塔を継ぐ者


 一同がカイロを目指す路上、とある田舎町の片隅に、聞きなれない名前の遺跡があった。
 皆、きょろきょろ眺めながら道を行く。
 「知らねーなあ。知ってっか、アヴドゥル」
 「知らん。管理もろくにしていないようだな」
 石柱の下には暇そうな老人が座り込んで豆を数えていたり、台座の上で洗濯物を干していたりしている。
 「生活に密着した遺跡じゃのう」
 ジョセフが苦笑している。
 「日本にも、水田のど真ん中に古墳があって、それに沿って稲作を行っている場所がありますが、そういう感じでしょうか」
 花京院が言うとポルナレフが眉をしかめて、
 「田ンボの真ん中のコフンとこのイセキとどういう関係があるんだよ」
 「生活に密着してる古代の遺物っていうだけですが」
 「あー。ふん。なるほど。…ん?」
 まだ半分疑問符の顔に花京院は苦笑した。
 「おい、見てみろ承太郎」
 ジョセフに言われて、承太郎は相手が指し示したものを見た。
 とある壁に見知らぬ文字と絵がならんでいる。その真ん中に、一人の人間が両手を天に掲げて立っているのだが、その人間が、
 「なんだか、お前たちの服に似とるのう」
 襟が大きく四角く立った服を着ている。裾はながくコートのようになびいているし、
 「学ランに見えなくもねえな」
 「がくらんというのは、そんな古代からあんのか。知らなかったぜ」
 ポルナレフが、冗談なのか本気なのか判別できない口調で言う。
 と、承太郎がはっとして背後を振り返った。なにかが飛来する。スタープラチナで掴むと当時に叫んだ。
 「敵だ!」
 同時に嵐のような勢いで石飛礫が襲い来る。皆すばやく散開した。
 「地元民のそばにいると巻き添えをくわせるな」
 花京院が素早く柱から柱へ伝って奥へ行く。と、むんずと腕をつかまれて引き寄せられた。びっくりしたその肩をかすめて弾丸がとんでいった。
 「承太郎」
 「気をつけろ」
 言ったその脇に人影が現れる。
 エメラルドスプラッシュで打ち倒すと、
 「ここは危険だ」
 「よし。この奥へ」
 石畳の上を小さな石柱が等間隔に並んでいる。その柱に導かれるように、二人はどんどん奥へ逃げ込んでいった。
 やがて石柱の最後に、丸い大きな石が二人を待っていた。真ん中に青い石が嵌まっていて、
 「追ってきたな。この先で迎え撃つ」
 「うん」
 台座の上に上がった。そこでふと足元を見る。
 二人の頭の中は、追ってくる敵をどうやって撃退するか、ということでいっぱいであった。その石の上に、さっき見かけた壁のような絵が描いてある、ということも、もちろん認識はしたが、だからどうということではなかった。
 しかし、実際には、どうということであった。靴が円の真ん中の石を踏んだ瞬間、光に包まれ、二人の姿は宙にかき消えた。

 「う、ううん」
 うめき声を上げて目をあける。
 はるかかなたに高い天井が見えた。
 「気がついたか」
 承太郎の声だ、と思いながら急いで身を起こす。途端に目が回った。片手で目を押さえうつむく花京院に、再び、
 「急に動くな。どうやら、即座に襲ってくる奴は居ないようだ」
 そっと手を外してそちらを見ると、承太郎は数メートル離れた位置で、壁に寄りかかって座っていた。自分も座りなおして、
 「何があったんだ?あの丸い石版を踏んだ途端にわけがわからなくなったんですが」
 「ああ。気がついたらここにいた」
 言いながら承太郎は立ち上がり、
 「調べてみろ。怪我はしてるか」
 「ああ」
 花京院も立ち上がり、あちこちひねってみたり少し歩いてみたりして、
 「無事のようです。それにしても」
 花京院は周囲を見渡した。
 一言で言うと巨大な円形の部屋だった。さっき見た通り天井ははるか上で、部屋の直径は市民球場くらいありそうだ。冗談抜きで、ここでサッカーや野球くらいできそうだなと思う。
 壁も床もおそらく天井も、砂色の大きな石を組んで作られている。それはここ数日か数十日ですっかり馴染んだ色合いと手触りの建築物だった。さっき見た遺跡の石柱もまさにこういう風合いのものだったが、
 「あの遺跡中の、別の場所なんだろうか?」
 「まだ、なんとも言えねえな。ここから更に、別の場所に行けるかどうかも」
 目をこらしても、ここから見て向こう側の壁に出口があるのかどうかよくわからない。
 「法皇で探ってくる」
 壁に沿って法皇でひとまわりしてみた。いつ敵が出てくるか、と用心しながらの一周旅行だったが、敵は出ないし、他の部屋への出口もない。
 天井も調べたが、上への階段が降りてくる箇所があるわけでもなさそうだ。
 「困ったな。何もありません」
 「密室か」
 ただひたすら広い部屋に閉じ込められたらしい、という状況は、焦るに充分なのだろうがまだなんだか緊張感がわいてこない。
 「窒息死はなさそうだ、というだけでも、まだマシかな」
 「そうだな。いざとなったらスタープラチナで一番薄そうなところを殴るが」
 承太郎はちょっと考え、
 「重さを加えると開く戸でも、あるかも知れねえな。とりあえず、壁際にそって歩いてみるか」
 二人は円形の部屋の縁を歩き出した。
 「しかし、随分立派な建築物だな。あの天井の高さといい大きさといい、構造的にも随分大掛かりだ」
 「さっきどうこう言いながら眺めていた、地元密着型の遺跡の中には、なかった気はするがな」
 「そうだね」
 ふと、ある箇所を過ぎた時だった。
 なにかが『カチリ』という音をたてた。いや、音ではなかったかも知れない。部品が穴にはまりこんだ振動のようでもあった。とにかく、『なんらかのスイッチが入った』という認識が二人の体にもたらされた。
 (この状況下では、決して、歓迎できるスイッチとは思えない)
 頭上にそのふきだしが浮かぶ。
 そして、
 床の石畳は、蚊取り線香のように、うずまきを描いている。よくこんなに隙間なく幾何学的にきっちり組んだものだ、と先刻感心したのだが…
 市販されている蚊取り線香は、二つが組み合わさっていて、使う時には壊さないよう気をつけながらバラバラに取り外す。そして、片方を使う。
 さながら、巨大な指がそうしていったかのように、組み合わさって床の渦巻きを描いていた一組の片割れが、ボコォ!と消え失せ下に落下していった。
 驚愕し覗き込んでも下は全くの暗黒だ。何も見えない。
 二人は今や、蚊取り線香の外端にとまっている虫だった。
 (この後、行き止まりの螺旋のはじっこにとまっている虫にふりかかりそうな災難ってのは)
 そう想定するのを待っていたかのように、背後で大きな音がした。振り返った目が驚愕で見開かれる。
 先刻調べて、何の不審な裂け目も、動き出しそうな機構も見つからなかった天井がぽかりとあいて、巨大な球が落ちてきたのだった。ずしん!と床に落ち、そしてその球はそのままごろごろと転がり始めた。
 通常なら、ぎょっとした後、球の軌道上に居ないようにしようとする、で済むだろうが、
 (もはやそうはいかない。なにしろ)
 二人は蚊取り線香にとまっている虫だ。
 石畳の真ん中は微妙に窪みが穿ってあり、球はそのレールの上を元気よく進んでくる。
 「冗談じゃねえな。…とりあえず、距離をかせごう」
 「うん」
 二人は素直に石畳にそって逃げたりはせず、スタンドの力で「より中心に近い、渓谷を隔てた隣りの陸地」までジャンプした。通常であれば、助走をしっかりとって踏み切っても届くのは難しいだろうという距離があった。
 石は物理の法則を無視してバウンドして追いかけてくる…ということはなく、素直に石畳の円周にそってゴロゴロ転がっている。
 二人は中心の部分まで来て、あちこち調べてみたが、ただの行き止まりであること以外なにもわからなかった。頭上に救助用のロープが伸びているわけでもない。純粋にただの終わりだった。
 「あれがここに来る直前にまたスタンドで移動すりゃそれで済むが」
 「球がこの中心まできたらまた逆に戻っていくんでしょうか。…その繰り返しですか?これは対・通常の人間用の、なんだろう。処刑部屋なんだろうか」
 黒い想像をしている花京院に、承太郎はちょっと呆れた顔になったが、例によってほとんど面には出なかった。
 「まあ、俺たちは通常の人間じゃねえから、懸命に石の前をかけっくらしなくても済む訳だが」
 「あっ」
 花京院が怒鳴った。同時に承太郎も気付いた。
 石がゴロゴロ転がってゆく、その円周上に、いつ、誰が、どうやって置いたのかわからないが、
 (オンギャアオンギャアという泣き声だけは、どこの国の赤ん坊も同じだ)
 タオルに包まれた赤ん坊が置かれてある。
 もう、ほんの僅かの距離しかない。
 咄嗟にスタープラチナが地を蹴った。オラァ!という絶叫と同時に承太郎は赤ん坊のところまで移動していた。抱え上げる。
 そこまでで精一杯だった。
 逃げるために地を蹴る、球を打つ、そのどちらかを選択するために体勢を整える、0コンマ数秒もなかった。
 だが、承太郎自身の動きではなく、まるで学ランに引っ張られるようにして、承太郎は赤ん坊を抱えてぐーん!と背後にすっとんだ。
 ゆるい放物線を描いて、さっき居た部屋の中心部まで後ろ向きにすっ飛ぶと、床に落ちた。あやうく、床からも落ちそうになって、肝を冷やす。慌てて手を貸しながら、
 「大丈夫か」
 学ランの下から法皇が滑り出た。花京院は冷や汗をぬぐいながらニコリと笑って、
 「瞬発力は、やはり星の白金にはかなわない。追いついて、引き戻すのが精一杯だった」
 「ま、おめーが居なかったらあのまま平たくなってたな」
 ちくしょうめみたいにニヤリとし、それから赤ん坊は無事だったかと抱えなおそうとして、あっという顔になる。
 承太郎の腕の中には、タオルだけが抱えられていた。赤ん坊が消えている。
 「…確かに、声を上げて泣いてましたがね」
 「何より、床から拾い上げたときには確かに居た。…どういうことだ?」
 言い合い、それから気付く。石のゴロゴロ転がる音が消えていた。
 同時に、周囲の風景がどんどん、二重写しのようになって変わってゆく。まるで今まで大きなスクリーンに投影されていたものを見ていたかのようだった。
 足元に渦巻状に開いている暗黒もなくなり、ただの床になってゆく。
 やがて二人は、形状はさっきまでと同じだが、壁という壁が精密機械で埋め尽くされた、ほのぐらくひんやりとした部屋の中に居た。
 そして、壁の一部が開き、一人の女が入ってきた。
 すらりと背が高く、一枚の布を折りたたみ留めたといった感じの、百科事典で『古代』の項のいずこかの地域で見かけたような衣装を着ている。整った顔立ちをしているが、白人とも、黒人とも、黄色人ともつかない顔つきだ。それらの特徴が混ざっている混血という感じでもない。
 女は承太郎と花京院を見比べ、うなずきかけ、
 「ようこそ、来訪者よ」
 不思議な響き方のする声で言った。
 「すみません。ここは一体、どこですか」
 あまりにまともすぎる質問だと自分でも思ったが、まずはそれだ、と思われることを花京院は尋ねた。他に訊きたい事も山ほどあるが、果たして素直に答えてくれるだろうか。まあ、穏やかそうに見えるが…
 相手がその穏やかな態度の裏で、「殺す!殺すゥ!」と思っていないとも限らないが、そうなったらそうなったで…と一人勝手に胸の中でぶつぶつ言っていると、
 「ここは、塔の中です」
 相変わらず穏やかに答えてくれた。
 答えてくれるのはありがたいが、答えになっていない。
 「どこの塔です」
 訊き返しながら、なんだかバカっぽいな自分、と思った。相手は再びうなずいて、
 「かつてのご主人様がお建てになった塔です。そして、今からはあなた方の塔です」
 花京院は「えっ」と言い、承太郎は無言でかたまった。
 「ど。どういうことですか」
 「事情を説明いたします。ごらんください」
 飲み込んだふうで女性は、壁のスイッチのいくつかにふれた。と、部屋の中心に突然、ボゥと宇宙空間が浮かび上がった。星ぼしが輝き、見た覚えのある星雲などが浮かんでいる。
 「ホログラフか?」
 「そういった類だろうな。こんなに精度のいいものは、見たことがないが」
 「そうですね。まるで本物を見ているようだ」
 言い合いながら眺めていると、次に誰しもが必ず見た記憶のある星が大写しになった。地球だ。
 「この星で何千年の昔に、ご主人様は宇宙の彼方の星からやってきてこの星に不時着しました」
 砂漠の真ん中に、銀色の乗り物が落ちている映像になった。
 次に映った人間は、今目の間に立っている人間によく似た顔立ちをしていた。どこの民族の特徴とも微妙に合致しない顔つきなのだ。
 そして、やたら襟が四角く立って、裾が長くなびく服を着ている。
 (この服は)
 そう二人は思ったが、そのことについては口にしなかった。
 「ご主人様は懸命に乗り物を修理しようとしました。やがてどうしても無理だとわかった時、諦めてこの星で一生を終える決意をしました」
 器具を動かしていた手をとめ、下におろして佇む画像の男の表情は、特に大きく変化することはなかった。もともとそういう性格だったのか、そういう生物だったのかわからないが。
 「ご主人様は、いつか遠い未来にきっと、この星のどこかに、自分と同じ**を持つ者が現れるだろうと考えました」
 「すみません、聞き取れなかったんですが、今の言葉は?」
 女は少し首をかしげ、間をおいてから、
 「この星の言葉ではうまく言い表せません。タマシイ…チカラ…センス…ハチョウなどでしょうか。どれとも少し違いますが」
 女は首を元にもどし、
 「その者こそが我が子孫と言える。その者に我の持つ叡智の全てを受け継がせようと考え、この塔を建てました。これです」
 手を壁に走らせると塔の外観が浮かび上がった。どことも知れない砂漠の真ん中に、巨大な石色の塔が高く、聳えている。
 「こんな物が砂漠に建っていたら、いくらなんでも僕らの耳にも入っていると思うんだが」
 「それは」
 と、にわかに砂嵐が巻き起こり、塔が見えなくなった。
 「この星の人間が発見しそうになると、自動的に自らの周囲に嵐を起こして、姿を隠します。地下に潜って移動も可能です。こうやって数千年、人の目から隠れてきました」
 「………」
 「しかしそれでは、子孫がこの塔にたどり着けない。だから、人々の住むところに、入り口を置きました。同じ**を持つ者が踏むと、自動的にこの塔に送られる装置です」
 「さっきの」
 「丸い石か」
 二人は顔を見合わせてから、
 「まさか、この服を着てる奴が踏むとワープする装置じゃないだろうな」
 「**ってのは、学ランのことじゃねえのか」
 女は首を振った。
 「その服は関係ありません」
 あっさり一蹴されて二人とも口を閉じた。
 女は静かに、
 「ここに来られた方には更に試練を受けていただきます」
 「試練。さっきの転がる石のことか」
 「はい。
 やすやすとは逃げられない危難の中にあって、弱者の更なる危難を目にした時、どうするか。
 見殺しにしておのれの安全のみ確保する者に、遺産は受け継がせられない。
 助けに戻って、弱者と共に斃れてしまう者に、遺産は受け継がせられない。
 ご主人様の遺産は、正しい心と強い力の両者を持った者でなければ、引き渡すことはできません」
 恐ろしいほど穏やかにきっぱりと言いきった。
 ややあってから、
 「あの赤ん坊ってのは、もしかしたら、幻か」
 承太郎が眉をしかめて尋ねると、
 「そうです。消え失せた床も、転がってきた石も、泣いていた赤ん坊も、突然現れた全てのものが幻覚です」
 「気に入らねえな」
 しかめた眉をさらに険しくして唸る。
 「勝手に人をテストして、合格おめでとうすばらしい栄誉だと言われたところで、嬉しくもなんともねえ」
 「怒らせてしまったことは、謝ります」
 女は頭を下げた。
 「そこをおさめて、どうかこの塔を受け継いでください。私は」
 顔を上げ、
 「ご主人様が亡くなられてから数千年、あなた方が現れるのを、ただ、ずっとずっと待っていたのです」
 そして、ニコリと微笑んだ。
 初めて見るこの女の笑顔だった。そして、気の遠くなるようなものが背後にある笑顔だった。
 「この塔で一ヶ月、睡眠学習をしていただければ、目覚めた時には全ての知識があなた方の中に入っています。その部屋はあちらです。…これで、もう私が申し上げることは、ありません」
 目を閉じ、再びお辞儀をしてから、
 「これでようやく私は任を解かれます。どうか、受け継ぐと言ってください」
 二人は黙って相手の顔を見つめていた。
 言うことはいろいろある。
 いや、「出鱈目もいい加減にしろ」で全部終わらせるという手もある。
 しかし、
 「申し訳ありませんが、駄目なのです」
 花京院が言い、続けて承太郎が、
 「俺たちには、今すぐに戻らなければならない事情がある」
 女はまた首をかしげて、
 「この星を支配するほどの力が手に入るのですよ」
 「残念ですが」
 「どんな事情か知りませんが、一ヶ月の後には、ここに居ながらにして解決できる力を得ていると思いますが」
 「その一ヶ月で、全てが終わってしまうのです」
 二人に、断る意志しかないようだということを見て取り、女は、主人と同じように、どれほどの絶望も表さない面で、
 「やっと見つかった、後継者だというのに」
 だが、それは、普通の人間であれば気がちがうほどの落胆であることが、二人にはわかった。
 しかし、
 「今ここで、そっちの申し出を受けられないってことが、俺たちが後継者じゃねえってことだ」
 承太郎は静かに言い切った。
 女はうつむいた。うなだれているようにも見えたが、すぐに顔を上げ、ごくごく普通の声で、
 「わかりました」
 手を延べ、こちらへどうぞと言った。
 「あの場所にお返しします」

 足が丸い石を踏む。
 この石を踏んだ瞬間から、一秒とずれていない「現在」に戻ったことを感じた。
 振り返る。身を沈め、緑の弾丸で敵を打ち倒す。
 襲い来る攻撃を一撃残らず、鋼鉄のような腕で掴み弾き返す。
 やがて間もなく、襲撃者は全て片付けられた。
 「承太郎!無事か」
 「花京院、どこだ」
 ジョセフたちがあちこちで叫んでいるのが聞こえてきた。
 「こっちです、ジョースターさん」
 応えてから、ふと足元を見た。青い石が嵌まっているその上を、靴でそっとこすったが、もう二度と反応しなかった。
 「あのひとは…」
 花京院は呟いたがそれ以上言う事をやめた。
 宇宙人とやらのつくった機械の人間だろうか。人間とは別の生命体だろうか。自分たちには想像の余地も無い存在だ。
 これからも、つとめを果たすその日まで、ずっとずっと、ただひとり、砂漠の中の塔で、待ち続けるのだろうか。
 気の毒だとか、任を解いてあげられたらよかったとか、軽い同情を口にすることはしなかったが、
 「花京院。どうした」
 闇の向こうから承太郎の声がした。
 「ちょっと眩暈が」
 自分と同じ気持ちで居るとわかる声だった。

[UP:2007/06/19]


 3部は『バビル二世』が元だとか言ってたので。
 この「延々と待ってるひと」は原作に居て、初めて読んだ時「滅私の極み」みたいな一生になんかこう、ぐっときたのを覚えています。
 書いてから気付いたけどこの部屋、ポルナレフVSヴァニラ・アイスではないか。気付かないで書いてました
 この何年後かにミキタカ君が来てあとを継いでくれるであろうよ。ホントか。


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