いつもと同じ、ただひたすら暑い、うんざりするほど暑いある日、防御の壁は出来上がった。

「準備はいいかね、呉先生」
「はい長官」
気負った声で応える呉も、無言で頷く中条も、各々荷を背負い、ここに来た時の服に着替えている。やはり、自分達にとって一番動きやすいからだ。
二人は村の入口に立って、振り返った。
村人達は皆、死人のような顔で、また死人を見るような目で、突っ立っている。達成感も、大して無いようだ。
ネイがたたたっと前に出て、叫んだ。
「ゴ。きっと生きて戻ってきて」
呉は微笑んだ。この娘の言葉には、真実だけの持つ残酷さと非情さでもって、今まで随分ダメージをくらってきたけれど、
「必ず戻ってくるよ」
旅立つ今はそこにただ、真っ直ぐな激励を見出すことにしようと、
「約束する」
力強く応じた。
そしてレイが、もうすっかり見慣れてしまった、沈鬱な表情の中に、祈るような色を乗せた目で二人を見ている。
呉は、この女が祈ることなどはないと思っていたので、意外に感じた。
全てがどうなるかわかっていて、だからこそこんなにも重苦しい顔なのだ。祈ることの無駄さをただ一人、知っている人間なのだと、思っていたのだが。
レイは確かに、祈りに近い表情をしていて、
「では行ってくる」
中条がごくあっさりそう言うと、うなずくような、項垂れるような動作をした。不吉な卦の出た時の優秀な占い師は、こんな様子になるのかも知れない、自分の出した目が外れてくれと、どうしたって何かに祈る仕草をするのかも知れない。

二人は鬱蒼と茂る緑の迷宮の中を「向こう側」に向かって進んでいった。獣の鳴き声が遠くに聞こえ、鳥の羽ばたきが時折思いがけない近くで聞こえて驚かされる。
「……はどうだ?」
何か訊かれた。体調はどうだと言われたのだと思った呉は、
(絶対に、この行軍中は、長官の足手纏いにはならないぞ)
きりきりっと眉を真一文字にして、
「万全です。しっかり整えておきましたから」
中条は黙って振り返り、二秒ほど呉の顔を見た。その目は見えないので、どんな表情なのかわからない。
呉は動揺して、
「あ、あの?」
顔を戻しながら、ごく平板な声で、
「天候はどうだろうな。崩れるか」
「失礼しました!大丈夫です。このままです」
真っ赤になる。中条がうんと言ってから、「確かに万全だ」とフォローしてやるような、からかうような言葉を付け加えた。
恥ずかしい。飛んでくる虫を払いながら汗も拭う。もうずっとここにいるので、汗もあまりかかなくなったが、今は羞恥の熱い汗をかいている。
中条が言葉をついだ。
「この地域には降雨がある訳だが」
「そうですね。乾燥地帯ではなく、平均気温は年間通して変化がないと思われます」
必死でまじめっぽい言葉を、まじめに言っているが、言えば言うほど照れ隠しのようで、やっぱり恥ずかしい。
しかし、村の中でじっとしている時より、自分の体と心が前に向いているのを感じる。あの村で黙って座っているとどんどん、目に見えない網にからめとられていくような気がするのだ。それは村人の視線で編まれた網だ。
逃げられないのを知らないで逃げようとしている、という声がよくわからない言語で囁かれている。
そんな状況よりは、一歩でも現状打破の印をこの地上にしるしながら前に進んでいる今の方がずっといい。
それに今は。
(長官と二人だけだ)
そんなことを、喜んでいる場合ではない。…しかし。
誰の目もなく、中条と二人だけになるのは、ここに来てから初めてのことだ。そう自覚すると本当に嬉しいと思い、また萎縮していた心が膨らむようだ。
(別に、変な意味ではなく)
「変だな」
「えっ」
身が縮むような思いで相手を見ると、引っ張って眺めていた葉から手を離した。驚くような強い力で戻っていく。ばしっという音がした。
「この地域になら生えている筈の、数種の植物を見かけないと思わないか」
「あ…」
言われてみて確かにそうだと思った。
今まで気付かなかったのが迂闊だ。無い筈のものがあればすぐに気付くが、ある筈のものが無くてもすぐにはおかしいと思わないものだが、
(それでは科学者失格だ)
くそっと思ってから、注意深く周囲を見渡し、
「生えているものも微妙に、形が違います」
「そうだな」
通常、見知っている『熱帯の密林の植物』と、非常に似通っていて、しかし確かに違う風景だ。
中条が踏んだ草の根がみしりとしなった。
「動植物が独自の生態系をつくり順応や進化をしているということも、確かにあるが」
「なんだか」
呉がこめかみに指を当てて呟いた。
「そういうのとも、少し違っています。そうだ」
見たことがある。
この風景を何かで見た。なにか、資料のようなもので。なんだったろう。
「呉先生」
中条の、落ち着いた声が注意を促した。はっとする。中型の肉食獣らしき影が、行く手にチラと見えた。
低い唸り声が喉をならしている。
   のんびり考え事をしながら歩いていると豹やチータに食べられてしまう。
鉄扇子を引き出しながらそう呟いて、殺伐としているが、同時に、まるで絵本に出てくるような言葉だと思った。

「今日は休もう」
「…はい」
二人は木の中ほどに宙吊りになって眠ることにした。地面にゴロリと横になって寝るのはリスクが大きすぎるからだ。
蓑虫のようにぶらさがりながら、少し離れた位置の中条をそっと見やった。じっとなにかを考えているようにも、もう眠っているようにも見える。
秀でた額の上に髪がわずかに乱れてかかっている。
静かな横顔のラインだ。
どれほど苛烈な現実でも乱すことのできない、静謐な月の映る水面のようなその線の流れを、眺めながら、
(あの動物も)
先刻見舞われた、ぞわりと血が蠢くような恐怖を思い出した。
四肢を踏ん張って威嚇の声を上げながら姿を見せたそれは、呉が見知っている『熱帯に生息する肉食獣』と、微妙に、確実に違っていた。
今まで見たことも聞いたこともない、ピンクの地に水色の縞模様の入ったケモノが、牙を鳴らして襲ってくるというのなら、まだわかる。わかりはしないが、ある部分で、納得する。
   ここは、自分の常識とはずれた、別世界なのだ。なにしろ、呪文を唱えて、どこかの誰かを引き寄せるくらいだから。
   そのうち、火を吹くドラゴンや、フェアリーもやってくるだろう。
しかし…そうではないらしい。自分はこの動物を知っている。多分、図鑑で調べれば正式名称も、学術名もわかるだろう。それなのに、どこか、違うのだ。
この村は。いや、この島は。ここは、一体なんだろう?
「帰還はかなわない」ときっぱり言い渡されるだけのことはある、というところか。一方通行の呪縛のかかった、その中で、見知ったものによく似ているが、どこか違う生き物が生息している、狭く暑く真っ黒い箱庭だ…
もう恐怖のあまり取り乱して吐いたりしたくない、と唇を引き締めたが、嘔吐感はこみあげてこなかった。多分、何にせよ、今は解決のために行動している最中だからだろう。
「時々」
シルエットは動かないまま中条の声が聞こえて、咄嗟にはいと返事をした。
「上から、蛇が枝を伝ってくることがあるから、気をつけたまえ」
中条が言うと、本当に、どうということのない話のようだ。ゆえに、ごく普通に返事をした。
「はい」
   眠っている間に、蛇にぐるぐる巻きにされて締め上げられ、気がついたら肋骨を折られて食べられそうになっていた。
………そんな絵本はさすがに無いだろう。ファルメールに読んでやりたくもない。読んだ覚えもないし。
ごくごく僅かに苦笑してみた。
自分は、あれに、どんな絵本を読んでやったろうと思うと、実はさしてそんな記憶はない。あったとしても、あの日以前のことだ。当たり前だ。
呉の苦笑が、波が引くように消えた。
あの日を境に、全てのファンタジー、妖精や伝説の生き物が出てくる話は、どこか他所の世界の少女が読むものになった。
傷ついた人々が口々に、自分の父の名を呪い罵るのを聞きながら、幸せの妖精も四葉のクローバーも、何の力を与えてくれるだろう?
呉は一生懸命、自分がファルメールに絵本を読み聞かせ、彼女が興味津々で紙面を覗き込んでくる映像を、思い出そうとした。科学がまだ、あんなものを引き起こすものだと、誰も思っていなかった世界を。
思い出せたら、そこに帰れるかも知れないと、それこそファンタジーのように…
思っている訳ではない。もう誰もあそこには戻れないのだ。あの記憶を踏まえたその上で、誰しも血の流れるおのれの足で歩み続ける他はないのだ。
そこまで鬱々と考えてから、『もう、あそこには戻れない』というのはあまりに不吉な符牒だと気付いて、慌てて取り消した。
大丈夫。過去には戻れなくても、あの場所には、必ず戻れる。ようやく見つけた自分の場所だ。
いつものように、そう唱えてから、ふと、
ふと。
   もし、戻れなかったら?
初めてそちらの方向の『もし』について、考えた。
ここは何らかのバリヤーで覆われていて、外界との行き来の全てを断たれていて、
だから、こんなふうな不自然な自然がはびこっているのだ…
この奇妙なジャングルを進み、正解から微妙にズレている動植物を目の当たりにし、闇の中ただ吊り下げられて揺れているうち、村の中にいる時は必死で否定してきたことが、今するりと、
   我々は、もう、ここを出ることが叶わない?
胸の中で形になった。
目下の揉め事を片付けて、あっぱれよくやってくれた、名実共に村の英雄だと迎えられて…
もうあんな虐殺で減らなくて済むようになった女達の中から伴侶を選んで…
   この地で一生を終える?
五年経ち、十年経ち、時には長官と、かつての日々について話をするのだろうか?
時々、チョーカンと二人だけで、意味のわからない言葉を使って話すのね、なんて言う、私の娘の頭を、
長官が撫でて言う。
   私と、君のお父さんは、かつて遠いところから来たのだよ。そこの言葉なんだ。使わないでいると、忘れてしまうからね。
私の娘は言う。あどけない顔で、真っ直ぐな瞳で、ネイのような苛烈さで。
   もう二度と戻らないのに、覚えていて、なにかいいことがあるの?

眩暈がした。
恐怖というより「乾く」ような感覚だった。

そうなってなお、
私は、自分の矜持を保てるだろうか?
絶望と恐怖でなにもかも垂れ流して、幼児に戻ったり、全てから目を逸らしじっと座り込み、自分の時間が終わって土に還るのを待つだけのいきものに、
ならないと言えるだろうか?
そして、
そうなってしまうことより、
立派な村の一員として一生をここで過ごすことは、どのくらいマシだろうか?

なにか、生き物のざわめきが聞こえる。
知っているような、知らないような鳴き声だった。

手足が冷たくなっているのを感じる。
   それでもなお。
呉は冷たく冷たく凍る胸で呟いた。
私はきっと、それでもなお、長官の前で崩壊することは、出来ないに違いない。
馬鹿馬鹿しい、上司も部下も無い、支部も国警も全てもう関係がないのに。
それでも、
呉のくちびるに凍った微笑が浮かんだ。
私はあの方に見限られたくないだろう。
思ったより、君は強いのだなと言われるためなら…
呉の頬に冷たい冷たい涙が流れた。
一生、痩せ我慢を張りつづけるだろう。張ってみせるだろう。
くっと奥歯を噛んで、恐怖の嗚咽が漏れるのを食い止める。
どれだけ無意味に思えても多分、そうする。
長官の部下である自分という自覚はきっと…
呉はもう一度、唇を微笑ませてみた。
私にとってどんな、どれほどの恐怖をも凌駕する。そう言いきれる。
ごしごし、と小さな子供のように手で顔を拭った。
少しばかり無理やりに思ってみる。長官と二人で、一生閉じ込められるなんて、なかなかに甘い怖さではないか?
そこで呉は、中条に気付かれないよう、低い低い声でそっと呟いた。
「甘い怖さなんて」
―――まさしく、中条の背を後ろから見守る時の気持ちそのものだ。

幾日か、行軍をつづけた。
道らしい道などはもとより無いし、起伏は大きく湿度が高いのでぬかるんでいて歩きづらい。疲労でもつれる足をなんとか前に出したが、ずるっとすべって膝をついた。
「大丈夫です」
中条がこちらを見たので何か言われる前に言い返し、すぐさま立った。膝から下が泥で汚れている。
しかし中条がこちらを見たのは、労わりや励ましのためではなかった。
「敵だ」
猛獣が行く手に現れたと注意を促すのと同じだけの重さで、それだけ言い、人差し指で、あっちというように指した。その仕草はなんだか、中条がするにしては妙にふざけていて、呉はつい「ふふ、ふ」という感じで笑ってしまった。
一拍おいて、バキバキバキ!とけたたましい音を立て、木を倒しながらからくりが現れた。
馬鹿みたいだと思いながらも、中条が「大丈夫か」の類を言わなかったことが、嬉しいし誇らしいと心の奥底で思いながら、鉄扇子を引き出す。構える。
腕を振りかぶり、襲い掛かってくる。二人は身を低くして左右に別れた。その場に腕が振り下ろされた。地響きがして、辺りが揺れる。
跳んで避け、木の幹を蹴る。ほぼ真上から銀の扇が木製の体を切り裂く。
一、二、三。ピー。爆発。
今まで数え切れない程繰り返してきた。タイミングもすっかり体に染み付いている。
「左に数体、右に同じくらい。もう少し多いか」
少し先から中条の声が聞こえた。
「左を頼む、呉先生」
「はい長官」
腹に力を込めて叫ぶと、木々の向こうに見えてきた不恰好なシルエットに向かって、跳躍した。
振り被って、降ってくる腕。…何かに似ている動きだ。
もう何度も繰り返された。凶暴で、凶悪で、そして単純な動き。幾度も、幾度もかいくぐった爪の下をまた避けて、一気に近づく。
ギシギシという木の擦れる音は鳴き声に聞こえる。人を殺すために作られたカラクリ人形の鳴き声だ。
   イィーーアアアアーー
一閃。二閃。
爆発した。すぐ後ろにもう一基居る。連爆する、と思った瞬間、呉は力の限り跳んだ。
ドォン、という大きな音と衝撃に突き飛ばされて、一瞬ひやりとした。と、突然開けた場所に飛び出して驚く。
着地した足の裏が木の根や石のない、平坦な地面をとらえる。そのまま、呉を追ってきた一体から逃れるために、走り出した。
もう周囲に木はない。広い広い、なだらかな大地が地平線まで続いていて、いつもは鬱蒼と茂る木々の遥か上に、申し訳程度に見えている空が、驚く程の面積で広がっている。
ここは、人が均した土地だ。伐採し、開墾した、人の手の入った場所だ。おそらく、「向こう側」の人間の。
そのことを自覚しながら鉄扇子を翻す。ギギ、と言って動かなくなってから爆発した。
身を低くして周囲を窺う。しかし、どこからも、火矢も弾丸もレーザー光線も、飛んではこなかった。
足音がして目をやると自分のノルマを果たした中条が、ゆっくりと歩を進めてくるところだった。いつの間にかまくっていた袖を、一度おろそうとし、再度まくり直している。
「地平線が、見えるな」
声が指し示す方を見遣る。丸くなだらかに、緑の大地が続き、その果ては空と接している。
「あの線の向こうから、人形どもがやってくるというわけだ」
中条はちょっと拳を撫でた。
「こちらの様子も、向こうでは見ているのでしょうか」
「おそらくな。しかし、かといってここでじっと止まっている訳にはいかないし、身を隠すものもない。正攻法で行くしかないだろう」
二人はしばしその場所から地平の彼方を眺めていたが、やがて呉がぱんぱんと膝の汚れを払った。もうすっかり染みになっていてあまり意味がなかった。
「行こう」
「はい」
歩き出した。

予想に反してというか、予想通りというか、それ以降地平の向こうからからくり人形がやってくることはなかった。ここぞとばかりに攻撃してくるのかと、覚悟をする気持ちもあったが、またあれきり息をひそめてこちらを窺っているというのも、ありそうな気がした。
やがて大地は緩やかなのぼりになり、ほとんど河原の土手のような角度になった。さすがに身を伏せながらその一番高いいただきから、そっと顔を出してみた。
さすがに、はっとする。
土手の向こうには、一つの集落があった。
二人がいた村より大きく、そして分業制が出来上がっているようだ。なによりも、あっちにはない、何か大きな…一番近い印象のものでいえば、工場のような建物がある。四角く、巨大だ。
「あそこで、からくり人形をつくっているのでしょうか」
「おそらく、そうだろう。なんだか慌しいようだ」
確かに、人々が口々に何か言いながらばたばたと右往左往している。誰かが指示を叫んで建物を指さし、皆入っていく。
「侵入しますか?」
「いや。少し、周囲を見てまわろう」
何だろうと思いながらそっと回り込むうち、ふと呉はあるものに目をやった。
この集落から離れた、…ずっと離れた、丘の上に、一軒の家が建っている。誰か、そこで暮らしているのは、煙突から煙が上がっているのでわかる。
「煙突から煙?」
思わず口に出して言った。なんだそれは。この世界にはないシチュエイションだ。それともこの集落の面々なら、暖炉に火をくべてシチューをいただくのだろうか?シズマのようなものさえ持っている連中だから?
いや、やはり違う。
長官、と背後を見遣った時には中条がうなずいて、
「行ってみよう」
二人はそっと集落のそばを離れ、足早に丘の向こうの家を目指した。
近づくにつれ、それが、ここで見たどんなものより、自分たちの知っている「家屋」というものに近い建物であることを感じる。
木で出来た重い戸の前に立って、中条は無造作に手を持ち上げるとノックした。
返事はない。
もう一度叩いた。
「だれだ」
さびた、低い低い声が返ってきた。
その声を聞いて、呉の奥底に何か動くものがあった。
   なんだろう?この動揺は…
「申し訳ないが、開けてもらえないだろうか」
中条がゆっくりと、はっきりと言葉にして言うと、少しあって、向こうから戸が開いた。
白髪の老人が、ボロボロの衣服を着て、出て来た。
そして。
中条と、呉の顔を見た。
それから、どのくらいあってからだろう、その顔の上に、狂気にちかいほどの感情がこみ上げてきたのを二人は見た。
何の感情だろう。これほど激しいものは、ついぞ見たことが無い。人間が果たして持てるだろうかというほどの感情だ、愛か、憎悪か、知らないが…
「ごせんせい」
老人の口から、
「ちゅうじょうちょうかん」
ここの言葉ではない、いつも呉と中条が二人だけの時だけ操っているその言葉が、呉と、中条の名を綴って零れ落ちた。
呉の顔が驚愕で白くひきつり、それから、自分のものでないような声が唇からこぼれた。
「なぜ、私たちの名を。なぜ言葉…」
しかし、全部言わないうちに、中条の、どんなことにも動じない声が静かに、静かに訊ねた。
「君は誰だ」
すっかりうもれたような、深い深い皺の中の目から、涙があふれ、つたって、流れ落ちる。
しわがれてひび割れた声が、震えながら、
「陽です」

[UP:2005/09/28]
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