目覚めは最悪だった。
なんだか知らないが、幻夜と村雨が二人して内緒話をしている。しかし、何を言っているのかさっぱり聞こえない。聞こえないのに、二人で大作のことを仲間はずれにしようとしているのが何故かわかるのだった。
やめて下さい、幻夜さん!村雨さん!
必死で怒鳴っても、声はどこかにのみこまれて消えてしまう。自分の声が自分でも聞こえない。水の中で怒鳴っているようだ。
二人は嬉しそうに目配せをし合い、くすくすと笑う。必死で自己主張しながら腕を掴もうとしても、二人は異様に背が高く、どんなに伸び上がっても二人の手にすら届かない。いやどんどん高くなる。もはや二人の顔は闇にのまれて見えない。
上の方で…ずっと高いところで…二人にしかわからない話をしているんだ
「イヤだ!」
叫んだところで目が覚めた。よく話にあるように全身汗びっしょり、という訳ではなかったが、心臓は尋常でない速度で鳴っているし、口の中がべとべとして嫌な味がする。それに何より、一日の始まりだというのに、全身、無力感と脱力感に襲われて、しおしおと泣き出したい気分だ。
ゆっくり身を起こす。顔を洗うために洗面台のところへ行って、鏡を見る。
なんだか、僕の顔じゃないみたいだなあ。
相手もそう言っている。くすんだ顔色。光のない目。上げよう上げようとしても下がってくる眉。痛いと思ったら口角炎が出来ている。
戴宗なら言うかも知れない。
なんでぇ大作、恋の悩みでお肌荒れてんのかよ。大人になっちまったなあ。俺ぁ寂しいぜ。
呉なら言うだろう。
だからちゃんと、毎日色の濃い野菜を食べなさいと言っているだろう。本当なら一日三十品目は…
うるさいや。
大作はちょっと不良になって、鏡に映っているいろいろなものにむかってべー、と舌を出した。変に白かった。
一同集合、と号令がかかって、皆はぞろぞろと司令室に集まってきた。
楊志と一清は別の支部へ行っていて、集まったのは昨日のホログラフを見た人間プラス鉄牛というメンバーだった。
一同を見下ろす位置で、中条長官が、
「全員いるか。さっそくだが、パリから村雨君が来た」
中条の隣りにいる村雨が目礼する。戴宗と鉄牛が、おう、おうっす、のような類の声を上げた。
「村雨君はある機密事項を運んできてくれたのだ。詳細は君のほうから頼む」
「はい」
一歩前に出て、一同を見渡す。戴宗がにやにやしている以外は、皆そこそこ真面目な顔でこちらを見ている。
「先月の10日に、イベリア半島沖で海底探査をしていた某研究チームが深海の遺跡であるものを発見をした。調査を進めるうちに、人類史上大変な発見だということがわかった」
「おうおう、すげぇ風呂敷じゃねえかよ。ふかしが」
戴宗が嬉しそうにさっそく茶々を入れた。
「別にそういう訳じゃない」
「ホントかぁ?ウソくせぇな」
「ウソくさくても、本当だ」
あっさりと返す。この辺の呼吸、ムキにもならないし相手が信じようと信じまいとどうでもいい、という距離感と姿勢が、鉄牛も大作も真似の出来ないところだ。
「なあ、で、その人類バンザイの大発見てのは何だよ」
「何と聞かれると困るんだがな。巨大な像、だな」
巨大な像?と声が重なった。隣りの人間と顔を見合わせたり、へえーと感心してから、
「どのくらいの大きさなんだ?」
「20mくらいだ」
「20メートル…」
一同の空気がなんとなくしぼんだ。別に、小さいとは言わないけれども、歴史的な大発見ならもう少し…いや、大きさではなくもっと他の所に価値のある建造物なのだろうが、しかし。
なぁんだ、と大作は思い、ちょっといい気分になった。ロボの方がずっと大きいや。
「ふーん。へえー」
いきなり正直に、拍子抜けした気分そのまんまの感想を漏らして、戴宗ははなくそをほじりだした。村雨は苦笑している。
「それが歴史的な発見だというのはどの辺なんだ?」
呉が、別に誰にどう気を使う必要もないのに使って、とりなすようなことを聞いた。
「うん。まあ、どうやら昔の人間の方が、頭が良かったらしいってことが解った辺りかな。今あれと同じものをつくれったって、無理だろうよ。いくらシズマ管をもってきて組み合わせてもな」
何となくシズマをけなされた気分になって、呉がむっとした。それを見てから銀鈴が、
「シズマ管をもってきて…てことはその像は何らかの働きをするってことでしょう?ただ立ってるだけじゃなくて」
「ああそうだ。そいつはこっちの命令を聞いて動くんだ」
あっさりと言われて、内容のものすごさに、一同は少しの間気づかなかった。
「命令を聞いて動くって…」
「つまり、ロボみたいにか?」
鉄牛が尋ねる。
「そうだな。実際、大した働きをするぞ。ジャイアントロボに匹敵するか、それ以上かも知れんな」
今度は大作がかっとなって怒鳴った。
「どんな石像か知りませんけど、ロボが負けるわけありません!」
村雨はフンと笑って、
「別に、勝つだの負けるだのって話はしてないぜ。でも多分、ただ殴り合ったらロボが負けるんじゃないか」
「なんでそんなこと言えるんですか!ロボの方が大きいし力だって強いに決まってます!」
逆上する。
「あの像の方が、ロボよりシンプルだ。単に石だからな。ロボは精巧で精密な分、華奢だ。だからまあ、戦うのはよしといた方がいいな」
「ロボは負けませんそんな石なんかの、石なんかの」
「大作、落ち着け」
「大作くん」
「お前もやめろ、村雨」
「やめるが、本当のことだからなあ」
悪かったとは、これっぱかしも思っていない言い方だ。
余計に腹が立ち前に出ようとするが、皆に宥められ肩をつかまれて引き戻され、村雨の顔を睨みつけながらはっく、はっくと変な呼吸をしている大作に構わず、
「身体の中に歯車やシズマ管もないのに、動いて、すさまじい力を発揮する。燃料切れもしない。原理は謎だ。それとも、何か考えられるか、呉学人」
呉は渋い顔で黙っていたが、仕方なさそうに首を振った。
「想像もつかない」
科学の敗北、いいえシズマの敗北、とでも言いたげな顔だ。
「ロボっていうよりはあれみてえだな、マスク・ザ・レッドが乗っかってる金ぴかのよ」
鉄牛がぽんと手を打って叫んだ。村雨もうなずいて、
「雰囲気としてはあれを思い浮かべてもらえば一番近いな。あれを、青銅色にして、戴宗の」
え?と戴宗がこっちを見た。はなくそを丸めているのを、飛ばすんじゃないだろうなと呉と銀鈴が警戒している。
「その赤い布きれみたいな色の、あれは何なんだろうな。マントなのか、風呂敷なのか。大分ボロボロだがな。そいつを背中に垂らしてる」
「なんだよ、お洒落だな!気にいったぞ」
笑ってから、案の定ぴん!と飛ばした。呉がすばやく飛びのいた。フケツなという顔で、
「戴宗、あんまりそういうふうに」
「なんでぇ」
またつっこんでいる。傍若無人を絵に描いたような相手の態度に、
「…ふかぶかと指をつっこむと、鼻血が出て止まらなくなりますよ」
もういいやという感じで忠告すると、
「それで、謎の石像を、北京支部で調査するのか?梁山…」
「梁山泊へ行くさ勿論。その前に、そこでふくれてる大作の得意技と、あの石像を動かすシステムに、何か関連はないのか、調べたいんだ」
「大作君の?」
呉が言い、皆が大作を見た。呉は首をかしげて、
「じゃあ石像も、ただ声で命令するだけで言うことを聞くのか?いよいよもって」
「そうさ。謎だろ。しかも大作のそいつみたいに、」
声と目で指された先には、子供がするには巨大な腕時計があった。
「何かを使って送話するわけでもないんだ。こっちの声を石の耳で聞いて、石の頭で考えてるのか、どうか。大作、ちょっと来い」
「時計を壊さないで下さいね」
しぶい顔で近づいてくる。すっかり不信感の塊だ。と、
「長官!」
部下の声が響き渡った。
「どうした」
「BF団の襲撃です!日本支部から支援を要求してきています」
「日本支部のエキスパート連中は今研修で沖縄の方に行っている筈だ」
「研修兼物見遊山でしょうが」
「そうとも言うな」
中条が素直に認めた。呉が叫んだ。
「襲撃って、場所はどこです」
「吾妻磐梯方面です」
「おいおい、芋煮会にでも来たのかよ」
「きっと、温泉を掘りに来たんですぜ。で、BFの湯、とか言って金を取るつもりなんですよ」
実はその通りで、その辺りに加えて近隣の土地、私鉄の経営権をのっとって総合お土産売り場や子供のために動物園やゲームセンター、大人のためにパチンコや麻雀やビリヤードやカラオケのできるレジャーセンター、ゆくゆくはもっと大人のために周囲に一大歓楽街をつくりBF団の資金源にしようというのが今回のプロジェクトの骨子だった。
故に、最初はしのびやかに深く海面下で始まる計画の筈が、なんでまた全然違う侵略大行進になったかというと、ある男がプロジェクトリーダーに無理矢理就任したからなのだが、その辺の事情は国警の面々は勿論知らなかった。
「よし、すぐに向かおう」
「はい!」
「了解」
全員ばたばたとそれぞれの持ち場へ駆けて行く。
「大作君、ロボの整備は済んでいたね」
後ろから呉に声をかけられて、勿論です呉先生!と大作が高らかに叫んだ。叫びながら、ちらっと村雨を見た。
ロボがそんな石像なんかとは違うところを、はっきり見せてやる。
村雨が何か言う前にさっと背を向けて、更に速度を上げて走っていった。
これでよかったのだろうか。
ここまで来て幻夜はまだそういうことを言っていた。
なんだか、ここに来てもまだ、自分の選択が間違っていたような気もしてくる。
なら、最初に己に律した通り次に逢える時まで、ほいほい誘ったりしないで必死で我慢するのか。その挙句に大作くんを村雨に取られたらどうするのか。やはり今、このタイミングで一度逢っておいて、自分は掛け値なしに君の事を愛しているときちんと…
自分一人のコクピットで赤面し、フゥとため息をついた。ああ。あの子のことを思うとこの胸は、切なく痛む。愛しさで張り裂けそうだ。
『張り裂けてろ』
低い呪いの声がした。はっとして通信モニタを見ると衝撃のアルベルトがこちらを見ない顔で映っている。
幻夜は怒りと恥ずかしさに震える声で唸った。
「何故貴殿はそうやってこっそりと私の様子をうかがっているのです。卑劣じゃないか。男として恥ずかしいとは思わないのか」
『やめろ。もう聞く耳持たん。目的地には着いたのか』
「つい先程」
『そうか。まあ勝手にやれ。もはや私はこの作戦から手を引いた。失敗しようと無関係だ。責任は貴様にあるぞ。自分が指揮をとると言った以上その覚悟はあるんだろうな。いやいい。無くても私には関係ない』
言うことだけは言っておこうというのか一方的に抑揚もなくまくしたててから、
『随時連絡をよこせ。いやいい。しなくていい。どうせ私にはむかんけい』
「随時連絡を入れますよ、アルベルトどの」
こちらも一方的に言って通信を切った。
「くそっ先にこっちから言いまくった後切ってやろうと思っていたのに、先を越されたわ!」
猛烈に悔しがるアルベルトに、イワンが、
「しかし、当初の予定とは遠く隔たったことをやり始めましたが、一体どうするつもりなのでしょう?」
「知るか。知りたくもない。見たければ見ていろ」
顎でメインのモニタをしゃくった。
素直に顔を上げたイワンの目に、磐梯高原に乗り込んだ真っ黒い巨大な球から、八方に光の粒が放射されたのが映った。と、山沿いの道を逃げ惑っていた車が、狂ったように暴走し始め、あるいは高速で走っていた車体が不意に停車し後ろから追突し、たちまちのうちに大混乱に陥った。
おかしくなったのは車だけでなく、山間にある大きな宿泊施設などからも爆発音が轟き、続いて妙な静寂が訪れた。
イワンが丸く開けた口から、声がもれた。
「エネルギー停止現象…」
知りたくもないと言いながら自分も結局見ていたアルベルトも、
「アンチシズマフィールドか。あれをやられては、なまなかなことでは太刀打ちできん。できるのは、」
アルベルトの顔が怒りと屈辱に歪んだ。
「やつめ、この期に及んでBF団の作戦をクソガキとの逢引の道具に利用したのか」
あいびきって言い方はどうでございましょう、とイワンは思ったが言わなかった。アルベルトさまがおっしゃるのだから別に、逢引でも逢瀬でも、接吻でも口吸いでも何でも良い。
突然、球のどこからなのか知らないが、わんわんと威張りくさった声が響き渡った。
『わっはっはっは。我こそはBF団の栄光を知らしめる為にやってきた美しき幻の尖兵。黒き完全なる球形、完璧な美の造詣物よりもたらされる真の黄金である沈黙を、ただひたすら謙虚に受け入れるがよい。その中でおのれらが支配され統治されるものの偉大さと脅威に打たれ、静かに涙することが、虫よりも愚かなおのれらにただひとつ許された道だ』
「こういうことを言わせると大喜びだな、あの若造は」
「こうも偉そうな演説をのどかなやまあいの温泉地でやらかすというのも、なんだか間が抜け…」
「言うな」
『それとも我に逆らう気か。斯様に愚かな思考回路を所持している者がいると言うのなら、恥を覚悟で名乗り出るがいい。存分に嘲笑ってやる。わっはっは。わっはっは』
わっはっはと言いながら幻夜の目は落ち着きなく、四方八方のモニタを見回している。見ている人間がいたらバカみたいだと思っただろう。
おそらく、留守を任されている日本支部の連中は、援軍を求めただろう。そして、この、わたしの張った苦悩と嘆きの結界を破って、近づいて来られるのは、あの子しかいない。
こんな風にして逢いに来たわたしに、あの子は最初になんと言うだろう。なんと思うだろう。
数え切れないほど考えたことをまた、考える。
…どの道、わたしはBF団の人間だ。大作くんが国警にいる時のことがどうしても心配で逢いたいと思ったら、あの方が示された通り、BF団として人の住む土地を襲撃し、暴れ、踏み荒らした地の果てより、それを止めるために大作くんがロボでやってくるという形しか、
無いのだ。
そのことを、わたしはそろそろ覚悟すべきなのだろう。
こっそり深夜に夜這って行って、誘拐するようにあの子を連れ出して、誰からも見られないところでナニヤラよろしくやることを、わたしは潔くないとして退けた。
わたしがBF団員であること、大作くんが国際警察機構の一員であることを置いておいて、それはともかくいちゃいちゃすることを、正しくないとした。
大作くんをBF団の一員にしてしまえば大手を振って毎日いちゃいちゃ出来るだろう。だがそれは絶対にしてはいけないことなのだ。わたしたちは共に父親の遺志を継ごうと努力する者だ。あの子の決意とその重さは、世界で誰よりもわたしが理解している。それを外から止めさせることはできないことも。
同じ理由で、わたしはBF団を離れて大作くんのもとへ行くことも出来ない。もとよりBF団がそれを許さないし。
ならば、こうするしかない。
この形しかない。
そのことを。重く冷たい現実を。あの方はわたしに遠まわしに教えてくださったのだろう。
『感謝すべきなのだろうな、あの方に』
低い声で辛そうに呟いた声が入って、ん?と思ったアルベルトの後ろから、
「いやいや、それには及びませんぞ」
アルベルトのあまり好きでない声がした。不愉快そうにちらと見る。
案の定ふわふわ扇子を顔の前で扇ぎながら、ちょびヒゲをひくつかせて笑っている男がいた。
「感謝されるようなことは何もしておりませんからな」
「親切ごかしに、あのアホに何を吹き込んだ」
「私も彼もひどい言われようですな。ただ、躊躇っていては大切なものはどんどん指の間から零れ落ちてしまうという真実を、ふたことみこと忠告したまでのこと」
「貴様が何の見返りもなくそんなことをする筈が無かろう。目的はなんだ」
「悲しいですな。少しはこの優しい心をご理解いただきたい。アルベルトどの」
「空々しい」
これ以上喋るのがイヤになって、背を向けモニタに向いてしまった。それを男は眺めてニヤリと笑い、その顔を扇子で隠した。
『しかし』
再び声が入ってきた。
それきり考え込んでいるようだ。アルベルトと男は待つともなしに続きを待ったが、それきりになった。アルベルトはいらいらして、しかし何だ、と聞き返したくなったが、がまんした。
幻夜はため息をつきながら、
(あの方に言われるままにこうやって逢うしかないのでここまで来たが…大作くんが来たらあとはどうしよう。まさか本気で戦う訳にもいかないし。村雨なんかに気を許さないでくれたまえ。じゃ、と言って帰っていいのかというと、多分ダメだろう。やはり負けた振りして逃げ帰るしかないのだろうな。あれはあれで結構難しいし、アルベルトどのは見破るだろうな。うるさい男だ。この手は二回は使えないし、次に逢いに行く時はどうやって帰ればいいだろう)
アルベルトが知ったら怒りで卒倒しそうなことを考えていた。
現地の様子がなんとか捉えられるくらいの距離まで来て、ぱっと映し出されたモニタを見、皆驚き、鉄牛が代表でわめいた。
「うぉっと、なんだりゃ。兄貴、めたくたになってますぜ」
「なんだ?ただの爆発炎上じゃねえな。なんだか…どいつも動力系統が自爆したみたいに…」
「シズマを止めたのだ」
呉がいつになく強く厳しい口調で叫んだ。皆思わず振り返る。
「気をつけろ。そろそろ入るぞ」
「入るって、何にです」
鉄牛が聞き返した途端、がくんとショックが走る。警報が鋭く鳴り響き、所員の悲鳴が上がった。
「シズマドライブが停止します」
「なに?」
戴宗が怒鳴り返した。それに続けて呉が、
「サブのディーゼルエンジンに切り替えろ」
「はっ」
機は暫くグラグラと飛行していたが、やがてなんとか安定した。が、出力がどうしても落ちている。
「シズマドライブを停める炉心か」
中条が呟き、呉が頷く。
「はい。つまり彼です」
と。
幾層にも入り組んだ山間の中から、今巨大な球が、ゆっくりと姿を現した。進行方向の斜め上の空を無心に見上げていた大きな目を、ゆっくりとこちらへ向ける。
「幻夜さん」
大作がその球のものであるように、愕然として名を呼んだ。それが聞こえたかのように、
『来たか、能無しの国際警察機構め。我こそは真に偉大なるフォーグラーの後継者。まやかしの力によって賛美と賞賛を一身に集めるガラクタなど、一本残らず破壊してくれよう。わっはっはっはっはげほげほげほ』
最後に咳込んだ。大作が聞いていると思うとどうしても動揺するらしい。
「シズマを停めるかぁ。こりゃちょっと、ナニだな。こっちのコマはおのずと決まっちまうじゃねえか」
戴宗の声が段々しぼんでくる。
あのにいちゃん、多分BF団の中では困った存在だろうな。ああいう性格だし。ああいう立場を黙認する連中じゃねえだろうし。衝撃のおっさんなんぞここぞとばかりにぐいぐいいじめつけてんだろうな。案外言われたのかも知れねぇな。『次は貴様ひとりで草間大作と戦ってみせろ。それが出来なくば貴様を裏切り者と見なす』なんてな。ありそうなことだ。あのおっさん性格悪ぃからなあ。
銀鈴が真っ青になっているが、何も言わない。
どういうつもりなのかしら、兄さん。本気でBF団の人間として大作くんと一騎打ちでもする気なのかしら。そんなわけはないわ。だってあんなべろべろのラブレター、いやラブホロ?をつくって送りつけてるんだもの。
「へえ。見かけによらず根性があるじゃないか、あの男」
村雨が淡々と言った。
「あんなこっぱずかしいものを平気で送ってよこす恥知らずの軟派野郎だから、いざ作戦遂行上に大作と鉢合わせなんかしても、『大作くんと戦うことなんか出来るものか。愛してるよ』とかなんとか言ってその場を逃げ出すのかと思っていた」
銀鈴の顔色がますます悪くなる。自分でもその情景が当たり前のように見えるから余計だった。
「それはそれ、これはこれ。BF団の一員としての仕事はきっちりやると。そのくらい腹はくくってるわけだ。立派じゃないか。まさか大作に逢いたいだけでこんなことをしでかした訳じゃないだろうからな」
皮肉っぽく口にしているが、そのまさかであった。
「それにしても、今までこんな、行けー突っ込めーみたいな手には出なかったぞ。なんで突然こんなことをおっぱじめたんだ」
「さあな。俺に聞かれても知らないぜ」
さあ?と首をかしげているが、当の村雨の存在の故であった。
「相手の考えはともかく、なんとかしないと、周辺住民が危険だ」
「はい。…出られるのは…ロボしかいないのですが…」
呉の声もしぼんでいく。と、
「僕、ロボで出ます」
大作がきっぱりと叫んだ。皆大作を見る。
「で、でも大作君」
おたおたする呉に、
「今の僕は国際警察機構の一員です。いつもいつも皆さんにご迷惑をかけて、申し訳ないと思いながら、それでもやっぱりご迷惑をかけてきました。
それじゃ駄目なんです。それじゃただ、いろんな人に甘えているだけなんだ」
力強く首を振る。
「せめて。今ここに居て、ロボが側にいるのなら、その力を国際警察機構の一員として使います。BF団と戦います。そうしろって。そうしてみせろって、幻夜さんは言いたいんだと思います。父さんの遺志をつぐんだって気持ちは、幻夜さんが一番よくわかってくれてますから。あえて。わざと、僕のためにああやって」
幻夜さん、そうですよね。嬉しいです。有難う。
あなたはいつだってそうなんだ。
ものすごい買い被りをして、感動的に涙ぐんでいる大作を、皆あたたかく見守っている。約一名例外がいて、
「あの男、そこまで考えているか?」
極めて冷静に呟いた。水をぶっかけられた気分の大作は、とにかく!と声を張り上げて、
「僕行きます!行くぞ、ロボ!」
「ちょっと待った」
その例外に声をかけられ、目を剥いて振り返る。
「なんですか!僕忙しいんですけど」
「俺も乗せていってくれ。お前の忠実な家来の肩に」
「ええ?」
「何しにいくんだ?紅葉狩りか?」
まだバカな質問をした男に、そうだ、と答えて、
「頼むぜ、大作」
厚かましくそう言い、大作を追い越してロボのいる方へ走り出した。大作は大慌てでその後を追った。
いやあの、続きもすでにあるんですけど、バランス悪すぎるんで二つに分けて更にこの後をちょっといじりますので、一応これはここまでで載せます。後編その1だ。ああもう、私は「すぐ終わる」とかは言わないことにしよう。えん魔くんのおじさんに舌を抜かれる。
![]() |
![]() |
![]() |