不思議ドロップス


 承太郎の家は地元で有名だ。
 無論、市民全員が知っているというわけではないが、承太郎が通う高校に子供を行かせている父兄は全員知っている。承太郎自身がいろいろな意味で有名で、かつその家がまた旧家然とした大豪邸であるためだ。ついでに、承太郎の母親が金髪の外人で性格が人なつっこくおっちょこちょいで、時々洗濯物が風に飛ばされたのを追ってずいぶん遠くまで走って行ったり、頭にカーラーを巻いたままスーパーに買い物に来たりしていることも、なんとなく知れ渡っている。
 だからと言って、わざわざ見に来る人間は居ない。「ここがJOJOの家よ」「今は居ないのかしら」とか言ってる女子高生がたまに居るくらいだ。
 そんなある日、空条家の屋敷に、ちょっと奇妙な来訪者がやってきた。

 「じゃあ、ちょっと行ってくるわね承太郎」
 ホリィが玄関でくるりと振り返って、花のような笑顔を見せた。つばのひろい白い帽子、藤色の大きな旅行バッグ、淡い色の花柄が散ったシフォンのワンピースがとてもよく映える。歳より確実に10は若く見えるのは、表情の明るい素直さと、目の輝きのためだろう。とても、承太郎のようなでかい息子がいるようには思えない。
 いろいろな意味ででかい息子は、可憐な母の姿などどうでもいい顔で、それでも見送りに出てきた。
 「うふふ、ママが居なくなると寂しい?大丈夫よ、5日なんてあっという間だから。お土産を沢山買って帰ってくるわね。いい子で待ってるのよ」
 「別段、寂しくはねえ」
 「まあ。承太郎ったら、強がっちゃって。可愛いんだから。チュッ」
 「やめろ!何なんだてめーは」
 ホリィはころころと笑って、手を振ってから、今迎えに来た友人のでっかい車に向かって走っていった。
 やれやれだぜ、とぐったり疲れてから、台所に戻り、自分が使った朝食の皿を洗った。今日の授業は…まあ別にさぼってもいいのだが、母親を見送るためだなんだで起きて、朝食をとってしまったので、なんとなく行くのが順当かな、という気分になっている。
 ぺちゃんこの学生カバンにいつものいでたちで、承太郎は道に出た。たちまち女子が寄ってくる。
 「お早うJOJO」
 「今日は学校に行くのね。嬉しいっ」
 「一緒に行きましょうよ」
 相手なんか一切してやらないのだがなぜか皆嬉々としてまとわりついて離れない。母親といっしょだ。
 やがて長い石の階段が見えてきた。それと一緒に、見慣れた後ろ姿も見えてきた。本か何か、めくりながら石段を下りている。
 「よう」
 声をかける。振り返った白い顔が驚いていたのがすぐになんだ、という表情になって、最後はにこりと笑い、
 「おはよう。承太郎」
 「階段で何かに気をとられると、下まで転がり落ちるぜ」
 二人の出会いになぞらえたようなことを言う。花京院の苦笑した顔を見ると、どうやらそのことを思い出しているようだ。
 「そうだな。気をつけよう。石段を下りる途中で不意に変なやつに襲われないとも限らないから」
 「その通りだ」
 今度はちぇっという顔になった。
 読んでいた文庫本をかばんにしまいながら、
 「今日は学校に行くのか」
 「どいつもこいつも、俺の顔を見りゃそればっかりだな」
 後ろできゃっきゃというはしゃいだ声が聞こえた。
 「そりゃ、君のいつもの行いがものを言ってるんでしょう」
 ねえ?というように後ろを見やると、女子らはこくこくと頷いて、またきゃっきゃと笑った。
 周り中おんな子供に囲まれている気分で、承太郎は顔に縦線を入れている。
 教室に入って、ふと、
 「今日は土曜か」
 「そう」
 そんなことも忘れてしまったのかこの不良は、とでも言いたげな顔の相手に、
 「今夜泊まりに来ねーか。おふくろが旅行に行ったんだ」
 「行きます」
 即決で承諾し、
 「僕の秘蔵のビデオを持っていきますよ。言っておきますがエッチなやつではありません。期待してがっかりしましたか?」
 「馬鹿か、お前は」
 呆れているのが本当なのか、エッチなやつでなくてがっかりなのを隠しているのかは、花京院にはわからなかった。なにしろ、ダービィー兄弟に勝った男だからな。僕なんかに表情の裏を読めるはずがない、と人形にされた男は思った。

 帰り道、とあるT字路で、
 「では僕は一旦家に帰って、泊まる準備をして君の家に行きます。えー…」
 ちょっと考えてから、
 「ダラダラ食べるたぐいのジャンク菓子はどうします。僕が買って持っていきますか」
 「お前が来たら一緒に買い出しに行く」
 なにかお目当てのものがあるんだな、と花京院はちょっとおかしくなった。
 「また後で」
 片手を上げ花京院は自分の家に向かった。
 承太郎は豪邸の我が家に帰り、玄関から大分遠い自室にたどり着くとカバンを放って、ちょっと考えてから風呂に行き、浴槽を洗って水を溜め、また部屋に戻ったその時、チャイムが鳴った。
 「もう来たのか」
 言いながら再び玄関に向かって延々のびる通路を歩みつつ、「入れ」と怒鳴った。しかし返事はない。
 (花京院のやつじゃないのか?)
 やっと玄関まで来てみたが誰もいない。しかし扉は開いている。
 外まで出てみたが、やはり居ない。逃げ去る背も見えない。
 よほど素早い奴がピンポンダッシュしたのか?と考えてみて、バカバカしいがそのくらいしか思いつかない。
 むっとした顔で数秒突っ立ってからくるりと背を向け、屋内に戻った。その時点で、さっきまでなかったものに気がついた。
 下駄箱の上に、奇妙な物がおいてある。
 ガラスの壜だ。赤いフタがしてある。中身は、丸く小さなキャンディかガムかグミのようだ。赤と青の2種類だけがぎっしり入っている。
 よく市販の菓子に貼ってある、製品についての説明のシールのたぐいはなにも貼っていない。日本製かどうかもわからない。
 しかし、見ているととにかく、
 『うまそうだな』
 と思う。赤はイチゴ味だろうか。だったら青はなんだろう。緑ならメロン、黄色ならレモンだろうが。
 ふっと、口に入れて味わってみたくなるが、もちろん承太郎はそうはしなかった。いつの間にか匿名の誰ぞがそっと置いていった代物を、そうそう食べる気にはならない。
 このまま置いておいて、帰ってきたホリィが「あら、きれい」なんて言って食べてしまったらまずいから、その前にゴミにしてしまった方がいいだろう。
 その時、承太郎の脳裏で、さっき水を溜め始めた浴槽のことが思い出された。水道の蛇口は全開にしていた筈だ。
 「溢れたか」
 その場を離れ、ちょっと早足で浴室に向かった。承太郎の姿が廊下の角を曲がった数秒後、開けっ放しの玄関にひょいと花京院の姿があらわれた。
 「こんにちは。お邪魔するよ」
 靴を脱ぎながらふと見た下駄箱の上に、きれいなキャンディの壜がのっている。
 「宝石みたいだな」
 独り言を言いながら手に取る。赤いフタを取ると、ポンと心地良い音がした。
 ころころと転がり出たいくつかの粒が手のひらの上で光を返す。
 「赤はイチゴで、青は何だろう」
 呟いて、口にほうった。
 実際、花京院がやることではない。およそ今までの17年間、ひとさまの家に訪れてそこにあった菓子を食うなんてことをする人間ではなかった。
 そんなことをするほど心を許したマブダチが出来たということは、親御さんが知ったら感涙にむせぶところであって、決して「盗み食いするなんて、下品な」と非難などはしないだろう。
 しかし、その行為の結果として、花京院の思いもよらないような形でバチがあたった。

 「ギリギリ間に合ったが」
 湯船に水を溜めていた蛇口を閉めたが、もうフチまでいっぱいだ。
 「溢れたのとほぼ同じだな」
 呟いて、承太郎は風呂から出て戸を閉め、そういえば玄関の戸が開けっ放しだったと思った。まあどうせ花京院がそろそろ来るからそのままでもいいか、とも同時に思ったが、とりあえず玄関に戻った。そして、
 そこに、見知らぬ子供が居るのをみとめて、声をかけた。
 「おい。何だ」
 子供はあっけにとられた顔で承太郎を見た。視線が合った瞬間、俺はこいつを知っていると思った。いや、改めて見直すと、知らない子供だ。茶色い髪に白い肌、大きな目の色も薄く、女の子みたいな顔をしている。どういうわけなのかやたら大きな服を着ているので、華奢な肩が片方出ている。下半身はズボンにうもれている。
 やはり知らない。しかし、確かに知っている。
 その思いは、子供の耳に揺れるピアスを見た時確定した。
 「花京院か?」
 「そうです」
 子供は返事をした。やけに甲高い、言うなれば子供の声であった。
 承太郎はしばし黙ったまま目の前の子供を眺め、なんだかこれに似たことが以前あったのを思い出した。
 「…そいつの影に触ると」
 「子供にされるスタンドですか。後からポルナレフに聞きました」
 子供ははきはきと言った。と、服が肩から更にずるりと下がった。
 「そういう能力の奴にやられたのか?」
 「違います。と、思います。僕が小さくなったのは、おそらく」
 伸び上がって下駄箱の上の壜を示し、
 「これのせいでしょう」
 「なんだと」
 ばっと手をのばし壜を取る。ころり、と中で転がった粒を見ると、確かにさっきより減っているようだ。
 「お前食ったのか、これを」
 「ええ。きれいだなと思って」
 悪びれもせずすらっと言われて承太郎がちょっと斜め上に反り返った。
 「それは何ですか」
 「姿を見せない野郎がいつの間にか置いていったしろものだ。おふくろが間違って食わねえうちに処分しようと思っていたんだが、その前にお前に食われた」
 「がっつくもんじゃありませんね」
 またもやすらっと言われてがくーとなった。怒りたいところだが、被害を受けたのがそいつ自身なので文句のもっていきどころがない。
 「これを食ったら、縮んだのか?」
 「ええと」
 子供はちょっと思案してから、
 「フタをとって、こう、壜を傾けたんだ。中から赤と青のキャンディがいくつか出てきて、それをぽいと全部口に入れました。そうしたら」
 子供の目がきゅっと見開かれて、
 「自分の身に起こったことをありのまま言いますとね、まず大人になったんです」
 「なに?」
 「年をとったんですよ。ちょうど10年後くらいの感じでした。偶然、そこの鏡を見ていましてね」
 子供が優雅に示した先には姿見がかかっていた。
 「びっくりしているうちにまたもとの年に戻って、また年をとって、また戻って、そして今度はもっと小さくなったんです。そこで止まりました」
 今の相手は、おそらく、小学校一年生くらいだろう。つまり、7歳だ。
 「10年前のお前ってことだな」
 「そうですね」
 承太郎はキャンディの壜をとって、少しの間ながめていたが、
 「信じられねーが、この飴には食った奴の年齢を上げ下げする力があるようだ」
 「はい」
 「お前、食った飴の赤と青の内訳を覚えてるか」
 「それがね。さっきから思い出そうと努力しているんですが」
 子供は肩をすくめた。そのためまたもや肩が出た。
 「思い出せません。肉体が幼くなったので記憶まで曖昧になってきたのか、もともと注意を払っていなかったのか」
 「両方だろうぜ」
 ったく、とでも言いたげにうなり声を上げた。
 「一か八かでどっちか食ってみるか。だめだな。もしその色が縮む方だったら、どういうことになるかわからねえからな」
 「7引く10はマイナス3ですね。消滅するんだろうか。それとも受精卵のところで止まるのかな」
 どうしても落ちる肩を直しながら子供がそんなことを言う。
 「仕方ねえ」
 そう言って承太郎は無造作に青い方をつまみ上げた。
 「えっ」
 子供は仰天し、数秒かたまっていたが、承太郎が口に入れようとした時にばっと飛び上がって、その手にぶら下がった。承太郎は驚いた顔で、ぶらーんと子供をぶら下げて立っていたが、やがて手を下におろした。子供の足も床についた。
 「なんだ」
 「やめてください。危険です。君まで伸びるか縮むかします」
 「だからこそ食ってみるんだろうが。俺で実験するしかねえだろう」
 「ええっ」
 「おそらく、年齢の上下しか起こらねえだろう。いいからどけ」
 子供は気を揉んでいる様子で数歩下がったが、
 「ひとつ、君に言えることは」
 承太郎は子供を見た。なんだろうという顔をしている。
 「青はソーダ味でした」
 承太郎はしばらくあってから、
 「ありがたい助言に感謝するぜ」
 無表情に言って、青い方をあらためて口にぽいと入れた。むぐむぐと口の中で感触を確かめる。
 ソフトキャンディというのだろうか。ちょっと柔らかく、確かにソーダ味だ。
 緊張して自分を見つめている子供と目を合わせた時、ごくりと飲み込んだ。
 その途端だった。自分の中に今まで感じたことのない変化が起きているのを感じる。暑いとか寒いとか痛いとか痒いとか、具体的な表現が出来ない。無理に言うなら、自分の体の細胞がひとつひとつ取り出され、組み直されていくような感じとでもいうのだろうか。
 組み上がるのには数秒しかかからなかった。思わず閉じていた目を開くと、
 特にこれまでと違って見えるものはなかった。縮んだ花京院は相変わらずの子供の顔でこちらを見上げている。見えるものの角度が違っているということもなかった。と、いうことは。
 姿見を見る。そこには、家を出かける時にこの姿見の中に見える自分の姿と、基本的にあまり違っていない男が映っていた。身長も数センチほど違うかどうか、体格も同じくらいだ。学ランもぱつんぱつんやガフガフではない。
 顔の造作も大きく変化してはいない、しかし、確かに違う。言うなれば大人の男の顔をしている。30も近い頃だろうか。確かに『いい大人が、長ランを着ている』といった様子になっている。
 子供はぽかんとした表情をしていたが、やがてパァと目を輝かせ、
 「かっこいいですねえ、承太郎!」
 はしゃぎだした。飛び跳ねている。
 そばまでやってきて、ほれぼれと見上げてから、
 「僕のことをたかいたかいしてください」
 「なんだと?」
 「いいからはやくはやく」
 なんとなく、相手の物言いが、歳にふさわしい幼いものになってきている気がして、
 「まずいな。多分まじめに、肉体の年齢に精神年齢が合ってきたんだろうな」
 「まじめぶってないで、さっさとすればいい。なんて」
 「何言ってんだ、お前は」
 シブシブと相手の脇の下に手を入れ、ほいほいとやってやると、もう大喜びではしゃいでいる。もうキャイキャイ喜んでいる。
 「肉体の年齢より精神の方が幼くなってないか」
 「僕は子供の頃から孤独だったので、心から甘えられる大人も居なかった、その反動じゃないでしょうか」
 「本当に幼くなってるのか?」
 「なってます」
 「もういいからそろそろ飴を食え。俺が青を食って10歳老けたんだから、お前も青を食えばいいんだな」
 青い飴を一つ取り、小さい手に渡してやる。自分は赤いのを取った。
 なんとなく目線を合わせ、せーので口に入れる。むぐむぐ、ごくり、とやった数秒後、
 「わわわ」
 承太郎に比べて花京院の変化は派手だ。見る間に背が伸び、落ちていた肩がはまって、ズボンが伸び、顔も伸びた。
 一回、目を閉じて開くと、いつも見慣れている相手がそこに居て、何もかも嘘だったようだが、さっきより数粒減ったキャンディの壜は相変わらずそこにあった。
 「いったいこれはなんですかね」
 「肉体年齢を上げ下げする飴だろう」
 「それはもちろんそうですが」
 不毛な会話をして、しばし黙って突っ立っているところに、
 『すみません』
 風のようにかすかな声がした。
 花京院は、あれ今誰か何かいったぞという顔になって目だけで辺りを探し、承太郎は「誰だ」と言った。
 玄関の外からひょいと顔を見せたのは、なにやら白いドレープひらひらの、古代ローマ帝国を思わせる衣装に身を包んだ、貧相なオヤジだった。痩せこけていておつむのてっぺんにはヒヨヒヨとした毛がたなびいている。
 「なんだお前は」
 目をしょぼしょぼさせたオヤジは申し訳なさそうに、
 『実はわたくし、天使でございまして』
 「天使?」
 『実はそのキャンディを持ってきたのはわたくしなのでございます』
 二人の目が壜とオヤジを見比べた。
 「どういうことだ」
 『実はこの一本向こうの通りの、同じ角地に、渡さんというおうちがありまして、半月ほど前にそこのご婦人が亡くなられたのです』
 「ああ…」
 思い当たることがあったのだろう、承太郎が合点のいった声を出した。ホリィが目に涙を浮かべて、
   お気の毒ね。まだ小さいお子さんを三人残して。
 赤くなった鼻をぐすぐす言わせ、
   どんなにか心残りかしら。お子さんたちのことが心配でジョウブツできないでしょうね。
 そう言ってからハナをかんだ。
 (あの家か)
 『亡くなったご婦人は天国に来て、神様に訴えたのです。あの子たちの側にいて助けてやりたいがそれは出来ない。せめてあの子たちを助ける道具を渡してやりたいと』
 オヤジは自分で言って自分でうんうんとうなずいた。
 『神様も気の毒に思ったのと、そのご婦人の魂がとてもきれいなことに免じて、それを渡してやるようにとおっしゃいました』
 キャンディの壜を示した。
 『一粒で10、歳をとったり若返ったりするほかに、半分や三分の一といった変則的な食べ方をすると、動物になることも可能です。ただキャンディを摂取できる動物になることをお勧めしますがね。胎児にまで戻れば敵の目から隠れることも可能です。その後青い飴を溶かした水に入れてやらないといけませんが』
 そこまで得意げにしゃべってから、急に肩をすぼめて、
 『で、わたくしがところ番地を聞いて届けに来たのですが、道を一本間違えてしまいまして、こちらに置いていってしまったのです』
 どうもどうも申し訳ありませんとふかぶか頭を下げた。ホワホワの毛が風にたなびいた。
 承太郎と花京院はそれぞれの表情でオヤジの頭部を眺めていたが、オヤジが頭を上げたタイミングで、各々、
 「黙ってこれだけ置いていって使い方がわかるか」
 「すごい飴だけど、親を亡くした子供三人の助けに果たしてなりますかね」
 オヤジは再度しぼんで、わたくしとしましてはその…上から言われたことをその、守るだけでして。あの。
 ごにょごにょ言っていたが、がばと顔を上げ、
 『渡さまのお宅には新しいものをお届けします。あ、使い方も書いておきます。その壜はお詫びに差し上げますので、どうぞお使い下さい』
 一気に言ってバタバタと外に出ていってしまった。
 「おい、待て」
 承太郎が後を追ったがさっきと同じく、影も形もなく消え失せてしまった。
 「一体」
 「どこからどこまでを信じればいいのか」
 花京院が呟いてキャンディの壜をちょっと振った。中で宝石のような粒がころころと転がった。
 「でもまあ、効き目だけは信じるしかなさそうだ」
 さっきまでは捨てようと思っていた承太郎だが、
 「下手にゴミとして捨てるわけにもいかねーな。どこでどんな生き物が食うかわからねえ」
 「燃やしたり流したりもやめた方がいいと思う。成分が消えないで大気中や水道水の中に混ざるかも知れない」
 うーむ。と思案してから、
 「とりあえず、俺の机にでもしまっておく」
 「そうですね。ホリィさんに見つからないように」
 「ああ」
 承太郎は壜をつかむとその足で自分の部屋に行った。戻ってきて、
 「買い物に行こうぜ」
 「うん」
 それからは何故だか、あの飴については何も触れず、関係のない話をしながら道に出た。
 相づちを打ちながらふと花京院は、
 『でも、どうにかして、ホリィさんや遊びに来たジョースターさんがあの飴を食べてしまう事態になりそうな気がする。何故って…そういう星まわりだからとしか言いようがないけど』
 そんな予感がした。

[UP:2012/06/07]


 以前、対アレッシー戦が花京院だったらという話を書いたことがありました。
 その話自体はもっと殺伐としていて、小さくなった花京院が変態おにいさんにいたぶられるあまり趣味のよくない話でしたが(別にヘンな方面でいたぶられてはいません/笑)花京院が小さくなって承太郎はオトナというのはなんかいいな、と思った訳で、メルモちゃんのキャンディにしてみました。知らない人の方が多いかなあ。
 キャンディの味はでたらめです。本気にしないで下さい。


ジョジョのページへ