ティア


夜陰を、びょうびょうと風が渡って行く。
季節が変わる前の強い風だ。やがて風は、海の向こうから、絢爛と咲き誇る春を連れて来る。
男は腕組をして、蓬髪をなぶらせるままにしている。がっしりした体躯、厚い胸板にふさわしく、見上げるような上背をもっていた。右腰に下げられた傷だらけの長剣は、男が左ききであることと、これだけの重量のある剣を楽々と使いこなす腕力があることを示している。
闇に呑まれて見えない海を見つめている目は、情熱に燃える緑の色をしている。全身からたちのぼる充実した気力は、その辺の新米剣士とは比較にならない。バウンドキングダムの人間なら誰でも、この好男子の名を知っていた。体つきそのままに男らしいきりりとした顔立ち、篤い忠誠心と絶大なる自信、それを裏付けるだけの剣の腕前、豪放磊落な性格、
それから、それら全てを台無しにする、少々足りない頭。
最後の一項目の故に、男は、目ざましい働きと獅子奮迅の活躍とを繰り返しながら、どこか尊敬されないまま、衛兵隊長の椅子に座っていた。
まあ、一般の民間人も気安く声を掛けられるキャラクターが兵士の頭ということで、王宮と大衆の橋渡し的な役割も果たしていると言えるかもしれない。
男が立っている村はずれの広場の、一番近くの家から、茶色っぽい金髪をした、これまた堂々たる体躯の男が出てきて男を見つけ近づいてきた。
「おい、さっきから、なにを気取ってるんだ」
返事をしない。身動きもせず、つったっている。
 首をかしげて、その背をながめてから、でかい声で尋ねる。
「料理がまずかったのか?ジェシィもヒルダもそれなりに頑張ってたんだがな。とにかく、お前が好き嫌いを言うこと自体変なんだから、あんまりわがままを」
「違う」
吠えた。二人とも低い声だが、緑の目の男の方が更に低かった。
「じゃあ何だ。言いたいことがあったらはっきり言え」
男は初めて、目を伏せた。そのまま数秒、考えをまとめていたが、不意に振り返って、戦友の顔を見た。
「何だよ」
 さして誇らしげでもなく、どちらかというと無表情な淡々とした調子で、
「俺は、お前より先に結婚するぞ」
茶色の目が見開かれた。顔がだらしなく弛緩する。それから大慌てで引き締めてわめき出した。
「待て。誰とだ」
「決まっているだろう。ティアとだ。他にいると思ったのか、ガイ」
「ティ」
言い掛けて、ガイと呼ばれた男の目は、驚愕の他にもうひとつ、別の色彩を帯びた。その目のまま、相手の名を、詰るように叫んだ。
「どういうことだ、ハイデッカ」
「どういうことでもない。お前がいま聞いた通りだ。俺はあの娘と結婚する」
「ちょ、ちょっと待て。ちゃんと聞かせろ。あー、そうだ。お前、羽根持ってるか」
ふん、と鼻息を荒くして、懐から桃色に輝く鳥の翼のようなものを出した。
「剣士の心得だ。いつ何時どこへでも出撃できるように」
「わかったわかった。それをよこせ」
よこせ、と言いながらひったくる。もう片方の腕でハイデッカの上腕をむんずと掴むと、スィングウィングと呼ばれる魔力を秘めたその翼を、空高く放り投げて、叫んだ。
「ええと、エルフの里!」
次の瞬間、二人の姿は、なにかで拭いたようにかき消えた。
「ちょっと、ガイ。どこまで行ったのよ。ガイ?」
それから少し後、ガイが出てきた家から、長い金髪をくるくるとまとめた背の高い女が出てきてしばらく見回していたが、やがて諦めたのか家に戻っていった。
二人はその頃、さっきいた地からかなり離れた、エルフの隠れ里の入口に立っていた。人間で、この村へ入れるのは、数人もいないだろう。二人はその数人のうちに入っていた。
 「荒い奴だな。エルフの里と言って飛んでくるとは。もし失敗したら、何処とも知れない場所に置き去りになったぞ」
 「うるせえな。村の名前忘れたんだよ。別に名前で飛ぶ訳じゃないんだ。あそこへ行きたいって気持ちで飛ぶんだから構やしないんだよ」
ぎゃあぎゃあ騒いでいるところへ、
「そうとは限らないのですよ」
柔らかく、同時に硬質な感じもする、不思議な響き方の声が聞こえた。
「場所の持っている名前には、その名独自の意味と命があります。その名の持つ力に引き寄せられて飛ぶのが本来のスィングの魔法ですから。出来ればきちんと村の名で飛んで下さい、ガイ」
茂みの向こうに、一人の男が立って、こちらを見ていた。青く濡れているような長い髪、細くすっきりしたしなやかな体つき。中性的な声が表わすように、切れ長の目も、透き通るように白い肌も、一見女と見間違うような雰囲気をもっていた。それも、見蕩れるほど美しい女と。
背は、ガイよりも小指分低い。そしてハイデッカは、ガイよりも掌分高かったから、魔力を秘めた青い瞳を、ガイは少し、ハイデッカはかなり見おろして、二人は同じようににやりと笑った。
「よう、アー公、元気そうだな」
「久し振りだな。ええと、村の名は何だっけ。エスエスクリ、じゃないな」
苦笑を目に滲ませる。青い光が、夜気に流れた。
「お陰様で元気です。それからここはエスエリクト。ようこそ、お二人とも」
村の方へどうぞというように手で導いて、
「今夜はどうなさったのです?お揃いで」
「そうなんだよ。それでよ、お前にも聞いてもらおうと思ったからよ。とんでもねえよな、そう思わないかアーティ」
かみつくガイに、眉をひそめ、
「思わないかと仰られても、わたしには何の話かわかりません」
「何落ち着いてんだよ。それどころじゃねえだろう」
「頼みますから、あなたも落ち着いて下さい。それから順を追って聞かせて下さい」
ぜいぜいと喉を鳴らしてから、咳をして、ガイはハイデッカを振り返り、
「さあ、言え。ちゃんと順を追って」
ハイデッカはちょっと顔を撫でて、それから鼻をこすり、眉間を掻いて、
「何だか照れる。止めよう」
「ばーか野郎!お前が照れるって柄かよ!さあとっとと喋れ!最初に人を死ぬほど驚かせておいて、照れるなんて言葉で逃げられると思ってんのかあ」
「ちょっと、落ち着いて下さいってば、ガイ」
半狂乱のガイを宥めながら、ハイデッカを見上げ、
「わたしの家へいらして下さい。おもてなしをしなくては」
「そうか。じゃあ行くか。食後の酒がまだだったからな、ガイ」
がっはっはと笑いながら先に立ってどすどす歩き出したハイデッカを、ガイは待て、馬鹿、脳たりん、と罵り、アーティはそんなガイを持て余している。
「なあに?アーティさま、猪でも出たの?すごくうるさいんだけど」
「違うよ、きっとはぐれた水牛だよ」
言いながら、二人の子供のエルフが、自分の木の家から顔を覗かせた。
「んー?何だ、可愛いなあ。お前の子供か、アー公」
ぎょろりと剥いた眼光と、岩のようなでかい体に、二人のエルフはびっくり仰天している。
「わたしの子供ではありませんが、村の大切な子供です。二人ともご挨拶なさい。虚空島の戦いで、共に四狂神を倒した方たちですよ」
「えーっ」
二人とも目をまん丸くして、我先に家から出てきた。
ガイとハイデッカを見比べ、それから互いの顔を見て、もう一度二人を見る。そしてぱーっと目を輝かせて、叫んだ。
「すごーい!本当なの、おじさんたち」
「ガデスとアモンとエリーヌとディオスを倒した人たちなの?」
「俺はちょっと違う気がするが」
鼻の下を掻いているハイデッカに、アーティとガイが同時に首を振り、
「違わねえだろうがよ」
「わたしたち全ての力で、四狂神を倒したのですよ」
同時に喋ったので、ハイデッカには、アーティの言葉の最後しかわからなかった。肩をすくめて、
「ま、その手下どもの小うるさい連中とは随分やりあったことだしな。そういうことにしておくか」
そして、自分の回りですごいすごいと叫んで輪をかいている子供たちを眺めて、はっはっはと笑った。
「ねえねえ、おじさん、人間なの?違うでしょ?ゴーレムの一族でしょ」
「違うよ、伝説のギガンテスの一族だよ」
「ギガンテスって一つ目なんだよ」
「じゃあ、ギガンテスの見習いだ。そうでしょおじさん」
ハイデッカはまだわっはっはと笑い続けている。
「手前が化け物のなりそこないにされてることに気づいてないんだろうな」
ガイが途方に暮れたような声を出した。思わずアーティが吹き出す。それを見てガイは、
「あいつを見てると退屈しないだろ。しかしああいう人間をエルフに見せるのは恥ずかしいぜ。余計、人間は馬鹿なんだと思われる」
珍しく、声を上げて笑ってしまってから、こほんといって、
「いい人ですね、ハイデッカさんは」
「そう思うかあ?」
「あの人がパーティにいた時は、さぞやにぎやかだったでしょうね」
それから、ちらとガイを見て、
「あなたもいたのなら、相乗効果で余計に」
「どさくさに紛れてなに言ってやがるんだ、こいつは」
「すみません」
あまり誠意のこもらない謝罪の後、笑い続けているギガンテスの見習いに声をかけた。
「そろそろ行きませんか、ハイデッカさん」
「おう。ところで一つ注文があるんだがな、アー公」
偉そうに腕組のまま、
「おれはハイデッカサンという名前じゃないんだが」
冗談にかこつけて敬語なんか使うなと言っているのか、本気で言っているのかわからず、アーティは数秒思案してから、
「わたしも、アーコウという名ではないのですが」
ガイが爆笑した。
「お前も相当いい線いってるぜ。俺に文句なんかつけられねえぞ、アーティ」
「そうですか」
無表情に言われて更に笑い出す。意味もなくハイデッカも笑っている。子供たちも声を揃えて笑っている。
うるさいぞ、静かにせんか、と村一番の年寄りに叱られて、一同は慌ててひきあげた。

「どうぞ。人間には結構強いと思いますからゆっくりやって下さい」
切り子の、小さなグラスに、桃色の液体を注いで二人に出した。
「ふん。俺の酒の強さを知らないのか。ドラゴン山を杯にして飲んでもふらとも乱れないぞ」
「話半分、いや話十分の一くらいだな」
「なにを」
言いながらにらみ合って、二人は同時にぐいとほしてしまった。
「あー」
アーティが悲鳴のような声を上げかけ、諦めたのか黙って自分の分を注いだ。
「ほほう、結構いけるじゃないか。少し甘すぎるが」
「これ、何酒だ」
「ミラクロースをつくる工程の途中で、酒にしたものです。薬繕酒の一種ですね。でも、あまり早く飲んでは」
いけませんと言うより先に、二人は二杯目を飲んでしまった。
「うん。これはいけるぞ」
「もっと注げ」
「ちょっと待ちなさい。少しずつ飲んで下さいと言っているでしょう」
どん、とテーブルを叩く。
「大丈夫だと言ってるだろう。注げぇ」
アーティの目が冷たく光った。二人は思わず腰を浮かした。
「よ、酔いがさめた」
「こいつににらまれるとびくっとなるよな。ジェシィが怒り狂った時といい勝負だ。一度あいつとにらめっこしてみねえか」
ふ、と息をついて、
「お話はまだなんですか。そろそろ聞かせていただきたいのですが」
「おお、そうだった」
ガイは慌てて椅子を引っぱり、アーティに向き直って、
「こいつが結婚するって言い出しやがってよ」
アーティはちらとハイデッカを見た。相変わらず腕組して威張っている。
「そうなんですか、ハイデッカさ…」
「ハイデッカ」
上からかぶせてから、うん、と諾く。
「それはおめでとう。いいことではないですか」
「それがよ、相手がティアなんだと」
アーティの目に、ある種の感情が動いた。それは、ガイが話を聞いた時と同じものだったが、アーティはあの辺りの事情を自分の目で見ていた訳ではないので、多少、感情の動きは希薄だった。
「そうですか。…それでも、ティアさんがうんと言ってくれたのなら、別にいいのではないですか」
「いや、まだ言ってない」
がたがたと音を立ててガイが崩れ、その後慌てて起き上がり、
「おい。もしかして、ティアと婚約したって話じゃないのか」
 「俺はそんなことは一言も言ってないぞ」
 威張っているハイデッカに、頬を引きつらせて、念のために尋ねる。
 「お前が一方的に心に決めたっていうだけか」
「だけとはなんだ。それで十分だろう」
がくー、と音が出そうにつっ伏した。今度は結構長々と伸びてから、やっと起きて、疲れた声を出した。
「お前まで巻き込んで騒いで悪かったなアーティ。まあ、久し振りに会えたってことでよしとしてくれ」
困った顔で黙っているアーティは、その後ハイデッカを見た。
「何だ、お前ら。まだ言ってないってだけでどうして駄目だと決めつける。何を根拠にそう言えるんだ。ティアもきっと俺の申し出を受けてくれる」
「恐るべき脳天気だな」
「何だと」
本気で怒った声を出した。ガイが、真面目な顔と口調になって、
「お前、ティアがパーセライトから去る時、話したんだろう?直接」
ハイデッカは無言だ。
「話の内容をお前から聞いた俺でさえ、あの子は本当に純粋にあいつを愛してるんだなと思ったぞ」
きつい話だが、言うべきだと思ったから、ガイは言った。
「たとえ側についていって一緒に戦えなくても、そういう形で表わせなくても、あの子の愛は本物だし、薄れたり忘れたりするもんじゃない。セレナとは全然別のところで、あの子ほどあいつを愛した女はいなかった」
「その通りだ」
ガイの話を聞いている間、辛いなと思っていたアーティは、最後で突如、ひどく誇らしげなあいずちを聞いて、びっくりした。
「相手に受け入れられるから愛するのじゃない。一途で、純粋で、健気で懸命でひたむきで、ただひたすら相手のことを思いやる。そんな気持ちを持っている娘なのだ。あの子は」
ハイデッカはうんうんとうなずき、もう一度力強くうなずいた。
 「そんなところにも、俺は惚れたんだ」
二人はぽかんと、相手の輝く頬と瞳を見ていた。
 やがて、アーティが心から感嘆したように、
「あなたは、本当につよい男ですね」
「おい、今ごろ何を言ってるんだ?そんなことは当り前だろう。俺は地上最強の男」
「やかましい。お前の自慢は後にしろ。あのなあ」
テーブルの上で、自分の手を揉んでいたが、顔を上げて、
「ひでえこと言うぞ。もし、あいつが、パーセライトでセレナとラルフと、その下にも息子か娘をつくって、何人かで楽しくやってるというのなら、いつか、ティアの心も誰かへ向くかも知れない。もしかしたら、バウンドキングダム辺りに生息してるギガンテスの跡取りを好きになるかも知れない。
だけど、あいつは、もう帰ってこないんだ」
部屋の中の空気が、釘で何かに打ちつけられたような雰囲気になった。
「あの子の思い出の中のあいつのまま、永遠にそのままだ。戦いで死ぬんじゃないかと心配することもないし、他の女を好きになって去っていく心配もいらない。あの子が待ち続けているのは、自分だけのものになったあいつだ。他の誰でもなく」
「それでは、あの子も死人と同じだ」
強い声で吠えた。ガイははっとして口をつぐんだ。ハイデッカは、激しく首を振って、
「あんなに一生懸命な娘を、亡霊と心中させてたまるか。あいつの幻は、この俺が叩っ切ってやる。返す刀であの子を横抱きにして教会の祭壇前へレッツゴーだ。文句あるか」
だあん、とテーブルをぶん殴った。はずみで椅子がひっくり返った。
怒りと興奮で紅潮した顔のまま、はあはあと肩を上下させ、一回喉を鳴らしてから、
「いくら待っても帰ってこないからこそ、俺が代わりに行くんだ。さんざん女を待たせておいて、のらくら逃げ回っている奴にとやかく言われたくないぞ」
「なに?」
こめかみに血管が浮き上がった。とっさにアーティが立ち上がって、
「喧嘩は止めて下さい。お互いに関係のないことでもめないで下さい。話が進みません」
「だがこいつ、今聞き捨てならないことを」
「それ以上やるなら、二人まとめてスクレイをかけます」
二人はぎょっとして、思わずアーティを見、冷徹で無表情な顔に気押されて、黙った。
少し、沈黙があった。
その後、ぼそりと、ハイデッカが口を開いた。
「虚空島が落ちた後、皆でエルシドへ行ったろう」
 アーティはガイと目を合わせ、すぐに口を開いた。
「はい。私はその時初めて、ティアさんにお会いしました」
「ティアは泣いてたな。ラルフを見てよ。目元が、マキシムにそっくり、と言って」
そう言ってから、ガイは、不意に泣き出したい気持ちになった。
 あいつの名を口にするのは、ずいぶん久し振りだ。
あいつと俺は、数えきれないほどの戦闘を共にし、沢山の洞窟や塔へ行き、海を越え山を越えて虚空島まで一緒に行った。どんな時でも一緒にいたのだ。
後ろから、セレナとアーティの援護魔法が飛んだり、右手からバカ男の必殺技が炸裂したりするのは違っても、俺とあいつが同時に飛び出して行く所だけは、いつも一緒だった。尊敬できて共感し合える、俺にとってかけがえのない仲間だったのだ。
泣きたいのは俺も同じだ。
だが、俺は泣かない。今ここでは泣けないと思う。泣いても寂しさが増すだけだ。だが、何時か何処か、俺があいつを失ったことを悲しんで泣ける場所があって、そこで泣いたとしても、俺は楽になれるかといったら、恐らく違うだろう。
俺は多分、死ぬまで、この血が乾くような、胸の中に砂が溜っていくような寂莫を抱えて生きていくのだろう。
アーティの細い手が、蝶の羽のようにそっと、ガイの左肩に乗った。
俺の背から何か感じたのかな、とガイは思い、感謝をこめて、相手の手を右手でぽんと叩いた。
そんな二人を見てから、
「あの時のティアを見て、お前らどう思った」
「どうって」
 ガイが、息を吸って吐いて、日記を読み上げるように羅列した。
「どんなにか悲しいだろうな、やりきれないだろうな。今は何を言っても辛いだけだろう。いつかこの子が立ち直る日が来るといいけれども」
 アーティは、あの日見たティアの横顔を思い浮かべながら、言った。
 「時の女神が、この可憐な少女に救いの手を差し伸べてくれることを切に願いました」
「俺もそう思った。そのくらいあの時のティアはか細くて、今にも折れちまいそうでな」
ちょっと、剣の束をいじってから、
「どうにも気がかりでな、お前には黙ってたが、時々エルシドへ出かけてみたのだ」
「へえ?」
ガイが間抜けな声を上げた。
「その度、ティアは笑顔で迎えてくれて、サンデルタンのお茶を煎れてくれたり、魚料理を食わせてくれたりした。失敗作なんだとか言ってたが、俺には十分うまかった」
天井を見上げている。ハイデッカがティアと向かい合って座って、わっはっはと言いながらお茶を御馳走になっている情景を想像してみる。
笑いたいような、不気味なような、なんとも言えない顔になってくる。
「勿論、それでティアの気が紛れると思っていた訳ではない。ただ俺がそうしないでいられなくて、彼女を訪ねていただけだが」
何故かムキになって言うハイデッカを、まあまあというように手で押さえて、
「そうしているうちに、彼女への愛が芽生えたということですか?」
「すげえ単語使うなあ、お前」
赤くなって、照れている。
「何故あなたが恥ずかしがるのです?ガイ」
「うるさい。で、どうなんだ、そうなのかハイデッカ」
ハイデッカは少し、考えをまとめているようだった。頭が悪いのでなかなかうまくまとまらないようだったが、やがて話し出した。

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