花京院が最初にその子に気付いたのは、転校先のクラスにやってきて、周囲が「今度の転校生、JOJOに対してビッグな態度だが、あの見た目にびびらないのか」から「おいおい転校生がJOJOの親友になってしまったぞ。びっくり」を経て「まあ、いいか」で落ち着いた頃だった。
その日の放課後も花京院はノートを整理しながら隣りの席の、というか一番端の一番後ろ、寝るにしてもよそ見をするにしても授業中に内職するにしてもエッチ本を読むにしても一番いい席にでーんと座っている、彼のでかい友人と喋っていた。
「そろそろ、どこの大学に行くだのという話は出ますか。ホリィさんと」
「してねえな」
「まあ君ならどこへでも入れるでしょうけどね。どちらの面でも」
「どちらって、どっちとどっちだ」
「頭と、お金」
花京院ははぁとわざとらしく息をついて、
「うちはしがないサラリーマンなのでそうそう遠方の私大などには行けません。となるとおのずと決まってくることも多く」
承太郎が眉間にしわをよせて、
「だがお前、エジプトに家族そろって旅行しててDIOに遭ったんだろう。エジプト旅行はそんなに貧乏人じゃ行けねーだろうが」
花京院は心臓を押さえて、
「まさかその名前を突然出されるとは思わなかった…あれはね、世界フシギ発見!にハガキを出したら当たったんです」
「本当か」
本当かと訊きながら思いっきり疑っている。はい、とすまして、
「黒柳さんが全問パーフェクト出しましてね。そのお陰というかそのせいでというか、僕らはエジプトに行きました」
「だが、その前にもヨーロッパに行ったと言わなかったか」
「それはアタック!25で当たりました」
「あれは回答者が行くんだろう」
「そうだっけ」
「確かそうだ」
とか言いながら二人共ちょっと自信がない。
「まあとにかく、あまり家計を逼迫させないように考慮して、行く先の大学を、…そろそろ君の誕生日だな」
突然話が変わって戸惑う。承太郎の眉が少しだけ上がった。
「時節柄、2月は大変そうだな」
「何がだ」
「プレゼントがさ。君への。チョコレートだの、手編みのマフラーだの、山のように来るんだろう」
承太郎がシブい顔になったので花京院は面白そうに笑い、やっぱりねとうなずいた。
「当日はリヤカーですか。乗せてください」
やかましい、と言われながらノートを閉じ、カバンに入れて、行こうかと言って立ち上がった。その時、
(ん?)
教室の後ろのドアから、こっちをじっと見ている人物が居て、一瞬目が合った。
が、次の瞬間にはぱっと身を翻して走り去ってしまった。ぱたぱたという靴音が廊下に反響しながら遠ざかっていくのが聞こえた。
(誰だろう)
法皇で後を追えばわかるが、あまり不用意にスタンドを発現させるのも考えものだし、それに。
ドアの陰からそっとこっちを見ている人間なら、花京院の周りにはいくらでもいた。過去から現在にかけてあまりにも、いくらもいるので、今更『僕はそっと見つめられるような男じゃない』などと謙遜するつもりはなかったが、
「この学校には、中等部というのはあったかな?」
突然突拍子もない質問をされた承太郎は怪訝な顔になったが、
「ない」
簡潔に答えた。
「そのくらいの歳かなと思ったんだが」
「誰が」
「今、そこから僕を見ている子が居たんだ」
少し離れた席で喋っていた女子がこっちを見て、
「典明君を見に来る子ならいくらでもいるじゃん」
「そう、そう。あたしたちホントによそのクラスの女子に羨ましがられてるのよ。JOJOや花京院君と同じクラスなんてッ!て」
その金切り声の真似に女子たちは笑った。
「でも、だから…中学生くらいだったし」
「中学生だって居るわよー、根性出して見に来る子は」
「そうそう。おねえちゃんに忘れ物届けにきたんです。とか言ってさ」
「で、でも」
花京院は困った顔で、
「多分今の子は学生服を着ていたから、男だと」
女子たちは更に高い声で、
「男の子だってかっこいい上級生には憧れるのよ」
「そうよー。花京院先輩の姿が見たくてわざわざやってきたのよ、切ない!」
「おにいさま!」
キャー、と喜んでいる。呆れるような途方に暮れるような気分でそれらを眺めた花京院に、いい加減にしてもう行くぞと声をかけてから、
「過去に見たことのある奴か」
「違うと思う」
「ふん」
承太郎はちょっと考えたがそれ以上何もわからないからだろう、話題を変えて、
「この前お前が言ってたレコードを売ってる中古屋があったぞ」
「えっ!本当に」
「ちっと遠いが、日曜にでも行ってみるか?」
「勿論」
花京院もウキウキソワソワですぐに謎の学ラン中学生のことは忘れた。
日曜日にくだんの中古レコード屋に行き、探していた盤を手に入れて大喜びの花京院と承太郎は、近くのこじゃれた店で遅い昼食にした。
「他の季節だとオープンテラスなんだけどね」
「ちっと無理があるな」
空は青いがちらほらと雪が舞っている。今日は特に気温が低いようで、雪は地面に落ちてもとけずに風で舞い上がるのが見える。
紅茶を一口飲んでからさっき買ったレコードを、なぜかちょっと笑いながら承太郎に改めて示した。まあ半笑いはこれのためだろうと思われる名前が書いてある。
『Michel Polnareff』
「昔、日本で大人気だったらしいですね」
「いるな。何故か、日本で集中的に人気になる外人が」
「アラン・ドロンとかね」
「日本人好きのするタイプというのがあるんだろう」
そうだねと言ってから、ピーオーエルエヌとその綴りを口の中で言い、
「珍しい苗字なのかな?日本で言う…鈴木や佐藤ではないだろうな。…空条や花京院くらい珍しいんだろうか」
「さあな」
花京院は色あせたジャケットの、でっかいサングラスをかけた写真を眺めて、
「別に似てはいないな、ポルナレフと。やっぱり親戚ではなかったのか」
あまりにも当たり前のことを言った。承太郎は不本意だがちょっと笑ってしまった。
ふと見ると表の通りに、同じクラスの女子がいて、こっちを見て「わあ〜!」という顔をしている。口の形が、「じょじょと」「かきょーいんくん」「のりあきくん」のあたりでぱくぱくしていて、何を言っているのかは想像がつく。
明日学校でさぞかしうるさいことだろう。うんざりしながら承太郎はただ肩をそびやかし、花京院は愛想よく笑いかけちょっと手を振った。キャ〜!という歓声がガラスに隔てられて小さく聞こえた。
「やめろ。お前がいちいち相手するからギャーギャーうるさくてかなわねー」
「僕は底の浅いフェミニストなので」
「なんだそれは」
それからちょっと話をして、「じゃあこの『愛の休日』『忘れじのグローリア』を是非聴いてくれ!」という流れになり、承太郎の家に行くことになった。立ち上がりながら、
「あ」
思わず声を出した。
先刻、クラスの女子が立って手を振っていた場所に、先日見かけた中学生らしき男の子が立っていて、こっちをじっと見ていた。
花京院と目が合った途端ぱっと走り出し、すぐに見えなくなったが、今度はこの前よりももう少しちゃんと相手の姿が見えた。
着ていたのは間違いなく学生服で、背は160に足りない、小柄だ。頭は一言でいうなら「おかっぱ」だ。あまり現代日本の男子中学生がしない髪型だ。
顔はその古風な、太夫のお稚児さんチックな髪型にふさわしく、色白で小さくちんまりした上品な顔立ちで、それこそ日本人形のような雰囲気があった。
じぃっと自分を見ていたその目が、自分に見返された瞬間びくりと大きくなった、その顔も覚えている。ひどく思いつめた様子だった。
「なんだ?」
後ろから声をかけられ、
「この前教室で見かけた子がそこに立っていた」
「ああ」
承太郎も思い出し、
「また逃げたのか」
「そう。目が合った途端に」
「一度、法皇で」
言いかけてから、「やめた方がいいな。もしかしたら、お前のスタンドに追わせようってハラかも知れねえ」
「そこを待ち構えていて法皇をふんじばって、この能力を他人にばらされたくなかったら自分の家来になれとでも言うんですか。そんなハラ黒いスタンド使いなのか、あの子」
知るか。何を勝手に展開してやがると言い先に立っていった。
あの子はハラ黒いスタンド使いで、僕に法皇で追わせるために逃げているのだろうか。それとも僕におにいさまになって欲しくて、遠くからもじもじと見つめているのだろうか。
「前者も困るが、後者も困る」
思わず独り言を呟いて、承太郎に続いてレジを済ますと外に出た。もうあの子の姿はどこにも見えない。ぶつぶつと、続けて、
「おにいさまになってほしいなら、僕より承太郎の方が向いているし」
「気色の悪いことを言うと、はりたおすぞ」
聞こえていないと思っていたら聞こえていたらしい。
承太郎の家に着くと、満面の笑顔で空条ホリィが迎えてくれた。
「あら、いいわねえ。私も昔聴いたわ、フレンチポップス。私にも後で聴かせてくれるかしら」
「録音して置いていきますよ」
「嬉しいわ!」
胸の前で手を合わせ肩をよせて「キャッ」という仕草をする。いい歳して…という顔の承太郎に、
「ホリィさんだと、無理なく見られますよ」
見られるという単語にウケながらもホリィは素直にありがとうと言ってから、
「あ。そうそう、花京院くん」
「なんでしょう」
「あと数日でバレンタインデーだから。はい、これ」
そう言って、ひらべったい箱を差し出した。
「えっ」
びっくりしてから、
「僕にですか。どうもすみません、わざわざ」
「いいのよ、喜んでもらえれば嬉しいの」
受け取ってみると大きさの割りに軽いし、チョコレートではなさそうだ。
プレゼントは、日本ではありがたくおしいただいて自宅まで持って帰り開ける。何ヶ国かの外国では、その場で開ける。
インターナショナルな母子を交互に見比べて、この場合どうしたもんだろうと思ってから、
「あけていいですか」
「もちろんよ」
「じゃ」
丁寧に箱を開けると、そこにはびっくりするような柄のスカーフというかネッカチーフというか、巨大なハンカチというか、が入っていた。
黄色とピンクと緑色の縞模様に、金の星が飛んでいる。
「これはこれは」
わあステキだ嬉しい、と紋切り型に喜べないでいる花京院の横から、
「目がチカチカするな」
承太郎が正直なコメントをつけた。ホリィは素直にうなずいて、
「ちょっと大胆な感じだけれど。でも見た時に『これは花京院くんだわ』って思ったのよ」
「そ。そうですか」
「そうなのよ」
ホリィは熱のこもった口調で、
「花京院くんならきっと使いこなせると思うの。こう、60年代のアイドル的な感じで。ヒデキー!ノリアキー!みたいな」
「…頑張ってみます」
「そうだ、これを身に付けてキメた姿を見せに来てくれる?ぜひ見たいわ」
えっという悲鳴のような声の後、
「わ。かりました」
「約束よ」
「…はい」
うめくように言って、箱の蓋をしめた。
「とは言っても、そうそう首に巻いて歩けねえな、そいつは」
承太郎が部屋で顎をしゃくる。カバンの上にもらった箱が置いてある。花京院は「そんなことはないよ」と言ったが、
「じゃあやってみろ。可哀想にどうしたんだ、と言われるのが関の山だぞ」
ずばり言われてううむとうなる。
(確かに、これを見た瞬間に『これは花京院くんだ』と思ったって、一体僕はホリィさんになんだと思われているのだろう)
「まあ、そいつを首に巻いた上で着られる服は、白一色のジャンプスーツくらいだな」
「しかも、各部にフリンジのついたやつだ」
思わず補足説明をしてしまった。承太郎はわかってんじゃねえかと言ってうなずいた。
「それに底の厚いブーツ履いてうちに来い。おふくろは大喜びだ」
「ううーむ」
やはりうなってしまう。
「ホリィさんを喜ばせるために、僕の世間は大分狭くなるな」
最後には正直になった花京院に、ちょっと気の毒になったのか、
「いいから黙ってもらっときゃいいだろう」
「いや、でも、身につけた姿を見せると約束してしまった」
「今巻いて見せてやりゃいい」
「多分ホリィさんが望んでいるのはそういうものではないと思います」
好きにしろといいたくなったが、花京院が悩んでいる原因を作ったのは自分の母親だ、という負い目があり、
「白いジャンプスーツを用意してうちに来い。ここで着替えて、見せてやれ」
ありがたいようなありがたくないようなアイディアを出した。
バレンタインデーがやってきた。
花京院はため息をついて紙袋をゆすりあげ、登校した。中には真っ白いジャンプスーツとロンドンブーツが入っている。
今日の帰りに承太郎宅に寄ってお披露目するのだ。もう諦めはついているが楽しみなわけではない事に変わりもない。
下駄箱で靴を履き替えようとして、あれと思う。手紙が入っている。
頭の九割は、ラブなレターだろうと思いながら手に取った。差出人がない。封をきると、中には、
『西華中学の二年生です。
昼休みに旧校舎の屋上まで、ひとりで来てください』
書いている表情が見えるような硬い字と、その中学の制服を思い起こし、
(多分、数回現れたあの男の子だな)
なんとなくそう確信した。
休み時間という休み時間は男女ともに箱をもってうろうろしたりソワソワ待ったりしている。承太郎と花京院の机にも次から次へと、箱と袋とがやってきてラッピング技術の品評会みたいになっている。
が、この二人に関しては、「色よい返事をこいねがう」対象ではないので、皆渡すものを渡すと「あとがつかえてるだろうから」という感じでとっとと居なくなる。
(思ったより淡々とした流れ作業だな)
そう思ってから、そっと自分の紙袋から問題のスカーフを取り出した。見るたびに度肝を抜かれるのだが、なんとなく見るのがクセになっている。もしかするとやみつきになっているかも知れない。
「魔力があるのかな」
呟いていると、「わあ!典明君、なにそれ」「ひょっとしてプレゼント?」「すごい図柄」と騒がれ、慌ててポケットにつっこんだ。
やがて正午になり、とたんに前の席の女子二人がやってきた。この子らは承太郎フリークだ。
「あっあの、JOJO、これ」
花京院はさりげなく席を立ち、廊下に出た。
旧校舎は数日前から解体工事に入っている。既に立入禁止だ。だから誰も来ないと思って呼び出したのだろう。
(随分詳しいな。他所の学校の工事日程まで)
「第一、昼休みに来いって、自分は?」
西華中学は徒歩で15分ほど離れた場所にある。四時間目は自主的に早めに切り上げるのだろうか。他の子が授業を受けている中、忍者のように素早く校門から外へ抜け出して…
「すごい根性だ」
独り言を言ってから、
いや、一生懸命なのだろう。
やっぱり、おにいさまになってくださいと言われるのだろうか。
おにいさまとは具体的にどうするのだろうか。
できる範囲のことだったら、承諾してあげるべきだろうか。
しかし、こういうことは「いつまで」と決まっているものでもないだろうし。
途中でおにいさまでいることがいやになったからやめる、なんて言うのはいよいよ冷血だし。
あれこれと考えている間に屋上に出た。まだ来ていないのか、人影は見えない。
左右を見渡しながら、そっと端の方まで行ってみた。解体作業が進んでいてフェンスが半分なくなっている。大変危険だ。
踏み外さないようにしないと、と思いながらつらつらと、
(今日は随分荷物が増えてしまったな。冗談抜きでリヤカーが必要だった。あれを持って歩くのも大変だが、放課後に承太郎の家に行って、着替えて…)
紙袋の中身に着替えた自分の姿を想像するとなんだか、切ないというか、腹がよじれるような気持ちになる。
変な身もだえをした時だった。背後から何者かが突進してくる気配がして、反射的に花京院は身をかわした。
「わぁあ!」
花京院を突き飛ばそうとしたその何者かは、縁で踏みとどまれず、屋上の端から宙に飛び出した。
「あぶな」
咄嗟に花京院は手を伸ばし、相手の腕を掴もうとしたが、
(!)
ギリギリで間に合わなかった。とっさに法皇を飛ばす。相手の手に巻きついて、落下をとめた。
「た、す…」
声にならない悲鳴を上げているのを上から見て、あっと思う。あの中学生だった。
(今は、驚いている場合ではない)
「君、暴れるなよ」
そう言って相手を引き上げてやった。
屋上にへたりこんで、相手は泣いている。わーんわーんという泣き方でなく、きゅっとくちびるを結んでこらえているのだがどうしようもなく泣けてくるといったふうで、無言で涙を流している。
「もう大丈夫だ、泣かなくてもいい」
「悔しいんだ」
「えっ」
こじんまりした、品のいい顔が涙を流しながら花京院をにらみつけて、
「あんたに助けられたのが悔しい」
「なぜだ」
他に訊きようもなくそう訊いた。
中学生は一回ぐっとなってから、突然堰が切れたように叫びだした。
「僕はずっと前からJOJOのファンだったんだ。強くてかっこよくて誰も側に寄せ付けないJOJOにあこがれてたんだ。それなのに突然転校して来たようなやつと仲良くなって、ふ。二人で買い物行ったり話して笑ったり。許せるもんか」
そこまで怒鳴ってからぎゅっと目をつぶって、嗚咽をこらえている。
花京院は途方に暮れる思いでそのありさまを眺めている。
(おにいさまになって欲しいんじゃなくて、制裁を加える気だったのか)
「でも最初から突き落とそうと思ってなんかいなかった。ちゃんと順序だててリロン的に話をして」
赤い目でにらみつけて、
「またどっかへ転校しろって言うつもりだったんだ」
(全然リロン的じゃないぞ)
「でも背中を見たらムカーっときて、つい、突き落とそうとしちゃったんだ」
(つい突き落とされたらたまらない)
「そのことに関しては謝る。すみませんでした」
ぺこりと頭を下げた。さらさらの髪が揺れ、花京院は困った顔に譲歩の笑みを浮かべかけた。と、相手は顔を上げて、
「だから、転校してください。早めに」
思わず大声で、
「君、全然反省してないな」
その後なんだか変におかしくなって花京院はちょっと笑った。その顔を見返して、というかまだにらみつけて、中学生は涙をぬぐい、
「なんだよえらそうに。大体、なんでそんな変な髪形なんだ」
ケチをつけてきた。
「変って。いや、君だってあまり男子中学生ぽくないだろう」
「これはママが」
ついいつもの習慣でその言い方をしてしまってから、敵の前でこんな甘えた言葉を使ってしまったことに奥歯をかみしめて、
「高校生のくせにピアスしてるし」
「承太郎だってしてるだろう」
なにげなくそう返した途端、相手がばっと立ち上がり、足を踏ん張って、
「親しげに呼び捨てにするな!なんだ、親友っぽく!マブダチみたいに!な、なにがじょうたろうだ!JOJOだろ!JOJO!」
爆発した相手に辟易する。
「わかったわかった」
「ものわかりのいいフリをするなーっ!」
もう地団駄を踏んでいる。ここで耐えられなくなり、花京院は無残に爆笑した。
笑うなァ!という叫びはもう泣き声だ。悔しくて悔しくてならない、なんとかしてやりたいのにできないという無念に彩られた絶叫を聞きながら、笑いをおさえようとした。なんとか落ち着いた、と思った瞬間、荒々しい呼吸を繰り返す相手の鼻が「フゴッ」とブタの音を立て、ふたたび花京院は崩壊した。
笑い疲れて吐きそうになり、ようやくおさまった時には、相手は怒り疲れて肩で息をしていた。
下まで中学生を送った。よろめいた相手に手を貸そうとすると「触るな」と怒鳴られた。大人しく引き下がる。
「さっきだって、あんたなんかに助けられたくなかった」
「仇なんかに?」
「そうだ」
憎々しげに、
「あんたに助けられるくらいなら、あそこから落ちた方が良かったんだ」
ブチブチ言いながら背後の旧校舎を見上げ、そこで文字通り吊られた男になった屈辱の思い出を噛み締め、そして。
ふと何かに気づいたらしく、じっと屋上を見上げてから、急に振り返った。
ギクリとした瞬間、疑惑の声が、
「さっき、ぶら下がった時、一度だけ上を見た」
言いながら自分で首を振って、
「あんたは随分上に居たぞ。手なんか届く距離じゃなかった。うん、そうだった。どうやって僕をつかまえたんだ?」
おやおや、と思ったが花京院は慌てず、
「これだよ」
そういってポケットから、例のビックリスカーフを取り出して見せた。
相手は眉をよせ口をとがらし、
「それを手首に結びつける暇なんかあるもんか」
「僕の特技だ。ほら」
ひゅ、と空中に放り上げ、ぽとりと落ちてきたときには、結び目が出来ていた。
どう?という顔をしてみせると、相手は腑に落ちないながら、仕方なさそうに歯をくいしばってから、
「なんだその柄。センスゼロだ。気色悪い」
吐き捨てて、ぱっと走り出し、校門を駆け出していった。
その背を見送りながら、花京院は結び目を解き、「センスゼロ」と評されたそれをひらひらと振って、見送った。
その日の放課後、花京院は承太郎宅に行き、律儀に着替え、首にスカーフを巻いて、
「どうですか」
ホリィはもう大喜びで、ステキ!ステキ!を連発している。笑いや、「あらー…」はなく、一切が本気らしい。
「プレゼントしてよかったわ。もう、ピッタリ」
「喜んでいただけて、僕も嬉しいです」
「写真撮っていいかしら」
「それだけは勘弁してください」
柔和な笑顔で電光石火の断りを入れ、ホリィがカメラを探し出す前に着替えるため承太郎の部屋にふっとんでいった。
承太郎は部屋でなにか雑誌をみていたが、戻ってきた男を見て、
「もう着替えるのか」
「責任は果たした」
ふん、と言ってから、
「なかなかイカスな」
案外本気で言っている声音を出した。あの母親の息子だからな、と花京院は思った。
タイトルは…ホリィさんのスカーフ、と「ありがたいスカーフ」みたいなのとを掛けて。
50日が終わった、転校してきた、あたりの季節は全くのウソです
承太郎は留年したんだろうということで
花京院宅の経済状態等はでたらめ
あとまだついたウソはあるかな?
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