法皇のリボン
やわらかいものが顔を撫でていった気がして、花京院は目を開けた。
自分の部屋の天井が見えた。それからレース地のカーテンが視界の中に時折映り込んでくる。
顔を明るい方へ向けると、開いている窓から風がはいってきて、カーテンを揺らしている。顔を撫でたのは風らしい。初夏の夕暮れの、気持ちのいい空気が感じられた。
いっとき、自分が誰で、ここがどこなのかわからなくなった。が、次の風が吹き込んだ時には我に返っていた。
(寝ぼけてないで、出かける準備をしないと。そろそろバイトの時間だ)
目をこすりあくびをして起き上がる。部屋を有効に使いたいのでベッドではなく布団に寝ている。端を掴んで「よっ」と力を入れ、簡単に三つ折りにした。
部屋を出て顔を洗い、タオルで顔をこすって鏡を見る。見慣れた自分の顔が映っていた。
このところ体調が今一つで、なま白い。まだかなり眠そうで、まぶたがもったりと重たい。量の多い前髪は、主人が寝ぼけているせいなのかどうか、コシを失ってへたり気味だ。
しっかりしろというようにちょっと引っ張ってカツを入れてから手を離し、部屋に戻ると、あっさりしたシャツに無彩色のパンツを穿き、いつもの場所からナップザックを取ると、外に出た。
花京院典明は今年の春高校を卒業し、関西の某国立大学に入学した。家は関東だったので親元を離れ、今はアパートを借りて一人暮らしをしている。
頭はいいし顔もまあまあ良く、標準より背も高く体は細いが筋肉質で、見てくれは良い線いっているが、なんとなく地味で目立たない。それは彼が選んでいる服のセンスのせいだけではない。
彼には秘密があった。
秘密なら誰にでもあると言われるかも知れない。夜逃げした親に背負わされた莫大な借金があるといった重いものから、デベソ、という軽いもの(悩んでいる当人には激怒されるだろうが)までいろんな秘密を、確かに人々は各々持っている。しかし、彼に匹敵するほどの秘密をもってる人間など、絶対にいない。
花京院は緑色をした、彼の意思で自在に動く蔦のような影を持っているのだった。
それは他人の目には全く見えず、驚くほど遠くまで伸び、そこにあるものについて、まるで花京院自身の手で取り目で見ているが如く知ることが出来る。生物の内部に入り込んで操ることが出来る。自動車程度の物体であれば簡単に穴だらけにして破壊出来る。
そして、自分がそうやっているのは、自分以外の誰にもわからない。
実際、彼はやろうと思えば泥棒でも暗殺でも、なんでも出来る。そのことを素晴らしいと思い、喜び勇んで使いまくる人間であれば、彼が内側に満々と湛えている寂寥など抱きはしないだろう。
彼は孤独だった。自分の秘密は誰にも理解してもらえない。話したところで見えないのだ、突然目の前のグラスを手も使わずに割ってみせれば、「君はサイキックか」と驚かれるかも知れないが、その先は彼を怖がるか、彼で一儲けしようとするか、どちらにしても彼を「異端者」として判を捺すだけだ。
自分は一生、真に気持ちの通い合う友人も、恋人も、伴侶も得られないだろう。引いては子供も持つことはなく、何ひとつ残すことなく、世界の片隅でひっそりと息をして、腹を割って話す楽しさも恥ずかしさも、心から楽しいと思う酒も知らないで、運が良ければ何十年かしたらこの世から消える。
運が良ければではない。悪ければだ。一生を牢獄の中で過ごすようなものではないか。
そうは思っても、自殺する気はない。
自分がこんな人生をはかなんで身投げをしたら、両親が苦しむ。物心ついた頃から周囲に壁を作って閉じこもってしまった一人息子が、なにも打ち明けることなく命を断ったら、両親は何よりも自分たちを責めるだろう。教育が間違っていたのか。愛情が足りなかったのか。自分たちが気づかないところで息子を傷つけていたのか。一体何が悪かったのか。
その正解がわからないまま、それこそ一生苦しむだろう。そんな残酷なことは出来ない。
自分を産んでくれた両親のためだ。演技でもなんでもして生き続けよう。演技だと見抜かれない自信はある。もうずっとやってきたことだ。板についたものだ。穏やかで人当たりのいい言動と笑顔、地味な服装、組織では目立たず、歯車の一つとしてきちんと回る。趣味は映画鑑賞と読書だ。「あたりさわりのない」という言い回しの具現化したプロフィールを纏って、自分は、一生を過ごしてゆく。
夜明け頃に目が覚めて、ゆっくりと明るくなってゆく天井を見上げている時など、ふとたまらなくなることもあるが、普段は自分を律し、自分をあやし、自分を宥めてなんとか過ごせている。
人は誰でも何かを諦めて生きているものだ。
自分を慰めるモードの時はそんなことを思う。
すべて諦めないで生きられる人間なんてまずいない。いやむしろ逆だ。好きだった人を諦め、なりたかった職業を諦め、行きたかった場所を諦め、得たかった肩書を、人望を、財産を、知能を、環境を、立場を、およそ思いつく大概のものを諦めて今の人生を生きている。
それが人間というものかも知れない。ならば、僕も立派な人間だってことだ。
花京院は力なく笑った。
花京院は某コンビニでバイトをしている。黄色と青のラインの入った制服を着て、やや長い髪はちゃんとまとめて黒ゴムで結んでいる。
今は、学校帰りの学生がアイスや焼きそばパンを買いに詰めかけるにも、工事現場のニッカボッカーのにいさん方が弁当を買うにも、ちょっと中途半端な時間だ。
ふと、
(あの人が来るかな)
そう思った時だった。入り口ドアががーと開いて、見覚えのあるひとりの男が入って来た。
とにかく、目立つ。初老に見えるのに2m近い長身、引き締まった筋肉質の身体、元は黒髪だったのか白髪が混じって半白の髪、快活で茶目っ気のあるきれいな碧色の瞳。どこの国のおじいさんだろう。しかし本人に向かっておじいさんと言ったら多分「わしはまだそんな歳じゃないワイ」とぷんすか怒りそうだ。その姿が目に見えるようで、花京院は思わず微笑した。
相手はいつものように上機嫌で花京院に笑いかけながら、やや砕けた英語で、
「やあ。コーヒーを貰えるかな?」
お行儀悪く、小粋にコインを弾いてくる。ぱし、と受け止めて
「いらっしゃいませ。はい、どうぞ」
サイズMのコーヒーのカップを差し出す。ありがとうと言って受け取り、コーヒーメーカーにセットしながら、
「わしはコンビニのコーヒーでは、ここのやつが一番旨いと思っとるぞ」
「ありがとうございます」
「それにしても、昨日のニュースにはびっくりしたのォ」
「なんですか?」
「あれじゃよ。スペインの牛祭りのニュースじゃ」
そうやって、毎日コーヒー一杯を味わう時間の間、この不思議な老人はカウンター前で花京院とあれやこれや喋って、笑い合って、
「さて。では行くか。おっと、あいつが待っていたな、じゃあこれを」
そう言ってコーヒーガムを棚から取ってレジに出す。いつものことだが、念のため、「袋にお入れしますか」「結構ヂャ」とやりとりをしてから、シールを貼って、
「100円です」
今度はコインを弾かず、手渡してくる。受け取り、
「お気をつけて行ってらっしゃい」
丁寧にお辞儀をして見送る。老人はウィンクを飛ばして店を出て行った。
見ると、入り口のところにうずくまっていた白黒ブチの小型犬が、つんけんと吼えている。「おそいぞ!」と言っているみたいに聞こえる。それに対して老人もわっはっは、悪い悪いと人間に対するみたいに答えて、
「これで機嫌を直してくれ」
コーヒーガムを差し出す。ふんっと奪い取ってガフガフ食べている。それを可笑しそうに見下ろしていた老人は、犬が食べ終わったところで、
「では行こうか」
声をかけ、歩き出した。犬はフンと鼻を鳴らして、トコトコと後を追っていった。
平日のこんな時間にやって来るわけだが、隠居の雰囲気は全くない。多分自営の仕事場が近くにあって、あるいは自宅で仕事をしていて、ちょうど気分転換をするのがこの時刻ということなのだろう。
どこで何をしている人なのだろう。日本は長いのだろうか。しかし彼が日本語を喋っているところは見たことがない。ああ、ちょっとだけあった。
「スモウというのは、そんなに面白いものか?チョンマゲを結った太り過ぎの男が、裸でガップリヨツになって押し合いへし合いするんじゃろう?あまり見たくはないのう」
ウヘーとでも言いたげな顔つきに、その時は花京院はちょっとニュアンスが違いますと言って笑った。日本人の知り合いでもいるのかも知れない。
何にせよ、あの老人と話すと花京院は元気になる。くるくると表情を変える顔を見ているだけでこちらも笑顔になる。
そしてあの犬。散歩させているというよりは、同伴してやっていると言った方がふさわしい感じだ。第一紐もつけていない。なんとなくだが、紐をつけようとしたらあの犬は絶対に拒否しそうだ。犬とは思えないほど雄弁な目つき、ふてぶてしい態度は、まるでこっちの言っていることを全部理解しているようだ。色からいって、どうやらボストンテリアのようだ。たしか知能が高くて温厚な筈だが、知能の点はその通りだが温厚には見えない。
老人も、犬も、何という名なのだろうか。犬の名前くらいなら、次に来た時に訊いてもいいかな、と思った。
花京院はもう一度メールを確かめる。やはり確かに、次の授業は休講になっている。思いがけなく、妙に時間が空いてしまった。
「おなかすいたな。早めの夕飯にしてしまおうかな」
呟いて、さてどこで何を食べよう、と思案し、すぐに決まった。足を向けたのは、メイン通りから込み入った横道に入り少し行った先の、辛子色の外壁の店だった。入り口脇に木のボードが立っていて、「営業中」と書いてあった。
良かった。やっている。
ドアを押すと耳に心地いいベルの音がして、空腹をいや増すスパイスの匂いがふわっと包み込んできた。同時に、
「いらっしゃい」
男らしく低く太い、よく通る声が迎えてくれた。
このカレー屋をひとりで切り回しているのは、浅黒い肌をし長い漆黒の髪を後ろで束ねた、えらくがっちりした体格の外国人だ。太くしっかりした眉の下に、黒い大きな瞳が情熱的に輝いている。
この店は大学に来始めの頃道に迷って偶然発見した。かなり辛いがとても美味しいチキンカレー、そしてものすごく甘いがとても美味しいラッシーが花京院のお気に入りだ。
いつものようにそれらとグリーンサラダを頼むと、相手はニコリとして「少々お待ちください」と丁寧に言った。顔立ちや、店内のカウンターの端に置いてある「日本語講座」の表紙に踊っている文字を見ても、どうやら彼はアラブ人らしい。しかし何故アラブ人がカレー屋なのだろう。カレーといったら日本ではインドだ。日本でカレー屋を開くのはインド人だ、とごく自然に身勝手に決めつけられている。
事情を訊いてみたいと思ったが、とある国籍のひとにとってはのんきな日本人の下らない疑問が侮辱に当たったり、逆鱗に触れるような質問かもしれない。その辺が全く想像つかないのが日本人の鈍感さだ。故に敢えて黙っていた。
だが、何度か来るうちになんとなく、相手が自分を覚えてくれたな、と思えるようになり、今日は皿を持ってきてくれた時、
「毎度、贔屓にしてくれてありがとう」
これまた丁寧にきっちりと言って寄越した。花京院は思い切って
「日本語がお上手ですね」
そう言ってみた。相手は嬉しそうに微笑んで、ありがとうございますと言い、頭を下げてお辞儀をした。日本人のようなしぐさに、もう少し勇気を出して、
「気に障ったらすみません。何故、日本で、カレーの店を開いたのですか?」
相手は目を丸くしてから明るく笑った。豪快な笑い声の後、
「わたしは日本もカレーも大好きだからです」
明快な回答をくれた。花京院はなんだかひどく嬉しくなって思わず自分も声を上げて笑った。
ここのカレーを食べると本当に体の中に火が点るように元気になる。あまり健啖家ではない花京院はあまりに刺激物の入った食物を食べると時々急降下になることがあるが、十分にスパイシーな筈のここのカレーは大丈夫だ。そしてあまり汗をかかない体質だが、食事を終えるころには汗が出る。体が温まって活力が漲ってくる。
食事を終え、また来ますと言った。相手はとても嬉しそうに「またどうぞ」と言った。
外に出る。見上げたドアの上には看板がかかっていて、火の鳥の絵が描いてあり、その脇に「Magician's red」と書かれている。
花京院にとってマジシャンとは、奇術や手品をする、マギー司郎や引田天功らのことであった。
「手品師、の、赤?…だったら、Red of Magicianじゃないのかな。それとも、赤い手品師って言いたいのかな」
何にしても、どういう意味があるのだろう。この次来た時に訊いてみようかな。それと、店主さんの名前も。聞き取れない予感がするが、何回か訊いてみて、と思いながら足を駅の方へ向けた。
自分のアパートの最寄り駅で電車を降り、駅前のガード下をくぐって、ふと気が向いたのでとあるゲームセンターに寄った。
花京院は実はゲーマーだ。実はというのは、いい歳して「僕に勝てるやつはちょっといないよ」などと大学構内で威張るのは恥ずかしいし、またそんなことを聞かせる相手もいないため、どこにも非公開の情報だからだ。
うるさい店内に入っていき、とりあえずはレースでもやろうかなと思った時、右手の方で騒いでいる子供の声と、
「早くしてよ、コンティニューするんだから!出ない!つまってる!」
「わかってら!ちょっと待ってろ、この両替機ちっと調子悪いんだよな」
ぶつくさ言っている男の声は日本語とどうやらフランス語が混ざっているようだ。視線を向けると案の定あの男だ。店の制服を着て、銀髪をおったてた、青い目の外人だ。
この男も、最初に見た時はなんでまた日本のゲーセンでバイトなんかしているんだろう、と思ったが、そんなことは訊けない。だが花京院の代わりに、
「なんで日本でバイトやってんの」
子供らがずけずけと訊いていた。それに対し自分からべらべらと、
「妹が日本のグラフィックデザイナーに憧れててよ、そいつのやってるなんとかスクールで修行するって聞かねえんだよ。心配だから俺もついてきたんだ。まー俺は妹の面倒を見ながら、そのうちこの喉でアーティストデビューか、漫画家デビューでもしてやろうかなってとこ」
子供らがいっせいに手を振って、
「無理無理無理無理」
「何決めてんだこのくそガキども」
「妹って美人?」
「美人に決まってんだろ!日本のタレントなんか足元にも及ばねえ美人だぜ。だから心配なんだ」
「いやきっとブスだ」
「てめえちょっと来い。泣かせてやる」
ギャー、と笑い声と悲鳴が上がっていた。
その泣かされていた子供が、今も泣きそうな声を上げて、
「コンティニュー!間に合わない!急げってば!」
「おめーなあ、コンティニュー用の小銭くらい用意してからやれよ!」
「最後の一枚だったんだもん!ああああ間に合わない」
「ほら」
咄嗟に花京院が言って、100円玉を子供に差し出した。子供はぱっと目を輝かせて、
「ありがとう!どうも!」
100円玉を握ると走って行った。
銀髪の店員はヤレヤレという顔で子供を見やってから、花京院を見て、
「わりぃな。ありがとうよ」
Merci beaucoup、と言ってにかっと笑った。思わずこっちも笑ってしまうような笑顔だった。その顔で、
「前から見てたけど、お前レースうまいな!俺も車の運転はちょっとうるさいんだ。勝負しようぜ」
さっそくどやどややってきて「これがいいかな。よし、お前はそっちな。俺はこの車だ」とか叫んでいる。
「あ、あの、両替機を直さないといけないんじゃ?」
「ああそうだったな。まあいいや、これを一回やったら直すぜ。さあさあさあ」
「ちょっ、ちょ」
「あっと。おいお前!このにいちゃんにきちんと100円返せよ!」
わかってる、と向こうの方から返事があった。
「よし。さあやろうぜ!」
仕方なくハンドルを握ったところに、
「おい、妹さんから電話だぞ!なにそんなとこで遊んでんだ」
他の店員か店長からの声が飛んだ。
「いけね。え、シェリーから?なんだろ」
わめきながら駆け戻っていった。全くもって忙しい男だ。
その後ろ姿を見送りながら、妹さんはシェリーっていうのか、と花京院は思っていた。
今度、「シェリーさんはどのくらい美人なんだ」と訊いてみようかなと思った。きっとあの男は青い目をひん剥いてそれはもう熱心にまくしたててくるだろう。顔が見えるようだ。
そのあと、シェリーさんのお兄さんの名前も訊いてみようかと思った。
生活するうち、交通機関だけで移動するのには不便が生じてきた。何か足が欲しい。自転車でもいいがどうせなら原付にしてしまおうかと思う。
最寄り駅の、ガード下とは反対側の方へ歩くと結構大きめのバイク屋がある。天気のいい日曜に行ってみた。
学生の多く住む地域ゆえか、スクーターは沢山あった。ホンダの専門店なので、『HONDA』のロゴを付けた車体が並んでいる。
どれにしようかな、と思いながら見ていく。原付なのだからパワーの点にすればどれを買っても同じだ。あとはデザインとか、中古ならなるべくきれいなやつとか、そのあたりで決めるだけだ。あとはやはり、
「あ、これ安い」
思わず口から出た。4万で売っている。
「DIOか。うーん」
4万にしてはシートからワタがはみ出ているとか、カウルが割れてぷらぷらということもない。お買い得だろう。今日中に誰か買いそうだ。
早い者勝ちの物件なのだろうが、なぜか心がそそられない。
「他のも見てみよう」
隣りにはジョルノがあった。こっちはピカピカで、11万がついている。
「いいんだけど、ちょっと高いなあ。頑張って買おうか。でももう少し出したら新車が買えてしまう」
ぶつぶつ言いながら見て回っているうちに、スクーターのコーナーの端まで来た。隣からはロードスポーツタイプの、排気量のでかいコーナーだ。
こっちには用はないから戻ろうと思いながら、ふと、一台のバイクの前に立って、じっとそれを見ている男に目が留まった。
本当に背が高い。花京院もちびすけの方ではないが、この男と話す時ははっきり見上げる形になるだろう。2m近い。コンビニの常連さんの、外国紳士と同じくらいだ。
髪は短く、横顔は驚くくらい端整で、厳しく、凛々しい。男性美とはこの顔のためにある言葉だと思うほどだ。肩幅もあり胸板も厚く、黒い革ジャンを着ているが、革ジャンも嬉しかろうと思われるほどサマになっている。
男が見つめている車体をそっと見ると、CB1100だった。
(渋い趣味だな。しかしでかいバイクだなあ。でもこの男が乗るとするとあまりでかく感じない)
男はなおもその、夜空のような藍色のオイルタンクを熱いまなざしで見つめていたが、やがて振り返ると、少し先のカウンターへ行った。
ちょうど今電話が終わった店員が顔を向け、
「いらっしゃいませ」
「あれが欲しい」
見た目通りの男前な声でそう言い、片手で示す。店員は喜び勇んでこちらへ出てきた。
2人並んでふたたびCB1100の前に来て、これ、と男は指し示した。
「ありがとうございます。色はこのパールスペンサーブルーでよろしいですか?他の色もありますが」
「これがいい」
「かしこまりました。では諸手続きをしますのでこちらへどうぞ」
男はうなずいてから、もう一度バイクを見て、そしてごくごく僅かに微笑した。
花京院は思わずその笑顔に見とれた。
(いい顔で笑うなあ)
これだ、これこそ、という1台に巡り会ったのだろう。さながら愛馬と巡り会った戦国武将のごとく。
あれほどのハンサムに、あんな笑顔で見つめられるバイクは幸せだ。
さっきから変な表現ばかりしている気がするが、とにかく滅多に見ないような男前なのだ。錯乱してしまっても仕方ないだろう。
もう満面の笑顔で各書類やらなにやら広げている店員の前に座り、ボールペンを取った背中をしばらく見ていたが、やがて自分の買い物の方へ頭を切り替え、しばらく見て回ってから、
「よし、このタクトにしよう。まあまあきれいだし安い」
カウンターに行き、すみませんと声をかけた。
「あ、申し訳ありません。少々お待ちください」
店員が謝って来た。まだCB1100の方が終わっていなかったようだ。男がチラと花京院を見て、悪いな、という視線を投げてきた。花京院はいや別にというように緩く首を振り、数歩下がった。ちょっと見えた欄に、分割36回払いと書かれてあった。
(ポンと現ナマを出すのかと勝手に思っていたが、違ったんだな。地道にローンか)
へえ、とこれまた勝手に感心して、自分の番が来るのを待っている途中で、そうだったと言いながらヘルメットコーナーへ行った。
2番目に安い、車体と同じ黒いヘルメットを持ってカウンターへ行くと、ちょうど終わったところで、店員が相変わらずのニコニコ顔でお辞儀をし、それに対して男も軽く会釈して、
「宜しく頼む」
これから何日間か待って、整備が終わったところで納車で、天気のいい休日には革ジャンで藍色の車体にまたがってツーリングだろう。うーん、男らしい。
ひとりで納得してうむうむと頷いてから、横目で男を見ると、またCB1100のところへ行って眺めている。余程気に入ったのだろう。
あんなに気に入られて、幸せなバイクだな、とまた思いながらその背を数秒見て、それからカウンター前へ行った。
数日後、花京院はタクトに乗って大学へ行ってみた。エンジンのふけ具合もいいし、ブレーキもちゃんとかかる。うん。よし。なかなか快適だ。
もう電車の定期は買ってしまったし、ガソリン代もかかるから毎日というわけにはいかないが、たまになら乗っていくのも楽しそうだ。
授業が終わって学校の駐輪場へ行き、そこで「あ」と声が出た。
花京院のタクトから数台離れたところに、パールスペンサーブルーのCB1100が停まっている。
「え。もしや、あの時の?それとも別人のかな。でもあんまり見ない車体だし」
そーっと近づいてみて、やっぱりあのバイクだと確信した。ナンバー近く、車体のすみっこに、『街のバイク屋 MOTO☆STAR』というちぃーさいステッカーが貼ってある。あの店の商品には貼ってあるやつだ。
良心的なのは剥がしても跡が残らないタイプのシールという点だ。人によっては「こんなダサいの貼っておきたくない」と思ってすぐ剥がすだろうが、花京院はまあいいかと思ってそのままにしておいた。あの男も貼ったままだったようだ。
「あの男、僕と同じ大学だったのか」
何年生だろう。学部はどこだろうか。
どこかでまた会う機会があるかも知れない。あんな長身で超イケメソだし、ちょっと気合を入れて情報収集すれば、案外校内でも有名人なのかも知れない。
「学祭のミスターなんとかに選ばれて壇上に上がってるのを見るかも知れないな」
独り言を言いながらぱこ、とシートを上げて中のヘルメットを出し、顎紐を締めて、ぶぶぶぶぶと走り出した。
それから更に数日後の日曜日は快晴だった。空は気持ちよく晴れ渡り、雲一つない。
布団を干した後、ふと気が向いて、原付でちょっと走りにいくことにした。飲み物をナップザックに入れ、気分よく部屋を出た。
バイクで道に出て、ほんの100m走ったところで、「えっ」と声を上げた。
どこぞのアパートの敷地からちょっと外に出た場所、塀ぎわの路上で、でっかいバイクを洗っている男が居る。傍らのバケツに水、右手にはスポンジ、Tシャツに半ズボンで、せっせと作業している。バケツの傍らにはバイク用シャンプーとワックスの容器が置いてある。
(あれはやっぱり、どう考えても)
後ろをぶぶぶと通る時、男が「自分らが邪魔になってるか?」という顔でこっちをチラと見て、それから「おや」という表情になった。見た気がするのだろう。
その心の内が目に見えるようで、そしてまた覚えていてくれたことが妙におかしく、花京院は笑ってしまいながらヒョコと会釈した。相手も中途半端な顔でうなずくような首を傾げるようなしぐさをした。
その様子に、ふと誘われるように花京院はバイクを停め、口を開いていた。
「洗車してワックス塗って出かけるんですか」
相手ははっきり頷いて、空を指し示し、
「この天気だからな。出かけない訳にいかねえ」
天へ掲げた手首から肘へとセッケンの泡が流れ落ちるのを眺めながら、「それはもう全くだ」と同意した。
「お前、あの時バイク屋に居たやつか?」
相手に問われ、今度はこっちがうなずいて、コレコレというように原付のお尻をぺんぺんと叩いて見せた。ステッカーを見て相手はなるほどという顔で、
「近所か?」
「100mほど行った先です」
「そうか」
ちょっと間が空いてから、花京院が「じゃ、頑張って」と言って、ぶぶぶぶと走り出した。ミラーを見ると、相手が少しの間こっちを見てから、また作業に戻ったのが映っていた。
それから、バイクや徒歩でその道を何度か歩くうち、時々あの男がバイクをいじっているのと出くわした。
その度に「やあ」「ああ」とあいさつをかわし、「バイクの調子はどうです」「いいぜ。ニコリ」(いい顔で笑うなあ)「大事にしてますね」「まあな」「いたずらされたり、盗まれないように気をつけて」「ああ」(そういえば大学で見た時、何も防犯対策をしていないように見えたな。大丈夫なのかな)
「まあ、そんなデカくて重たいバイク、盗んでいける奴もいないだろうけど」
「走り出してしまえば、そんなに重さは関係ねえぜ」
「そんなものか」
「そんなものだ」
ふーん、と言いながらバイクを見ている花京院に、
「乗ってみるか?」
ぶんぶんと首を振り、手も振って、
「絶対、数メートル進んでぶっ倒れる。君の大事な愛車に疵なんかつけたくない」
思わず真剣に言ってしまってからテレくさくなり、慌てて自分の原付をぺんぺんと叩いて、
「僕にはこれがあるから」
「こいつと、それで、ツーリングに行くか」
「あははは」
笑い出し、見ると相手も笑っていた。その笑顔に、花京院の胸が温かくなった。
じゃ、またと言って走り出す。ミラーには男が片手を上げてから、またバイクいじりに戻ったのが映っていた。
ところで、彼はなんて名なのだろう。今更訊けない。いやでも、後になればなるほど訊きづらくなる。
今度会った時訊いてみようか。何かうまい具合に話の流れで訊いてしまえばいいのだ。どんな風に話をもっていくか、その時までに考えなければ。
ある日の午後、花京院は駅前ちかくの通りを歩いていた。
先週実家の母親と電話で話した時、なんだか雰囲気が変わった、と言われた。
どんなふうに?と尋ねると、明るくなったっていうか、気楽になれた感じがする、と言われた。
気楽って、と内心では苦く笑った。僕が気楽になんて決してなれやしないのに。
しかし、母親の言っていることもわかる気もした。大学に入り、一人暮らしを始めてから、確かにどこか、すっと背が伸びて視界が広がったような気持ちがあるのだ。やはり環境が変わると気持ちが切り替わって、成長するものなのだろう。
なにしろ、名前を知りたいなと思う相手が目下、沢山居る。こんな経験はいまだかつて一度もなかった。必要であれば訊き、そうですかと言って書き留める。必要でなければ最初から訊きもしない。人の名前とは今までそういうものだった。
でも今は、バイト先コンビニ常連の陽気な老人、その連れのすました犬、美味しいカレーを食べさせるアラブ人、うるさくて子供に好かれるフランス人、同じ店でバイクを買い同じ大学へ通う男。こんなに居る。この連中の名前を知りたいと思っている。
たとえ、彼らの誰も緑の影が見えなくても、
たとえ、
真の友人を得られる訳ではなくても。
―――――
そこまで考えると足どりが急激に重くなり、思わず立ち止まった。頭上の青空が不意に翳った気がした。
後ろから人が近づいてくる気配がする。ぶつかってしまう。無理やり足を運んで歩き出した。強く頭を振る。
そのことはもう、とっくに諦めた筈だ。僕はこの世界の異端者なのだ。世界の隅っこに場所を借りて、ささやかな満足やそれなりの達成感、小さな幸せを温めて生きていこうと、意志をかためたのだ。
少しだけ背筋を伸ばして、視界を広げて、感じのいい人たちと穏やかで明るい会話をかわす。相手と名前を交換し合って。それでいい。十分だ。
そうだ、と強く口を結んで、顔を上げた。交差点まで来ていた。結構通行量の多い通りで、びゅんびゅんと車がふっとんでいく。
今は進行方向は赤だ。信号が変わるのを待ちながら、ふと目を向けて、あっと思った。向こう岸に、あのバイクの巨人が立っている。相手はこちらに気づいていない。手元の何かを見ている。
もうじき信号が青になったら両方から歩き出す。ちょうど真ん中あたりで出会うことになる。
でも、今向こうからこっちに渡ろうとしているのだから、こっち側に何か用事があるのだろう。呼び止めても困るだろう。ただ単に「やあ、こんなところで会ったね」と声をかけるだけだな。
それでも、ちょっと嬉しい偶然だ、と思った時、交差している側の信号が黄色になり、赤になった。
こちらが青になった。その瞬間、直進車が出てくる前に曲がってしまえ、とばかりに猛スピードで発進し、右折してきた軽自動車がいた。
そして、まるきり同じ勢いで、さあ青になったとばかりに急発進してきた直進車がいた。
「!」
目を見開いた時には両者はものすごい勢いで激突していた。
直進車は左方向へ飛ばされ、横断歩道上をもう既に駆け出して渡りはじめた子供らめがけて突っ込んできた。
「危ない」
絶叫し同時に彼は緑の影を飛ばした。立ちすくんでいる子供らをひっ括ると、ぐぅん!と手前に引き寄せた。しかし当然車は停まらず、そのまますっ飛んでいく。
瞬間、
向こう岸の男がぐっと拳を握り、彼の背後から藍色の、中世の拳闘士のような偉丈夫があわられ立つと、
『オラァ!』
叫び、目にもとまらない速さで車の前に回り込み、ボンネットの上から強烈な一撃を見舞った。
「えっ」
男の膝がぐっと沈む。それくらいしか外見に出さない。数秒後、推進力を文字通り打ち消された車がその場にズンと落ちる。
驚く暇もなく、今度は花京院から見て左手方向、右折車が飛んで行った先から上がる悲鳴の方を見た。
右折車が弾き飛ばされた先でトラックに激突し、半回転して尻から歩道にどーっと乗り上げていく。そこに立っていた男は、銀髪を輝かせ、青い目で不敵に笑うと、瞬時に身構えた。
(ゲーセンの)
銀色の騎士が彼の肩口から弾け出し、目にもとまらない速度で剣を繰り出した。軽自動車の後ろのタイヤとバンパー辺りまでが細切れになり、車は大分短くなって止まった。
一方、ぶつかられたトラックは砂利を満載していた。どうやら最大積載量をオーバーしていたようだ。横から激突され、一気に車体が傾き、砂利があおりを越え雪崩をうって落ちてきた。悲鳴を上げる人々の前に立った、背の高い黒髪の異国人が左右の拳を握って気合を込めた、
(カレー屋)
赤い羽毛を燃え上がらせた鳥頭人体の猛禽が雄叫びを上げる。ゴウと音を立ててひらめいた炎が、波のように砂利を浚う。空中でピュウンというような音を立てて、砂利は熔け、宙で弾け飛んだ。
砂利を雪崩れさせたトラックはギリギリ倒れないまま道を突っ切って、電柱に激突し止まった。あまり太くなかった電柱はへし折れ、人々の上に倒れかかる。
「おぉっと」
交差点に面したマクトナルトの2階から身を乗り出し、落ちそうになった帽子を片手で押さえた老人がにやりと笑うと、
(コンビニの)
その手から紫のイバラが吹き出し、倒れ掛かる道電柱に絡みつき、からめとり、倒れるのを防いだ。そのままそろそろと地面に寝かせてゆく。
が、途中で電線が幾本かちぎれ、バチバチと音をたてて暴れのたくった。すぐ側に幾人もの人間がしりもちをついてもがいている。
「おっと、しまった」
老人の、あまり緊迫していない声に、犬の吠え声がかぶる。
『なにやってんだ、マヌケ!』
一匹の白黒ブチの犬が、帽子の老人の前にたたっと飛び出て四肢を踏ん張った。
(連れのボストンテリア)
犬の上にぶわっ!と、翼を持った犬のような姿があらわれて、窓から飛び立つと急降下し、暴れる電線の上から覆いかぶさった。巨大な犬は砂に変わり、電線の動きを停めた。
もうあっちでもこっちでも大騒ぎで、泣きわめく子供、悲鳴を上げる女、必死で電話しているがどこにかけているんだかわからない連中、最初にやらかした2人の運転手は、片方は降りて意味も無くうろうろしているし、もう片方は突っ伏したままだ。やっちゃった、と思って現実から目を背けているらしい。
だが、死傷者は誰もいないようだ。
自分が緑の影で助けた子供らをそっと放す。それまで身動きも出来なかったのに突然動けるようになって、子供たちは絶叫して駆け去っていった。その声も聞こえないふうで、花京院は呆然と、その場に居合わせた男たちの顔を見渡した。
各々が、それぞれの表情をしている。うまくいったなよしナイスだぜ俺、と思っている者、誰も怪我はないな?と確認する者、イヒヒまあそう怒るなお前が居るから安心しとったんじゃと笑う者、何勝手なことぬかしてんだよと怒る者、
それから、気合を入れ過ぎてわきっぱらの部分が破けたぜと思いながらそこを確かめている者。
見渡しながら、花京院の中に、どんどんどんどん感情がこみ上げてくる。もうすぐに我慢できなくなるだろう。大声を上げてしまいそうだ。ああ、誰も帰らないでくれ、僕は、
あなたたち全員と一緒に集まって話がしたいんだ、一人一人に、別の人を紹介して、お互いがお互いの顔を見ているところが見たい、でも紹介したくても名前も知らないのだが、
救急車とパトカーの音が遠くから近づいてくる。おやおやという感じで散開し始める。誰を最初に呼び止めればいいのかもわからないまま、猛烈な焦りと激情に駆られて、喉の限りに叫んだ。
「待ってくれ」
はっとする。目を開けている筈なのに目の前は白い闇だ。恐慌に陥りかける。
それからすぐに我に返った。そうだった、自分は砂漠で水のスタンド使いに目を切られ、病院に担ぎ込まれたのだ。
ああ、そうか、そうだった、と何度も自分の中で繰り返しているうち、廊下の彼方から聞き覚えのある声がしてきた。
「この病棟だよな、花京院のやつが入院してるのは」
「ああそうだ。幸いにして失明は免れたらしい」
「本当に良かったのう。あの時は冷や汗が出たわい」
「312号室。この先だぜ」
「アギ」
花京院の胸に、夢の中でどんどんこみ上げてきたものが、今もなお膨れ上がって溢れ出してくる。熱い。熱くてたまらない。
「手土産はこれでよかったかな。てめーで持ってきた土産を食っちまうことを何ていったっけ。なあアヴドゥル」
「お前の声はうるさいぞ。ここは病院だ、少しは控えろ」
「なにおう。っと、えっ?」
驚く声を上げるのも無理はない。曲がろうとしていた廊下の先から、緑色の輝く触脚がひゅるひゅると伸びて来て、
「うわっ」
「何じゃ?」
有無を言わさず、一同をまとめてぐるぐる巻きにしてしまった。もがいても暴れても逃れることは出来ない。全員ぎゅーっとくっついて強制押しくらまんじゅう状態だ。
小型犬だけが慌てて逃げ出そうとしたが、一本の蔦がすばやく絡みつくと引き戻し、上からまたぐるぐると全体に巻きついた。
「もがっ」
「こ、これは、花京院の、法皇か?」
「何事じゃ!げほげほ」
「野郎、なんの冗談だ」
「アギギギ」
周囲の医者や看護婦、他の患者たちはもうびっくり仰天で眺めている。異国の巨人たちがぞろぞろやってきたと思ったら突然びったりくっつき合っている。一体何がしたいのだろうか。
「恥ずかしいぜ!誰かなんとかしろよ!」
「とにかく、花京院の、部屋へ行こう」
「うむ。皆、慌てるな。転ぶからな。静かに」
「そっと」
「そーっと」
自動室内掃除機のように足をぱたぱたさせ、上半身は棒を束ねたように動かさず、男たちは廊下を移動していった。犬も一匹くっついている。
「ここじゃ」
「早く入れよ!」
「イダダダダ押すな押すなっ」
「おいてめえ花京院、何のつもりだ」
一同の目には、ベッドの上に上半身を起こし、目の部分に包帯を巻いた花京院がにっこり笑っている姿が映った。その口が開いて、ひどく嬉しそうに、
「僕への、プレゼントです」
「えっ?」
「なに?」
全員きょとんとしている。見ると、全員をひとまとめににしている触脚が、真ん中のところで蝶結びになっている。きらきらと輝いてそれはきれいなレースのリボンだ。
全員がそこにいて僕を見ている。お互いの顔を見ては疑問符を飛ばして、それからまた僕を見ている。
僕の目は包帯で隠れていて見えないが、僕には緑の影があるので、それらが全て見える。
僕は皆の名前を知っている。皆も僕の名を知っている。皆僕と同じ、それぞれの色をした影を持っている。
僕と同じように。
「承太郎」
その声が、ごまかしているが涙ぐんでいるのを感じとり、承太郎ははっとしたが、
「僕はね、やっぱりDIOは買わない。たとえ4万で安くたってね」
言い切って、胸を張って威張られ、
「………そうかよ」
他に言いようもなく、そう言って、それから自分の顔をざりざりと擦るポルナレフの頭を、なんとか引っこ抜いた手で押しやった。
[UP:2015/07/08]
なんとびっくり夢オチでございます。
夢の内容だけをパラレルとしてやってしまえばそれでいいのかなとも思いましたが、泣いて喜ぶ花京院を付け加えたかったのです。あと法皇でプレゼント状態にされる他の連中も。
3部の連中って、全員それぞれにとって貴重な仲間たちだったろうなと思いますが、ことさら花京院には、最後の独白部分を思うと、貴重さにおいては一番だったろうなと思います。
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