じことが繰り返された。そしてもう一度。
 「一定時間で、自動的に虫を生み出す仕組みになっているようだな」
 「再生をつかさどる神ってわけか?冗談じゃねえ、虫は増える一方じゃねえかよ」
 下を見下ろす。虫たちはもはや絨毯のようになって、じりじりと壁を這い上がってくる。空を飛べないだけ助かったと思うべきなのか、と顔をゆがめた時、
 「あの天幕が鍵のようだ」
 アヴドゥルが言った。
 「なに?」
 「呪術を施した糸ででも織ってあるのか、あの紋章に力を封じてあるのか。あの幕が光を放つタイミングで、虫が祭壇に生み出されてくる」
 見ると確かに、幕全体が嫌な黄褐色に輝いた次の瞬間、祭壇からあの虫が出てくるのがわかった。
 「じゃあ、あの幕をたたっ切れば、虫は出て来なくなるのか?」
 「おそらくな。しかし」
 「ああ」
 どこからどう見ても遠すぎる。下からは何の手がかりもないから上がれないし、ここからではスタンドを使って跳んでも絶対に無理だ。
 「おれの炎も届かないな。あれを切り裂くか、あるいは燃やすか出来ればいいのだが」
 もうあまり時間がない。ここで困った困ったと言っているうちに、虫たちがここまで這い上がってきたら、もうどこにも逃げ場はない。終わりだ。
 「くそ、どうすりゃいいんだ。俺の剣もお前の火も届かないって、一体」
 うわごとのように言い、そしてはっとした。
 数秒、頭の中で思考が回る。
 隣で黙りこくっているポルナレフが、ただ動揺して往生していると思ったのか、アヴドゥルがそちらを見もせず、
 「虫が増えるのを止めることが出来ないとなれば、あとはただ死力を尽くして突き進むだけか。ポルナレフ、気合を入れろ」
 「ちょっと待ってくれ」
 呟くような声に、うん?と訊き返す。
 ポルナレフはなんだか呆然とした様子で、かなたの玉座を見つめ、
 「俺はあの幕を、燃やすことが出来るかも知れない」
 「なんだと?」
 あの幕を?
 自分たちはどちらもそう射程距離の長いタイプではない。到底無理だと思う。それに、こいつは今『燃やす』と言った。どういう意味だろう?
 感情の籠もらない、淡々とした声が、
 「ただそれには2つ、問題がある。
 ひとつは、チャンスは1度きりで、やり直しは出来ない。しくじればそれで終わりだということ、
 もうひとつは、成功しても、その後俺はスタンド能力がゼロになっちまうということなんだが」
 そう言って、アヴドゥルの顔を見た。
 相手は数秒、真顔でポルナレフを見返していたが、やがて口を開き、
 「最初の方の問題については、おれはお前というスタンド使いの力を、この世で一番良く知っている数人のうちのひとりだ。故に、お前を信頼して任せる、と言い切れる」
 こちらも淡々とした声で言う。
 「もう一つの問題については、そちらはおれに任せてもらおう」
 そして静かに笑い、
 「おれがお前を守る」
 ポルナレフの顔に赤みが射した。相手の言葉に、ふさわしい返答をしたいのだが出て来ない。一回ぎゅっと口を結んだ時、アヴドゥルが急に「わっはっは」みたいに笑い出し、
 「何をするのか知らんが、やるだけやってみろ。死なばもろともだ」
 「なんだよ、せっかく感動的な場面だったのによ」
 ふくれながらも、ふっと胸が熱くなった。
 死なばもろともか。
 やれることをすべてやりきって、それでもどうにもならず、諦めるしかないようだ。そんな時でも、隣に居るのがこいつならば、まあいいかと思えるだろう。
 ポルナレフの頬が緩んだ。小さく笑う。それから勢いよく、
 「よし、やってみるぜ」
 突端に立ち、スッと背筋を伸ばす。フェンシングの試合前のような姿だ。右手は狙い撃つように行く手に伸べられ、左手は腰に添える。彼の上に戦車が現れ、ポルナレフと同じ姿勢をとった。
 彼の意識が急激に研ぎ澄まされてゆくにつれ、スタンドの輝きがどんどん増してゆく。表面がまるで磨きこまれた銀細工のように、円やかで艶やかな色味を帯びてゆく。遥か彼方を見つめている、その横顔は、さながら砥がれ、磨がれた、ひとふりの刃物のようだ。
 そんなにも細く鋭く一点に集中しているというのに、緊張はしていないのがわかる。体のどこにも無駄な力が入っていない。いつもより濃い青の目は少しだけ細められ、睨んでいるのではなく、ただ真っ直ぐに、手にした剣のように真っ直ぐに、目標物を捉えている。
 その横顔を、そのスタンドを、隣に在って見上げ、アヴドゥルはただ目を奪われた。胸を掴まれる。呼吸が止まる。身動きもできない。
 薄い唇がわずかに開き、低い声が、
 「…準備が出来た。
 お前の火をくれ」
 「わかった」
 右手を延べ、捧げる。その掌の上に弾けゆらめく炎を見ないまま、ふっと息を吸った。
 いつ行動に移ったのか全く見えなかった。それほどの迅さだった。あ、と思った時には、手の上の炎はなくなっていた。戦車の剣先が先端に炎を纏い、さながら銀の矢のような軌跡を描いて、一直線に翔んだ。
 剣は幕の下すれすれの場所に見事に命中した。幕ごと後ろの壁に突き刺さり、一瞬のち朱の炎がめらめらと翻り、あっという間に幕全体をなめた。なにか生き物の悲鳴のような音をたてて幕は燃え落ちた。
 息を詰めて祭壇の上を見つめる。
 もう何も出て来ない。
 そのことを充分に確認してから、ポルナレフはそろそろと息をついた。肩が落ちる。後ろから、
 「さすがだ」
 振り返る。アヴドゥルが微笑して自分を見ていた。目に感嘆の色があった。咄嗟に「見たか、俺さまの腕前を。さあ褒め称えろ」とかなんとか言おうとしたが、正直極限まで意識を高めた直後のため、思うように口が回らず、「へっ」みたいな笑い声を上げるのが精一杯だった。
 「なるほど。戦車の剣先を飛ばすわけだな。お前の飛び道具というところか」
 「秘密のワザなんだ。…一回こっきりだしな。…あんな遠くまで、飛ばしたことねえしよ。…正直、届くかどうか、イチかバチかだったぜ」
 「届いたじゃないか」
 そしてまた微笑んだ。誇らしげなその微笑に、ポルナレフの顔が、泣きそうになり、また赤くなり、「あの、いや、」と言いかけてあさっての方を向いてしまった。
 この時、擦過音がやけにうるさくなっていることに気づいた。
 「虫のやつらがすぐそこまで登ってきてんのか?」
 「そうだな」
 ふたりして見下ろすと、壁に貼り付いた虫たちは本当にすぐそこまで来ていた。黒光りした背がキチキチ言いながら、仲間の背を乗り越えて上へ上へやってくる。上に居るふたりの人間を咬み殺すために。
 「さて、ここからはおれの出番だな」
 静かな口調だったが、言葉には力がこもっていた。これ以上増えなくなったとはいえ、今の時点でものすごい虫の量だ。ここから先は自分はただの一般人だ。こいつら全部アヴドゥルが相手をしなければならない。
 そう思うとポルナレフはやっぱり悔しくなり、口を尖らせ、
 「いいのか?足手まといになってんだけど俺。…なんなら見捨ててもいいぜ」
 そうだな、そうさせてもらうか、とか言われるかと思っていた。そうしたら何と返せばいいのやら、と思案をめぐらせた、その鼻先に指を突き付け、
 「見捨てるものか」
 そう言いながら目つきや笑い方は剣呑だった。もう意識が戦闘に向いているためかも知れない。
 「おれがお前を守ると言ったろう」
 そして、魔術師の赤を呼び出す時のような、それとも少し違う指の動かし方をし、何事かつぶやいた。それがアラビア語なのが、今のポルナレフにはわかった。なんていってんだ?ええと…炎によって、守る、広がった、纏う、鎧の?なに?
 と、アヴドゥルの手からふぁあ、と赤いケープのようなものが吹き出してきた。透けている。とても薄いヴェールのようだ。よく見るとアンクの形がいたるところに透かし編みのようになっている。
 それでポルナレフの体をくるりと包むと、肩のところでまた何事かつぶやいて手を離した。そこで布は留まって落ちない。肌寒い日に、上に一枚羽織ったパリジェンヌか、それともこの地の婦人か。しかし薄くて顔も体も見えているから、ここらへんの女たちの恰好ではない。
 「なんだ、これ」
 「炎のお守りだ」
 そして今度は魔術師の赤を呼び出す動きをし、目を閉じてから開く。黒い目に朱の輝きが映った。
 朱の鳥が声を上げ、紅蓮の炎が壁沿いの虫を炎で包み下へ叩き落した。
 「ちょっとここで待ってろ」
 そう言い置いて一足先に下へ降りたアヴドゥルめがけて虫が襲い掛かってくる。四方八方から押し寄せる虫の波を、アヴドゥルはひたすら薙ぎ払い、薙ぎ倒し、焼き払った。ものすごい熱量に見ているだけでも呼吸が苦しくなる。
 攻撃力も無論だが、ただ単に威力のある火炎放射器を振り回しているのではない。効果的に相手を燃やす技術と、最大限に威力を持続させる精神力の強さが、観ているだけでわかる。
 「すげえな、あいつ」
 呟かざるを得ない。
 一気に畳みかけた攻撃で虫は円形に大きく消え、床が見えた。アヴドゥルが見上げて、
 「今だ。降りてこい、逃げるぞ」
 「おう!」
 大急ぎで飛び降りる。スタンドは攻撃には使えないが高い位置から降りた時のクッションにはなれる。無事に着地し、ふたりは上への階段目掛けて駆けた。
 しかしまた再び虫がやってくる。アヴドゥルは一歩先に出て、虫を焼き払いながら懸命に走る。
 そのすぐ後ろを追随して走るが、左側の壁の上部から、虫が雪崩をうって降ってきた。
 「うわあ!」
 思わず悲鳴を上げた時、虫が止まった部分のヴェールが外に向かって炎を上げ、虫は弾け飛んでいった。
 「な、なに?」
 見るとその部分のアンクが白く大きく輝いている。虫が続けざまに飛びかかってきたが、その度に炎を上げ、虫を弾く。自動追撃の布を纏っているポルナレフはさすがに熱いが、耐えられないほどではない。虫に咬み裂かれるのとは比べ物にならない。
 「もう少しだ、頑張れ」
 「おうっ」
 歯を食いしばり、懸命に足を上げて走り続ける。さっきまでとは明らかに虫の量が違う。大丈夫だ。オッケーだ。地上に出られるぞ。
 自分に言い聞かせとにかく走る。と、赤いヴェールが明滅して、ファと消えてしまった。はっとして前の男を見ると、アヴドゥルがよろめいて膝をついた。
 「大丈夫か」
 「少々疲れた。だが大丈夫だ、もう」
 嗄れた声で言いながらぐいと力を入れて立ち上がり、数歩のぼると、そこは最初に降りてきた遺跡の入り口だった。
 よろよろと外に出る。時刻はまだ深夜で、頭上には満天の星が輝いている。
 「…助かった」
 へたへたと座り込む。その隣でアヴドゥルもどすんと座り、手で額の汗をぬぐった。


 SPW財団に報告を入れ、ふたりはなんとか部屋まで戻った。
 「あの布、何なんだ?虫が飛びついたら火を噴いて撃退してくれたけど」
 「DIOの館の中を探索した時、十字に浮かんだ炎の塊で、敵の位置を探っていただろう。覚えてるか」
 「ああ。生命の探知機だと言ってたな」
 「あれの、応用編だな。生体エネルギーに反応して、炎を吐く。そういう仕掛けだ」
 アヴドゥルも相当疲労困憊のようで、喋り方がゆっくりだ。椅子に座って、苦笑交じりにこちらを見ている。
 その様子を見ながら、思わず、
 「やっぱ、お前はすげえな」
 つくづくという口調で言っていた。アヴドゥルは微笑して、
 「お前もすごい」
 「付き合いみたいに誉めてくれなくてもいいぜ。お前に助けられてやっとのことで逃げられたのによ」
 「何言ってる。幕に剣先を命中させた時のお前には心底感嘆した。何度でも言う。
 お前は本当に優れたスタンド使いだ」
 「やめろって。照れんだろうが」
 顔を真っ赤にして俯く。だが本当に嬉しかった。あんなにも強いこいつが心底から褒めてくれることも、自分の力でこいつを助けられたことも。
 「お前があの幕を燃やせたから、我々は脱出できたし、お前は明日の…もう今日だな。仕事にも遅刻せずに行ける、というわけだ。数時間でも寝ておいた方がいいぞ」
 その言葉ではたと気が付いた。『仕事』と聞けば店主の顔が脳裏に浮かぶ。
 ポルナレフは躊躇したが、すぐに決心した。今しかない。
 「あのな。昼間、お前の店に、俺んとこの店主が来てんのを、遠くから見たんだ」
 アヴドゥルは「あ」という顔になった。決心がくじけそうになるのを無理やり後押しして、
 「多分、俺のことで来てたんだろ?俺のことでお前に何か頼みごとをしにきたとなると、考えられるのはひとつだよな。
 はっきり言ってくれ。俺はクビにされるんだろ?もう来るなってんだろ?」
 目をつぶってまくしたてた。
 「情けねえよな、最初っからあんなマヌケな事情でお前のとこに居候なんてよ。突然押しかけてこられて、迷惑してんだろうなってのはわかってたんだ。でもよ、…正直に言う。なんか今言うしかねえって気がするから。
 俺はお前と離れるのが寂しいと思ったんだ」
 言うしかないから言ってはみたがやはりとんでもないことを言っていると思う。ちょっと待て、やめてくれ、と言われる前に言うだけ言ってしまおうと、言葉はどんどん加速していく。
 「俺はDIOに操られてジョースター一行を狙う刺客になった。それなのに『騎士道精神のあるやつ』とか言って俺をわざわざ助けてくれやがった奴がいてよ。そいつは頑固できっちーんとしていて、口うるさくて、俺に小言ばっかり言ってよこす奴で、お節介で、出しゃばりで、でも俺のことを心底案じてくれるやつで」
 アヴドゥルの方から何かまた音が聴こえた気がしたが今は聴かなかったことにして、
 「すげぇうるせえのになんだかそいつに説教くらうのが普通になっちまって、それがもう聞けなくなるってことが、終わりだってことが果たして受け入れられるのか、わからなかった。受け入れるしかないのはわかってる。DIOを倒して旅は終わっちまった、俺は故郷に帰るより他にない。そんなの当然だし嫌がるのがおかしい。
 そう思おうとしたけどでも、やっぱり受け入れられなかった」
 ひゅーと息を吸ってまた続ける。
 「ジョースターさんが借金を肩代わりしようと言ってくれたのを跳ねつけたこと自体は、本当に覚えてねえ。それは本当だ。でも、酔っぱらった自分が何を思ってそう主張したのかは想像がつくんだ。自分がここに居る理由を手放したくなかったからだ。俺はここで弁償代を稼ぐ。そのためにこいつの部屋に住まなきゃならねえ。そういうことにしたいからだ」
 ああ、自分は本当に、そうしたかったのだ、でももう終わる。
 仕方ない。でも最後に、ふたりだけで協力し合って困難を乗り越えた。ひどい目に遭ったが、でも、
 あの旅がそうであるように、あとで思い返せばいい思い出ってやつかも知れない。
 「ごめんな。謝るよ。勝手に願望を抱いて勝手に乗り込んできて。悪かったな。勘弁しろ。大した荷物はねえから、明日か明後日には出ていくから」
 もうほとんど耳を手でふさいでわめいている。再び息継ぎのため黙ったところで、アヴドゥルの声が、
 「お前に押しかけて来られるのが本当に嫌だったら、最初から金を出してでもお前の部屋を他に借りてやっただろう」
 ポルナレフの声は止まったままだ。アヴドゥルの言葉は聞こえてはいたが、言葉の意味が理解できない。
 耳をふさいだ姿勢で目を上げ、相手を見た。相手は「耳をふさいでいる手を取れ」というジェスチャーをしている。仕方なく手を外した。
 そんなポルナレフを、やはり「仕方のない」みたいな顔で眺めて、少し黙ってから、
 「店主はな。
 『あのフランス人は本当によく働く。一生懸命言葉も覚えて、店員や客にも熱心に丁寧に挨拶するし、マナーもきちんとしている。何よりも、自分の借金がどのくらいなのかと、ただの一度も訊いてきたことがない。そんなことは気にも留めず働いている。そこが何よりも感心だ』」
 うぇっ、という顔になるポルナレフに、
 「『あと僅かで、あのフランス人が壊した分は全て返済になる。だが、わたしはこれからもあの男にうちで働いて欲しいと思っている。これからはきちんと給金も出すから、ぜひそうしてくれとあの男に伝えて欲しい。宜しく頼む』
 そう言いに来たのだ」
 呆然と見返すような、脂汗がにじんでくるような、一体どういう顔をしたらいいのかわからないような、複雑怪奇な表情でポルナレフは相手を見ている。
 「だから、お前は借金の残額を訊かれても、ごまかすしかなかったのだなとその時合点がいったが」
 「だってよ…金額を知ったら、いつ頃出ていくか、はっきりしちまうから」
 「随分と姑息な」
 「しょうがねえだろ!必死だったんだよ!」
 やぶれかぶれでわめく。
 「そう言えば、店主が帰ってった後お前、暗い顔になってたじゃねーか。てことは、あれは俺にこのまま居座られるかも知れないと思ってイヤになったんだろ」
 「違う」
 強く否定した。
 「何が違うんだ。だってそういうことじゃねーか。俺は見たんだからな」
 「勝手に盗み見ておいて勝手に人の気持ちを決めつけるな。軽薄な奴め」
 「なんだとー?」
 例によってしょうもない言い争いになっていく。お互い、こめかみに交差点をつくって、
 「じゃあどういうことなのか説明してもらおうか」
 「おれは、お前が完済の日を目指して頑張っているのだとばかり思っていたんだ!だから、お前が『そんな話をされても困る。借金がなくなったんなら、フランスへ帰る』と言うのだろうなと思って、それで気持ちが塞いだ」
 言ってからびっくりする。あの時の自分の胸の内を考えて見るとそういうことらしい。
 最初は「なんでまたこいつは、ただでさえ口喧嘩ばかりになるおれのところにわざわざ来るのだろう」と思っていた。でも、こいつが一生懸命仕事をし、家事をし、勉強している様子を見ていることが、同じ空間の中にいて生活を共にすることが、楽しくてならなかった。
 それを楽しがっているのは自分側だけだ、相手はやむを得ずやっているのだと自分を諌めて、それで暗くなったのだ。
 目を向けると、ポルナレフが口を開けてこっちを見ていた。
 えっ、もしかしてその、ひょっとして、あの、という顔だ。アヴドゥルはうーと唸り、俯き、一体どうしてこういうことになってしまったのやらと腕組みし首を傾げたがもはやどうしようもないようで、諦め、よいしょと立ち上がると、ポルナレフに対し正面を向いて、
 「ここに居ろ」
 簡潔に言った。
 ポルナレフは今度こそ目をむいて、顔は真っ赤になり、うろたえ、取り乱し、でもちょっと笑ってしまって、
 「あ。あの。もう一度言ってくれない?」
 どうせ、もう二度と言わん!とか言ってプイされるんだろうけど、と思いながらそう言った。
 それに反抗したとも思えないが、予想に反してはっきりと、
 「これからも、この部屋に居ろ」
 そう言って、これでいいかと付け加え、更に、
 「返事は?」
 今度こそ、これ以上赤くなれないほど赤くなったポルナレフは、
 「わかった」
 蚊の鳴くような声で言い、俯いて、それからちろりとアヴドゥルを見て、しばらくのち、
 「おう!」
 力いっぱい叫び、そして涙ぐんだ青い目でにっこー!と笑った。




 外から軽快な口笛が聴こえてくる。続いてドアが開いて、
 「帰ったぜ!」
 ポルナレフが元気いっぱいで帰って来た。アヴドゥルは微笑して、
 「お帰り」
 「いやー今日すっころんで皿割っちまって、給料から引かれちまったぜチクショー」
 「元気いっぱい帰ってきてそれか」
 「あっと思った瞬間にツルーッと行っちまってよ。あっちょっと待ってろ、今夕飯作るからな!」
 わめきながらキッチンへ行った、と思ったらドバシャーと水音がする。全く持ってけたたましい。
 あの日ポルナレフはいつものように出勤した。その前に、アヴドゥルに必死になって教わった言葉を、一生懸命頭からこぼれないように気をつけて店までたどり着き、
 「あなたの伝言を、同居人から聞きました。どうもありがとう。とても嬉しかったです。
 喜んでお受けします、これからも宜しくお願いします」
 そこまで気合で言い切り、これでいい筈だ…と思いながら相手の顔を凝視した。店主はむっつりした顔の、口元の、端っこの端っこだけ一瞬微笑み、またむっつりに戻った。
 「なんでニコッてしねぇんだろうな?こっちの人間は笑うと逮捕されるとかあんのか?」
 「ある訳ないだろう」
 呆れて言う。
 「だよな?あの店主だけだよな。そういう主義なのかな。なんだろうな…笑わないダイエットとか、笑わない節約法とか」
 この男はどこまで本気で言ってるんだと思いながら夕飯を頬張り、
 「うまいな」
 思わず言ってしまって、相手を得意満面にさせてしまい、しまったと思う。
 「言うまいと思うのに、つい言ってしまうんだ」
 「そりゃ心から思ってるからだろ!言うまいとか思わないでどんどん言えよ!ケチだな」
 大喜びで言いながら肩をバシバシ叩いてくる。
 「痛いぞ」
 「痛くない痛くない」
 「何を勝手なことを言ってる」
 片方は満面の笑顔、もう片方は苦笑いでその後も話をし、食事を終え、洗い物を終えて、手を拭きながら部屋に戻り、
 「なあ」
 「なんだ」
 「今の俺はよ、その…なんだ。お前の、同居人なわけだよな」
 顔を見るとなにやら緊張し、目があちこちさまよっている。
 何を言うのやらと思いながら、まあそのことは間違いないから、
 「そうだな」
 肯定した。それにホッとした顔になって、よし!と顔を上げ、
 「俺もめでたく給料をもらう身分になったしよ、家賃を入れるぜ」
 「いや、それは…」
 「入れる!これで対等ってもんだろ?もう居候なんて言わせねえからな!」
 ついさっきまで緊張していたくせに、今ではすっかり威張りかえっている。その様子が可笑しくてつい笑ってしまい、ああわかったと言った。
 「よし。じゃあ、生活上のルールは俺さまも参加して考えていこうじゃねえか。たとえば、毎回の食後には必ずアイスクリームを食べるとか」
 「なんだそれは」
 「いやなのかよ」
 「いやではないが」
 「ならいいじゃねえか。あとな、毎晩、じゃんけんして負けた方が勝った方の」
 「おい、ちょっと待て」
 「なんだよ。俺は同居人なんだからな。いいんだ。ルール改定に口出しする権利があるんだから」
 片手を顔に当てて俯く。ずっとここに居ていいとなった途端に元気いっぱいで図々しくなっていく男に、呆れるやら参るやらで、出るのはため息ばかりだ。
 その様子を眺めながら、
 「これからお前はずーっとうまい飯が食えるんだぜ、デザート付で!すっごく嬉しいだろ?」
 厚かましく言って覗き込むと、顔を覆った手の下で唇が苦笑のかたちになり、
 「嬉しくて涙が出る」
 そう言ったのが聞こえた。

[UP:2014/11/18]

 ポルナレフの剣先飛ばしはこんなに飛ばないと思いますがご勘弁ください。
 勝手にアヴドゥルのワザをこさえてしまいました。すみません。
 完全に友情の範囲をはみ出してますが、許されて。えへへ。

 アヴさんがもっとおとなで、ポルナレフをいなしてる感じを想定して打っていたのですが、進むうちにだんだん違ってきちゃった。
 最後の辺りで、「愛してるぜ、おっと相手が男の時の接尾代名詞は違ったな」的な話をさせようかと思いましたが、そこまでいくと行きすぎかなーと思ってやめました。やめなきゃよかったか
 何回か言いましたが、私は外人の暮らしというものが全くわからないので、どうしても嘘くさくなってしまうのが情けないですが、このふたりの組み合わせもとても好きなので、情けないと言いつつまた話を打ちたいと思います。



ジョジョのページへ